【子語り怪談】三歩五歩
子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。
これも他人様から聞いた話なのですが、「私」と言う体で語らせていただきます。その方が、ずっと話しやすいものでして。
さて、私が五歳くらいの頃は、まだそこらに空き地がたくさんあって、子供たちの遊び場として重宝されていました。とは言え、建材の類が無造作に山積みになっていたりもしますから、決して安全な場所ではありません。現代なら管理責任がどうのと言われ、たちまち立ち入り禁止にされてしまうでしょう。でも、当時は良きにつけ悪しきにつけ、おおらかな時代だったので、子供たちは自分で自分の身を守りつつ、あれこれと遊びを楽しんでいました。
その空き地は路地に面し、クレオソート塗りの黒っぽい板壁で三方を囲まれた、ややせまい資材置き場でした。遊ぶスペースがほとんどなく、他の子供たちには不人気でしたが、私はここをお気に入りにしておりました。
それと言うのも、乱雑に野積みされた足場用の鉄パイプ置き場から、ちょっと離してブルーシートが掛けられたコンクリートブロックの山があり、その上に寝転がって雲などをボケっと眺めるのが、たいそう気持ちが良かったからです。
ところが、その日は珍しく、同じ年頃と思しい女の子が一人、その空き地を遊びに訪れました。彼女はコンクリートブロックの上にいる私をちらっと見てから、何やら奇妙な遊びを始めます。
まず、足場置き場の前に小石を一つ置き、そこから「イチ、ニ、サン」と数えながら歩き、一歩の幅ごとに小石を置いて行くのです。
そこから九十度折れ、今度は「イチ、ニ、サン、シ、ゴ」と、同じように小石を置いて行きます。
そうして、今度は出発点に向い、斜めに「イチ、ニ、サン」と進んで、最後に「シ」と言いながら、最初に置いた小石を拾い上げる。
私は思わず、「それ、どんな遊び?」と声を掛けてしまいました。女の子は私を手招きしてから、地面に置いた小石を全部拾い上げ、それを私に手渡します。とにかく、やってみろと言うことでしょうか。
私は、先ほどの女の子の動きにならい、地面に小石を置いて行きます。そうして、最後の「シ」を拾おうと身を屈めた時、積み上げた鉄パイプが崩れないよう、四方に打たれていた木製の杭の一本が「く」の字に曲がり、半ば折れかけているのを見つけました。ぎょっとして、「シ」の石のそばに立っていた女の子に目をやると、彼女はニヤニヤ笑っています。不気味に思って後ずさると、ほとんど同時に杭が折れ、女の子はニヤニヤ笑いながら、崩れて来た鉄パイプの下敷きになりました。
すぐに、作業服を着た数人の大人たちが駆け付けてきて、怪我は無いかとたずねてきます。私が、女の子が下敷きになったことを告げると、彼らは慌てた様子で鉄パイプをどかし始めました。しかし、一通り除けても、あの女の子の姿はありません。
作業服を着た大人たちは、ひどい「ウソ」を吐いた私を叱りつけ、家に帰れと言って空き地から私を追い出しました。
理不尽に思いながらも、私は素直に帰宅し、翌日になって再び空き地を訪れました。しかし、そこは横に渡した鉄パイプでふさがれ、もう入ることはできなくなっていたのです。
あの女の子は何者だったのか。そんな疑問より、勝手に現れ消えて、お気に入りの場所を奪った彼女に、私はただただ腹を立てていました。