ブノの日記(異世界暮らしの様子)
まるまる異世界にてサブキャラ登場の回。
こういった小道具の中に書いてある描写を、個人的に好みます。
ホイシャルワールド。
そのようにこの世界は呼ばれている。
世界の七割が海で占めており、四つの大陸が『仁』の字のように並んでいる。
その四つの大陸ごとに大きな連合国家が作られており、それらの地を守護神と象徴する魔獣が旗に掲げられている。
しかし、それぞれの大陸で対立。時には戦争がたびたび起こった。
元々、七千前まで四つの大陸を統一した国家が存在したが、今ではほぼその頃の面影はない。
唯一あると言ったら、一年前に実在した“イシャララ”を信仰するテッラ教が今でも世界全域に信者や教会が設置していることだ。
そこだけは何度も戦争をしようが、泥沼の冷戦であろうが、世界で共通している希少な立ち位置だった。
そんな四つの大陸の一つを含むイストール地方のほぼ中央に位置する中心国『マツカイサ帝国』。
連合国家の所属はスワリン連合になる。
ここは、マツカイサ帝国首都“バイチーク”より河を沿って北に数百キロメートルの所に位置する。
広大な草原の中にある木造でそのまま木彫が剥き出しの家があった。
周りには一本その家に行くための道と、他には畑が広がっていた。
作物はほとんど小麦で、他には自給用に種を蒔いたばかりの畑や休耕中の畑があった。
小麦は夏の収穫まで真っ直ぐ成長している。風が吹くと、ざわざわと揺れた。
そんな小麦を育てている農家の家は母屋と倉庫、馬小屋の三棟で、一般的な農家のスタイルだ。
水道は井戸から水を汲み上げればいいが、都市のようなライフラインはない。
夜はランプに火を灯すといった環境で夜を過ごす。
この家に住む農家の男……ブノ=アウフ=フェリヒ。
机に置いたランプの光で、毎日書いてきた日記を読み返していた。
日記No.2
第三番月の二十六日 天候晴れ
いつものように朝起きて、私とフームの食事を作り、家事を行い、部屋を掃除して寝た。夕食時にフームは明日、森に行くと言った。
理由を聞くと、内緒と言って教えてくれなかった。いつも首からかけている金色の首飾りがにやついているフームを映した。
畑の小麦は良好。
第三番月の二十七日 天候晴れ
今日はフームが森に生えていた花を使って髪飾りを作っていた。明日の友達の誕生日贈るものようだ。いつもは気の強い子だが、こんなところが可愛らしい。
畑の小麦は揺れている。
第三番月の二十八日 天候雨
昨日そんな予兆はなかった突然の大雨が小麦と小麦畑の真ん中にポツンと一軒だけある私の家に襲い掛かってきた。
家を吹き飛ばすような暴風で家全体がギシギシ揺れた。
家の中には雨漏りがひどく、家にあるあらゆる器が緊急出場した。
滴が奏でる即席の大演奏が続く中、部屋の隅でつまらなそうにフームは見ていた。
友達の誕生日を祝えなかったので、すねているらしい。
私が励ますと睨みつけて、どこからかフライパンを取出し、私の顔に向かって振り下ろした。
やはり、この年齢でもしっかりとした女性だ。自分に女心はわからない。
顔の鈍痛を感じながら、屋根裏の自分の場所に戻るフームの姿を見た。
小麦の様子が心配。
第三番月二十九日 天候快晴
昨日の雨が嘘のような快晴だった。
起きて、直ぐに畑の小麦の状態を確認した。
幸い全体的に致命傷になるようなダメージは起きておらず、一安心。
朝食を食べた後、私は雨漏りを直そうとはしごを掛け、工具と木材を持ち、屋根へ上った。
屋根の上からみると、この家に続く一本道の所々に大きな水溜りをたくさん見つけた。
昨日の大雨が凄かったということを印象づける。
夕方になって作業が全て終わり、家の中に入って夕食を作っているとバタンと扉を開ける大きな音がした。一日遅れで友達の誕生日祝いを一日かかってきて帰ってきたフームがいた。
急いで帰ってきたようで、靴が泥だらけ、着ていった黄色のワンピースにも泥が跳ねついている。そんな様子だが昨日の表情とはガラリと変わって上機嫌そのものだった。
なぜ、そんなに気分が良いのと聞いた。返ってきたのはいつもの秘密。外に出て足の泥を落ちしに行った。何か怪しい。
小麦の生命力は凄いな。
第三番月三十日 天候晴れ
昨日の疑問が分かった。ふと、フームが一人で嬉しそうに馬小屋の中に入っていくのが見えたからだ。
隙間から中を覗き見ると、少し大きい木箱に毛布をかけている。
そこからむ~と鳴き声を出して顔をひょっこり出した。その可愛いメリロイドラゴン(イストール地方の守り神と比喩されるほど有名な竜。連合の旗にも描かれている。)の赤ちゃんをフームはよしよしと撫でていた。私は迷わず開け、一人と一匹の前に立った。
事情を聞くと、友達の家から帰る途中にふと森に寄ったら、倒れた木の下敷きになっていた所を助けたらしい。で、バイバイとさよならを言ったのだが家まで付いてきてしまい、よく見ると翼が少しけがをしていたため、私の目を盗んでここで匿っていたらしい。
飼っていい?とフームは聞いてきた。今思えば、約一年半一緒に住んできて初めての私へのフームのおねだりだった。
だが、私はそれを最初、良しとしなかった。
メリロイは成長し、大人になると家の一回りぐらい大きくなるし、何より餌代が半端無い。
今の経済状況では不可能に近い。
しかも、人慣れしていないものが多く人に危害を加える恐れもある。
使い魔として手なずけるならば、王族や一級の魔術師の一部ぐらいしか出来ないほどだ。
何より、成長してからのフームの身が心配だ。
「成長しても、ムフーはムフーのままだよ!!」
私の話が終わると、フームはそんなことを言ってきた。ってメリロイにもう名前付けているし。
「お願い。」
フームの愛くるしい目で頼んでくるのがとても辛い。
「お願い。」「むー。」
ム……メリロイの愛くるしい目も増えた。
「お願いします。」「むーむー。」
ああ。くそう。可愛い過ぎる。
小麦の様子?しるか!!
第三番月三十一日 天候曇り後晴れ
今日は午前から村へ出かけた。私はカウボーイハットを被り、馬のショウフウに跨り、背中にフームと新しい家族ムフーを乗せて村一番の魔術師の教師さんに向かった。
村の中心にある教会まで数十分ほどで着く。
私の体はその間、これからの支出を考えると重かった。
教会に着き、ショウフウを縄で柵に動き回らないよう結んだ。
そして、教師さんに事のあらましを言ったところ、大声で笑われた。
まとめると、確かにメリロイは成体になると大きくなるが、割と習得しやすい魔術でこの可愛い姿の形に自由に変えれること。
こんなに人に慣れているメリロイを見たことがない。絶対大丈夫のことだった。
話を聞いている最中、フームの視線が痛かった。
やはり常用魔法五つしか使えない俺が魔術の事をいうのは控えておこう。
ともあれ、問題を解決したのは喜ばしい。
フームは直ぐメリロイの姿を変える魔術を習得した。
そして第四番月からの生活が楽しみだ。
小麦は快調
第四番月一日 天候晴れ
ブノが見返した日記は今日の日付で終わっていた。
一年半間続けている日課を前に、考え事をしていたのだ。
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