92・貞操を守る為に交渉してみます
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『繁殖期の種付けの為に拐ってきた』
そう言われた俺達の脳裏に、数年前に発生し今も時折夢に見る程のトラウマとなっている女部族との行為の記憶がよみがえる。
……いや~、あの時はキツかったなぁ……。
何せ、三人で百人相手に戦って勝てなければ殺されていたし、その戦いの後の『種付け』の際に、『頑張って』無事だった戦士階級の人達五十人を腰砕けに出来なければ、下手をすればまだあの村で飼われていたかも知れないからなぁ……。
そんな事を思い返していると、どうやらタツとレオの二人も似たような事を思い返していたらしく、死んだ魚の目で吐血していた。
俺も、口のなかの鉄臭さから察するに、恐らくは似たような状態に在るのだろうと思われる。
『トリアエズ、協力してクレルなら村のアンナイも含めて自由行動させてアゲルカラ、その物騒なエモノハ下ろしてクレナイ?』
そんな俺達に対して、続けて声を掛けてきた彼女(見間違う事があり得ない程に立派な胸がチューブトップにて支えられている為のほぼ確実に『彼女』だと思われる)は、こちらに対して敵意は無い、と示す為にか、上半身の両腕と、人の上半身と蜘蛛の下半身の境目の辺りから生えている、蜘蛛で言う処の触脚に相当するであろう、下半身を支えている脚と似たような装甲質によって被われている二本の腕を広げて掌を晒し、『何も持っていない』と言う事をアピールしてくる。
それに対して俺達は、視線のみにて今後の対応をどうするのか、を協議する。
(……で?どうするんだ……?)
(ここは~、取り敢えず言うことを聞いておく方が懸命かなぁ~?聞いている限りだと~、死ぬことまではされなさそうだし~、どうにか引き伸ばして他の人達が来てくれるのを待つのはどうかなぁ~?)
(……もしくは、こいつを俺達掛かりでどうにかして、人質にするなり何なりで脱出を図る、か……?)
(……どちらも一長一短だな。
レオの案だと、誤魔化しが上手く行き、その内に女性陣による救援が到着すれば脱出も叶うだろうけど、引き延ばしを失敗した場合だとか、下手なタイミングで向こうが『その気』になっちまった時だとかは『あの時』の二の舞になりかねないし、そのシーンを女性陣に見られでもしたら、俺達骨の欠片も残らんと思わんか?
それと、タツの案も上手く行けば安全に脱出出来るかも知れないけど、その為には彼女をどうにかする必要があるし、彼女をどうにか出来たとして、その後に彼女よりも格段に強い相手に出張られたりした場合、交渉の余地無く殲滅される可能性が出てくる。それに、そもそも『全力』を出し得ない俺達で彼女を安全に確保出来るか微妙な処だ。殺すだけならどうにでも成る可能性が高いが、ね……)
(……ならば、どうするんだ……?)
(僕らとしては~、即興で出せる中では最良の案を出したつもりだったけど~、それらを否定するって事はもっと良い案が有るって事だよね~?ダメ出しするだけって言うのは~、一番ダメだと思うんだけど~?)
(……取り敢えず、交渉してみるってのはどうだろうか?会話が出来ている以上は、やってやれない事はないハズだ。上手いことすれば、例の『種付け』云々も回避した上で、誰の血も見ないで済むかも知れない……多分)
(……なら、任せた)
(言い出した以上は~、タカ主導でやってよね~?僕達の方は~、予備案として一応準備だけはしておくからさ~)
(だったら、失敗しても恨むんじゃ無いぞ?それと、ミスった時はバックアップよろしく!)
それらのやり取りを視線のみにて行うだけでなく、ほんの数秒にて済ませた俺達は、取り敢えず交渉を持ちかける為に今のところは敵意は無い、と示す為に、それまで構えていた得物の切っ先を床へと向けてから話し出す。
「……まず聞きたいんだけど、貴女の名前と種族を教えて貰って良いか?」
そう、語り掛けてきた俺に対して、そんな事を真っ先に聞いてくるとは思って無かった、とでも言いたげな表情を浮かべる彼女であったが、それと同時に面白いモノを見た、とも言い出しそうな視線を向けて来る。
「……フツウは、私達のコトナンテ聞かずに『解放しろ!』ダトカ『助けて!』ダトカ喚き散らすんだけど、そうはせずに、ソノウエデ私の名前ヲ聞いてくるのはキミガ初めてダヨ。
……私の名前ハ『ネフリア』。私達ハ私達のコトヲ『アラネア』と呼んでイル。これでヨイカナ?」
……良し!名前と種族名ゲット!
交渉に於いて、相手の名前と出自を把握しているか否かは割りと重要なファクターになりかねないので、早期に入手出来た事は行幸だったと言っても良いだろう。
そんな事を考えていたのだが、『ネフリア』と名乗った彼女が相変わらずこちらを見詰めていた事に気が付いた為に、視線で『何か?』と問い掛けてみると、若干機嫌を悪くしながら口を開く。
「……私ハ名乗ったノダカラ、次はキミタチの番ダロウ?それが『レイギ』と言うモノじゃあナイノカナ?」
「……これは、失礼。俺はタカ。そっちのデカイのはタツで、こっちの小さいのはレオと言います。以後よろしく」
指摘されてようやく自己紹介するのも変な話だが、ぶっちゃけ俺達『本体』には興味が無いのだろう、と思っていただけに少々面喰らってしまい、反応するのに時間が掛かってしまう。
だが、当のネフリアさんは反応の遅さは気にしていないらしく、俺達の名前を呟きながら、何やら嬉しそうに口元を綻ばせている。
「ウン、こうして話がツウジテ、確りと会話がデキルのはヨイね。コッチモ、あまり乱暴なシュダンに出なくてスムシネ」
一人で『うんうん』と頷いているネフリアさんからは、何となく会話が成立している事への『喜び』の様な感情を感じ取る事が出来た。
……もしかすると、これは上手くやれば本当に交渉まで持ち込めるかも知れない、か……?
そんな思いと共に二人へと目配せすると、本格的に今ここで交渉を纏める位の心積もりで口を開く。
「……ネフリアさん」
「ウン?なんだい?」
「先程言っていた『種付け』云々に関して、一応確認の為に聞いておきたいのだけど『俺達』『が』『貴女達』『と』性行為をして妊娠させる、って認識で良いんだよな?」
俺達『を』アラネアの人達『が』だとか、俺達が『他の何か』を孕ませる、だとかのSAN値直葬な冒涜的なアレコレだとかを期待されていた場合、交渉云々を抜きにして『アラネア』と言う種族を絶滅させる勢いで狩り尽くす事になるだろう。
「……?ナニヲ言っているのかイマイチ分からないガ、キミタチガ相手にするのはワタシタチだけの予定ダケド?ソレとも、キミタチは他のナニカも孕ませられるってイウノカナ?
……ソレとも、ちゃんと『デキル』か心配シテイルノカナ?そこは心配シナクテも、『ここ』のツクリはキミタチ人間とそう変わらないから、心配シナクテも大丈夫ダヨ?」
俺の、ある意味最大の懸念に対して、『何故そんな事を聞くのか理解出来ない』と言いたげな表情で首を傾げたネフリアさんは、俺の疑念を払拭すると、自身の人形の上半身と蜘蛛の下半身とが繋がっている部位に巻いていた、胸元を隠しているチューブトップの服(布?)以外では唯一身に付けていたソレをハラリと取り去り、その下に隠されていた『下腹部』を俺達へと晒して来た。
「「「ブフッ……!!?」」」
その動きに視線を誘導されていた俺達は、モロにネフリアさんが晒して来た『ソコ』を目の当たりにしてしまい、慌てて視線を反らしたり、手近にあった布の類いや『技能』で造り出した前垂や、仕舞っておいた着替えの服等を慌てて見ないように渡して着替える様に促しながら、自身はそのまま後ろを向いてしまう。
「「「早く服を着ろ(て)!!」」」
そんな俺達の行動を『ポカーン』とした、まるで顔文字の『(゜д゜)』の様な表情で見ていたネフリアさんは、不思議そうな声色で俺達に問い掛けて来た。
「……カクニンしたいと言い出したのハキミタチだろう?」
「だからって、脱がなくても良いでしょう!?」
「……シカシ、そうしなくてはミレナイだろう?」
「……だからと言って、そう気軽に見せるモノでも無いだろう!?」
「……どうせコノアト見るノニカ?」
「だからって、女の人がそう容易く見せて良い所じゃあ無いからね!?」
俺達三人掛かりで説得された為か、それとも俺達の反応によるモノかは定かではないが、どうやら俺達にとっては自分の格好が刺激的過ぎる、と言う事を自覚してくれたらしく、俺達が渡したモノや先程まで巻き付けていた布により、下半身を隠す様になったのだが、その頬は微妙に赤く染まっており、聞こえるかどうかの瀬戸際クラスにて一言ポツリと呟く。
「……初めて『女の子』アツカイされた様なキガスル。それに、ナンダカ妙に『ハズカシイ』様なキモスルけど、何でダロウ……?」
辛うじて俺達には聞こえてしまっていたが、普通は聞こえない様な声量での呟きだった為に聞かれていたとは思っていないのか、確りと隠し終えてから俺達へと向き直ると、若干赤味の残った顔色のままに会話を再開させる。
「……ンンッ、トリアエズ、あんなことを聞いてきたッテコトハ、ワタシタチに協力してくれる、ッテコトでヨイノカナ?」
「……条件次第では、協力する事も吝かでは無い」
「……フゥン?じゃあ、そのジョウケンッテ一体ナニカナ?」
「その前に聞きたいんだが、俺達を拐ったのは、繁殖期で子作りするために子種が必要だったから、で良いんだよな?」
「まぁ、ソウダネ」
「で、その繁殖期だけど、それってもう始まっているのか?」
「……?イヤ?まだスコシ掛かるけど?」
「それって後どのくらいだ?『少し』って事は、そこまで遠くは無いんだろうけど、それでもそれなりに猶予は有るんだろう?」
「えぇっと……、確か昨日ガハンゲツだったカラ……フダンならもう満月が二回クライしたらハイルカナ?」
この世界でも、大体三十日周期で月が満ち欠けするので、後一月から一月半と言った処か。
……なら、別段時間的猶予が無いと言う訳ではないって事、か……。
「俺達が『協力』する場合、何人『お相手』する事になるんだ?」
「ん~?確か……ワタシヲ含めて二十人クライだったカナ?三人もイルンダから、多分イケるんじゃナイノ?」
「……なら、最後の質問だ。その種付けの『お相手』は、俺達みたいな人間。『人族』じゃないと駄目なのか?『魔族』だとか『獣人族』だとかの男じゃあ駄目だったりする理由が有るのか?」
「……?特にはソウイウ理由は無かったハズダケド?偶々あの時アソコヲ通り掛かったのがキミタチッテだけで、ワタシタチからしてみれば、割りとダレデモヨカッタカラね?」
「じゃあ、最後の質問だ。その『繁殖期』は年に一回だけのモノなのか?それとも、一年のうちに何回か起こるモノか?『繁殖期』以外で関係を持った際に、子供が出来る可能性は有るのか?」
「個人差がアルから『こう』トハ言えないケド、『繁殖期』ジタイはこの季節二確定でオキルケド、他の季節デモ『繁殖期』ヲ向かえる娘もイルヨ?ソレト、『繁殖期』以外の時期デモ、子供がデキナイ訳じゃあナイハズダケド?」
……ふむ、ならば、もしかしたら上手くいく、か……?
「……なら、そちらとしては、別段俺達でなければ駄目な理由は無いんだろう?なら、俺達が仲介するから、魔王国の方から人を呼び込んで見るのはどうだ?そっちの方が、そちらも安定して男手を入手出来るだろうし、今回みたいに無理やり拐って来なくて済む。おまけに、中には定住して結婚したいと言う者もいるかも知れない。
……こちらの方が特をすると思うが、どうだろうか?」
それに対して少し考え込む姿勢を見せるネフリアさんだが、その髪に隠れて全体数の把握できない多眼(おそらく八つ)を俺達へと向けながら口を開く。
「……確かに、ソレがカナエバワタシタチは助かるヨ?確かに、今この里にはオトコデがナイから不便シテイルし、イチイチ『繁殖期』のタビニ外から拐ってコナクチャならないカラね?
……デモ、ソレだとワタシタチにばかり特がアッテ、キミタチにはあまり利益がナサソウだけど、何を考えてイルノカナ?自らのミノアンゼン?それとも、コンナ『蜘蛛女』ヲ、『醜い化物』ヲ抱くのはイヤダカラ?」
そう、何処か悲しそうに呟くネフリアさんに、ほぼ反射で
「え?ネフリアさんは美人さんだと思うけど?」
と返してしまう。
思わず口を押さえるが、既にその言葉はネフリアさんに届いてしまったらしく、表情を驚きで固めながらも、その視線は『本当に?』と言う言葉を口よりも雄弁に語っている上に、俺へとすがり付く様なソレであった。
「……まぁ、少なくとも、俺個人としては、ネフリアさんは『美人さん』だと思うけど?そう言う女に迫られれば、そりゃその気にならんでもないけど、今は『特定の誰か』を作るつもりは無いからそう言うのはちょっと遠慮したい。
交渉だって、俺達が『そう言う関係』になるつもりが無い、って事もそうだけど、以前似たような事があってそれがトラウマになっているから、出来れば遠慮したい、ってのが本音だがね?これで良いかな?」
少なくとも、俺個人としての本音を話してやると、しばらく顔色を赤らめながら固まっていたが、その後に笑みを浮かべながら頷くと、俺達に対して背を向けて入り口の扉へと歩き始める。
「ウン、嘘ではナサソウダネ。だったら、それは直接『里長』に交渉してモラエルカナ?ワタシは信じてもヨイと思うケド、話の規模ガワタシの権限を越えちゃうカラネ。ダカラ、キミタチヲ『里長』の処マデ連れていってアゲルヨ!」
そう言いながら、入り口の扉を開いて俺達を招いて見せるネフリアさん。
そんな彼女の元へと移動しながら、今回の交渉に対して光明を見出だした様な気持ちになるのであった。
そして、扉を潜ろうとした時に、思い出した様にネフリアさんからの声が掛かる。
「……ア!そう言えば、ツタエ忘れていたケド、外に出る時ハその物騒なエモノは渡しテネ?でないと、ここにツレテクル時みたいに、糸でシバルかもう一回カムかしないとダメなキマリダカラ、ね?」
そう言って、上半身と下半身との境目から生えている腕の指先から糸を出して見せたり、唇を引っ張って長く発達した犬歯の様な牙を見せてくる。
それに対して俺達は、大人しく手にしていた得物をネフリアさんに預けるのであった。
……あの時の『ブスッ!』と来たのって、正体はアレかぁ……。
次こそは……次こそはもっと早く投稿出来るようにしたいでゴザル……
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