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そして世界が終わるまで  作者: rintz
第一章 その依頼引き受けましょう
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#7 緋炎

 霧城旭きりしろあさひという人間がどのような魔法使いなのかは完全に未知数だ。フロリス魔法学院に入学している以上、実力があることは確かだとは思う。冴鳴さえなが予め調べておいてくれた彼女のデータでは得意魔法が炎ということらしい。


 そういえば、彼女の魔法を見るのは初めてだ。


『すみません。試合を始める前に、一つ良いでしょうか?』


 霧城さんは、対戦相手に向かってそう尋ねる。


『なんだい? 手短に頼むよ』


 対戦相手は金髪の男だ。何度かモニターで見たけど、ひどく退屈そうな表情を浮かべている。今もまさしくそれだ。


『魔法使いにとって一番大切なことって、なんですか?』


『愚問だね。見たところ学院の生徒みたいだけど、そんなことも知らないのか』


 一々喋り方が鼻につく。


『才能だよ。圧倒的な才能』


『それが無い魔法使いは……?』


『使い物にならないクズだよ』


 即答で言い切った。迷いがなさすぎて逆に感心する。


『本当に残念でならない。学院のレベルも落ちたのかな? 学術祭参加の選抜試験だって聞いたから、わざわざ忙しい中出てきたのに受験者はゴミばかりだ。それに加えて六家の面々は試験に不参加で、挙句の果てには外部から参加者を募る? 馬鹿馬鹿しいっ!』


『両者対戦を始めるように』

 

 審判が冷静に試合を始めるように促す。


『……ありがとうございました。お時間を取らせてしまい、どうもすみません』


 霧城さんはそう言って、指定の位置へ進み開始の合図を待つ。


『ああ、そうそう。言っておくけど俺たち卒業生は君たちを学術祭に参加させる気はないよ?』


『それを決めるのは貴方ではないのでは?』


『先輩からのアドバイスなんだから聞いておきなって。あ、これモニター写ってる?』


『……現在待機ホールで流しています』


 審判が淡々と返答する。


『画面の前のクズ後輩諸君もよく聞いておきなよ。この学術祭の参加条件は上位百人までと決められているけど、それでも最低限のラインってものがあるんだよ』


 なんだそれ、初耳だぞ。後だしジャンケンみたいな真似はやめてくれ。


『記述試験の点数で仮に満点を取ったとしても、こっちの試験の点数は無いも同然だ。何せ君たちはまともに魔法を撃つことすら出来ないんだからな。試験の評価に実技を含める以上、誰も学術祭へは参加出来ないってわけさ』


『審判さん。本当ですか?』


 モニター前の皆に変わって霧城さんが確認を取る。これが本当なら、これまでの受験生は全員失格が濃厚になってしまう。


『……最低限の合格ラインが設けられているのは事実です。よって、合格者が百人に満たないという可能性はあります。これ以上は評価基準に関わる為お話できません』


『ははっ、ほらね? ということでアドバイスは終わりだ。残りの奴らもさっさと片付けたいし、始めようか』


『アドバイス有難うございます』


 その顔、絶対思ってないだろ。ギリギリの所で耐えて殊勝な態度を見せている霧城さんにハラハラする。


『では、改めまして……試合開始!』


 審判の合図でようやく試合が始まる。それと同時に金髪が自分の掌に炎を生み出す。さっきまでと同じように、すぐに沈めるつもりなんだろう。


『自分のクズさを自覚しろ! 爆炎衝ヴァン・ブレイズ!』


 炎熱系上級魔法爆炎衝(ヴァン・ブレイズ)。自身の魔力量に応じた大きさと数の火球を生み出し、それを相手に放つシンプルな魔法だ。金髪が生み出した火球は五つ。その火球一つの大きさは大人一人分を優に超える。


 放たれた火球が霧城さんに迫った。


爆炎衝ヴァン・ブレイズ。それが貴方の十八番ですか』


 五つの火球を彼女は結界を張って対処する。


 あ、思い出した。この金髪さっき試合で見たやつだ。


『馬鹿め。結界を張った瞬間にお前は負け確定だ! 続けて喰らえ、爆炎衝ヴァン・ブレイズ!』


 結界を張って相手の魔法に耐える。これが攻撃魔法から身を守る手段としては一番なのは間違いない。一対一の戦いでなければ。


 防御魔法は一貫して、使用している間はその場から動けない特性がある。さらに展開中は別の魔法を唱えることは出来ないうえ、魔力の消耗も激しい。


 複数人での戦闘ならこれをカバーし合えるが、一対一では防御側が完全に不利だ。

 

 何せ防御に回ったら最後、その結界が崩れるまでひたすら攻撃を受け続けるしかないのだから。


『沈めぇぇええ!!!』


 今回の受験者がとにかく気に入らないのか、容赦なしの最大火力の火球が霧城さんにどんどん放たれる。彼女も掌を前にかざし、結界の展開を維持している。上級魔法を数発受けても耐える結界なんて、中々彼女もやり手じゃないか。


『十……十一……十二』


 ん、霧城さんは数を数えている?


『今までのクズよりかは張り合いがあったが、もうそろそろ限界じゃないか?』


『ええ、そろそろですね。今度はこちらの番です』


『何だとっ!?』


 霧城さんの展開していた結界が紅く染まっている。


緋炎スカーレット・フレア!』


 真紅の爆炎。


 結界を張っていたはずの彼女から、通常の炎魔法を遥かに凌駕するそれが放たれる。金髪もすぐに防御魔法を展開しようとしたが、それが発動することはなく轟音と共に吹き飛ばされて後方の壁に叩きつけられた後、地面に横たわった。金髪からは何の言葉も返ってこない。


『……試合終了です』


 冷静を保ちきって判断を下した審判に拍手してもいいかな?


『勝っちゃいました!』


 モニターにブイサインとか、君そんなキャラだっけ? 

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