ナディア視点 不殺系ヒロイン・ナディア
「だからね、セリカ。私の好きな、家族のままでいてね?」
「ん? どういうこと? もしかしてまだ、私と許嫁になりかけたこと気にしてるの? そんなの今更、何も言わないって」
セリカが万が一にもヴァイオレットを好きになったら戦争になるので遠回しに釘をさしたのに、セリカときたら鈍いにもほどがある。きょとんとしてから慰めるように言ってきた。そんな話はしていない。
ナディアは正面でセリカと向き合った状態で、目を合わせて真剣な顔でわかりやすく説明する。
「そうじゃなくて、セリカがもし、マスターに余計なことをするなら、もう大切な家族ではいられないってこと」
「そ、そんなことするわけないでしょ? もう、それは確かに、ヴァイオレットはすごく優しいし、魔力もすごいし、いい人だと思うけど……あ、あの、ナディア? なんか恐いから、一回ナイフ置かない?」
「マスターは、私の運命の王子様で、私の大事なお姫様でもあるから。他の人が入る隙間は、ちょっともないからね? わかる?」
「わ、わかったわかった! わかってるから、なんで置けって言ったのにナイフを両手でもつの? 恐いから」
「本当にわかった? マスターも私のことを愛してるんだから、困らせるようなことしたら、私、セリカ相手でも許さないからね?」
別に、このナイフは何ということはなく、落としたら危ないから両手で持っただけだけど。もし、実はヴァイオレットが好き、とか言い出したら軽く脅かそうとは思っているけど、その場合もナイフは危ないから素手でするつもりだ。ちょっとビビり過ぎだろう。
セリカはナディアの忠告に、やや引きつった顔になりながら首を縦に振る。
「わかってるから。私が、ナディアの幸せの邪魔するわけないでしょ?」
「……そう思ってくれているとしても、それを覆すほど、マスターは魅力的すぎると思う」
「それは確かにそう、あ、ちょっと、またその目恐いからやめて。わかった。もし万が一好きになってしまったとして、ナディアがいる限りそんな気にはならないし、絶対変なことしないって約束するから。だからまずナイフを置いて」
「ナイフは別に他意はないけど、そこまで言うならいったん置くね」
会話が終わったらすぐ調理再開できるよう持っていただけなのだけど、過剰に怖がっているので、とりあえず置く。
「ふぅ……ちなみになんだけど、私じゃないよ? 私じゃないけど、もし、ヴァイオレットを好きって人が現れたらどうするの? 殺す気?」
「まさか。私のことなんだと思ってるの? そんなことしたら犯罪者になって、マスターと結婚できないじゃない」
「だ、だよね。よかった」
例えば今、もしセリカがヴァイオレットを好きだしナディアから奪いたい、なんてことを言ったとして、さすがに殺す気はない。
でももちろん、説得は必要だ。なのでエルフなら丈夫だし、首の骨を折るくらいだろう。魔力を用意しておけばちゃんと治るけど、めちゃくちゃに痛いらしいから、助かりたければ諦めてと言えば、説得できるだろう。
他の人種だと首の骨を折ると死ぬらしいし、魔力で簡単に治せないのすこし面倒だ。足の骨を折るくらいならいいだろうか。
「そうだね、エルフ相手なら首、他の人種なら足の骨を折って説得するかな」
「犯罪だよ! だいたいエルフだって、魔力をすぐ治せるくらい用意したとして、最悪後遺症のこるからね?」
「馬鹿にしないでよ、そのくらいわかってる。それはマスターを狙ったんだからしょうがないよ」
「しょうがなくないし、犯罪だからね。せめて普通に、決闘とかにしてよ」
「決闘して骨を折るつもりだから、大丈夫だよ」
「……いやナディア強いけど、自信満々だなぁ。まぁ、それなら確かに、犯罪にはならないけど」
セリカはナディアを何だと思っているのか。闇討ちして骨を折ったら完全に犯罪者だろうに。それでは一時的に説得できたとして、訴えられたら困る。正々堂々勝負するに決まっている。
だけどそれでも、普通に負けただけで諦められるほどヴァイオレットは安くない。間違いなく、諦めないだろう。その為にただ勝つだけではなく、心が折れるまで説得する必要があるのだ。ヴァイオレットが魅力的すぎるし、そんなヴァイオレットと結婚するのだから、そのくらいの障害は当たり前のことだろう。
「まぁ、セリカがはっきり諦めるって言ってくれてよかったよ。セリカと決闘するとなると、手加減が大変だしね」
「はいはい、どうせ弱いですよ。もし万が一心変わりして好きになっても諦めます。だから安心してください」
「うん、ありがとう、セリカ」
懸念事項が解消されて、安心してナディアは調理に戻り、後は当たり障りない会話をした。
○
「ま、す、たー」
「ん、ど、どうかした? こんな夜に」
夜になり、セリカを寝かしつけて確実に眠りについたのを確認してから、ナディアはヴァイオレットの部屋を訪ねた。
ヴァイオレットの就寝時間は把握しているので問題ないはずで普通に顔を出しはしたけど、動揺した様子で部屋にはいれないようにドアと壁にそれぞれ手をついたままだ。その態度、お昼のことを意識しているのは可愛いけど、それにしたって、ちょっと頑なではないだろうか。
「失礼しますね」
「あちょ、ちょちょ」
ナディアは少しだけ頬を膨らませて、頭を下げて強引にヴァイオレットの脇の下から部屋の中へ入る。慌てて止めようとヴァイオレットが頭を掴んできたけど、さらに頭を下げて力が逃げるよう避けながら入る。
そして止められる前に、ベッドに腰をおろしてヴァイオレットを振り返る。
「……もう、強引だなぁ」
ヴァイオレットは苦笑しながら扉をしめて、ゆっくりとナディアの隣に座った。いつもより離れているけど、ひとまずは置いておく。
「だって、マスターとお話ししたかったんですもん。いいじゃないですか、少しくらい。セリカはもう寝ましたから。ちょっとくらい我慢しなくてもいいですよ」
「……そんなこと言って、ナディアの方が我慢できなかったくせに」
「が、我慢は。だって、マスターが魅力的だからしょうがないんです」
「あー、開き直る。気持ちはわかるけど、あんな、外でしなくてもいいのに……」
言いながら思い出したのか、ヴァイオレットはまた真っ赤になってナディアから顔をそらすように俯いた。可愛い。
ナディアはそっとヴァイオレットにすり寄るようにお尻をくっつけ、ぐいっと右手を腰に回した。
「ひゃっ、な、ナディア。ちょっと、いきなりだなぁ」
「いいじゃないですか。いつもは私がされる側ですけど、マスターの腰、細くて触りごこちがいいですね」
「んふっ、く、くすぐったいから動かさないでよ。もう、しょうがないなぁ、ナディアは」
「んっ」
ヴァイオレットの体の線を堪能していると、ヴァイオレットが笑いながら腕を回して横からナディアを抱きしめながら体を回し、そのままベッドに倒れこんだ。
倒れた衝撃で一度上を向いたので、ヴァイオレットへ顔を向けると、ヴァイオレットは肘をついて起き上がっている。
そしてナディアの上に覆いかぶさるように手をついて、ゆっくり顔を寄せて微笑みながら口を開く。
「昼間はナディアが気持ちよくしてくれたから、今度は私が優しくしてあげるね」
「ふふ、マスター、そんなこと言って、今度はマスターが我慢できなくなったんですね」
「昨日も言ったよ? ナディアが部屋にきたら、私が我慢できないって」
妖艶に微笑むヴァイオレット。その表情は、さっきまでナディアに触られて恥じらっていた少女のような愛らしさではなく、獲物を前にした肉食獣のように強い凛々しい顔で、格好良くって王子様みたいでドキドキしてきてしまう。
もちろんさっきの可愛いヴァイオレットにも興奮でドキドキしてしまっていたのだけど、いざ向こうから来るとまた別のときめきだ。どちらも甲乙つけがたいくらい好きだ。
「大丈夫、安心して」
「っ」
ときめきでにやけてしまうナディアに、ヴァイオレットは表情が見えなくなるほど顔を近づけ、口元をナディアの左耳につけるほどの距離で囁く。その吐息が直接耳朶をうつので、くすぐったくて声が出てしまいそうだ。
思わず体をゆらしてしまうナディアに、ヴァイオレットは拘束するようにぎゅっと上から抱きしめた。体重がかかってきて、多少の圧迫感がかかり、ヴァイオレットに求められているのだと実感して、ますます期待でドキドキしてしまう。
「魔力は控えめにするから、ね」
「んんっ」
そうしてぺろりと耳を舐められる。まず耳の先、やわらかいところなので、舌の動きで簡単に揺れてしまう。
気持ちいいとまではいかないけど、いざ自分がされると、普段にない感覚と耳を舐められていると言う異常事態に、妙な気恥ずかしさを感じてしまう。
「ナディア」
「は、はいっ」
「ふふ。大きな声、出さなくて大丈夫だよ。と言うか出さないで」
「は、はい。すみません」
ヴァイオレットはちゃんと囁き声なのだけど、振動に驚いて大声で返事をしてしまった。セリカとは部屋も離れているのだから、聞こえて起きてしまうなんてことは滅多にないはずだけど、気を付けるに越したことはない。
口を抑えると、ヴァイオレットが声を出さずに笑うのが体越しの振動で伝わってくる。文句を言おうか迷っている間に、ヴァイオレットが先に行動に出た。
「痛かったら言ってね」
「は、はい? っ、んぅ」
ヴァイオレットが、ナディアの耳先を軽く噛んだのだ。その思わぬ衝撃に、体が跳ねそうだった。それをおさえるようにヴァイオレットがさらにぎゅっと抱きしめてきて、そのまま甘噛みして舐めて、ちょっと吸ってきた。
それは理解外の気持ちよさだった。魔力が送られるのではなく、吸い取られているのに、同時に微量だが送られてもいて、その違和感は今までにない快感にとってかわる。
「あぁっ、ま、マスターっ」
「ごめん、痛い?」
「あ、いえ、えっと、痛くはないんですけど、くすぐったくて、魔力を送られていなくても、唾は魔力ありますし、口内はさらに強いので、耳でも、ほんと……か、感じちゃっただけです」
「そっか。じゃあ、耳の穴にするのは止めておくね」
「う」
ナディアは昼間、調子に乗ってヴァイオレットの耳の中に唾ごと魔力を流し込んだりした。送っている側も直接ではないけど、穴に魔力を入れると言うヴァイオレットを疑似的にはらませようとするかのような感覚で興奮して気持ちよくなってしまって調子に乗った。それは認めるし、反省しろと言うならする。
でも、今それを逆に自分がされたなら、どうなるか。さすがに実際に妊娠はしないだろう。しないだろうけど、想像妊娠くらいはしそうだ。それ自体は別にいいのだけど、さすがに声を我慢できる自信がない。
「……はい。でもあの、耳の先は、ちゃんと私、声我慢しますから」
「そっか。さっき呼んだのは、もっとしてっておねだりだったのか。ごめんね、焦らして」
「う。い、意地悪」
「ナディアが可愛いから、しょうがないね。あ、でも無理しないでね? 例えば唇噛むとか、そう言う怪我しちゃうようなのはなしだから」
「わ、わかりましたよ。純粋に抑えて我慢します」
「……いい子だね」
ヴァイオレットは、ちゅ、と軽く頬に触れるキスをしてから、また耳に噛みついた。その気持ちよさを、両手で口を抑えて体をよじりそうになりながら味わった。




