-Prolog-サヨナラ
『ごめんね、終くん』
彼女は本当に申し訳なさそうな顔で、そう謝った。ここには僕たち二人以外には誰も居ない。世界を真っ赤に染めるほどの赤い紅い夕日は、あと数刻の後に夜の帷へと消える。そしてそれが、彼女の限界だった。
『勝手に居なくなっちゃう私を、許して欲しいな』
『……認めない! こんなの僕は、絶対に認めないからな……ッ!!』
そう言わずにはいられなかった。この決断がどうしようもなく最善で、今ある選択肢の中で最良の一手だったとしても、それを認める訳にはいかない。
震える手足にぐっと力を込めて、僕は彼女に近づいて行く。距離にして約五メートル。だけど、そこから先にはどうしても進めなかった。
『本当にありがとう。私の為にここまで来てくれて。ふふっ、何だか嬉しいなぁ……』
その笑顔と言葉と同時に、彼女から光が溢れ始める。
淡い桃色。
彼女の髪の色と同じ魔力の色が、ゆっくりと確実にこの世界に溶けていく。
『くっそぉおおおおおお!!!!』
普段使わないような言葉で僕は叫んでいた。
あれを止めなければ……! 止めなければ……ッ!
指先一つでいい。この身体が彼女に触れることが出来れば……!
根拠も裏付けも無い。だけど、そうすればきっとなんとかなる。そんな確信があった。
届け……届け……届け……ッ!!!!
『ーーばいばい、終くん』
ーープツンッーー
そして世界は、暗転した。