戦争の記憶・寝起きの襲撃
あらすじで軽くネタバレしていますが、主人公ミフの回想になります。
ここはどこだ。
ミフは、この自分の周りの光景に絶句する。
かつて見た惨劇とそっくりそのままだったからだ。
突然、荒れた地に俺はいた。地面は、土埃が舞い、割れたり、地下のトンネルが見える穴があったりする。高層ビルは傾き、窓ガラスはが全て割れているような閑散とした崩壊した元都市に自分はいる。
あたりは火薬や硝煙、血液や腐敗し始めている死体の臭いがすごい、少し歩いただけでごろごろと転がっていた。銃弾に当たり目を開けたまま倒れているもの、落ちてきたコンクリート片が頭に当たり顔が潰れているものと数えだしたらキリがない。
ふと前に注意を向けると、道の真ん中に大きな穴が出来ていた。近寄ってみると、時限爆弾が地下に幾つも設置されていたようだ。爆発した後は底が約六十メートル以上と、一番深い地下鉄のトンネルが見えそうな暗闇が続く深さだった。
いつものように人がここを歩いているのを知っている俺の記憶の首都と、あまりにこの光景とはかけ離れていた。突然、この何もかも失った喪失感が半端無い。
冗談で笑えない。この状況に動揺を隠せなかった。
俺は以前、実際にここにいた。次々と鮮明に記憶が蘇ってくる。
後ろを振り向いた。
足下から十メートル先までこすれたような血痕が続いていたことに最初に気づく。
その血痕はグタッとして、男性の腕の中にいる女性と声を掛け続ける男性がいた。
ずっと声をかけ、揺すり続けているが、女性の反応はない。
俺は正面へと回り込む。自分が目の前にいるのに、二人に俺の存在は認識できていないようだ。
女性はあちこちからの出血場所に、腕を縛られていたりと、様々な止血処置が施されている。
目をつむったまま男性の体を揺らすことについての反応はなく、ただの人形のように固まっている。
永遠に動かない女性の左手の薬指が孤独に光っている。
やがて男はその行動を止め、愛する女性を抱えたまま、男は空高く叫び続けた。
殺伐とした冷たい戦場に悲しみの雄叫びが響き渡る。ミフはその男を取り巻く時間がスローモーションにみえた。
その男の叫ぶ先に赤く燃える大空を支配する大きく、不気味な浮遊要塞を見た。
今でも昨日のように感じる俺の姿が目の前にあった。
まぶしい光を感じる。
光の中から、ぼんやりとした像が段々はっきりと見えてきた。
最初に視界へ入ってきたのは、木の板の天井だ。
目を左右に動かし、自分が部屋の床で寝かされていることを確認した。
皮膚の感覚から、服はあのきつい戦闘服でなく、白い肌触りの良いTシャツに着替えさせられている。
それにしても、心臓に悪い夢だ。あの時の後悔を臨床感たっぷりに思い出させる。
呼吸も苦しい。
頭の中で自分の夢の感想をまとめつつ、数分間黙って過ごした後、この部屋の空間を把握し始めた。
初めにミフは上半身を起こそうと、腹に力を込める。
しかし、体が異常に今まで感じたことがないような重さが体を支配する。
体を起こすことを断念し、木の天井を見ながらここまでの経緯を整理する。
意識がなくなる前、何があったか?――何か釘みたいなものを何百本も体に撃ち込められ、白い地面に沈んだ。
誰にやられたか?――とんでもない性癖をばらした白い礼服着たイシャララとかいう神野郎に。
どこで戦っていたのか?――世界全体が“白”でしかなく、息切れも空腹も感じない。よく分からない世界。
なぜ、そいつと戦っていたのか?
「……」
その素直な答えを出すところで、ふと立ち止まった。
女の子は怯えていた。
声に出せない助けを求めている人を目の前で目撃して、気にしないほど性格はできていない。
それが出せるとしても、出す相手が一年間もいないと知ったならば、無視なんて出来るはずがない。
ただ、その行動の反省から出る照れよりも、立ち止まった大きな理由があった。
俺が死神の面を両断したとき、現れた顔が、その眠っている顔が……。
悪夢が繰り返されているような動悸が、再びミフを襲った。
全然動かない右腕を胸の上へ引きずり上げ、力が入りにくい右手でシャツを握った。
左右へ体もろくに揺らせず、仰向けの状態で必死に苦しさを耐える。
苦しみも段々遠のき、ぼんやりと黒いもので視野が浸食されていく。意識がなくなるのを感じた。
「おーい。ブノ!!床で眠るとか行儀が悪い!!」
就寝用のワンピース型の服と、首から金色の首飾りをぶら下げている寝癖が直っていない少女は、床で胸を掴みながら寝転がっている男に向かって、ヒップドロップ。
男は腹部を支店にVの字体が折れ曲がったと思うと、そのまま気絶してしまった。
少女は男の体にまたがってガッツポーズ。
後から屋根裏部屋から降りてきた家族のドラゴンの赤ちゃんに向かっても、ガッツポーズ。
「ムー!!ムー!!」
ムフーのおー!!と言う歓声でこの家の主。ブノ=アウフ=フェリは起き上がる。
イスで体をひと延びさせて、我が義娘フームと、最近家族になったムフーが目に入り、
「おはよう。」
ただ、それだけ言う。毎日の日課だ。
「え!何でブノ。イスで寝ているの!」
二人が狐に摘まれたような顔で見てきた。
「何でとか……。昨日の夜降ってきた男の人を床で眠らせて、見張りを……あっ!!」
夜に担いで目の前の床に眠らせた男が、我が義娘の襲撃により白目開けて気絶している。
「おい!しっかり!」
ブノは空からの訪問者の体を揺らしながら、声を掛ける。
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