94・魔王国に向けて再出発します
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「……まったく、だから『大丈夫だ』と言っただろうに……」
「……面目次第も御座いません……」
「もし、アレで死人でも出ていたら、この取引自体が消滅していた可能性は十分過ぎる程に有ったんだから、その自覚を持てよ?
……こう言っちゃあなんだけど、現環境下に於いては、お前さんの命よりも『お米様』と『お醤油様』の方が重いんだからな?」
「……重々承知致しているかな……」
そう、沈んだ様子で畏まって俺と会話をしているのは、馬車荷台にて正座している乾と先生だ。
あのアラネアの里襲撃を、どうにかギリギリの処で死者無し(重傷者の類いは俺手製の回復薬や劣化命の水等にて治療済みの為、死者『は』出なかった)で取り押さえる事に成功したが、俺達の格好(パン一)を見て暴走した結果として、かなりの被害を辺りに撒き散らしてくれた以上、反省を促す意味でも確りととるべき態度は取らせて貰っている。
……ぶっちゃけた話、あの場で人死にでも出していたら、俺達は今こうして魔王国を目指して馬車を走らせる事が出来てはいなかっただろうからね?
俺達は種馬として、乾達は外敵として『処理』される形であったとしても、結果自体はそう大きくは変わらなかっただろうからね。
俺達三人の仲間であり、突然拐われた俺達を助けに来てくれた、と言う事実(一応)を説明し、その上で俺達の格好から俺達が乱暴されたんじゃないのか、と言う思い込みから暴れたのであって、普段はそんなに狂暴ではないと言う事を理解して貰えた為に、こうして全員揃って魔王国へと向かえている上に、俺達が交渉の席で出していた『米』等の食料品も大量に頂く事が叶った訳なのである。
……まぁ、それも、里長が俺達の提案に興味を持ってくれた事と、俺達が対価として要求した食料品諸々の食べ方を実演して見せた事が大きいのだろうけど。
何せ、アラネアの人達は、『米』(正確には違うみたいだが、ほぼ一緒な為に『米』と表記する)を炊く訳ではなく、小麦を扱う様に一旦米粉にしてから水に溶き、薄いクレープもどきの様にしてたべていたり、『大豆』(『米』と同じく)から作った『味噌』と『醤油』も、調味料として使うのではなく一種の保存食として作っていたりしたのである。
割りと大々的に作っていた『山葵』に至っては、ある種の薬草の類いとして栽培されており、食べる(加工して患部に塗るらしい)と言う発想自体が存在していなかったらしいのだ。
現に、『米』を粉にしないでそのまま炊いたり、『味噌』や『醤油』を調味料として使用した料理をつくってみせたり、『山葵』を摺り下ろして見せ、料理の薬味として使用する様を見せてやると、アラネアの人も数少ない人間の人達も、我先にと俺達に作り方を教わりにきたり、少ないながらも試食用に、と作っておいたモノに群がっていたからね。
……まぁ、その試食用の分を持っていった人の中には、俺が手空きになった瞬間にそれまで我慢していたのであろう従魔達に群がられ、まだパン一だった為か普段よりも大胆に俺の股間に鼻先を突っ込もうとしてきたリルとのやり取りを眺めながら、さも『良いモノを見せもらった』とでも言いたげな視線と仕草。そして、何やら『覗いてはならない深淵』を覗いてしまったかの様な微笑みを浮かべながら、さも旨いモノを食っている様に喜んでいたけれども。
……アレかな?好きなものが目の前にあれば、ソレだけでご飯三杯イケる、ってヤツかな?
そんな、極限までどうでも良い事を脳裏から振り払いつつ、俺が魔王本人との直接的な面識が有る、と言う事も引き合いに出し、それでどうにか実行の余地在りと里長が判断してくれた為に、 こうして諸々の物資やら、どうせなら交易の類いも出来たら良いな、との思惑から持たされた諸々の手土産の類いと共にアラネアの里から出発して早数時間。
それから現在に至るまで変わる事なく、ガタガタと道の凹凸に合わせて揺れる馬車の上で正座をさせている、今回の戦犯にして最暴走者である乾と先生。
日本人故に、ある程度正座慣れしてはいたものの、それでも馬車による振動と俺からのお説教によって多大なダメージを負ったらしく、そろそろ顔色が普段の肌色から赤を通り越し、我慢のし過ぎで紫に変わりつつあった。
……まぁ、そろそろ反省しているだろうし、根本的な原因で言えば俺が悪いのだから、そろそろ解放してやる方が良いだろう。
二人を止められなかったから、と二人の隣で同じ様に正座していたアストさんも、少し前にギブアップして今は馬車の片隅でその綺麗なおみ足を抱えてプルプルしてらっしゃるからね。
ちなみに、そんな三人を見て羨ましそうな顔をしていたサーラさんには、直接的な事は何もしていない。
敢えてしている事と言えば、さっきから『お仕置き』して欲しそうにこちらをチラチラと見ているのを、気付いていながら放置している事だろうか?
多分『お仕置き』にはなっていないだろうけど、サーラさんをまともに相手すると、こちらの精神にも一定以上の負荷が掛かる可能性が高いため、放置しておくのが一番良いと最近学んだからね。
そして、二人に正座を解いても良い、との許可を出し、アストさんに回復薬を渡しながら足をマッサージしてあげていると、アラネアの里から派遣され、俺達が無事に魔王国と交渉出来るのかどうかの見届け役として同行する事となった『彼女』が、何やら楽しそうに口を開く。
「里デノやり取りで分かっていたコトだけど、やっぱりキミタチを見ているとオモシロイね。ソンナ仲間達がイタから、こんなワタシでも『女』トシテ見れるとイッテくれたのカナ?」
そう、口元に微笑みを浮かべながら、リルの駆け足や馬車を牽くサーラさんの駆け足にも劣らない速度で走行しているのは、あの時俺達を拐っていった張本人であると同時に、アラネアの里から見届け人を派遣する、と言う話が出た時に自ら志願したらしいネフリアさんだ。
出会い方は最悪だったとは言え、一応は面識のあるネフリアさんが同行員であった事は有難いが、だからと言って本当にネフリアさんが来ると思っていなかったので、正直な話かなり驚いた事は記憶に新しい。
「……しかし、良かったのか?俺達に着いてきて?」
「ン?何でカナ?」
「……聞いた話だと、俺達が話を纏めた後も、俺達に着いてくるつもりらしいけど、俺達に着いてくるとなると『繁殖期』の云々はどうするつもりなんだ?俺達に『お相手』を……って事なら、血涙を流しながらでも断らざるを得ないんだけど?」
実は、里を出る間際に里長から、本格的に俺達に着いて行くつもりらしいから、今回の一件が終わっても彼女の事をよろしくお願いね?と追加物資と共に『お願い』されている身としては、そこの処は確りとさせておかないとマズイんじゃないのか?との思いからの質問だったが、それに対してネフリアさんは
「アァ、ソレだったら……」
と一旦言葉を切ると、外に出るから、と里に居た時よりも多く着けている装備(それでも軽装)のポケットから瓶を取り出し、その中の丸薬の様なモノを俺へと見せてくる。
「里長カラ、『繁殖期』ヲ抑える薬ヲ貰ってアルカラ、次のイマゴロまでは多分大丈夫ダヨ?」
「……そんな薬が有るんなら、別に俺達拐う必要なかったんじゃないのか?」
「いやいや、ソレだと確かに拐わなくてもダイジョブだけど、そうすると今度は子供ガ出来にくくナルカラネ?ワタシみたいに、単独で外にデルミタイナ事をする必要ガ無いカギリ、普通は服用してまでオサエナイし、オサエル必要の無い事ダカラね?」
……それは確かにそうなのだろうし、そう言う状態に身体がなると言うのが自然なのだろうけど、だからと言って危うく逆レイプされる可能性のあった俺としては、出来れば服薬していて欲しかったかなぁ……と思わなくもない。
「まぁ、デモ、ワタシとしては繁殖期デノ事が無かったトシテも、キミなら何時でもダイカンゲイしちゃうけど、ドウスル?今晩アタリヤっちゃう?」
からかう様に口元に笑みを浮かべながら、相変わらずのチューブトップな胸元を引っ張り、思わせ振りな台詞を口にするネフリアさん。
それに対抗する様に、どうにか復活したアストさんが凄まじいまでの色気と共に抱き着いて来たり、それを見た女性陣がアピールし始めたり、馬車を牽いている為に参戦出来なかったサーラさんが拗ねたりしながら、時にリルの警戒をすり抜けてテントへと侵入してきた誰かしらに叩き起こされたりしつつ、数日程掛けて魔王国の首都であるクラニアムへと到着するのであった。
******
首都クラニアムの通用門にて衛兵の皆さんから
「久し振り!」
だとか
「災難だったね」
だとか
「また増やしたのかい?」
だとかの暖かい声?(最後のは半笑いだった)を頂きながら中へと入り、冒険者ギルドにて到着の連絡と、途中で終えた依頼の報告、そして、獣人国で行っていなかったリルとネフリアさんの『従魔登録』を済ませてしまう。
……そう、実はネフリアさんは、今のところは規定上『魔物扱い』になってしまう(『アラネア』はまだ人間として周知されていない種族である為)ので、こうして都市に入る場合は誰かの従魔として登録していないと、血迷った冒険者等に何かをされたとしても文句を言えなくなってしまうのだ。
よって、本人の意識を尊重した結果、俺の従魔として登録しておく、と言う事になったのである。……なってしまったのである。
「……すみません。ソレ、出来るだけ早く取れる様にしますんで……」
従魔の証として渡した首輪(リンドヴルムやリルも着けている)を見ながら、申し訳ない気持ちでそう申し出だのだが、当の本人は
「……エ?別にイイヨ?コレはコレでオシャレみたいだし、ワタシは別に気にしてないカラ、そんなにオモイツメナイでイイヨ?ソレに、このコタチともお揃いダシネ♪」
とさして気にした様子も無く、自身の首に俺の手によって付けられた首輪を撫でながら、最初は警戒されていたものの、今ではすっかり打ち解けた様子のリルやカーラを撫でている。
どうやったのかは不明だが、俺(主人認定)やタツ(餌付けされた)を除いたこの一行の中では一番打ち解けている様にも見える。
……それと、先程チラリと見えただけで、詳しい事は今一よく分からないのだが、ネフリアさんが乾達(乾、先生、久地縄さん、阿谷さん、サーラさん)に流し目を送りながら、俺によって嵌められた首輪を撫でて勝ち誇った様な微笑みを顔に浮かべ、それに対して乾達がまるで『羨ましけしからん!』とでも叫びながら血涙を流し出す直前、と言う場面に遭遇しかけたのだけど、一体何がどうなっていたのだろうか?
誰も喋っていなかったので、正確に何がどうなったのかが俺的に不明なのだけど、やはり触れない方が賢明だろうか……?
そんな彼女と連れ立って、魔王城へと移動する。
どうやら、冒険者ギルドと門の衛兵さん達から既に連絡が来ていたらしく、以前滞在していた時に顔見知りとなっていた門番さん達に顔パスで通され、魔王城の入り口にて待っていてくれたフルカスさんの案内に従って魔王の執務室へと進む。
「陛下、タカナシ殿が参られました」
『うむ、入って貰え』
フルカスさんのノックに反応した魔王により、俺達が中へと引き入れられると、いつもここから様に書類仕事に追われている様子の魔王バアルの姿があった。
……うむ、やはり、無駄にイケメンだな、こいつは。
「さて、久しいなタカナシよ。そなたとは色々と話したい事は山積みだが、今回はそうして旧交を温めに来た訳ではないのだろう?余とてそう暇ではないのでな。単刀直入に話してくれいか?」
そう促された俺は、アラネアの里でのアレコレと、俺が彼女らに提示した条件を洗いざらいバアルに話す。
……流石に、いきなり国で決済する様な話を個人で持ってきたのだから、最悪断られるかなぁ……ともおもっていたのだが
「ふむ、良かろう。リミットは一月と少し程度ならば、十二分に間に合うであろう。フルカス、準備を頼む」
「承りました、陛下」
と、案外とアッサリ通されてしまった。
「いやいや、流石にアッサリ通しすぎじゃああるまいか?」
と突っ込みを入れてみたのだが、バアルとフルカスさんが視線を合わせてからほぼ同時に
「「いや、タカナシ殿が持ち込んだ話なら(でしたら)ほぼ確実に面白い事になるのだろう(でしょう)から、乗らない手は無いよな?(でしょう?)」」
と返されてしまった。……解せぬ。
そして、お土産として渡すつもりで持ってきた、話の途中でも出した『米』に興味を持ったバアルが、小腹がすいたから、と『少し食わせろ』と要求してきた為に厨房へと移動。
器具を借りて炊き上げた白米状態の『米』を塩握りと焼おにぎり(味噌バージョンと醤油バージョン)に加工して饗してみたところ……
「……フルカス、可及的速やかに準備を整えよ!この作物の保護と増産、並びに技術的なノウハウを速やかに普及させるぞ!」
「……この一命に掛けて、畏まりました!」
……等と言う寸劇が開催され、本当に行動を起こし始めたのである。
当然、そんな見たことも聞いたことも無い様な集落であり、住人も『人間』とは言い難い存在が大半を占める様な処に対しての行動を批判する人(『魔族』?)も出てきたのだが、俺達がお土産として持ち込んでいた物資によって作られた諸々を口にすると、ソレまでの主張を180度回転させてノリノリで協力を申し出てきたのである。
中には、自らアラネアの里へと赴く事を志願し、向こうでの『永住』を希望し始める人も居た程だったから、どれ程の騒ぎとなったのかは察して貰えると思う。
そんなテンションがあったお陰か、怒涛の如き速度にて準備は進み、僅か一周(六日)程で派遣する人材(本人による志願者のみ)や物資、『米』等の栽培に関するノウハウを学ぶべく送られる技術者等が揃えられ、バアル本人を伴っての豪華な使節団となっていた。
……ちなみに、何故にバアル本人が加わっているのか?と言うと、本人が『米』を大変気に入った、と言うだけでなく、俺が話した里長の外見(柔和な顔立ち、おっとりとした雰囲気、スタイル等々)がどうやらドストライクだったらしく、そこら辺も関与しているとか、いないとか……。
そんな訳で、予想外に慌ただしくなってしまった魔王国だったが、一応俺達の目的としては『まだ』一時滞在するだけの予定だった為に、俺達もバアルの出立に合わせて出発する事にした。
「……そうか。まぁ、余としても、武器の関係での問題は無関係ではないからな。そこは仕方有るまい。
……しかし、何やら彼の国がそなたらと接触しようとしている、との報告が上がってきている故に、気を付けるのだぞ?そなた達との約束を、余に破らせてくれるでないぞ?」
そう言い残して出立したバアルを見送ってから、俺達も魔王国を出発し、妖精国を目指して行くのであった。
バアルからの忠告を胸に秘めながら。
なお、この後の魔王バアルだが、『とある仕事』によって『とある女性』と出会い、この世界の王族としては珍しく恋愛結婚を果たす事となる。
そして、毎年同じ時期に窶れた姿を周囲に目撃されて心配され、毎年同じ時期に子宝に恵まれる事となるのだが、それはまた別のお話。
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