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背中に突き付けられた剣

「ラントって平和な町やと思ってたんやけどなぁ」

俺はため息を付きながら取引先の店先で幌馬車に売れ残りの商品を積み込んでいた。


ラント伯が若くして急死。跡目争いが勃発。幼い嫡男を立てる血統派と成人している弟を立てる現実派とが抗争開始とお決まりのコースなんだが、俺がいない時にして欲しかった。


暗殺やら粛清やら血腥い事件が数日間で立て続けに起こるし、兵士やら護民官やらがバタバタと町中走り回るし。こうなると折角運んで来た商品も得意先が買ってくれない。独立したての小商いの身には冷たい秋風がホンマ染みるわ。


「しゃーない、しばらく商いの河岸を変えるか」

とぼやきながら馬車の馭者台に登った時、荷台からすっと延びてきた細身の刃が俺の横腹に突き付けられた。


「騒ぐな……死にたくなかったらな」

めちゃくちゃドスの効いた声だが女だ。俺は横目で幌の中を見た。鋭い殺気をはらんだ目が見返してくる。普通なら忍び込んでくるのは大歓迎なくらいのお姉さん。紺の軍服はこの国の近衛兵のもの。金髪がだいぶ長いので隊長級やと思う。


「……近衛大隊の騎士様にしては、乱暴なことを仰りますね」

「黙れ……そのまま座って馬車を出すんだ」

俺は素直に声に従って座り、手綱を手に取った。軽く鞭を入れて馬車を出発させる。得意先の店番に挨拶してから出たかったが仕方ない。下手に動くとブスッと刺されそうや。


「西門に向かえ」

「西門……承知しました」

今いる所からだと町の外に出るには西門が一番近い。俺は馬車を西門に向かう大通りに向けた。


町は朝から忙しく立ち回る人達で溢れていた。その中をゆっくりと馬車を進めて行く。


背中に剣が当たっているのを感じた。小僧から商いの道に入って8年。俺最大のピンチだ。年季が開けてやっと独立した思たら、直ぐ刺されて死んでもたなんて洒落になんない。


大商人に俺はなる!って小僧ん時言うて笑われたんを思い出した。そや、そんな事も言うてたなぁ。いつも厳しい番頭さんだけが笑いもせずに、ほな、どんな時でも諦めん根性と、どんな時でも切り抜けらるれる才覚身に付けなあきませんなあ言うてくれた。……そや、剣技も魔法もない商人は目利きと才覚で勝負。商人は商人らしく人見抜く眼力と人転がす口先で活路を見出ださなアカン!


「騎士様」

「……なんだ」

「そんな剣先身体に当てるんは勘弁しとくれやす。怖あて、怖あて。それに剣が外から見えとるかもしれまへんけど?」

近衛兵が軍服着たまま野盗の真似しようってんや。たぶん誰かに追われてるはず。目引くんは嫌うはずや。


「……」

プツッて服が裂ける感触がして、剣先が服の中に入ってきた。素肌に冷たい剣先が当てられた。

「ご忠告痛み入る。では、服で剣を隠して貰おう」

「……」

思った以上にアブナイ奴だった……


ガタゴトと馬車が揺れる度に刃が当たりチクッと皮膚が切れている。最初は小声で痛って言うてみたけど無反応。俺は暫く黙って馬車を進めることにした。


次の門曲がると西門大通りって所で声をかけた。

「もうすぐ西門ですけど、西門から外にお連れしたらよろしいので?」

「それは着いてから言う」


「多少なら金子もご用立てできますし。見ての通りの小商いですが」

「それは……いや、その必要はない」


少し考えてから応えがあった。おや?金は要らんのか。小金欲しさに悪さをする類いではないんか……。金で解決でけんのは、悪い兆候かも知れんが。


「騎士様」

「……」

「私、古着とかも少し商っておるんですが」

「……」

「まあ、普段着ですけどね。どうでしょう。一着差し上げますから、それで許して頂けまへんか?」

追われているなら服を変えたいだろうと踏んで鎌を掛けてみた。


「それは……そうだな。服を変えるのは必要だな」

「では、一度馬車止めますけど、よろしい?」

「ああ」

俺は道脇の往来を邪魔しない場所に馬車を止めた。








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