NO KILLING NO LIVING
目を閉じる前に最後に見た空は、灰色なのか漆黒なのか判別のつかない暗色だった。
もう俺には、何も手につかない。そう気づいてふらふらと電気のつかないアパートを出て数十分、足がもつれた俺は池袋の路地に向けて倒れ込んでいた。
金も、やる気もなくして、数少ない友人を求めて這い出てきた繁華街でついに歩く力すらなくした。居酒屋でアルバイトをしている友人の元にたどり着きさえすれば、まかないくらいにはありつけるかもしれないと考えていたが、甘くうますぎる考えだったようだ。
……意外と考える余裕はあるものなんだな。
走馬灯、と呼ばれるものが何なのか、これまではわからなかった。しかし俺にとってのそれが瞼の裏になだれ込んできて理解した。
俺にとってのそれは、文字だ。
それに次いで、映像が構築される。
京都の路地を徘徊する様、幼妻が強姦に遭う光景、自分の経験ではないのに、何度も繰り返し経験した人生が目の前に再現される。
それだけだった。
自分で拵えた映像は、ない。
……俺は何も残すことができなかったんだな。
意識が遠のく中、俺の魂と肉体がどのような顛末をたどるのか考えた。魂の行き場なんてものは、想像してもわからない。しかし、俺の肉体は散々な終わりを迎えるだろう。やくざ者に乱暴されるか、カラスに啄ばまれるか、事件性を疑われ解剖されるか。都会の片隅で死ぬとろくなことがなさそうだ。
それに比べて、魂の処遇はまだましなものであろう。そう思うことで、冥土の土産に創作のネタができたような気がして、今際の際まで性分は変わらないのだなと思われて微笑したのか、できていないのか、そしてとうとう思考が止んだ。