第五章 来たる「災厄」・〈異世界の神の下部〉 第四話
「なぁ…莉音…ゴフッ…
完全完璧に…僕の負けだ…誇って良いよ…ゴフッ」
「あぁ、俺も正直ギリギリの戦いだったけどな?」
「それと…君は…僕が見て来た愚民とは…違う雰囲気を感じるよ…」
そして、奴は涙を流しながら最期にこう吐き捨てる。
「君の様な…心が澄んでいる…人と…普通に出会えていれば…
僕は…僕は…人生を狂わされる事も…なかったのにな…
僕は…君が羨ましいよ…君の様に…僕も…普通の人間として…
生きて…いきた…かっ…」
そう言い残すと、ハテナは瓦礫と化した自身の家のど真ん中で壮絶な最期を遂げた。
しかし、今回の事件で分かった事がある。
〈異世界の神〉陣営の末端であるハテナがこの様な辛い過去を持っていて、
人間に強い恨みと憤りを持っているという事は、その上の階級に立つ者も
ハテナ同様に辛い過去を持ち、この世界の何かに強い不の思いを持っている。
どうやら、今回の真の目的を果たすには相当な覚悟を持つ必要があるな?
─ ハテナ ─
───────は────こは────ここは…何処だ?
部屋全体が真っ暗だ…僕は…莉音との戦いで命を失った…
そして、僕は…恐らく地獄に魂が送られている…
「はぁ…結局、神様になっても…人生の負け組からは抜けられなかったか…
まぁ、正当な恨みがあるからとはいえ、僕はあまりに人を殺し過ぎた。
だから、死んだら地獄に落とされる事くらい、想定の範囲内だよ」
そう、僕はあまりにも罪深い…でも、一つ言いたい事があるとするならば…
この世界に本物の「悪」は存在しない。僕も…元々は普通の人間だったからさ…
僕が生まれたのは莉音に殺されたこの日から大体120年前かな?
僕はごく普通のサラリーマン夫婦の家の三男として生まれたんだ。
生まれた僕の姿を見て、家族全員で泣いて喜んでくれたらしい。
僕はこの家で普通に生きて、普通に幸せに生きて行く。
アイツ等に全てを奪われるまではそう考えてた。
「え……?母さん…父さん…!?」
忘れもしない…5月13日、僕の当たり前で普通の幸せな生活を奪った…
「お、この家の生き残りか?」
「面倒だからコイツも殺そうぜ?」
二人組の醜い顔と、醜く吐いた臭い息の臭いは…!
「何で…奪った…」
「ん、なぁ~に言ってんだこの餓鬼は?」
「おい、人が来る前にさっさと殺れ…!?」
正直な話、僕はこの時点で頭が狂っていたと思う。
だって…
「何で奪った…何で何で何で何で…!!」
「ごはぁっ!?」
「ぐはぁっ!?」
人を殴り殺す事に何ら抵抗感の一つも感じなかったんだから。
僕から見れば二人組の男達は人殺しの犯罪者、死んで当然、だから…
「こんな…アハハ…殺され方で…死んでも…フフフ…仕方がないよね…?」
人として真っ当に死ねなくても仕方がない、そう考えていた。
でも、大人達は誰一人として僕の味方をする事はなかった。
「この人殺しが!」
「お前等一家は死ぬべき存在だったんだよ!」
「ぐぅぅっ!?」
殺された二人の方が4人も殺しているのに、二人しか殺していない僕の方を責め立てたんだ。
しかも、「僕等一家が死ぬべきだ」とか訳の分からない事も言って来てさ?
おかしいよね、普通じゃないよね、何で奪われた僕が責められないといけないの…!?
そして、僕は家族を殺した二人組だけではなく…
「お前等は全員死ぬべき存在なんだよ、くたばれぇ!!」
「がっぱぁぁっ!?」
二人組を庇う大人と子供までも手に掛ける様になった。
でも、そんな事を繰り返していても
誰も僕の味方になってくれる人が現れるはずもなく…
「結局…僕は何の為に生まれたんだろう…?」
毎日、毎日…警察の手から逃げ続ける人生を送るしかなかったんだ。
でも、そんな地獄のような日々はあまり長続きしなかった。
その事件の始まりは意外にも簡単に出会える事が出来た。
「君かな?件の一軒の連続殺人犯って言われておまわりから逃げまどって居るのは?」
「おじさん…誰?」
そう、この日出会ったのは…
「そう、俺はただのおじさん…そう考えた方が良い」
「…?」
後に莉音の世界に干渉せんと現れるエリュピス様なのだから。
今にして考えればとんでもない事しか言わなかったし、やらなかった気がする。
「それで、僕に何の用なのさ?」
「あぁ、君の様な可哀想な子を…」
(ハテナ、エリュピスの顔面を殴る)
「僕はもう17の良い歳した大人だ…子ども扱いす…!?」
(エリュピス、ハテナの股間を蹴り抜く)
「ごっ…!?」
「俺から見れば君は充分過ぎる子供だよ、大人振ってんじゃねぇ」
「カハッ…!?」
まぁ、優しく話し掛けてくれたとは言え、初対面の相手を殴るとか
常人のする事ではない、僕の意識はそのまま闇へと落ちた。
そして、目を覚ますと僕は見覚えのない部屋のベッドで横にされていた。
目を覚ました事に気付いたさっきのおじさんが、僕の頭を掴みながらこう交渉して来た。
「君は人間を…君の幸せを全て奪い去った人間達が憎いんだろう?
誰も君の味方になってくれなかった、ずっと孤独だった…そうだろう?」
「おじさん…何処でその事を…?」
「あぁ、全ては君の顔を見て分かったよ…
どうだい、君も『神様』になって新世界を築きたいとは思わないかい?」
このおじさんが何を言っているのか一発では理解出来なかった。
「神様になる」事もどういう意味なのか分からなかったし、
「新世界を築き上げる」事も理解出来なかった。
でも、そのおじさん…
いいや、エリュピス様からは今までの人間達とは違って…僕を優しく受け止めてくれる。
そんな雰囲気を感じたんだ。
僕は素直に思った事を口にする。
「ねぇ、おじさん…
僕が神様になったら、当たり前の幸せも取り戻せるのかな?」
「あぁ、君のその思いがあれば…幸せも当たり前の生活も、
おじさんが一緒に取り戻してあげるよ、君は本当に可哀想な子供だ…
だから、助けたいと思っているんだよ」
エリュピス様が僕に掛けてくれた言葉には
僕の幸せを壊した上に、僕を人間扱いしてくれなかった大人達とは違って、
家族の様な温かみを思い出させてくれたんだ。
この言葉を聞いて、僕はエリュピス様の考えに乗る事にしたんだ。
「いいですよ、でも、こんな僕でも力になれるんですか?」
「あぁ、俺はこれから世界を作り替える、
その作戦には沢山の仲間が必要だ、だから、君の力を俺は欲している」
「そうですか…僕の方こそ、これから宜しくお願いします!」
そして、僕はこの日を以って人間を卒業し、
エリュピス様が率いる〈異世界の神〉陣営の一員になったんだ。
まぁ、そこまで高い階級にはなれなかったけどさ?
でも、僕は神様として、エリュピス様の思いの為に一生懸命頑張った。
エリュピス様が支配する世界で、あの御方の思想に反する者を片っ端から殺しまくった。
「あの御方の思いが分からない、つまり、死ぬべきだねぇ!!」
「ぐはぁぁぁっ!?」
「アベチ!?」
だって、心の底から僕の事を大切にしてくれたエリュピス様の為なんだもん。
その為なら、人も動物も、人知を超えた存在だって、容赦なく殺しまくった!
その努力が成果を生み出し、僕は〈異世界の神〉陣営幹部の〈異世界の神の下部〉になる事が出来たんだ。
そして、エリュピス様が一つの世界を完全支配し、その世界を作り替えた後に
あの御方はこんな嬉しいミッションを僕達に与えてくれた。
「これから俺達は、俺の忌々しい友人、最高神が支配する世界を支配する!
全ては、俺達が全うに生きる事の為だ!」
最高神様が支配する新たな異世界を支配するミッションが僕達に課せられた。
僕は、何故か分からないけど「最高神」という名前を聞いただけで怒りが収まらなかった。
「……フフフフフ…最高神…僕が必ず首を貰いに行く!」
「まぁまぁ、落ち着くのにゃハテナ君?
手柄を一人占めにするのは良くない事だと思わないのかにゃ~?」
「安心してくれ、少し怒りの感情が昂っただけだ…
でも、向上心がある事は良い事だと思わないかい?ルールさん?」
「にゃあ…君も私も、色々と奪われ過ぎたにゃ。
でも、今はこうして孤独に生きている訳じゃないにゃ♪
だから、私を置いて死なないでにゃ?」
「安心しろよ、僕は神様だぞ?簡単に死ぬ訳がないだろ?」
「約束だにゃ、ハテナ君♪」
あぁ、ルールさん…ゴメンよ、僕、もう死んじゃったみたいだ。
僕は薄っすらと残っている意識の中で地獄に向かう準備に入っていた。
でも、あんなに芯が強くて曲がった事が嫌いな莉音に殺されて…少し幸せだったよ?
人間の中にも、あんなに優しい心の持ち主が居る事を知れて、本当に幸せだったよ…
僕は…過去が散々だったとはいえ、色んなものを奪い過ぎた。
何の関係もない人間達を、自分を虐げて来た人間達と重ね合わせて、殺し過ぎた。
僕の味方は誰も居ない…
そもそも、僕の家族も僕の事を忘れてる可能性だってあるじゃあないか?
僕は…家族の思いを継いで人間達を殺して来た。
これから先、何回転生しても僕はいつまでも人生の負け組からは抜けられないだろう。
何回生まれ変わっても、当たり前の幸せを取り戻す為に、沢山の人間を殺し続ける…
幸せの守護者、この肩書を背負って生き続けるだろう。
そんな事を考えていると、僕の視線の先に赤く燃え上がっている道が現れた。
「そこが…地獄か…
さぁ、閻魔様の裁きを受ける時が来たか…」
僕は迷う事無くその道を進んだ。
僕は何回生まれ変わっても、最期はこの道を通る事になるだろう。
でも、僕は…最期に言い遺す事があるとしたら…
「『普通の幸せ』って、どうすれば…守れたのかな…?」
この言葉を…坂本莉音にぶつけてから死んだ方が良かったのかもしれないな…
─ 坂本莉音 ─
さて、これで一段落終わったな。
これで、あの不可解な事件は無事に解決と言った所だろう。
「あぁ~…疲れたぁ~…」
俺は剣を地面に突き刺してから大の字になって瓦礫の山の上で寝転がる。
せっかくなので、ホワイティングも召喚して勝利の団欒でもやってみようか?
「~っ!!久々に体のあちこちが痛いわぁ~…」
「ごめんな、ホワイティング。
アイツを倒すにはあの技を使うしか道がなかったんだ」
「良いのよ、アンタが死なないだけでもアタシにとっては幸せだからさ?」
「そうか…だが、今回倒した〈異世界の神の下部〉…
過去が散々みたいだったな…
やっぱり、この世界に本物の『悪』は何処にも存在しないのかな?」
俺がそう呟くと、ホワイティングとは違う声の持ち主が声を掛けて来る。
「そうだな、少なくともエリュピス以外に『悪』は存在しないだろうな?」
「坂田!?」
どうやってここまで来れたのは分からないが、
坂田が俺が倒れている場所まで飛んで来たのだ。
「すまない、道に迷って駆け付けるのが遅れた」
「良いよ、まぁ、〈異世界の神の下部〉…倒しちゃったけど」
「何ぃっ!?」
「ほら、あそこ…あそこに死体が転がってるだろ?
アレが〈異世界の神の下部〉のハテナの骸だ」
その遺体を見て坂田は顔色を変えて俺に話し掛ける。
「ゲームの力を得て数週間しか経っていないのに
もう〈異世界の神の下部〉を倒すとは…
やはり、『九人目の仲間』に似合う成績を残してるね?」
「いやいや、今回勝てたのはまぐれだよ…
一回死に掛けたし…」
「でも、勝ちは勝ちだ。そう気に病む必要はない
さぁ、帰ろう。この町の危機はなくなったと伝えに行かないと」
「そうだな、行こうか」
この日、俺は色々な意味でレベルアップしたと思う。
こうして、〈妖界〉の町で発生した不可解な事件は俺と坂田で無事に解決する事が出来たのだった。




