第一章 悲劇と異世界体験とハッキング 第二話
さてさてさーて…街に来たは良いが、初期装備はさっき揃えたし、飯もさっき食べた。
後は何をする…?というか、俺の財布に初期ログインボーナスで金貨500枚も入ってるし、チートにも程があるだろ?
まぁ、この世界はゲームの世界。そんな小さい事をいちいち考えても何も生まれない!
俺は街をひたすら散策していた。すると、ある裏路地へと辿り着く。
そこから少女の悲鳴と男達の笑い声が聞こえた。
俺は興味本心でその裏路地へと足を踏み入れる。
暫く進むと、そこで行われていたのは…
(獣人の奴隷少女、複数人の男に甚振られている)
「お…おいおい…コレってまさか…!?」
奴隷売買…なのか…?
俺が住んでいる世界でも戦争期では奴隷は世界中に回っていたが、
まさかこの目で奴隷が甚振られている瞬間を見る事になるとは…
俺が暫く呆けていると、奴隷の少女を甚振っている男達がこちらに目を移した。
「お、兄ちゃん?
もしかしてコイツを買ってくれるのかい?」
「え……出来るんですか?」
「あぁ、俺等はコイツと早くおさらばしたいんだよ?」
「言う事も聞かない上に、俺等に何も利益をくれないんだよ…
だから、イジメられても文句は言えねぇよな?」
「なるほど…幾らで売ってくれますか?」
俺は自身の所持金などどうでも良かった。
この子の心配をしていると、自然とお金なんかどうでも良くなったんだ。
すると、売人の男は俺に請求額を言い付ける。
「代金は銀貨5000枚だ。良いか?」
「す…すみません…金貨しか持ってないです」
両替するの忘れてたー!?
てか、この世界の銀貨と金貨の価値の違いをイマイチ理解していないから
どういう計算で払えば良いか分からん!
「き…金貨しか…持ってない…だと!?」
「は、はい…」
「坊主…富豪の息子か何かか?」
「いえ、一応勇者やってる者です」
「勇者…勇者ね…なるほど…」
売人の男達は一瞬冷静になったが、一気に俺に食い気味になった。
「ぼ、坊主!?お前が勇者ってホンマもんか!?」
「え…えぇ、そうですけど…?」
「こんな礼儀の良い勇者は見た事がない!」
「そ、そうだ…アイツも一緒に買い取ってもらうか?」
「あ…『アイツ』…?」
会話の中でもう一人買い取って欲しい人物が居ると聞いた。
いやいや、奴隷ってそんな簡単に買い取って良いものなのだろうか?
「坊主、付いて来てくれねぇか?
お前に買い取って欲しい奴がもう一人居るんだ!」
「は、はい…!」
そうして、俺は売人達が召喚した馬車で彼等の家へと向かったのだった。
そして、彼等の家に辿り着いた。
しかし、こんなに立派な家に住んでいるのに
奴隷売人という後ろめたい仕事に勤しむ必要はあるのだろうか?
「さぁ、坊主!
この部屋で少し待っててくれ、この馬鹿とな?」
「は…はい…」
そう言い終えると、売人達は準備の為に部屋を後にした。
俺は、さっき甚振られていた奴隷の少女に声を掛ける。
「なぁ?」
「…!?」
俺は声を掛けただけなのだが、彼女は相当怯えている。
よっぽど、あの男達に酷い仕打ちを受けたのだろう。俺は優しく語り掛ける。
「大丈夫だ、俺は君を虐めたり痛め付けたりしない…」
「…?」
てか、さっきからこの子言葉を出してないな?いや、虐待の末に声が出なくなったのか?
俺は回復魔法を彼女に付与した。
すると、全身傷塗れだった彼女の体は見違える様に綺麗さっぱり傷が見れなくなった。
「…ぁ…!?」
「よし、これで声が出せるな」
俺が彼女に話し掛けようとすると、彼女は俺を泣きながら見つめて話し出す。
「何で…僕を…助けるの…?」
「何でって…特に理由はないよ?」
「僕は…体力もなくて…頭も悪くて…
きっと、貴方の使い物にもならないよ…」
なるほど、自身の劣等感に限界が来てたのか…
でも、その理由で彼女を突き放す訳にはいかない。
俺は震える彼女の体を優しく抱き締め、こう語り掛けてやった。
「君は君だろ、誰かと比べる必要はない。
俺は君を助けたい、それだけが理由じゃ駄目かな?」
すると、彼女は声を上げて泣き始めた。
「よしよし…今は充分泣いて良いからな…」
「はい…ヒグッ…うぅっ…ヒグッ…うぅっ…」
今までかなり溜め込んで居たのだろう。
だから、俺は彼女の親じゃないけど、悲しみを中和させる事は出来る。
俺は震える彼女の頭を撫でてあげる。
すると、彼女は小さく「にゃ~ん」と鳴いた。
可愛いな…俺はつい癒されてしまう。
そういえば、俺も大切な存在を失ったばかりだったな…
だから、俺はこの子に優しく出来るのかな?
俺がそんな事をしていると、先程の売人達が俺の元へ帰って来た。
「おらぁっ、早く来い!」
「痛い…止めてよ…」
「おらぁっ、お前の新たな御主人様だぞ!」
「この藍色の猫が坊主に買い取って貰いたい、もう一人の俺等の奴隷だ」
「なるほど…金額はどのくらいですか?」
俺は救える命が目の前にあるのなら、先程も言ったが、お金なんか気にしない。
てか、この世界は作り物の世界。ここで金欠になっても、翌日にログインすればまたログインボーナスでお金は支給される…あぁ~…でも、その間この二人はどうしよう?
放って置く訳にもいかないし…いっそ、こっちからあっちに連れて行ければ良いんだけど。
そうはいかないよな、ハイクオリティーでも所詮はゲームの世界。
現実世界とリンク出来る程有能な仕組みにはなっていないはず。
じゃあ、このまま放置するしか道はないのかな?
いや、その話は一旦置いておこう。まずは、二人を正式に俺の仲間にする事を最優先で考えよう。
「坊主、本当に金貨3枚で買い取ってくれるのかい?」
「えぇ、大丈夫ですよ。お金にはだいぶ余裕がありますし…」
「そうか、じゃあ、この二人を金貨3枚で交換だ!」
「ありがとうございまーす」
「毎度あり~」
そんな訳で、俺はゲームの世界で仲間を二人確保出来たのだった。
さて、二人を連れて俺は宿にやって来た。
そして、俺がここでやらなきゃいけない事は…
「名前はどうするかなぁ~…」
「「?」」
この二人の名前だ。
詳しい話は分からないけど、この二人には親と呼べる人が存在しない。
つまり、名付け親は俺という事になる。
なんかさー、まだ未成年の俺が名前を付けて良いのか不安になるんだよなー
こうなる事が分かってたなら、ネットで名前候補を集めておくべきだった。
うーん…銀髪と藍色の髪…見た感じ双子かな?
という事は……
「『坂本スズ』と『坂本リン』、これが君等の名前だ。
気に入って貰えたかな?」
「「…」」
アレェ~?まさかの空振りぃ~?
想像してたリアクションと270度違う結果になったんですけどぉ~!?
「フフッ…わたしたちのなまえを付けてくれるとは…」
すると、藍色の髪の猫のリンが俺にこう話し掛けて来る。
「私達を汚い泥猫とは思わないのかい?
貴方からは私とスズを蔑んで見て来た大人達とは違うオーラを感じる…
なぁ、私とスズを拾って何がしたいんだい?」
「え?この国の事をよく知らないから
先輩からご教授願おうかな、と、思っただけだよ?」
「そ…それだけなのかい…?」
「うん、それだけ」
「~っ…」
まぁ、このゲームの世界にログインしてまだ一日も経過していないから
異世界から召喚された人間という立場が今の俺に似合う言葉だろう。
「…ふぅ…貴方は本当に不思議な人間だ。
私達を虐める事もなく、差別視する事もなく、対等な人間として扱ってくれるなんて…
そう言われると、猫の本能で甘えたくなるな…」
「はいはい、今日はもう外に出る用事もないから
今からでも甘えて来ても良いけど?」
「本当かい!?
じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう言うと、リンは俺の膝に乗って来て顔を擦り付けて来た。
これを見ると、まるで猫をあやしているみたいだな。
それを見たスズもしれっと膝に乗って来てゴロゴロと喉を鳴らして甘えて来ていた。
あはは…リアルではだいじなそんざいを失ってどん底の人生だったが、
こっちでは猫の様に大切な存在を二つも得る事が出来た。
癒されるなぁ~…
さて、夜も更けて来そうなのでこのまま寝るとしますか。
俺は寝る為にログアウトした。
どうも、かつらぎ未来人です!
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