ナディアの好奇心
「じゃあ、失礼します」
ナディアは椅子から降りて膝をついて座り込み、とても嬉しそうに、少し頬を赤くしながらそっと手を伸ばしてヴァイオレットの足をとった。ヴァイオレットが椅子と言う高めな位置なのもあり、膝と同じ高さにナディアの顔がある。
もしかしてパンツが見えてしまうのでは? と不意に不安になるが、今更引けない。ここでそれを指摘して体勢をかえようと言ったところで、見えてなにか問題が?とか言われても困る。ここは言わずに気づかれない可能性にかけるしかない。
ナディアは気安い様子でするりとヴァイオレットの靴下を脱がせた。途端に涼しくなると同時に、蒸れていたのを自覚して恥ずかしくなる。
足から熱気まであがっている気がする。
「な、ナディア、くさくない? 無理しなくていいからね?
「ん? そうですね」
「ひっ」
尋ねたことを後悔した。質問に答えようとナディアは顔を寄せて親指に鼻先がくっつくほどの距離でわざわざ匂いを嗅いだのだ。聞かなければ意識されなかったかもしれないのに最悪だ。
思わず声をあげるヴァイオレットに構わず、ナディアはさらにヴァイオレットの足をあげて裏まで嗅いでから顔をあげる。
「全く問題ありません。むしろちょっといい匂いです」
「えぇ……そ、そうなんだ」
ドン引きである。臭くないまではともかく、いい匂いって。完全にナディアの特殊嗜好が露わになってしまっている。
そんな隠さないヴァイオレットの態度にすら気づいていないのか、ナディアはすぐに顔を伏せて両手でぎゅっとヴァイオレットの足を掴み、足の甲に口づけた。
「ん……く、くすぐったいね」
「ふふ、そうですよ。反省してください」
楽しそうに答えながら、ナディアはちゅ、ちゅ、と足にキスを繰り返す。
ヴァイオレットからはナディアのつむじしか見えない。魔力も送ってこないので、なんら特別な感覚はない。
ないはずだが、ナディアのような美少女が自分にひざまづいて足に顔を寄せるとか、めちゃくちゃいけないことをしているような罪悪感で落ち着かない。それと同時に妙な征服感や優越感に似た感情が沸いてくる。
汚いはずの足をいい匂いだといってすがり付かれる。そんな性癖はなかったはすだけど、相手がナディアだからか興奮してきた。
「な、ナディア、魔力とかは送ったりしないの?」
「んー、私はマスターと違って変態じゃないので、そんなに簡単に魔力送ったりしません」
「えぇ、ちょ、ちょっとナディア。確かに魔力送ってるけど、でもそれは一応、ちゃんと理由があるって言うか、いずれ困らないように何だって」
楽しんでいるのは事実ではあるけど、ナディアも了解済みで言い訳だって完備しているのに、そんな簡単に変態扱いされるのはさすがに心外と言うか、無理強いではないしわかってほしい。もちろん足に強引にしたりしたときの変態は甘んじて受け入れるけども。
胸を張って変態ではないとは言えないけれど、何とか力なくも反論をするヴァイオレットに、ナディアは顔をあげて悪戯っぽく微笑む。
「んふふ、わかってますよ。半分冗談です。マスターは皮膚に送っても全然鈍いみたいですから、今は止めておいて、それこそ、いずれ、直接マスターの中にするときの楽しみにするつもりです」
「そっか」
半分本気だったのであまり安心できないのでは? と思ったヴァイオレットだったが、ナディアが可愛いし後半なんかやばいこと言ってる気がしてつっこみにくいのでスルーすることにした。
「はい。ふふ、にしても、マスター、足も、素敵ですねぇ」
「ん、ちょ、ちょっとナディアさん? 何してるんですか?」
ヴァイオレットはさっきから引いていたので割と冷静だったのだけど、どうやらナディアはいつの間にかずいぶんと興奮していたらしい。
ヴァイオレットの足に頬ずりし始めた。えぇ、こわい。手の時もやり返すとか言って普通にキスしただけだったのに、足の時だけ頬ずりとか怖すぎる。
「ふふ、だって、マスターって普段足、ずっと靴下履いてるじゃないですか」
「まぁ基本はね」
「そんな足を、私にだけ特別に見せてくれているわけですから、ふふ、なんだか、嬉しくて」
「いい話風にするね」
さすがにそんな意図はない。この街、ちゃんとサンダル文化もあるし。言わんとすることはわからなくもない。特別性的な意味のある部位ではなくても、普段隠れているとエロく感じるのは理解できる。うなじとか。でも足先はマニアックすぎるのでは?
すでに数分この状態だ。足先の匂いとか羞恥心とか、そう言った部分が薄れてきた。あるのはもう、恐怖である。
「あの、ナディアさん、そろそろいいんじゃないですかね?」
「次は膝ですよ」
「あ、はい。じゃあどうぞ」
とにかく早く終わらせたいので、そっとスカートの裾を引きあげる。さすがに再度羞恥心が湧き上がるが、それより早く終わらせたい。
ナディアが足にしか興奮しないと言うならともかく、そうでもないなら足はもういいだろう。反省した。ヴァイオレットは改めて、ナディアへの行いを反省した。愛ゆえの行動だったとはいえ、無理強いはよくない。
どんな大義名分や、実際に必要があったとはっていえ、二人ともが純粋に楽しんでこそだった。
「ふー」
「ふぉ、い、息やめて。くすぐったがらせようとしてるでしょ」
「いえ、ただ膝は曲げていることで産毛がたっているので、息を拭いてなびかせたのがみたくて、つい」
「……」
う。う、うわぁ。と声がでそうだったのはさすがに我慢した。
この世界の一般庶民の間では、脱毛が一般的ではないし。それに全体的に体毛が薄めのヴァイオレットなのでなおさら、意識したことはなかった。だがよく見れば膝にも産毛くらい生えているだろう。
別にそれは当たり前のことで、恥ずかしがることではない。ないはずだが、そんなまじまじと観察されたら恥ずかしくないはずがない。脱毛処理を怠ったと指摘された気にさえなる。
「あの、ナディアって、足が好きなの? 毛が好きなの?」
「え? 変なこと言わないでくださいよ。マスターのことは何でも好きですから、足だって好きですけど、毛は別に。と言うか、産毛が可愛いからついですよ」
「産毛に可愛いとかないよ」
「あります」
「はい」
もう何でもいいけど落ち着いてほしい。ヴァイオレットは今ビックリするくらい心が落ち着いているから。
ナディアが跪いてる? 足フェチだから仕方ないね。はいはい。と言う感じだ。
「なのでちょっと舐めますね」
「ん? んんん! ちょっとナディアさん! 本当に、正気にもどって!」
そんな投げやり気味になっているヴァイオレットに対してナディアは笑顔を絶やさないまま、本当に舐めた。ぬめりとした熱い感覚はとにかくくすぐったくて、興奮するとか以前にドン引きである。
さすがにたまらず、両手でヴァイオレットの頭を掴んで止めにかかるがびくともしない。それでもヴァイオレットの制止に、ナディアは顔をあげる。興奮の名残か顔自体は赤いが何故か表情は真顔である。
「私は正気です」
「だとしたら変態だよ! 変態!」
「そんなことはありませんけど、わかりました。マスターがそこまで嫌がるならやめます」
「あ、ありがとう」
よかった。このまま舐めるのを許して、膝どころか足先までなめられたら、さすがにナディアを見る目が変わってしまうかもしれない。愛情が減ることはないと断言できるが、さすがにね。
頭から手を離し安堵するヴァイオレットに、ナディアは微笑んで提案する。
「そのかわり、手もやらせてください」
「……なめる?」
「なめます」
「なんで?」
「美味しいです」
「やだ、別の意味で恐くなってきた」
もしかして、ヴァイオレットは眠れる獅子を目覚めさせてしまったのだろうか。怖すぎる。食料的な意味で狙われている。たとえ相手がナディアでも、じゃあ指一本くらいならいいかな? とはならない。
「え? あ、へ、変な意味じゃないですよ? ただ、マスターの魔力を感じるので」
「うーん、特にフォローでもないって言うか。まぁ、足よりは変態っぽくないからいいけどさ」
「足よりって、そもそも嫌がる私の足にキスしたり魔力送ったり、先にやりたい放題なのはマスターの方だと思うんですけど」
「文化の壁って、分厚いねぇ」
眉を寄せてむっと言われた文句には、遠い目をして誤魔化す。それはたしかにそうなのだけど、ヴァイオレットとしては軽く口づける状態と、舐めるのには深く大きな変態の溝があるので、やはり文化の壁としか言いようがない。
「まぁいいですけど」
ナディアも感覚の違いがあることは認めてくれているので、やや不満そうな表情なままだけど引き下がってくれた。
よかったよかった。ナディアは素直にヴァイオレットの足を離し、起き上がって椅子に座りなおした。
「あ、ていうか先にちょっと膝洗ってくるよ」
「え? な、何でですか?」
「え? 驚くとこ?」
靴下をはいて何気なくそう言っただけなのに、予想外の反応をされた。
なんでもなにも、膝を舐められて唾がついて汚いからだ。他に理由があるだろうか。
「だって、私はマスターにキスされたところを洗おうなんて全然思いませんよ?」
「それは私もだけど、舐めて唾つけられたし」
「つけられたとか、言い方に悪意を感じます」
「悪意って、まぁ、嫌だったけど」
「そ、そんな言い方あります? 私の唾ですよ!?」
「え、いや、でもさ、ほら、唾って言うのは放置すると細菌が繁殖して異臭をはなつようになるからね?」
「さいきん? まあたしかに、匂いがするかもしれませんけど、私のですよ?」
「いや、そんな言い方されても」
そりゃあ、キスをしたりしてこぼれたとして、その時は唾がつこうがなんだろうが気にならないだろう。だけど終わったら嫌になるものではないか? そのまま寝落ちしたならともかく、起きたなら涎まみれになった顔のままいられるだろうか。
「なに、ナディアは私に唾がついたままでいてほしいってこと? マーキングしたかったの?」
「う、そんなことありませんけど……舐めたのも、別に、そんなつもりじゃないですし。でも、改まって洗うとか言われると、なんか嫌です」
「ナディアがどうしてもって言うならこのままでもいいけど、どうする?」
「……やっぱり、洗ってください」
「うん」
洗った。とは言え、目の前で露骨に洗ってくる、と言うのも少しデリカシーがなかったかもしれないので、そこは反省するヴァイオレットだった。




