死神の素顔
死神の日常は、この握っている杖を使い、この白くて果てしなく広がるこの“冥界”に流れてくる人の記憶の収集にある。それは「人魂」と呼び、結晶のように固まり、光っている。
死神は、ただひたすら人魂狩りを続けていた。砕き、そして貯めていた。
ごく稀に、人間の形をした人魂が紛れこんで来るときもある。
関係ない。機械的に単純作業を行っていた。
神と言っても、凄い奇跡や魔法や神秘がある訳ではなかった。
今回も、一つの行動を終えたに過ぎない。
この行動の意味を考えていたこともあったが、昔に止めた。
「死神の素顔はそういうものか」
魂を採った筈の男は、横で背中に吊していた真っ直ぐな日本刀の抜き身を光らせている。
男は、明らかに今さっきとは違う顔をしていた。
そのまま刀で杖ごと押し返された。
顎が引いていて目も真っ直ぐ睨み付け、オーラが全身に広がっているようだった。
死神は、初めて見る顔だった。
割れた顔だけをそいつに向けた死神は少し固まった。
無論こいつ誰だとか、肉体のある人間がなぜここにいるとかは考えておらず、魂を採るかその存在を消す。単純な、いつも通りのことしか考えていない。
動きの速い人魂と対峙する時のように、杖を構えた。
その様子を見ていた男は刀身を後ろに引き、居合いの構えをとった。
彼にとって死神は実際どのような存在か知らないが、今剣を交えたことでマズイことは分かった。
目の前に迫っている死神に意識を集中させ、一撃で制圧できるその時を静かに待った。
周りの時間が流れがゆっくりになっているのを感じた。
一説には脳の伝達、情報解析度の早さが早くなり(要は頭の回転が速くなると)、目の前の光景がスローになっているように見える。実際、車にはねられた時もこんな感覚らしい。
そのようなかいい加減な邪念を思い浮かばせながら、対象が自分の間合いに入った。
「さて。どうしようか。」
刀を鞘に収め、横たわっている黒い体に歩いて近づいた。
刀の使い方は、死ぬ前から元々知っていた。
しかし、死神の肉体は硬かった。仮面しか割れた手応えがない。
「そもそも死神なんて倒した人なんているの?」
配管工事が簡単にできるような指先が細い無地の手袋を両側ポケットに押し込み、死神の顔を見た。
顔の周りには骸骨の面が大きく四つに割れて転がっていた。
「まさか……えっ……何で?」
それと同時に体全体を覆っていたフード付きの黒いマントが何処かに消える。
地面いっぱいに広がった長い栗色の髪の毛を持ち、左腕全体に黒い布を巻きつけ、指が出ている手袋を着けたゴスロリ衣装の少女が眠っていた。
「人タイプだったのか? 死神というより、それは……」
白い世界の中、自分と同じ周りから見ると、明らかに浮いているか弱い存在を見た。
「とても可愛い」
そして、どこか久しぶりに見た顔の気がした。
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