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うさぎの名探偵ロップとフェザーランドの怪事件  作者: Kan
第1部 エレクトロンポリスの光と影
3/29

3 警官隊の到着

 その時、お店の木製のドアが勢いよく開け放たれました。ロップがびっくりしてそちらの方を見ると、強面のうさぎたちがぞろぞろ中に入ってくるのでした。先頭に立っている、汚れたコートを羽織った灰色のうさぎが、じろりと店内を見まわします。

 店主のうさぎは、にこやかに笑いながら、その灰色のうさぎのもとへと歩いてゆきます。


「警部。どうされました。なにか御用で……」

「この店から二発の銃声が聞こえたという通報があったのだよ……」

 灰色のうさぎは、店主のうさぎに警部と呼ばれていました。警部というのは警察官の中でも特に偉い人なのだということをロップは知っていました。


「そうですか。誰か間違って銃を撃ったのかな。いずれにしてもこの店ではありませんよ」

「そいつはどうかな? お前、隠そうたってそう上手くはいかんよ」

 灰色のうさぎは、じろりと店主を睨みつけます。この灰色のうさぎの警部は、うさぎのくせに太い葉巻を咥えています。それを手に持つと、ふうっと煙を吐き出しました。店主のうさぎに煙がかかります。


(嫌なうさぎだ……!)

 ロップは見ていて、気分が悪くなりました。


「わたしは知りません。なんなら店内をご覧になりますか?」

「はじめからそうするつもりだ。いいか。妙な隠し事をすると容赦なくブタ箱にぶち込むぞ。おいっ! お前たち、この店の中をくまなく探せ!」

 灰色のうさぎがそう怒鳴ると、まわりの警察官のうさぎたちは店内を走りまわりはじめました。そしてカウンターの向こう側や、棚の中まで引っ掻きまわしているのです。その間、店にいる()()()()どもは皆、何事もなかったかのように静かにしています。


「警部!」

 一匹のうさぎの警察官が声を上げます。

「どうした?」

「天井に銃弾の跡です」

「それみろ! ジョンソン! ここへ来い」

 ジョンソンと呼ばれた店主のうさぎはとぼけた顔をして、灰色のうさぎのもとへと走ってゆきました。

「こいつはなんだ。言ってみろ!」

「それは先月、わたしが誤って撃ってしまった弾丸ですよ。閉店後のことでしたので、誰も怪我せずにすみましたもので……」

「ふん。そんな話をこの俺が信じると思うか。おい、お前ら、もっとよく探せ!」

 警察官のうさぎたちは、グランドピアノの中を覗き込み、壁にかかっているうさぎのブルース歌手の似顔絵まで外してしまいました。


 灰色のうさぎは、ロップの方をじろりと見ました。ロップはびっくりして顔を背けようとします。それでも唇はぴくぴく動いています。

「おい、見慣れない顔だな」

「ろ、ロップです。あの、探偵をしています……」

「ほう。探偵ね。ここに来たのははじめてか?」

「えっ」

「はじめてかって聞いているんだよ!」

 灰色のうさぎは、テーブルの上に思い拳を下ろします。ロップの飲んでいた水のグラスが大きな音を立てて揺れ動きます。


「は、はじめてです……」

「そうか。じゃあ、聞こう。さっきここで何があった?」

「さっき、ここであったこと……」

「ああ。もしお前が本当のことを言ったら、捜査に協力してくれたのだから署で表彰してもいい。だが反対に、もしお前が少しでも嘘をついたら、その時はこのごろつきどもの同類と見なして、ブタ箱行きさ」

「えっ……」

 ロップはこの提案に背筋が冷たくなるのを感じました。なんとおそろしい話でしょう。それでもロップはこの灰色のうさぎのことが好きに慣れませんでした。


「さあ、言ってみろ。ここで何があった?」

 ロップの心臓は誰よりもはやいドラミングを続けています。ロップは必死に考えます。ここで自分は本当のことを喋るべきだろうか、と。一体、この店のごろつきどもと灰色のうさぎの警部、どちらが正しいのだろうか、と。

(ブタ箱行き……)

 ロップはしばらく考えた末、小さな手を握りしめると、灰色のうさぎの方を向き、

「な、何もありませんでした」

 と言いました。


 灰色のうさぎは、テーブルに寄りかかるようにして前屈みになっていましたが、この言葉を聞いて、背筋を伸ばし、ロップの顔を少し驚いた様子で、まじまじと見つめました。

「なるほどな……」

 灰色のうさぎは、向きを変えて、他の警察官のうさぎたちに怒鳴りました。

「よし、店の奥の物置きも探せ!」


 その言葉にロップは頭が真っ白になってゆきました。なぜならば、店の奥には殺されたうさぎの遺体と、拳銃で発砲した張本人であるダッチが隠れているのです。もし、警察官たちが店の奥に足を踏み入れたら、すべてがわかってしまうのです。

(大変だ……!)

 ロップは、今すぐにでも逃げたい気持ちになりました。ところが、こんな時にかぎって足に力が入らないのでした。


 ロップは観念して、灰色のうさぎにすべて白状してしまおうと話しかけようかと思いました。ところが、灰色のうさぎは店主を尋問していて、それどころじゃなさそうです。その時、店の奥に入っていった警察官のうさぎが出てきて、声を上げました。

「警部。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


(なんだって?)

 ロップは長い耳を疑いました。一体、それじゃ、あの遺体やダッチはどこに消えてしまったというのでしょう。

「そうか。ふん。俺たちが来る前に上手く片付けやがったのだろう。それじゃ、今日のところは見逃してやる。お前ら、署に戻るぞ!」

 灰色のうさぎは警察官のうさぎたちを引き連れて、入り口へと向かいました。そして灰色のうさぎは、外に出る前にこちらを振り返ると、

「だが、いつまでも悪事を隠しおおせると思うなよ。遅かれ早かれ、お前ら、みんな縛り首になるんだ!」

 と怒鳴って、コートをひるがえし、ドアを開け放って勢いよく出ていきました。


 このようにして、ロップはこのジョンソンとマッピンフィルの店の()()()()どもをかばうために口裏を合わせてしまいました。ロップは探偵社をひらいて早々、悪人どもの仲間入りをしてしまったということでしょうか? そして、あのうさぎの遺体とダッチはどこに消えてしまったのでしょう。さて、この後ロップはどうなってしまうのでしょうか。次回、お楽しみに。

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