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ナツ

作者: あきのりんご

 蝉。うるさい。まだ、夏本番には程遠いのに、身体が外を拒絶している。汗ばむなんて生温い表現は、暑さの前では蒸発する。立っているだけでぬるい空気がまとわりつく。湿気も嫌いだ。

 セミ。この音が体感温度を上げている。うるさいから、暑さが身に染みるのか。暑いから、うるささが際立つのか。どっちでもいい。ひたすらに不快だ。煩い。

 自分がこの時代に生まれたことを後悔する。氷河期にでも生まれればよかった。そうしたら多分、マントルに住みたいとでも言っていただろう。

 誰が酷暑なんて言葉を作ったのか。あまりに的確過ぎて拍手をしたい。ついでにそんな言葉が生まれる運びとなったこの環境にも拍手をしてやる。

 ああ、うるさい。

 いつから蝉は鳴き始めただろうか。四六時中鳴りやまない羽音の、その始まりは思い出せない。

 冬が恋しい。雪国の生まれだということを忘れそうになる。あの頃は、雪のありがたみなんて分かっていなかった。いや、今この状況だからこそ、ありがたみがあるのだろう。

 蝉。うるさい。セミ。煩い。どこに行っても、蝉ばかり。

 短命のくせに。

 うるさい。うるさい。

 もう少しで、死ぬというのに。

 夏が終わらないこの地で、もうすぐ、灼熱の季節がやってくる。

 生きるのには向かない季節の、始まりだ。

 死ぬときくらいは、静寂が欲しかった。

 今の暦の上ならば、そう、桜に見惚れて、散るくらいの儚さがよかった。

 ああ。蝉がうるさい。

 夏が、終わらない。

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