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うさぎの名探偵ロップとフェザーランドの怪事件  作者: Kan
第1部 エレクトロンポリスの光と影
11/29

11 マスターズさんの悲劇

 ロップとマドレーナが、マスターズさんの古本屋の美しいドアに近づくと、なにやら中から騒がしい物音が響いてきました。それは本を次々と床に落とすバラバラという物音でした。


(まずいよ。まずいよぉ……。商品の本を落としちゃまずいよ……)

 ロップはそう思って中に入ろうとしましたが、すぐに木製の椅子が倒れる鈍い音と、低い怒鳴り声が響いてきて、驚きのあまり、立ち止まりました。

「どこにあるんだ。マスターズ! 隠したらお前の命はないぞ!」

 ロップとマドレーナはその物騒(ぶっそう)な言葉に顔を見合わせて、あわてて廊下のかげに隠れます。


 そっとお店の中を覗き込むと、店奥のカウンターで、先程のうさぎ殺しのアドレフと二匹のギャングが、マスターズさんを取り囲んでいるのです。

 アドレフは葉巻を口にしていて、緑色の煙を顔の前にもくもく立てながら、マスターズさんを睨みつけています。


「そんなことを言われても知らんものは知らん……」

 とマスターズはきっぱり言いました。

「どこまでもしらばっくれるつもりのようだな。お前のかつての仕事仲間だったうさぎをきつくしめあげたところ、ラビーヌの日記はこの古本屋にあると吐いたぞ!」

「ここはどこにでもある古本屋……。そんな貴重なものが隠されているはずがない……」


 アドレフは忌々しそうにマスターズさんを睨みつけると、彼のまわりをぐるりと一周する。

「あの日記には、エレクトロンポリスの地底迷宮への出入り口が記されている。違うか……?」

「知らん。まったく知らん。お前さんたちはそんなに金銀財宝がほしいのか。えっ?」

 マスターズさんはアドレフに負けじとそんなことを言い返します。


「なぜ地底迷宮に金銀財宝があることを知っているんだ。やはり日記を読んだことがあるな……?」

「うぐ……」

 マスターズさんはそう言われて、困った表情を浮かべると天井に顔を向けて、ふうとため息をつきます。


「そういう昔話を小さい頃、聞いたことがあるだけだ。日記なんてものは知らん」

 とマスターズさんは嘘を吐きました。

「ふん。お前にいいことを教えてやろう。俺たちは金銀財宝なんてしけたものをほしいなどとは思っていない。もちろん、ないにこしたことはないが……」

「それならなんだ。ただ、地底の迷宮を探検したいと思っているだけなのか?」

 マスターズさんはさも意外そうに耳をぴんと跳ね上げます。

「ふん。俺たちはそんなお利口(りこう)さんの優等生ではない……。俺たちは鋼鉄のワニを作ろうとしているのさ」

「鋼鉄のワニ……?」

 マスターズさんはその耳慣れない言葉(うさぎの長い耳にも慣れない言葉でした)を聞いて、とても短い首を傾げます。


「そうだ。鋼鉄のワニができれば、もう警察も俺たちに歯向かうことはできなくなる」

「一体なんのことだ。鋼鉄のワニというのは……」

 アドレフは、にやりと笑うと二匹のギャングうさぎに合図をおくって、長い縄を取り出させ、マスターズさんの体をぐるぐる巻きにしてしまいました。そしてマスターズさんを引っ張って店の外へと出てきました。マスターズさんは散歩を嫌がる犬のように両足で踏ん張っていますが、床をこする音を立てながら、縄で引っ張られて廊下へと出てきました。


 ロップとマドレーナは驚いて、廊下の壁にぴったりはりついたまま動けません。ロップはラビーヌの日記が入っている茶包みを抱きしめています。

(こ、この日記を渡せば、マスターズさんは助かるかもしれない……)

 そう思ったロップは震える前足で、目の前を通り過ぎるギャングたちに、その茶包みを差し出そうとします。

「あ、あの……」

 その時、マドレーナの白い前足がのびてきてロップの小さい口をふさぎました。ロップが驚いてマドレーナを見ると、マドレーナは首を横に振りました。そしてそっと小さな口を動かして、

「だめよ……」

 と言いました。


 ギャングうさぎたちはロップたちには目もくれずにマスターズさんを引っ張って、廊下を歩いてゆきます。そして4匹は廊下の角を曲がってしまいました。もう誰の姿も見えません。


 挿絵(By みてみん)


「困った! マスターズさん、連れて行かれちゃったよ!」

 とロップは頭を押さえて叫びます。

「落ち着いて。わたしたちにできることはなにかあるはずよ!」

「さっき、アドレフに日記を渡せば、マスターズさんは助かったかもしれないんだ!」

 ロップはとても後悔しています。


「それは違うわ。そんなことを望んでいるならマスターズさんはあんなに日記のありかをひた隠しにしないじゃない。マスターズさんは命をかけても地底迷宮の秘密を守ろうとしたのよ。それはとても大切なことだったのよ。そしてわたしたちも絶対にこの日記をやつらに渡しちゃいけないんだわ!」

 マドレーナはそう叫ぶと、跳び上がって、今にもどこかへ走り出しそうな勢いでした。


「でも、どうする?」

 ロップはマドレーナをなだめるつもりでそっと尋ねました。

「ジョンソンとマッピンフィルの店に戻るわよ。あそこはわたしたちの根城なのよ。ジョンソンさんに相談すれば、きっといいアドバイスをもらえるはずよ……」

 マドレーナはそう言うと、ふんっと鼻息を荒くしました。


 このようにして、マスターズさんはうさぎ殺しのアドレフたちギャング団に誘拐されてしまいました。こうなった以上は、ジョンソンとマッピンフィルの店の仲間たち、そして腕利きの用心棒ダッチにも是非とも協力をあおぎたいところです。それにしても、アドレフが言っていた「鋼鉄のワニ」とは一体何のことでしょうか。それでは次回をお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりに拝読しました。 相変わらずチャーミングな挿絵に癒やされました。 そして「鋼鉄のワニ」、気になるワードです。
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