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おめでとう

 それから二人とセリカに歓迎してもらえ、夕方になったので夕食の準備が始まった。手伝いたかったが、そんなに大人数ですることでもないからとヴァイオレットは座らされた。

 逆にナディアは、ヴァイオレットが何を食べるのかわからないので教えて欲しいと言うことで料理をしているので、居心地は悪い。


「ヴァイオレット、改めておめでとうございます」


 同じく行き場のなかったセリカが隣に座ってそう言ってくれた。


「セリカ、ありがとう。こんなにすんなり話が進むと思ってなかったよ」

「うーん、まぁ。私も話しておきましたし、その時の感触からしてそんな感じだと思いました」

「本当に助かったよ。ありがとう」

「い、いえいえ。そうはいっても、助けてくれたヴァイオレットに感謝しているとこからなので、結構私の説明にもすんなりでしたよ」

「そうなんだ? よかった。これで、私とセリカも親戚だね」

「は、はい……えへへ」


 はー。親戚の子だと思うとなおさら可愛い。はっ、ここは姉か妹かはっきりさせておくべきだろうか。先手必勝だ、とヴァイオレットはぽん、とセリカの頭に手をおく。


「これから、兄弟分としてよろしくね」

「は、はいっ」

「よかったら、お姉ちゃん、って呼んでくれてもいいんだけど」

「え、お、おねえちゃん、ですか?」

「そう。いいね」

「……お、お姉ちゃん」


 頭を撫でて褒めてから手を下ろすと、セリカは再度照れながら呼んでくれた。

 これはいいものだ。可愛いし、素直に家族としての情を誘発するし、思っていた以上に嬉しい。だけどそれと同時に、これナディアにも一回呼ばせたいな、と思ったヴァイオレットはもうナディア病の末期かも知れない。


 それからしばらくして、何人かが窓から家の中を覗いていたのに気が付いていたけどスルーしていると、外が騒がしくなって玄関扉がノックされた。


「はい、ただいまー」

「ちょっと無理かな。セリカいるならでてー」

「はーい」


 台所のグゼルから頼まれ、セリカが席をたつ。テーブルのある居間は、玄関のすぐ前の部屋なので、そのまま見える。


「はーい、どなた、あ、長老」


 セリカの背中を視線で追いかけると、扉の向こうに見るからにご老人、と言った感じの人が現れた。


「む? セリカ、どうしてここにいるんだい?」

「え、普通に。長老こそ、どうしました? この家の三人とも手を離せないんですけど」

「ああ。客人がきていると聞いて確認をしにきたんだが、本当のようだね」


 そう言いながら、ヴァイオレットの方を見た。目が合ったので会釈しておくと、長老と呼ばれた老人は人懐っこくニコッと笑った。

 何となくイメージで、エルフはあまり人と交流を好まないのかと思っていたが、来てみると全くそんなことはなく、みんな好印象すぎる。


「え、長老がきてるのー?」

「ああ、すまないね。突然。私のことは気にせず、先に用事をすませておくれ。先に、お客人と話をさせてもらうから」

「えー、ちょーろー、ヴァイオレットさんに惚れないでくださいよー」

「はは、さすがにこの年ではないさ」


 ナディアの自由過ぎる発言に一瞬どきっとしたが、年の功と言うべきか、気を悪くするでもなく流して家に入ってきて、ヴァイオレットの向かいに座った。


「あ、お茶入れますね」

「ありがとう、セリカ」

「いえいえ。で、今日はどうしたんですか? お客さんが来たからっていちいちチェックしに来るほど暇じゃないですよね」


 セリカが勝手知ったるとばかりに新しいカップを用意して長老の分もお茶を入れて座った。

 先ほどのナディアの物言いに驚いたけど、セリカの扱いも大概だ。長老と言っても、そんな偉い人扱いではなく、自分の祖父母くらいの感覚なのだろうか。


「う、うむ。まぁ、特殊な状況だからね。まずは、初めまして、私はこの里のまとめ役で、長老とみんなには呼ばれているから、そう気軽に呼んでくれて構わないよ」

「は、はい。初めまして。私はヴァイオレット・コールフィールドと申します。騒がせてしまったようで申し訳ありません。この度、ナディアと結婚のお許しをいただくために、この里に入らせてもらいました」

「まぁまぁ、そう固くならずともいいだろう。普通に、両親の兄弟くらいの感覚で話しておくれ。手紙の内容もすべて事前に聞いているからね。私はただ、直接確認して、婚姻の祝福をしたいと思っただけなのだよ」

「あ、ありがとうございます」


 長老はいくつなのかわからないが、さすがに見るからに高齢だ。そして年をとっているからか、女性と言うより声も低めだ。そのせいかより性別不明感があり、若いときめちゃくちゃ美人だったんだろうなと思わせる風貌で、要するに、とても威厳があり如何にも只者ではないと言うような雰囲気を漂わせている。少し近寄りがたいが、本人がそう言っているのに、かしこまり過ぎるのも逆に失礼だろう。


「えっと、では長老。どうすれば私は認めていただけるのでしょうか?」

「そうだね。もう、私の答えは決まっているようなものだけど、では、握手をしてもらってもいいかな?」

「あ、はい」


 にこにこ笑顔で手を差し出され、ヴァイオレットはほとんど反射的に手をつかんだ。ぎゅ、と思ったより強い力で握り返された。それに顔をしかめた瞬間、ぱっと手が放された。


「すまないね。つい。力が強かったかい?」

「いえ、大丈夫です。あの、それで」

「うむ。もちろん、祝福させてもらうよ」

「あ、ありがとうございます。嬉しいです」


 本当に、話が早いなぁ。とヴァイオレットは喜びつつも呆れたような気になってしまう。エルフの警戒心なさ過ぎでは? 余計なお世話だろうが、心配になってしまう。


「うんうん。ところで、いつまで滞在する予定なのかな? もちろん、永住すると言うなら家を用意するけれど」

「お、お気遣いなく。お二人が許してくれるなら、しばらくはいさせてもらおうかなーと、思ってます」


 まさかの永住をすすめられた。子供を増やすための政策がとられているとのことだけど、そんなに必死に人口を増やしたいのだろうか。

 と、そこでちょうど料理の仕上げ段階になったようで、グンゼとアイーダが料理皿を持ってきて机に置きながらヴァイオレットに微笑みかけた。


「もちろん、いつまでいてくれてもいいですよ。うちの子になるんですから。ねぇ? アイーダ?」

「うんうん。そうだね。いつまでもビビッていられないし、なれたいしね」

「そうですよ。なんなら私もお世話になったので、途中から家に来てくれてもいいですよ」

「ありがとうございます」


 ただ平静を保って見えたアイーダもビビッていたのか、と少し落ち込むヴァイオレットだった。あとセリカの気持ちは嬉しいけど、セリカは別の家だし、家族の了解なしに勝手なことを言うのはどうかと思う。


「お待たせしましたー。じゃあ、夕食にしましょうか。セリカと長老の分はないのでそろそろ帰ってくださいね」

「え、ナディア冷たくない? 私久しぶりにナディアの料理食べたいんだけど」

「私は帰るよ。だけどその前に提案なんだけど、明日、二人の結婚式をするのはどうだろうか?」

「え?」


 いやだから、エルフの展開の早さおかしくないですか? 長命種族何だからもっと気長でもよくない?









 長老の突然の提案をよそに、あれよあれよと言う前に結婚式の話が決まった。もちろんヴァイオレットの意思も聞かれたけど、ナディアにきらきらした目で聞かれてしまえば考える間もなくイエスしかない。

 詳細も、エルフの結婚式何て全く分からないので、ナディアのやりたいようにしてもらえればいいよ、と言うしかなかった。


 エルフ式の結婚式は、集会を開く際にもつかう広間で行われる。長老が取り仕切り、参加可能なエルフたちが皆集まり、異議がなければ祝福する、という形式だ。そして問題なければお互いにつけている花冠を交換する。

 この花冠は親が子につくってくれるもので、本物の花をつかうので寿命が短いが、その分すぐにつくれるものだ。衣服も華美なものではなく白い綺麗な服としか決まっておらず、だいたいはただの白いワンピースで行う人が多いらしい。もちろんそれ以外に、当人たちがやりたければ個性をだすこともできるが、基本的にはそれだけだ。そんなわけで、実際に明日にでもすぐに式は可能らしい。


「と言うか、すごい、驚きの展開なんだけど」

「す、すみません。何だか、盛り上がってしまって……あの、め、迷惑でしたら、今からでも」

「そんなわけないでしょ」


 夜になり、ナディアの部屋で寝ることになってから、夕食時の盛り上がりはどこへやら、ナディアは急に恥ずかしそうに縮こまってしまったので、ベッドの上に抱き上げる。

 同室だけど、普通にナディアは床で寝る形で寝具を用意していたのだ。ご両親の気遣いなので寝る時はわかれるとしても、それまではいいだろう。


 膝にのせたナディアは振り向いて、えへへと照れ笑いした。


「すみません。ヴァイオレットさんとエルフ式で、みんなの前で結婚できるのが嬉しくて」

「そうだね。私も驚いたけど、でも、ナディアの家族に祝福してもらって式をできるのは嬉しいよ。ただ、話が早すぎるとは思うけどね。エルフっていつもこうなの? めちゃくちゃ歓迎してくれるよね」

「え、いえ……そう言えば変ですね。たしか長老、前にガーベラが外の人と結婚するって言った時、最初反対してたような。うーん? でも結局許しましたし、もう諦めたんですかね」


 そう言いながら、ナディアはぐーっとヴァイオレットにもたれてくる。ヴァイオレットは逆らわずに寝転がる。


「そうなのかな? 警戒心ないようでちょっと心配なんだけど」

「長老は確か1000年くらい生きてて人を見る目が確かだそうですから、きっとヴァイオレットさんの魅力がすぐわかったんですよ」

「え、せ、千歳? え? エルフってそんな生きるの?」

「いえ、平均では200から300くらいですから、丸耳族の3か4倍ってところですね。正直、1000年は自称なので眉唾だと思います」

「そうなんだ、びっくりした」

「ふふ。もー、1000歳はないですよ。信じちゃうヴァイオレットさん、純粋で可愛い」

「ぐ。それはずるいって」


 ナディアは笑って転がってヴァイオレットに正面から抱きつき、頭を抱くようにしてなでてきた。

 甘い匂い。ナディアの体はどこもかしこも柔らかくていい匂いだけど、胸部はふんわり弾力もある何とも言えない気持ちよさと、どこか落ち着く甘い匂いがして、とても幸せな気持ちになる。

 そして矛盾するのだけど、落ち着くと同時にドキドキしてきてしまう。もう何度も直接触っているので、すぐ我慢できなくなるわけではないけど、物足りない気になってしまう。


 そんなヴァイオレットの様子見は気づかず、ナディアはその体勢のまま、はーと大きく息をついた。


「はー。でも、急なことで、ビックリさせちゃったかもですけど、本当に、嬉しいです。みんなの前でヴァイオレットさんとの関係をはっきりさせれば、もう、ちょっかい出されることもないんですから」

「もうって、誰もちょっかい出してないでしょ」

「そうですけど、わからないじゃないですか。エルフはみんな狙っていると言っても過言ではないんですから」

「絶対過言だよ」


 長老は全く問題ないようだったけど、ヴァイオレットの魔力はエルフにとってなれないと強すぎるようだし、好きとか以前の問題だろう。それを考えると、ナディアが平然としていたのが不思議だ。話す分には問題ないとは言え、むしろ一目ぼれって、どういう感性をしているのだろうか。


「とーにーかーく、これで安心してヴァイオレットさんをみんなに紹介できます」

「はいはい。でも、私も嬉しいよ。これでナディアの許嫁は正式になくなって、認められて家族になれるんだから」

「はい! 子供は間に合わなかったですけど、これで、ヴァイオレットさんは私の物ですね」


 そう、旅の間、結局子供はできていないようだ。結構がっつり仲良くしたのだけど、こればっかりは授かりものなので仕方ないけれど、魔力が強いと言われてもその程度なのだろうか。

 とは言え、あまり簡単にできて、生まれてまたすぐ出来て、とずっと続くと大変なので、そう簡単に子供が出来過ぎても困るのだけど。


「まぁ、そうだね。これで、ナディアは私のものだ」

「ふふ。はい。ヴァイオレットさん、大好きです」

「私も、大好きだよ」


 ぎゅーっとさらに抱きしめてくるナディアに、ヴァイオレットは笑って抱きしめかえした。


あと、明日、明後日更新で完結します。

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