28 店員うさぎのエリー ★おまけ「黒猫刑事とハードボイルド探偵うさぎ」第一話
「ねえ、あなた、この地下街では見慣れないお顔のうさぎさんね。どこからきたの?」
と店員うさぎが鼻をひくひくさせながらマドレーナにそう尋ねてきたので、マドレーナはコーヒーカップに視線を落とし、しょぼんと落ち込んだお顔をしました。
「わたしの大好きなジョンソンさんが殺されてしまったんだわ」
「まあ、誰に……」
「ギャングうさぎたちによ……」
マドレーナは、店員うさぎに今まで起こったことのすべてを丁寧にお話ししました。すると店員うさぎは、マドレーナのことをとても可哀想に思ったらしく、眉毛のあたりをピクピクと動かして、今にも泣きそうになってしまいました。
そして店内に流れるブルースのギターの旋律に合わせて、店員うさぎはひょいと奥の間のステージに飛び乗ると、こんな歌を歌い出しました。
とても可哀想な子なのね マドレーナ
あなたにもっとはやく会えれば きっと
こんな涙の雫も 落ちなかったでしょうに
可哀想なあなたの心に
わたしは 綺麗なお花を活けたいの
壊れかけの 蓄音器
まわるレコードの ボツボツが
歌い終わらないうちに さりげなく
ボベビリャ ボボボンボン ドュワドュワドュワ
ボベリュラリュラ フゥウィー フゥウィー
とても優しい店員うさぎなのでした。マドレーナはその歌に涙します。すると店員うさぎは、
「わたし、店員うさぎのエリーよ。ちょっとだけジャズヴォーカルもできるのよ。スキャットならこの通り、おまかせあれ」
と言って体をふるわせて、不思議な呪文のような歌を歌っているのです。これはジャズのスキャットという歌い方なのでした。そして、エリーはマドレーナに向けて、にっこり微笑んだのでした。
「素敵だわ。ジャズヴォーカルなんて歌いたくても歌えないものね」
「そうね。ところで、あなたがお探しのボルテールの鍵文字の字引きだけどね。この地下街にあるわよ」
「なんですって……」
マドレーナは驚いて、あたりをきょろきょろと見回しました。喫茶店は、ジャズ演奏家を招いて、音楽を演奏できるのでしょう、ステージがこしらえてあります。その上には、古めかしい本がぎっしりと並べられている本棚がありました。この喫茶店では、沢山の珍しい本を読むことができるのでしょう。
「この喫茶店にはないわ。地下商店街のさらに地下深く、秘密の場所にあるの。貧民や移流民のたまり場であるこの地下商店街は何重構造にもなっていて、部外者の侵入を拒んでいるのよ。わたしがご案内するから、裏口から一緒にうさぎの抜け穴を通り抜けてその場所へ降りてゆきましょう」
そう言うとエリーは、ひょいっとステージから飛び降りて、マドレーナをステージの裏手にあるドアの先へと連れていったのでした。
マドレーナは、ひょんなことからボルテールの鍵文字の解読書を手に入れそうです。さて、マドレーナはどうなってしまうのでしょうか。それでは次回、お楽しみに。




