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うさぎの名探偵ロップとフェザーランドの怪事件  作者: Kan
第3部 うさぎ少女マドレーナの冒険
24/29

23 亡霊との対話

 マドレーナは真っ暗になってしまった洋館の中をたった1匹で歩いていました。本当にどこまで行っても真っ暗なのです。停電してしまったのでしょうか。先ほど歩いてきたはずの狭い廊下が、暗闇の中で不思議に広々としているようにマドレーナには感じられました。

 マドレーナは自分がどこにいるのかまるでわかりません。それでも不思議とマドレーナはこわくありませんでした。ぽかぽかした暖かい気持ちです。なぜ自分がこわくならないのかもマドレーナにはわかりませんでした。

 マドレーナが廊下で迷っていると、どこからともなく亡霊たちの声が(ひび)いてきました。



 迷い込んだ 一匹のうさぎ

 亡霊たちの歌声のもとに

 右へゆけ 左へゆけ 階段を降りてゆけ

 それでも出られぬ この迷路

 振り返っては 後悔するぞ

 お前の後ろに 二百年の月日がたゆたうならば

 前を向いて 歩いてゆけ

 さらば 二百年の月日は 風雨の中に消えてしまう



「その声はいったいどなた……?」

 マドレーナは天井に向かって尋ねました。するとまたしても亡霊たちの大合唱です。マドレーナはだんだんと自分は、洋館にいるのではなくて、どこか遠くの世界につれさられてしまったような気持ちになりました。

(不思議なことだわ。二百年前の亡霊がわたしに何のようだというの?)

 マドレーナは、亡霊の声に向かってたずねました。



 あなたは どこのうさぎ?

 (いにしえ)の王家にお仕えしていた貴族かしら

 なぜ わたしをおどかすの

 そんな歌 わたしは平気よ

 あなたなんてこわくないわ

 だってかわいいうさぎじゃないの


 それよりも教えて

 昔のことじゃないわ 今のことよ

 図書館の地下室の鍵

 どこにあるのか教えてくれないかしら


 あなたは どこのうさぎ?

 (いにしえ)(いく)()甲冑(かっちゅう)にみをつつんで たたかった騎士かしら

 どうして あなたはそんな歌をうたっているの

 あなたなんてこわくないわ

 だってかわいいうさぎだもの



 すると、黄金色の光がほとばしって、天井に青白い色をして透き通ったうさぎの亡霊が姿をあらわしました。古めかしい甲冑(かっちゅう)にみをつつんでいます。


 挿絵(By みてみん)


「あなた、亡霊ね……」

『この屋敷に住んでいた貴族さ。王家につかえ、争いがあれば、騎士としてはせ参じたものだった。それもすべて二百年前のこと……』

「二百年という月日は長かった? それとも短かった?」

『夢のようなものだ、そんな月日は……。長くもなければ短くもない』


 そういうと亡霊はかなしげな表情を浮かべました。

 マドレーナは暗闇の中に、ベッドによこたわる老うさぎの姿が浮かび上がるのを見ました。うさぎたいがかこんで座り、泣いている家族、弱ってゆく老うさぎの息、窓の外をみると雨が降っています。


「あなた、亡くなった日のことを覚えているのね」

『そうだ。俺はその日のことをまざまざと覚えている。古時計がボーンボーンとなっていた。俺の死後、一族は没落していった。みんな死んでしまった。この屋敷は、今の家族に買い取られた今でも、ゆくあてのない亡霊たちのすみかだ……』


「ねえ、わたしはあなたにお願いがあるの。この洋館のどこかにある図書館の地下室の鍵を取ってきてほしいの」

『亡霊の俺が、そんな親切をすると思うかね。俺は二百年の間、ただ嘆きの歌をうたって、来客をおどかし、この屋敷の壁や天井をゆらしているばかりだった。そうする他、ゆくあてのない亡霊にはなぐさめてくれるものがないのさ』

「それなら、わたしがなぐさめてあげるわ、かわいそうなあなたを。あなたはかわいそうなのよ。あなたのお墓にだって行ってあげるわ……」

 マドレーナがそう言って、歌をうたいました。



 かわいそう

 あなたの声ってどこか

 雨に濡れて落ちる お花みたい


 かわいそう

 こんなところで 震えてる

 死霊たちはどこをさまようのかしら


 かわいそう

 二百年の月日は

 あっという間の 夢の中


 かわいそう

 あなたのお墓に

 どうかお花を供えましょう



 亡霊のうさぎはわっと叫んで、けたたましく笑って、泣き声を上げ、くるりと飛びまわると、もはやうさぎの形をしていない大きな波のようになってマドレーナにふりかかり、こんな歌をうたいました。


 

 おそれ知らずの うさぎの小娘

 なぐさめの言葉 亡霊にかけおって

 洋館の壁の 血の黒いしみ

 けたたましい笑い声は 狂気に満ちて

 姿をみたものは みな死んでゆく

 不用心 不用心 用心しなけりゃ早死にさ



 おそれ知らずの うさぎの小娘

 あわれな死霊に 優しくすれば

 取り憑かれ 殺されてしまう運命さ

 けれども 不思議なことに

 俺こそ お前の言葉で 死んでしまった

 不用心 不用心 用心しなければ早死にさ



 うさぎの小娘 これを持って帰れ

 にごった銀色の 図書館の地下室の鍵

 すべてはそろった

 今こそ お別れの時だ

 うさぎの小娘

 これだけ覚えて帰れ

 不用心 不用心 用心しなければ早死にさ

 

 

 マドレーナはそこではっと目を開きました。電灯のあかりがついています。廊下にはうさぎ気がありませんでした。そして、そこにはうさぎの亡霊の姿がありませんでした。

(なんか、硬いものが前足の中に……)

 マドレーナが前足を開くと、そこには図書館の地下室の鍵がきちんと入っていました。


 さて、このようにしてマドレーナは図書館の地下室の鍵を前足に入れました。この先マドレーナはどうなってしまうのでしょうか。それでは次回、お楽しみに。

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