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ピクニックの準備

 そうしてお喋りをしていたら、すぐに日は暮れて、一緒に食事の用意をして、食事をしてまたゆっくりと過ごす。


「ふー、にしても、今日はたくさんお話しちゃったね。ちょっとはしゃいじゃって、ごめんね。疲れてない? 体力があっても、それとは別だしね」

「大丈夫です。その、楽しかったので」

「本当に? よかった。私も、ナディアと一緒にいて、すごく楽しいよ。幸せだな」

「……」


 そう素直に伝えると、ナディアは自分から言ったのに照れたのか、はにかむように微笑んで、黙って頬を染めた。

 凄く可愛い。世界一可愛い。と言うか、ナディアはもう宇宙一、他の全世界を含めてダントツナンバーワンで可愛いのではないかと、ヴァイオレットは真剣に思った。

 こんなにも可愛い子が目の前にいる幸せをかみしめながら、そう言えばと思い出す。すっかり普通に楽しんだけれど、本日はナディアにお休みを教える為だった、と。


「ねぇ、今日は、休日としての感じはどう? 少しはわかった?」

「そう、ですね。お買い物したり、寄り道したり、のんびりお喋りするってことなんですかね?」

「うーん、まぁ、そんな感じでもあるんだけど、なんにもしないって言うのもあるし。うーん」


 そもそも、偉そうに教えるみたいな流れになってしまったが、休日と言うのは自由に過ごすものだ。例えば休日に、時間をかけて料理をするのが好きな人にとってはそれが息抜きだ。家事でも休みになる。外出が好きな人もいれば、誰にも会わずに家で過ごすのが好きな人もいる。どちらがいいとも言えない。

 だから、教えるようなことはないのだ。でもナディアが全くピンと来ないまま、じゃあ何をしてもいいならいつも通り家事をしますと言うなら、話が変わってしまう。


 ナディアが好きで、これが楽しいと思うものを見つけてくれたら、それを休日にするもの、と言うので納得してもらいやすい。とそこまで考えてヴァイオレットはナディアに提案することにした。


「これから、定期的にお休みをあげることになるんだ。それは、法律で決まってることなんだけど、その間、もしナディアがすることが分からないって言うなら、私と一緒に、色んなことに挑戦してみない? それで、ナディアがこれだって思うような楽しいこと、夢中になれることを探してみよう」

「夢中になれること、ですか?」

「うん。それが、結果的に家事になったとして、それはそれでいいけど。とりあえず、他を知らなきゃ、どうしようもないでしょ。もちろん、強制じゃないし、ゆっくりしたいとか、休日もずっと私といるのはちょっと、って言うなら、話は別だけど」

「そ、そんなこと言ってません。勝手にネガティブにならないでください」


 個人的に仲良くなりたい下心があるのでそう言ってしまってから、それでもあくまで立場は雇い主なので、強制にならないよう付け加えただけなのに、想定外に強く否定されてしまった。


「え、ああ、ごめんね。で、どう? きっと、楽しいと思うな」

「……はい。私も、そう思います」

「うん! ぇへへ、あ、じゃあ、早速明日も、新しいことを考えましょう。そうね、ピクニックなんてどう?」

「ピクニック、ですか。よくわからないので、お任せします」

「うん。任された」


 何はともあれ、これでしばらくの予定は決まった。明日はピクニックだ。学生時代はしていたけど、さすがにみんなが就職するとそうもいかない。

 ヴァイオレットは楽しくってわくわくしながら、詳細をナディアと話し合った。









 と言う訳で、本日はピクニックである。昨日より少し遅く話し込んだだけだけど、ナディアが小さくあくびをしたことでお開きになった。体力面で眠らなくても平気ではあっても、毎日眠ることも普通にできるし、魔力消費を抑える意味でも、基本的にみんな毎日眠るし、そうすると習慣で普通に眠くはなるらしい。なら無理することはない。


 すでに十分、段取りは決まっている。まずは朝食を食べて、お弁当をつくって、街の北側郊外にある丘へピクニックに向かうのだ。のんびりして、夕方には違う道でこの街を案内しつつ戻ってくる予定だ。


 昨日よりゆっくり目に、8時半に起きたヴァイオレット。昨日は楽しかったのは間違いないけれど、やはり溜まっていた疲れはまだ抜けきっていないようだ。

 大きく伸びをすると、少し腰が痛んだ。腰を撫でてから支度をして、台所でナディアと合流する。すでに朝食の準備はしてくれていたようだ。


「おはよう、ナディア。今日も早いね。朝ご飯、任せてごめんね。ありがとう」

「おはようございます。いえ。昨日してもらいましたし、時間もありましたから。あ、お弁当は一緒につくる約束ですから、まだですからね」

「うん、ありがとう」


 いただきます、と挨拶をして早速朝食をとる。ナディアが一口目を飲み込んでから、会話をふってくる。


「いつも、お休みの日はこのくらいの起床なんですか?」

「うーん、そうだね。と言うか、結構夜型だから、自宅仕事の日もそのくらいが結構多いかな」

「そうなんですか?」

「うん。夜の方がはかどることも多いし」


 純粋に不思議そうに首を傾げて尋ねられ、ヴァイオレットは若干後ろめたくも平静を装い頷く。

 夜の方がはかどる、と言うかついつい、他のことに気をとられたり、急ぎでない項目を先にしたりして、その日中にすべきことが後回しで追いつめられて集中したり、夜遅くまで起きているのが多くて夜型になってしまっただけだ。学生時代はむしろ朝方だった。管理されていないと、誰でもこんなものだと言いたいけど、さすがにナディアには言えない。


「そうなんですね。だったら私も合わせましょうか。その方が気をつかわなくていいですよね?」

「え、いいよ。別に。自然なのが一番体にいいんだよ」

「自然と言っても、長年続けた習慣なだけで、普通にその気になれば無視できる程度の眠気ですから、夜に寝ないでこれから翌日の夜まで起きて好きな時間に寝て、意識して起きれば、簡単ですよ」

「簡単って」

「魔力を十分もらっている以上、これ以上体にいいとかないですし。実際、例えば2日、夜型の大型獣の狩りに二日ほど昼夜逆転させると、それですぐ癖になって一日睡眠周期がずれたって話を聞きました。丸一日起きればだいたいリセットできるので」

「エルフの体便利過ぎない?」

「そう言われても」


 おそらくだけど、基本的に睡眠をしても魔力消費を抑える以上の意味がないのだろう。肉体にとって重要なことではないから、簡単に変わるのだろう。他の人種も、生きるのに必須ではない、例えばウインクができるできないとか、ちょっと練習すればすぐ習得できることもある。

 自分のことだからこそ、よくわかっていないのだろうナディアは、ヴァイオレットは思わず突っ込んでしまって困ったように頬に手をあてた。可愛い。


「ごめんごめん、つい。じゃあ、そんなに簡単なら、してもらおうかな。あ、もちろん無理のないようにでいいから」

「はい。じゃあ今日だと、さすがに何の準備もないと、困るので、明日しますね」

「あれ、準備とかいるの?」

「はい。普通に夜の間の、時間つぶし用のなにかも必要ですし、あと、魔力消費が昼間より激しいので、補給ですね。なくてもいけますけど、あるに越したことはありませんから」

「そうなんだ。何だか、聞けば聞くほど、エルフの体が、どんな感じなのか、よくわからないなぁ」

「……まぁ、そうですね」


 無理、と言うか、眠気とか辛いとか言う感覚がまず、他の種族と全く違うのかも知れない。眠気なんて、極まれば我慢できないものになるが、そうではないと言うことだし。


「さて、美味しかったよ。ご馳走さま」

「いえ。こちらこそ、ご馳走さまです」


 このやり取りは不思議ではあるけど、ヴァイオレットがいれた魔力を食べているので、こちらこそで合っているらしい。何だか照れ臭い気もするヴァイオレットだが、悪い感じではなく、むしろ何だか、嬉しい。


「じゃあ、さっそくお弁当をつくろうか」

「はい。サンドイッチですよね」

「そう。まあ、レパートリーが少なくて悪いけど」

「最初にマスターがつくってくれたものですね」

「あ、覚えてたんだ」

「もちろんです。すごく、美味しかったですから」

「……そっ、か」


 何気なく聞きかえすと、思い出したのかうっとりと、幸せそうな笑顔を向けられたので思わず言葉を失い何とか相槌だけをうったヴァイオレット。なんとか立ち直り、自覚のない不思議そうなナディアと共に、サンドイッチをつくりあげた。

 飲み物も用意して、鞄につめて、ピクニック用に服を着替える。ピクニック用とは言っても、普通にお出かけ用の新しめの、かつ長袖長ズボンの動きやすい服装と言うだけだけど。

 一方、重要なのはナディアである。お出かけ用の服に着替える、と言ったヴァイオレットに合わせて、では私も。と言って部屋に行って戻ってきて、最初に買った可愛い花柄のワンピースだった。めちゃくちゃに可愛い。


 はにかみながら出てきてくれたナディアは、照れ隠しにか右手の人差し指でもみあげのあたりを撫でながら、視線をそらした。そして目の前まで来て、えへ、と笑顔になってから軽くスカートをつまんでヴァイオレットを上目使いに見つめる。


「ど、どです?」

「ナディア、凄く似合っていて、めちゃくちゃ可愛いよ。想像以上に可愛い。まるで、天使のようだ。と言うか、可愛すぎて、何だか外に出すのが不安になってしまうんだけど、え、本当に大丈夫? 着替えない?」

「き、着替えません。変なこと言わないでくださいっ」


 怒られた。もうっ、と頬を膨らませたナディアは、先に階段を下りてしまう。慌てて追いかける。


「ご、ごめんって。つい、だって本当に可愛いし、何というか、急に不安になって。誘拐とかされたらって言うか。ほんと、私が強引に勧めたのに、変なこと言ってごめんね?」

「……別に、怒ってませんけどっ」


 ナディアは怒っていないとは言いつつ、玄関棚の上に置いておいたリュックを背負って、先に玄関を出てしまう。


「ま、待ってって」


 玄関のカギを閉めて、庭を通って門扉を閉じて、ナディアに追いつく。


「ナディア、そんなに怒らないで。今日はもっと、にこにこしたナディアといたいな」


 そして顔を覗き込みながら、殊更笑顔で明るく話しかける。ナディアは少しだけまだ顔が赤いけど、呆れたように息をついて返事をする。


「……怒ってませんけどぉ。なんというか、ずるいです」

「うん、そうだね。今日は楽しもうね」

「もう……いいです。で、えっと、その、お友達の家ってどちらですか?」

「うん、こっちこっち」


 危ないところだった。機嫌を直してくれるつもりのようなので、これ以上失言をしないよう気を付けながら、ヴァイオレットはピクニックに必要なものを借りに、途中にある友人の家に向かった。


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