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直接魔力を送ってみるテスト

 初デートは折角なのでロマンチックを高める為、観劇をしようと言う思い付きが、たまたま知り合いと会ったので多少の犠牲はあれど通ったのは幸いだった。

 実際ナディアもすごく喜んでくれて夢中になってくれた。それはいいけど、王子様カッコイイ! とはしゃぐナディアが少し面白くなくて軽い気持ちで手の甲にキスしたらナディアがめちゃくちゃうっとりしてしまった。


 正直可愛くてヴァイオレットもうっとりしてしまって、それからずっと見つめあっていちゃいちゃしながら、手の甲にキスを繰り返したりやり返しておいて真っ赤なナディアとか堪能した。

 劇そっちのけになってしまって少しもったいない気もしたが、すぐには無理だがちゃんと予約すれば確保できないことはない席だ。今後も定期的にデートプランに加えることで勘弁してもらいたい。


「ますたぁ、はーい、あーん」


 観劇後半のいちゃいちゃでとろけてしまったナディアはそのまま戻らず、少し遅い昼食もオシャレな喫茶店を予約したのだけど普通にあーんしてきた。

 テラス席の二階のいい席である。中からは丸見えであるけど、外からは見えないと言うことで、こんなにした責任をとって存分にあーんした。


 バカップル、とちょっとひそひそされた気がするが、今日はもうヴァイオレットも開きなおる。だってこんなにナディアが可愛いから! 明日あたり後悔しそうな気もするが、気にしない!


 そして喫茶店も後にしてがっつり手をつないだままさらに街を歩く。いい服を、と言うことで最初のワンピースももちろんいいけど、今後もデートするならもう少しくらいバリエーションがあってもいいだろう。

 外へピクニックに行ってもいいのだから、そのデート用も欲しい。ついでに靴も欲しい。あれも欲しいこれも欲しい。ナディアが身に着けると思うとどれもこれも可愛く思えてしまう。


「マスター、さすがにそんなにはあってもしょうがないですよ」

「え、そう? でもいつか使うかもだし」

「……マスターは、こういうの着てない私じゃないと駄目ですか?」

「まさか! ナディアはジャージでも天使だよ!」

「じゃーじ? えっと、とにかく、えー……天使は言い過ぎです」

「そんなことないけど、ちょっと興奮してたよ、ごめんね」


 あんなに浮かれていたナディアだけど、こうして貢ごうとするとちゃんと諭してくれるとは。さすがの良妻だ。頼もしい。

 そして天使扱いに照れているの可愛い。と微笑ましく思いつつ、この世界で天使の扱いってどのようなのかとふと気になった。


 神の使いとしての意味の天使と言う単語であることには変わりないが、ヴァイオレットは清らかで可愛い者の最上級表現の感覚で使ったが、よく考えたら神の使い=可愛いと言うものでもない。が、照れていると言うことは似たようなニュアンスなのだろうと自分で納得する。


 そうして最小限のお買い物をしてから、夕食もこれまたいいお店で予約しておいた。個室で雰囲気のいい中、コース形式の料理である。マナー的には最悪であるけれど、個室なのをいいことにこれまた存分にあーんしあう。

 そして日が落ちた中、デートの余韻を楽しむようにゆっくりと帰宅した。


 灯りをともし、取り急ぎ入浴の用意だけしてから、一旦ダイニングでお茶を入れて席につく。隣り合って、再度手を繋ぎなおす。


「ふー……ちょっと食べすぎちゃったかな。大丈夫?」


 もう今日はずっと、くっついたかと錯覚するほど手を握り続けていたので、離すと少し寂しくて、繋ぎなおすたびに安心すらする。

 それがくすぐったいほどで、少しだけ手を揺らしながらそう尋ねる。


「はい。食事自体は魔力がないので、すぐ消化されますし、大丈夫です」

「あ、そっか……あ、じゃあもしかして魔力足りない?」


 魔力摂取だと頭ではわかっているが、いつも一緒に同じ食事をとっていて生活しているので実感としてない。なのですっかり忘れていた。申し訳なく思いながら尋ねると、ナディアはくすくす笑う。


「いいえ。いつも魔力もらってますし、マスターの魔力で今もらっている状態なら急に一週間くらいとらなくても全然大丈夫です」

「そうなんだ。じゃあいらないんだね」

「……い、いらないかと言われたら、その。お腹が減っているかと言われたら、減ってはいませんけどぉ……マスターの魔力なんですから、いくらだってほしいに決まってるじゃないですかっ。もう、いじわる」

「ごめん、つい。ナディアが私の魔力を喜んでくれているのって嬉しいし、いいですって言われると、つい」

「もう、そんなの、全然意味が違うじゃないですか。そんな風に言われたら……昼間だって、マスターが私の、て……手の甲に、き、キス、するから。魔力、少しですけど直接ですし、その、何回もされて、ほ、ほしくなっちゃったの、思い出しちゃうじゃないですか」


 真っ赤になってそう言うナディアの姿は、何だか年不相応なくらい妖艶に見えて、かーっと体が熱くなってしまう。

 食欲関連の発言のはずなのに、こんな風に思うのは違うはずなのだが。いやしかし、魔力は生命の元でもあるのだから、あっているのか!? と混乱しながら、ヴァイオレットは何とか理性を動員して抱きしめるのは我慢する。


「そ、それじゃあ……もう少しだけ、直接魔力送ってみようか?」

「!? そ、それは駄目です!」

「え、あ、いや、唇にじゃなくて、その、手の甲にキスして、意図的に送ってみるって言うのはどうかな、と思って。それなら子供はできないと思ったんだけど、食欲的にも意味がないの?」

「そ……んなことは、ない、と思います。皮膚でも魔力感じますし。口より効率は劣りますけど、吸収できないことはないと思います」

「あいまいだね」

「普通は空気中にそんな高密度の魔力ないですもん。でも、そうですね。……ちょっと、興味あります」


 興味、あるんだ。

 ごくり、と意味もなく唾を飲み込んで冷静さをキープしながら、ヴァイオレットはそっと繋いだナディアの左手を持ち上げる。

 正面に向き合っているので、このままだと口づけしにくいので、途中で持ち方をかえる。指先を掴んで顔の前まで持ち上げる。


「じゃあ、するね?」

「は、はい」


 可愛らしい手の向こうに、ナディアが恥ずかしそうに、だけど興味津々とばかりに瞳を煌めかせながら見つめてくるのが見える。愛おしいと言う溢れる感情におされるようにして、そっと第二関節のあたりに口づける。そして魔力を注ぎ込むように意識する。


「あっ、んっ」


 人間に送り込むことはないけど、石にいれるよりも抵抗がなく、思ったよりあっさりとじわじわとしみ込むように入っていくのを感じる。


「ま、ますたぁ」

「ん、どう?」


 ナディアが色っぽい震えた声で呼ぶので、さらに送り込みたくなるのを堪えて、一旦唇を離して尋ねる。

 上目遣いにナディアを見ると、ナディアは息を整えるように、深く一度呼吸をした。


「す、すごく、きてます。何というか、ぴりぴり? と言うか、熱い魔力が入ってきて、うーん、気持ちいいんですけど、ちょっと強い、感じです」

「気持ちいいの?」

「ん、まぁ……好きな人の魔力なんですから、そりゃ、そう感じますよ。もう……言わせないでください、マスターってほんと、いじわるですよ」


 そのナディアの言葉に、もう我慢できずにもう一度口付けて魔力を送った。さっきより強く。


「あああっ!」


 話している途中で油断したとしても、明らかに大きな反応だった。声をあげて背中をまるめ両膝をくっつけたまま足を少し上げ、驚いて飛び上がろうとする子猫のような反応だ。

 その可愛い素直な反応に、一旦口を離して、今度は指先から手の甲に変えて、再度魔力を送る。


「っ、んぅ…っ。 もっ! ばかぁっ」


 身もだえするように浮かせた足先をばたつかせ、空いている右手は体を支えるようにテーブルに置いて、ゆらゆら揺れて罵倒を口にするナディア。だけどけして、ヴァイオレットに掴まれている左手は動かさないどころ、力が少しも入っていないようだ。


「ん、ふふ、ごめんね、ナディア。あんまり可愛いから」

「もう、もー! 一気にこんなに魔力送られたら、手が、爆発しちゃいますよぉ」

「爆発!? え、だ、大丈夫?」


 怒った素振りでも可愛いナディアににやけてしまうヴァイオレットだけど、ナディアの物騒な物言いに慌てて掴んでいた手をじろじろ見る。

 だけどそんなヴァイオレットの反応に、ナディアはきょとんとする。


「え? ……ふふ、もー、やだぁ。例えですよぉ」


 そして遅れてそう笑う。突拍子もないのに真に受けてしまったのが恥ずかしくて、でもそうコロコロ笑うナディアが愛おしくて、ヴァイオレットは誤魔化すように、魔力は送らず軽くまた手の甲に口づけた。

 ナディアは驚きつつも足を降ろして背はのばして、くすくす笑う。


「ひゃ、もー。ほんと、マスターのえっち」

「えー? でも最初はナディアの食事の為だったんだけど」

「そんなの知りませーん」

「ふふ、でも冗談じゃなくても大丈夫? 今手、どんな感じ? 熱いって言ってたけど、一か所に送られ過ぎて変な感じとかない?」

「それは大丈夫です。凄く熱いですけど、うーん。手だけ熱めのお風呂にはいってて、熱いんですけど、火傷しそうなくらいに体感なんですけど、でもなんか……ふふ、気持ちいいです。力が抜けちゃう感じです」

「あ、それで手を動かさなかったの? ごめん、私、振り払わないからいいのかなって思ったんだけど、本当は途中でやめてほしかった?」


 申し訳なくなりながら尋ねると、ナディアはかーっと耳まで真っ赤になって視線をそらした。その反応で察したが、黙って返事を待つ。


「……だ、だからぁ……そう言うの言わせるの、よくないと思います」

「ごめんね。でも好きだから、ナディアの全部知りたくて。ごめんね、デリカシーがなくて」

「まー、マスターが無神経で乙女心わかってないとか、知ってますけど―。そう言うとこも、好きですし。いいですけど。その、こういう時は、さすがに聞かないで察してほしいです」

「うん、ごめんね、気を付けるよ」

「はい、許してあげます」


 反省したら簡単に許してくれるナディア優しすぎる。微笑むナディアと何となく見つめあい、それからナディアははっとしたように、悪戯を思いついた子供みたいな可愛い表情になって、繋がったままのヴァイオレットの手を引いて自分から口づけた。



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