96・妖精国に到着しました
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「……逃がしたのは、痛かったな……」
「気配からしても~、本当にこの辺りから居なくなったみたいだけど~、アレも魔法なのかなぁ~?だとしたら~、魔法って凄いんだねぇ~」
「……まぁ、逃がしはしたが、それでもあの国の動向は把握出来たのだから良しとしておこう。それに、あいつの言っていた感じだと多分あの国はまだ動かないだろうから、さっさと俺達の相棒を直せそうな鍛冶屋を探すのが、案外と一番堅実かつ近道って事になりかねないからな。あんまり悔やんでも仕方ないさ」
あのケンドリックとか言う輩を取り逃してしまった俺達は、残された兵士共をその場で縛り上げ、簡単な拷も……『お話』を慣行し、彼らから『自主的に』協力してもらって色々と情報を得た後に、本来であれば所属している冒険者を保護するべき立場に在りながら、それを害しようとしていたあのクソ共に場所を提供してくれていたこの国のギルド職員へと詰め寄り、こちらにも『お話』をしてもらう事にした。
その結果、どうやらこのギルドの副支部長があいつらと繋がっていたらしく、そこからの指令で今回こうしてここで待ち伏せていたのだとか。
ちなみに、俺達が今日このタイミングでこのギルドに来るのかを知っていた理由だが、どうやらあいつらの配下が魔王国のギルドにも潜伏しているらしく、俺達が出した移動申請(長期間拠点を離れる場合に出す事が義務付けられている)と大まかな移動速度から、大体今日辺りにココに来るだろう、と当たりをつけて行動していた、と言う事であるらしい。
この情報に関しては、俺達が直々に『お話』した連中が歌ってくれたモノの中から精査した結果なので、多分ガセの類いでは無いのだろうけど、だとしたら結構面倒臭い相手である可能性が高い為に、あの場で首を落とせなかった事を少々悔やまれる。
一応、今回得られた情報は、アストさん経由で魔王の方にも伝えてある(アストさんは通信系の魔道具を持っている)し、ギルドの方にも、俺達で家さが……ゲフンゲフン。……残党の探索を行っていた際に発見し、救助したこの支部の支部長経由で全体的に『虫』の洗いだしを約束してくれているので、多分今後はこう言う事は起きなくなる、又は起きにくくなるんじゃないかと思われる。
『ふむ、そんな輩が出おったか……。妾達も共に居れば、其奴らを取り逃がす事も無かったかも知れぬのぅ……』
『……!……!!』
「グゥウウウウ!ウォン!!」
内部での事を外で待機していたリンドヴルム達にも説明してみたのだが、どうやら何かしらの魔法か、もしくは魔道具の類いでも使われていたらしく、他の二頭よりも感覚の鋭いリルでさえ『中で何か起きていた』と言う事実を把握出来ていなかった為、最初は落ち込んでいたりしたのだが、最終的には『見付け次第確殺する』と言う方向で意思を固めたらしく、三頭共に気合いを入れていた。
その様は大変可愛らしく、目の保養になりました。ありがとうございます。
そんな感じで再発防止と現段階で確認された膿の絞り出しを実行、又は計画しつつ、今回あの国に与していたギルド職員とあの時に襲い掛かってきた兵士共を、乾達が見ていない処でサクッと『処分』してから、妖精国についてのアレやコレの情報を仕入れ(ギルドからは『迷惑を掛けたお詫びに』と無料で渡そうとして来たが、俺達が拒否して確りと情報量を支払った。無料の情報程怖いモノは無いからね)たり、ここに来るまでに達成していた依頼等を換金し新しい依頼を幾つか受け、市場にて食料品やら消耗品の類いをそれぞれ補給した俺達は、些か足早ながらもこの国を通り抜けて一路妖精国を目指して進んで行く。
「……主様、あの国にて起こった事は承知しておりますが、やはりあのまま何日か滞在し、旅の疲れを癒すべきだったのでは無いでしょうか?」
半ば無理矢理に強行軍にて通り抜けて来た為に、朝に入ったあの国からは、こうして深夜まで掛かったものの、無事に通り抜ける事に成功していた。
しかし、元より冒険者としても、家の事情からもこの手の強行軍にある程度耐性のあったサーラさん達ですら疲れきってしまう行程に、様々な体験をしているとは言え、元々ただの女子高校生であった乾達、特に体力の少なかった桜木さんがダウンしてしまった事により、こうして急拵えの夜営地にて、交代で火の番兼周辺の見張りを交代で行っているのであった。
「……この馬尻に同意するのはちょっと癪だけど、確かに少し急ぎすぎじゃない?もう少しゆっくりしても良かったんじゃないの?少なくとも、今まではそうだったと思うけど?」
そして、周辺の警戒をリルに任せ、興した焚き火の番を俺と乾もサーラさんで行っていたのだが、どうやら俺達三人が提案し、半ば強制的に行わせた今回の強行軍がお気に召してはいないらしく、普段からはあまり俺に対して敵意の類いを向けてこない二人が、珍しく棘のある言葉を俺へと向けて来る。
……まぁ、確かに、しばらく野宿が続いていた後、やっと宿に泊まって一息付ける、と思った矢先に日程を大幅に繰り上げられ、無理やり国を横断させられる羽目になり、仲間には倒れる者まで出てしまっては、そう言いたくもなるってモノか、ね……。
「……でも、拉致られたり、寝込みを襲われてのアレコレをされたりだとかをするよりも、まだ『死にかける』だとか『辛くて倒れる』だとかの方がマシじゃあないのか?」
「「……え?」」
……あ、やべ。
思わず言うつもりの無かった事が、ポロリと口から溢れてしまった上に、二人には確りと聞こえてしまっていたらしく、バッチリ反応されてしまっている。
おまけに、二人としては是が非でも何故にそうなるのか、を聞き出すつもりらしく、表情を引き締めたまま俺から視線を外そうとしない。
話すつもりの無かった情報であっただけに、そのまま素直にゲロるのもどうかと思われた為に、わざと焚き火に薪をくべてみたり、火掻き棒として用意しておいた長目の枝にて薪の位置を整えるふりをして、必要も無いのに焚き火を掻き回してみたりしてみたが、それを察しているハズの二人も視線をずらそうとして来ない為に、諦めてため息を一つ突いてから、ガシガシと頭を掻き回しながら二人へと視線を向ける。
「……これは、アストさんから聞いた話と、あの場で得られた情報を解析した結果としての話なんだが、俺達があの国に残っていた場合、高い確率で俺達が無防備になった瞬間に襲撃され、女性陣全員、ないし一人以上を人質として取られた上に、向こうがペナルティだとか言い出してその人質として取られた誰かにアレやらコレやらやられる事になりかねない、と判断する事が出来たんだ。
それで、そう判断したからこそ、俺達ですら『キツい』からあまりしたくない強行軍をしてまで、急いであそこを離れた訳なんだが、これ以上の説明がいるか?」
そう、少なくとも馬車に揺られている間だとか、休憩としてリルに馬車を牽くのを交代してもらっていた二人に対し、文字の通りに『一切』の休息を取らずに周囲の警戒をしていた俺が、少なくない非難の色を込めた視線を向けると、その表情等から俺の疲弊具合を察したのか、僅かに顔を俯ける二人。
「……でも、そうなると決まっていた訳じゃあ……」
「……あのケンドリックとか言う奴が使っていた魔法。あれって『空間転移魔法』らしくてさ?アストさんが言うには、あいつが最後に逃げる時に使った様に、長距離を飛ぶ場合は予め出口側に魔方陣を設置しておく必要があるみたいなんだけど、短距離の場合はそうでも無いらしいんだ。
……だから、俺達が泊まる宿屋の外から転移して侵入し、女性部屋に入り込んで好き勝手に陵辱の限りを尽くす、ってことも、やろうと思えば出来てしまうハズだったんだけど、可能性としてそうなるかも知れない危険地帯だったのに、それでもあそこに泊まっていたかった?」
「……でしたら、某達がこうして移動する事にも、あまり意味がないのではないですか?あやつには、距離は関係無いのでしょう?」
「……言っただろう?『長距離を飛ぶ際には魔方陣が必要になる』って。あの国にあいつがどのくらい居たのかは分からないけど、それでもその気になれば、俺達が泊まる可能性の在った宿屋全てに魔方陣を仕込んでおく事は不可能じゃあ無かった。
だけど、妖精国に関しては、あいつが向かった記録は無かったみたいだし、妖精国はあいつの国と素晴らしく仲が悪いらしいから、基本あの国の出身の『人族』は出入り禁止らしいからね。だったら、多少キツくても、何時襲われるか分からない危険地帯より、ほぼ強襲される恐れの無い安全地帯で休む方が良いだろう?違うかい?」
「だっ、だったら、説明の一つでも……」
「……出来る状況だったと思うかい?可能性としてであれ、何時暗殺者街飛んでくるかも分からない様な場所で、そんな悠長な事が?」
「「……アッハイ……」」
思わず混ぜてしまった、普段俺からはあまり向けられる事の無い言葉の棘に若干のたじろぎを見せた二人は、結局の処として納得したのかしていないのかは定かではないが、それでも彼女らに上方を渡した事により、女性陣全体に行き渡りはするハズなので無駄ではなかったと思っても良いだろう。
そして、その夜は、その後は特に険悪な雰囲気になることも無く、時折乾が俺の匂いを嗅ぎに来たり、サーラさんが『暇だから』と鞭やら縄やらを持ってにじり寄って来たりしたが、周囲の警戒に行っていたリルが帰って来た事によりそれらも終息し、交代の時間が来た為に短いながらも乾とサーラさんを就寝させる事となったが、結局襲撃される事は無かったのであった。
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夜が明けた次の日、やはりと言うかなんと言うかはさておくとしても、当然の様に女性陣の疲労は抜けていなかった様子で、強行軍を慣行した俺達に対して怨めしい視線を向けて来る者もチラホラと見受けられた。
だが、そう言う面子に対しては、俺が直接的に状況を説明していた乾やサーラさん、そして、俺と同じく情報を解析した結果として『あのままでいたらどうなっていたのか』を予測出来てしまっていたアストさんが説明して回ってくれたお陰か、もしくは俺達が一睡もせずに交代して見張りをやっていた事実に気が付いたからかは不明だが、徐々に視線に含まれたネガティブな感情は薄れて行き、朝食の段階に至ってはほぼ消滅してくれていた。
正直、無茶をさせている事は事実だし、ただの取り越し苦労である可能性も否定出来ない以上は恨まれる事も覚悟していただけに、こうして収まってくれた事は有難い限りである。
俺達だって、出来る限りギスギスはさせたくないからね。
そんな感じで基本的に昼も夜も無く移動を優先し、基本的に俺達三人と従魔の三頭、それにプラスしてアストさんとネフリアさんとで交代しながら妖精国を目指して進んで行く。
そのお陰か、もしくは最初から追撃してくるつもりが無かったのかは分からないが、結局の処としてはあのケンドリックとか言う奴からの襲撃は起こらないままに、どうにか妖精国へと到着する。
「よし、そこで止まれ!お前達はヴァイツァーシュバイン王国の出身……では無さそうだな、うん。『魔族』に『獣人族』にあと……まぁ、良く分からんが、とにかく他の種族の者とそこまで自然に隣り合えると言う事は、あの国の出身の者では有り得んからな。君達ならば、問題は無いだろう。そこの受付で手続きを済ませてから入国してくれ。
……あと、これは余計なお節介かも知れないが、何だか全体的に顔色が悪くないか?君達大丈夫かい?」
門のところでエルフと思わしき長耳の門番さんに呼び止められるも、案外とあっさり通行を許可されてしまう。
更に、それだけでなく、俺達の顔色が悪そうだと、まさかの心配までしてくれたのだ。
……もしかして、この国の国民性って奴なのか?それとも、このエルフさんが優しいだけか?
そんな事を、あの国を出てからこれまで一睡もしていない頭でボンヤリ考えていると、どうやら俺達三人の顔色が一等悪い、との事から、本当に大丈夫なのか?と追加で声を掛けられる。
「……あ、あぁ、大丈夫だ」
「……少し、寝ていないだけだ……」
「まぁ~、疲れている事に変わりは無いから~、お兄さんオススメの宿とか有ったら紹介してくれると助かるかなぁ~?僕達今回が初めてだから~、この辺りの地理とかにあんまり詳しく無いんだよねぇ~」
「あぁ、そう言う事ならーーー」
そんなやり取りを挟んだ後、門のところの受付にてギルドカードによる身分の証明と、あのヴァイツァーシュバイン王国とか言う国との関係を聞かれたが、俺達の方としては全会一致で
『即座に滅ぶべき害悪の極致』
だと返答した為に、受付の人(小さくて髭もじゃだったから、多分ドワーフ)も若干引いた様子ではあったが、それでも入国を歓迎してくれたので、無事に目的の第一段階である『妖精国への入国』を達成する事が出来たのであった。
なお、この後俺達は、周囲の環境を下見するだとか、ギルドの方に顔出ししておくだとか、市場にて物資を補給するだとかは後回しにして、門番のお兄さんオススメの宿へと駆け込むと、入浴(シャワー的なモノが在った)を手早く済ませてまだ明るい内からベッドに潜り込む(当然の様に従魔達も入ってきた)と、ほとんど気絶するかの様な形で眠りに就き、翌日の朝まで目覚める事の無いままに眠り通したのであった。
……安全に眠れる環境って、素晴らしいね……。そうは思わん?
一応、次回からもう少し動きが出始める予定ですので、お付き合い頂けますと大変にありがたいですm(_ _)m
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