異世界の常識(お約束)
主人公はとうとう異世界にやってきた!
「うー。ゴホゴホ!」
数十分後、咳き込みながらミフは起きた。
今さっき、強い衝撃が鳩尾に喰らってそのまま気を失ってしまった。
あの衝撃は何だったのだろうか。
ミフは横にあるベットにもたれ掛かりながら、上半身を起こした。
まだ痛みが全身に突き刺さるが、強引に振り払い、部屋の中を見渡した。
「うーん……ブノ?あっ!!」
ふと、イスで寝ていた少女が膝掛けを取り、こちらの胸の近くまで、顔を近づけてきた。
小さな手が俺の額に手を付けて、自分の体温と比べた。
「よし。大丈夫。ブノ!ブノ!起き上がったよ!」
少女は誰かを呼ぶ。胸元にある首飾りが窓からの光でまぶしく反射する。
バタン
「目が覚めましたか。」
男の声がした。この部屋の扉をあけ、陰からその声の主が現れた。
「遅いですよ。ブノ!」
少女のお説教に「はいはい。すみません。」と軽く反応を返し、そこにあったイスに座る。
目が合う。この男は、優しい目だ。
見た目はやせ気味だが、服の中にはしっかり引き締まった身体で鍛えられている。
武術か、何か心得はあるに違いない。
それに何を言っているのか、言葉の内容が認識できる。日本語や英語でもない。ということもだ。
俺は、肉体をほぼ据え置きな形で、異世界へ転移したようだ。
言葉の認識能力は、チート能力で上書きされている。特に変なところは無いから、大丈夫そうだ。
「あなたはどこから来たのですか」
「俺は……」
さて、どうしたものか。見た目通りならばこの男は善人であり、介抱してくれた恩人であるが。
ミフが答えに迷っている最中、グーと腹が鳴った。
「ごはんにしよう」
少女は言った。
隣にいた赤くて可愛いペットも、起き上がりそれにのった。
「おじさん。ニッポンと言う国のトーキョーという街から来たの!」
興味津々で少女もとい、フームが俺の顔に近づけてくる。かなり近い……。
パンにトウモロコシやトマト、レタスにチーズを挟んでいるサンドウィッチに、鋼鉄製の鍋で作った豆がごろごろ入ったスープをごちそうになった。
美味な家庭料理だった。
食後、一段落したところでこの少女の質問攻めに合っている。
「そうですか。ようこそマツカイサ帝国ノシン村へ。」
「ようこそ。首都から北に数百キロメートル離れているド田舎へ。おじさん。」
少女のボケに、ブノと呼ばれた男が後にツッコミを入れた。
ブノは俺より身長が少し高いぐらいの百八十センチメートル行くぐらい。
生活環境が、西部開拓時代や産業革命以前のヨーロッパにありそうな感じだが、パワフルでタフガイな農夫のイメージでなく、目が細くて、ヒョロッとした気が弱そうな感じだった。
一方、半袖、首飾りをかけて、サスペンダーを付けた半ズボンの少女は三歳ぐらいの子だが、活発で気が強く、かつ好奇心旺盛だ。
今さっきから俺の体を引っ張ったり、つねったり、嗅いだりしている。ブノが体を抱えて離すまで止めなかった。
後、馬やドラゴン(!)がいたりと楽しく農業生活をしていることを聞いた。
俺の話は取りあえず、変な世界で変態な神と戦っていたという事実は信じてもらえそうに無いので、それ以前のトーキョーでの体験を大まかに話した。
これの話を二人+一匹は頷いて聞いてくれた。
「だったら、そのトーキョーに戻る方法が分からないの?おじさん。」
「ああ。そうなんだ。後、おじさんの名前ミフね。お嬢ちゃん。」
「だったら、私はフームと呼んで。この赤いメリロイの赤ちゃんはムフー。」「ムー!」
微笑ましい光景だ。幸せだな。この家は。
ブノは、俺の話を聞き終わった後、食べた食器の後片付けをしていた。
その後ろでブノは食器に手をかざし、宙に浮かばせながら、流し場へ移動させた。ん?
それをちらりと見て、視線を戻し……。
「えええええ!!マホー!?」
驚き、立ち上がった反動で四つ足のイスが後ろにバタンと倒れる。
二人+一匹が何が起きたか分からない。という顔をしていた。
「どうしたのおじさん! ブノ。何かした?」
「いいや。ただ、食器を流し場に置いただけだけど。」
二人は顔を合わせた。ミフは我に返り、混乱した頭を整理した。
「すみません。その……皿の移動はサプライズですか?いや。この世界にまだ慣れていないと申しますか……。そんなあまりにも突然だったので。そのような風習があるのですか?」
危ない。優しかったミフがブノご如きに腰が引けているよ……。
そんなフームの小さな独り言が微かに聞こえた。
自分でもやたら臆病になっているのを感じる。
「こら。悪いことしたでしょ。お客さんに失礼です。」
フームはブノを睨んだ。ムフーもフームの右に同じ。
「いやいや。常用魔法でも一番簡単な、浮遊使っただけだよ。まさか、こんな簡単なので驚くわけ……」
「そのまさかです。」
さらりと断言した。情けないが。
そして、今ここにいる人全員が世界が違うんだなあと実感した。
というか、異世界もののお約束に早々から驚いてどうする。
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