21 ラビットヒルズの亡霊屋敷
マドレーナは、ラビットヒルズ駅から円形の芝生の丘の間をぬうように歩いていきました。降りしきる雨がマドレーナのお白い毛をぬらしていきます。
マドレーナがラビットヒルズ駅を出てところから、トレンチコート姿のふたりのうさぎが、自分のあとをつけてきているのに、マドレーナは気がついていました。
(ギャングかな……。でも、わたしのことを知っているはずはないし……)
もしものことがあれば、洋服の中に隠している小さな拳銃で、ふたりのうさぎを撃ち殺すことも考えなくてはなりませんでした。
ギャングうさぎたちは、マスターズさんを救出した者が何者で、このエレクトロンポリスのどこにいるのかを知りませんが、あらゆる前足をつかって、探し出そうとしているに違いありません。マスターズさんを救出したのはダッチとロップなのですが、彼らはまったく、ふたりのことを知りません。
ラビットゲージの主要な駅に、ギャングうさぎの子分たちが何十匹も張りこんでいるのでしょう。そして彼らは、この高級住宅街にまったく似合わないうさぎの少女が駅におりたのを見つけたのでした。
それがマドレーナです。マドレーナは、傘もささないで雨の中をひとりで歩いています。それも道がまるでわからない様子です。ギャングうさぎが後をつけたのも、マドレーナがあやしかったからでした。
(困ったわ……。道がわからないのに、後ろからついてくる2匹のギャングうさぎ……)
そうこうしていると、丘の上にひときわ、美しい洋館が建っているのが見えました。
マドレーナは、電話の受話器ごしに「赤い屋根の洋館」と聞いていたので、これがエレナのお屋敷で間違いないと思いました。
(ここだわ……)
エレクトロンポリスの高級住宅は、100年も昔の名残で、丘の上に高い塀をこしらえて、建っているものでした。もしも敵が襲ってきたら、塀の上から弓矢をいかけたり、鉄砲で射撃するのです。今でも、王国立図書館の館長の屋敷ともなれば、どんな敵に襲われるかわかりません。
マドレーナは、ギャングうさぎの目も気にしないで、黒い鉄柵の門を開いて、長いざんごうのような道を通ってお屋敷へと向かいました。
(ずいぶん昔からあるお屋敷みたいねっ!)
マドレーナは歴史を探索しているみたいで、楽しくなってきました。
すると洋館の方からこんな合唱が聞こえてきたのですから、不思議なものです。
100年 200年という 歴史の息吹き
丘の上の洋館に たたずむ亡霊の
嘆きの声も 雨に濡れそぼり 溶けてゆく
100年 200年という 時間の先に
この丘の上には 跡形もない
冷たい 風の中の 雨の雫は 上から下へ
落ちて 流れて 消えてゆく
マドレーナはぞっとしました。それは亡霊たちの歌声だったのです。それでも、マドレーナは「図書館の地下室の鍵」を手に入れなければなりませんでしたから、震える後ろ足を前へ前へと進めました。
たて堀の道の中で、水路へと通じている水の吐き出し口には汚れた水が溢れかえっていました。雨の中で見えている洋館には、おそろしい声が響いています。それでもマドレーナは後ろ足を前へ進めなければなりませんでした!
(100年、200年の歴史がなんだというの……。亡霊の歌声がなんだっていうの……。どんなにこわくたって、わたしはやらなきゃいけないんだ……)
マドレーナが振り返ると、ギャングのうさぎたちは亡霊の歌声におそれをなして、大慌てで逃げてゆくのでした。
このようにしてマドレーナは、エレナのお屋敷へとやってきました。なんというおそろしい洋館でしょう。それでも、マドレーナは図書館の地下室の鍵を盗まなくてなりません。それでは次回、お楽しみに。




