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うさぎの名探偵ロップとフェザーランドの怪事件  作者: Kan
第2部 暗黒街が覆い隠しているもの
13/29

13 ラビットゲージの暗黒街

 ロップとダッチのふたりは、ジョンソンとマッピンフィルの店の奥の物置で、リボルバー式の拳銃をうけとり、腰のホルスターにさしました。ホルスターというのは拳銃をおさめるベルトのことです。


 拳銃は今、ずっしりと重たくロップの腰にぶら下がっています。ロップはこんな恐ろしいものは、一度も身につけたことがありません。そのため、ずっと小さな胸がどきどきしていました。


「暗黒街っていうのは、つまりギャングのもうけ場さ。そこではギャンブルや暴力が商売ビジネスとなっていて、国家が禁止しているさまざまな商品が売り買いされている……」


「この店よりも悪いごろつきが集まっているんだね」

「俺たちなんてちょっと帽子をはすにかぶっているだけのことさ。本当に悪いことはしない。だが、暗黒街のギャングは違う。そこにあるのは冷たい商売の世界さ。警察は、ギャングと裏で手を組んでいて、禁止されている商売がそこでおこなわれてんのを見てみぬふりしてんのさ。だから、まずしい市民の安全な生活は奪いとられちまう……」

 とダッチはむずかしいことをたくさん言いました。ロップは、警察とギャングが手を組んでいるなんて話がとても信じられませんでした。


 ふたりは物置の中で、準備をととのえると、ブラウン色のコートの下に拳銃を隠し、ジョンソンとマッピンフィルの店のホールに戻りました。


 カウンター席の並んだごろつきどもは、ロップとダッチをもの悲しい目つきで見つめていました。不思議なことですが、彼らはふたりが暗黒街で死んでしまうに違いないと思っていたのです。


「もう行くのか。ダッチ……。健闘を祈る……」

 そう言って店主のジョンソンは、ダッチの肩にぽんっと小さな手をのせました。


「必ず生きて帰ってきますよ……」

 とダッチが言うと、ジョンソンは微笑んだ。


 ごろつきたちはにんまり笑うと、声をそろえてこんな歌を歌いました。



 2匹のうさぎが ころがって

 暗黒街のとびらを 今開く

 どうせやれちまう運命さ

 それでもやんなきゃならねえと

 腰に拳銃 厚手のコートに 身を隠し

 音もなく 忍びゆく あの塔の先

 横たわるうさぎどもの枕元

 背中に目はないけれど

 忍び寄る影に 気をつけろ



 ふたりは、ジョンソンとマッピンフィルの店の仲間たちから、ジョッキいっぱいにつがれた黄金色のビールを受けとりました。ダッチは、のまないとやってられないぜ、とばかりに喉を鳴らして、それを一気に飲み干すと、仲間たちに最後の挨拶をしました。

「ありがとう! 必ずあのうさぎ殺しのアドレフの息の根を止めてくるぜ!」

 ロップはビールが飲めないので、飲むふりをして、マドレーナに返しました。

「気をつけてね。ロップ……」

「うん……」

 ロップはもう言葉になりませんでした。


 ふたりは別れを告げると、店の丸い扉を開き、階段を登ってうさぎの穴蔵を出て、夕焼けに燃える空の下を歩いていきました。

 暗黒街の駅までは、アパートメント群の二階を循環している汽車で三駅の距離でした。


 ふたりはわずかな時間、汽車に揺られると、すぐに暗黒街の黒塗りの駅に着きました。

 ふたりはホームにおりて、うさぎのいない改札口を抜けると、空高く伸びている建物(ビル)建物(ビル)に挟まれている谷底、湿気のある路地へと続いている幅の広い階段を降りていきました。そこは、たばこの煙と排気ガスに満ちていて、ごみが散らばっている汚らしい路地でした。ふたりはしばらく一言口にせずにその路地を歩いていくのでした。


「怖いかい?」

 とダッチは囁くように言いました。

 ロップはそれが図星だったので、どきりとしてダッチの顔を見ます。

「ちょっとね」

「今にちょっとじゃすまなくなるぜ」

 とダッチがすかさず言って睨みつけたので、ロップはぶるりと震えました。


「このあたりはもう底なしの暗黒街さ。その長い耳をそばだててよく聞いてみな。そこらの店から渋い声のブルースが聞こえてくるだろう。ここは有名なタップダンス酒場だ。ブルース歌手のしわがれた歌声や、ジャズうさぎの演奏、それになにより、うさぎのタップダンサーがステージの上で踊るのが売りなのさ。この店だって、その先の赤レンガの店だって、ギャングがやってるのさ……」


「タップダンスなら僕も好きだよ。僕の故郷のローリエントにも巡行歌劇団(じゅんこうかげきだん)が半年に一度は来たものさ。フレミーって可愛い女の子のタップダンサーがいた……」

 とロップは急に、故郷のローリエントが懐かしくなって、そんなことを言いました。


「そんなものとは比べもんにならんさ。ここはエレントロンポリスの暗黒街だぞ。タップダンサーだって一流さ……」

 ダッチはそう言うと、暗黒街の薄暗い街並みを見上げました。高いビルが並んだ中に丘があって、ピンク色や黄色の妖しげな照明がともった家がずらりと並んでいます。

「さて、マスターズさんはどこに連れて行かれたのかな……」

 とダッチは呟くように言いました。


 挿絵(By みてみん)


 さて、このようにしてふたりは恐ろしい暗黒街にやってきました。誘拐されたマスターズさんが今どこにいるのか、ふたりにはまったく分かりません。どのようにしてふたりはマスターズさんを見つけ出すのでしょうか。それでは第二部のはじまりです。次回、お楽しみに。

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