ノシン村の教会(なぜあんな神を信仰するのか)
バルジャック王国の手がかりは掴めるか!
翌日、疲労がかなり取れたのでブノが毎朝する仕事を手伝った。
内容は薪を割ったり、馬に餌の干し草をあげたりと俺の農家がするイメージそのものの仕事をした。
朝食を食べた後、馬の引く馬車にフームとムフー隣同士で乗り込んだ。
馬車の車輪が重さでかなり歪んでいたのは気にしないようにしよう。
ブノが手綱を引き、前に進み始める。
パカパカと蹄を鳴らしながら地平線まで続く草原を行く。
道中、ふと昨日のブノの顔が気になり、後ろ姿をちらりと見た。
相変わらず、細い目で遠くにある村のやぐらを見ているだけだった。何を考えているか分からない。
フームはムフーと何か話している。この子竜と話出来るのか?
「フーム。ちょっと良い?」
「何?ミフ。」
大きくてぱっちりした瞳で見つめてくる。同級の友人が次々親バカになっていることが理解できる。
そんなことより、
「フーム。ムフーやブノの事好きか?」
「うん好きだよ」
幼児特有の元気の良い返事をした。この子にとって当たり前のことである。
「どんなところが?」
「うーん。そりゃ、いつもはグータラだけどいざと言うとき助けてくれて。一年半前とか……。」
「フーム!」
フームはぺらぺらと話を続けている所、ブノの大きな声が遮った。今まであまり聞いたことのない強い声で、フームも体がぴくっと震えた。
それは今までとギャップが大きかった。
「あっ……。ごめん強く言いすぎた。」
本人もそれを理解しているようだ。村に着くまで馬車の中の空気は冷たくなった。
ノシン村 教会
人口二百人ぐらいの小さな村“ノシン村”
東に大きな河が流れ、マツカイサ帝国首都のバイチークに流れる。村の多くが畑でその中心。
河の船着き場のやや西側にある丘に、教会があった。
ブノは白くて綺麗な教会の前に馬車を止め、縄をしっかり柵へ繋ぎ止めた。
その間にフームに手を引っ張られ、教会の中へと入っていく。
「へい。いらっしゃい。」
扉を開くと、酒瓶を片手にした内装BARの教会で、愛想良くマスターもとい教師さんが出迎えてくれた。
バタン
私は静かに扉を締めた。その後、もう一度開く。
「へい。ら……。」
バタン
というか何? あれふざけているの。
これだけ外見良いのに、神聖な場所でBARは無いだろう!!
確かにあのいかれた野郎を讃えるところだから、まともではない思っていたけれども。
悪人が懺悔しようとしても、酒がいっぱいあれば火に油を注ぐ効果じゃん。
本当に、一万年間これが続いているなら、この世界の神様ってただのおっさんじゃん。
待て。もしかして、俺の聖職者、聖地や聖域の先入観にとらわれすぎているのか?
「ミフ。何をブツブツ言っているの? 早く早く」
中から小さな手で引っ張られ、後ろからは馬を停めてきたブノに押され、しぶしぶ中に入る。
「この地を愛し、大切なものの命を愛して気楽に生きなさい。それがイシャララ様の信念です」
十五分間にまとめられた人々の信仰の的について聞かされた。
あまりにつまらなく、あくびがたくさん出た。
そして、その人物のいかにも中二臭い攻撃で敗れた俺が恥ずかしい。
正確には、あの真っ白な世界から追放されただけだ。
それをよそに、教師さんは両腕を上げ呪文を唱えた。
すると、BARの背景が消え、ごく普通の長イスが並ぶ教会の形になった。
そういえば、この世界は魔法が使えるのだった。
「さて。どうかしましたか?」
教師さんはそう俺に聞いてきた。やっと本題に入れる。
「バルジャック王国とはどこにあるか、ご存じですか?」
「忌むべき国の名前です。テッラ教の総本山パーチティでは、名前を忌避されるほど」
「…………」
「よろしければ、なぜその国に固執されるのか」
正直に、今まで起きたことを話をすることにした。
「そうですか。そういう不思議なことがあったのですか。」
「ミフ!!そんなに凄いことをしていたの!!」
「ムゥゥゥゥゥゥ。」
「…………」
イシャララと戦ったという事実を初めて人に話すと、色んな反応がきた。
子供でもこの驚きよう。
やはり、この世界でイシャララの影響は大きいようだ。
しかも、魔法とかカルト系が実在している世界では。
すくっと立ち、固まっている子供達の前を通り過ぎ、教師様は奥にある家へ入っていった。
「おい」
ブノは強い口調で話しかけてきた。
「本当に会ったのか。」
細かった目が険しくなり、体も全身に力が入り、拳も強く握る。
理由はわからないが、ブノの強い怒りを感じた。
さっきまで大草原の小さな家で、のんびり家族と一緒に小麦を育てていた人間と同じに見えない。
「ああ。釘みたいなものを体中に浴びせられて、そのまま、その世界の地面に沈んでいった。完敗だ」
ブノの意識に負けないよう、こちらも真っ直ぐブノを見た。
ちらりとフームとムフーがまだ固まっていることを確認してから続ける。
「生贄としてその白い世界に流されてきた女に、漂っている人魂を体が崩壊するほど食わせる。そしてその様子を楽しむ性癖を持ったクソ野郎だった」
「…………」
「俺の会ったヤツはそうだった。悔しい。戦争で愛する人を目の前で亡くし、目の前の人を満足に助けることができない。一度は後悔をしないと誓ったのに、情けない奴だ。俺は!!」
全て事実だ。
絵空事や言葉がおかしいと思われても、
ずっと奥に仕舞い込んでいた想いが弾け飛ばした感じだ。
目の前にいるのは命の恩人に間違いないが、こんな話とは無縁の赤の他人でも言える。
しかし、今は何かものを共有できる一人の男として腹を割った魂のぶつけ合いをしている。
いや。一人で喚いているだけか。
「そういうお前は、イシャララに何かあるのか?」
自分勝手に言い切った。相手はどう来る。
二人とも目を合わせて、睨み合っている。そんな沈黙を数秒続けた。
「なんでもない。ミフが勇敢に戦った戦士なら、こっちは口だけで何も出来ない。弱い者を潰す卑怯者で間抜けな臆病者だ」
「!」
俺の喉が詰まった。体に言葉の槍が突き刺さる。
「どういう事だ」
「はいはい。喧嘩は終わりにしてください」
二人の前には、奥の部屋から古びた厚い本と地図らしい丸まった紙を持ってきた教師さんの姿があった。
ふと視線をずらすと、横にはまだ口を開けて、固まったままのフームが居た。
そこの空間の時計が止まっているようで、まぶたを閉じず、ずっと意志のない目がこっちを向いてくる。
「まだ、真実をフームに言う覚悟がないのだろう。しっかりフームの事を見ないといけんぞ。」
「……」
「あまり、私の力であの子をあの状態にし続けるのは辛いから。ほんとに、魔法の態勢が化物級に強いな。魔法が通じるのは私のような稀な天才しかできない」
そうブノに言いながら、二人の真ん中をずかずかと割って通り、後ろにある大きな広い机に紙を広げる。かなり誇りが被っていたようで、砂や塵が舞った。
「もしかして、この話はフームと関係あるのか?」
教師の魔法でフームの意識を奪っている。ブノは俺の言葉に沈黙した。
「ゴホン。手短に要所だけ言う」
ミフ、ブノが机の上の地図に注目することを確認すると、教師は話を続ける。
「これは今から二百年前のイストール地方の地図だ。ここがマツカイサ帝国で首都バイチーク。ここら辺が今居るノシン村。」
大陸の南の海に注ぐ大河のほとりに、二つとも位置していた。他によく見ると、大きな河のほとりには他にもノシン村のように集落が点在していた。
「そして、ずーっと大陸を東に移動したこの細長い島」
大陸の東側に平行したような形をした細長い陸地を指している。まるでユーラシア大陸に沿って位置する日本列島のような地形だ。
「この地がバルジャック王国だ。」
大陸とその島国の面積の比はあまりにも大きい。これがマロンの住んでいたところか。と素直に思った。
「で、今ここに国や人は存在するのですか?」
「いや。いない。百年前忽然と国と人間が全て消えた」
ミフの質問をばっさり切り捨てた教師は、持ってきた一冊の本をめくり始めた。
話は続く。
「かなり昔の話をするが、七千年前にこの世界が四つに分かれたのは知っているか?」
「昨日、ブノに大まかに聞きましたが、あまり……。」
ミフはホイシャルワールドのことをよく知らない。まだここに来てたった数日だ。
「この世界状況の発端の基礎部分だ。それ以前は、イシャララ様を象徴として世界がまとまっていた。」
あいつか……。とミフの心の中で複雑な気持ちが混ざり合う。
「分裂の原因は不作、異常気象、治安の悪化、行政の腐敗など諸説あると言われるが、とても人々が恐れる理由が一つあった。それが百年前まで続く」
開いたページを机の中心に置く。見出しにその名前が大きく書かれており、絵や小さい字でその現象について詳しく事例などが説明されている。
その言葉をミフは音読する。
「大量の神隠し……」
「そうだ。年間人口の一割程度の人が、老若男女問わず、行方不明になっていたんだ」
頭がついていかず、絶句しているミフが口を開けているに対し、ブノは話が再会して終わるまで一言も口を開かなかった。
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