16 非常階段から見えるもの
ダッチとロップは、うさぎのギャングたちの目を盗んで、タップダンス酒場の厨房の裏口から非常階段のある鉄格子の中に出ました。
ふたりの目の前には外の広場へと続く扉がありました。この扉は、外側からは鍵がかかっていて開くことができません。しかしこの扉は内側からならドアノブをまわすだけで、いつでも開くことができるのです。
「ロップ。昔、エレクトロンポリスの狼たちがこの荒野で血で血を洗う争いを繰り広げていた頃、難攻不落の城と呼ばれたハインデルウルフ城が一夜のうちに占領されてしまった伝説を知っているな?」
とダッチがいきなり難しい話を始めました。
「知らない……」
「それでも君は探偵か。少なくとも歴史には精通していないといけないだろ」
とダッチが叱りつけるように言いました。
「そんなもの、後で勉強するよ。それで、どうしてそのお城は一夜で占領されてしまったんだい?」
「簡単な魔法だったのさ。城の兵隊が裏切って、城門を内側から開けたんだよ」
「そんなことか」
「まあな。とても簡単なトリックさ。でも、俺たちのやっていることも同じことさ。俺たちも外側からは、この非常階段に来ようとなんて思いもしなかった。客のふりして、ホールに入って、厨房に入って、非常階段までやって来たのさ。つまり内側からな……」
「なるほどね。面白いことを言うよ。さあ、行くならもう行かないと……」
ダッチがのんびりと歴史の話なんてしていたので、ロップはギャングに見つけるのでは、と不安な気持ちが込み上げてきて言いました。
ダッチが、階段を登り始めます。
「俺が先をゆく。後ろから敵が来たら遠慮なく拳銃をぶっ放すんだ」
「そしたら暗黒塔じゅうに銃声が響いちゃうよ」
「そしたら俺に任せておけ。ギャングはすべて俺が片付ける」
そう言われるとロップは真っ青になりました。
ふたりが鉄格子の中の階段を登ってゆくと、今度は、煉瓦造りの穴の中をくぐり、バルコニーのようなところに出ました。そこからさらに階段を登ってゆきます。
「ああ、暗黒街がこんなに下に……」
とロップは小さく叫びました。
「愉快なもんだな。俺たちは今、能天気にうさぎの最底辺を見下ろしている。だがな、ここでは一滴の涙すら枯れちまってるんだぜ」
そうダッチは吐き捨てるように言うと、非常階段の下の街並みを睨みつけているのです。
ダッチは非常階段の上を見つめました。階段はそこで終わっています。いよいよ、最上階まで来ることができたのです。さて、そこでは何が待っているのでしょう。ダッチが発砲すれば、ギャングたちがうようよ集まってくることは間違いありません。ふたりはどうなってしまうのでしょうか。それでは次回お楽しみに。




