14 モチェットの偽造肉屋
「どうするの。マスターズさんが一体どこに連れて行かれたのか、僕たちは全然知らないのに……」
とロップは長い耳をフルンと振りながら隣を歩いているダッチに尋ねました。
「この暗黒街に馴染みの情報屋がいる。あそこのひときわ汚らしい店をよく見てみろ」
とダッチは、まるでガラクタが転がっているように店が乱雑に並んでいる、汚らしい路地の片隅を指差しました。
そこには、さまざまなお肉が天井からぶら下げられている、ピンク色の照明のとてもあやしいお店がありました。
そればかりではなく、店先にはホカホカの肉まんが入れられている、ガラス戸のついた棚がとりつけてありました。
「あれは肉屋さんかい?」
「偽造肉屋だ」
「偽造肉? それは本当は肉じゃないけど肉のように見せかけているあれのことかい?」
「そう。豆腐のハンバーグのような、あれのことさ。昔はうさぎでも肉を味わえる代物というので、悪魔の産物とか言われて、国家がずっと禁止していた曰くつきのものさ。今では、健康に害はなく、豊富なたんぱく質をとれることが証明されたんで、ラビットゲージの多くのレストランで味わうことができるようになった……」
「マドレーナがレストランでむしゃむしゃ食べてたよ」
「ほう。あの子は流行に敏感だからな。この前は木苺のチーズケーキアイスを食べていたよ」
ロップは、ダッチが自分よりもマドレーナのことに詳しいと感じて、嫌な気持ちになりました。
(ダッチは、僕なんかよりもずっと前からマドレーナの知り合いなんだ……!)
ロップは、ちゃぶ台をひっくり返したい気持ちになりました。
ダッチは、ロップの動揺にかまわずに思い出した話を次から次へと話します。
「……ずいぶん前に、うさぎがビーフジャーキーをかじっている姿を見て、牛たちが反対運動を起こしてな。なあに、どんな動物だって自分の仲間の肉が食われるのを見るのは嫌なはずさ。そんなくだらない話はいいや。見てみな。店の奥に立っているあの胡散臭い太ったうさぎの店主を。モチェットという名のうさぎだ。あいつは、偽造肉の切り身と偽造肉の肉まんを販売している」
「ワルなんでしょ?」
「まあな。やつだってこんな暗黒街に店を構えているんだから、ろくなやつじゃない。ただ、あいつは偽造肉を販売しているだけじゃなく、情報屋としても活動しているんだ」
ダッチの言うことはよく分かりませんが、ただロップは「へえ、へえ」と頷きます。
「どれ。そこに立ってギャングが来ないか路地を見ていてくれないか。俺はちと、あのモチェットから話を聞いてくる」
とダッチは言うと、さっさとモチェットの偽造肉屋の店先に近づいていって、その肘をカウンターに置きます。
「ダッチじゃねえか。えっ? 蒸したての肉まんでも食っていくかい?」
とモチェットは下品な言葉づかいで笑いました。
「モチェット。ギャングたちがじいさんうさぎを連れて来なかったかい?」
「じいさん。ああ、あの灰色のうさぎのじいさんか。そんならさっき、ギャングたちに縛られて、あのタップダンス酒場の裏口にぶち込まれたそうだぜ」
とモチェットは物分かりよく、簡潔にそう述べたのでした。
「あのタップダンス酒場……。なるほどな。よく分かった。情報をありがとう」
そう言ってダッチは、うさぎの横顔が描かれた銀貨を一枚、モチェットにひょいと手渡します。
「こんくれえの情報ならいくらでもくれてやるぜ。しかしまさかダッチ、ギャングとドンパチするのかい?」
「さあな……。俺にはわからねえよ」
「そんなことしたらまず命はないぜ。それに、そこのお連れさんにはどうもそんな度胸はねえだろうしな……」
そう言ってモチェットがダッチの後ろに立っているロップを見て笑ったので、ロップはひどく嫌な気持ちになりました。
「なあに。あいつは俺の頼れる相棒なのさ」
そう言って、ダッチは吊るされた肉をちらりと見ると、微笑みました。
さて、モチェットの言う通り、ダッチはギャングと撃ち合いをして死んでしまうのでしょうか。次回お楽しみに。




