88・謁見する事になりました
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「冒険者タカ殿、タツ殿、レオ殿、入室!」
その声に従って、重厚な扉の前にて待機していた屈強なミノタウロスの兵士が二人、自身の巨体と比べてなお荘厳かつ重厚な存在感を放っているその扉へと手を掛け、内部へと目掛けてゆっくりと押し開いて行く。
そして、その扉がある程度開かれたタイミングで事前の打ち合わせの通りに進みだし、完全に開かれるのと同じタイミングで入り口から引かれていた深紅の絨毯の半ばまで移動すると、その場で一旦立ち止まる。
そして、立ち止まったその場所で膝を突き、この獣人国に於ける最高位の敬礼(『心臓を捧げる』と言う意味を込めて右足を前に出して左膝を突き、敵意を持っていない事を示す為に右腕を右膝の上に、左腕を腹部に添えて固定し、視線も絨毯から上げない等々)をした状態のまま待つこと数分。
「……獣王陛下ご入室!」
俺達の入室を告げたのと同じ近従が、今度は今回の『主役』の入室を告げてくる。
それと同時に、俺達よりかは多少劣るものの、それでも魔王国のフルカスさんと同等クラスの存在感を放つ気配が十二個分入室し、それぞれの配置、と思わしき場所にて静止する。
……そして、その少し後に、彼らを上回り、尚且つ俺達が戦ったとしても生き残れるか怪しいレベルの威圧感を放つ、かつてのリンドヴルムや魔王バアルを彷彿とさせ、彼らに並ぶであろうだけの戦闘力を秘めていると思われる存在が、その力の大きさを隠そうともせずにゆっくりと入室し、俺達の正面に位置する玉座のあった場所へと移動する。
そして
「……面を上げよ」
と、昨日ぶりに聞くその声に従って顔を上げる俺達は、その発言以降は口を開かずに近従の者に代弁させている獣王陛下へと視線を向ける。
「此度の働きにより~~~」
と、大分どうでも良い内容を近従の者が述べているのを、獣王陛下と同じ様に死んだ魚の目をしながら聞き流す。
……何故こんな下らない事を俺達がしているのか、と言うと、その理由を語るには時間を昨日まで戻す必要が有る。
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それは、俺達が以前から拠点として使わせてもらっていた、レオンハルト家の当主であるネメアー・レオンハルトからもたらされた。
「約束の通りに、陛下と対面して貰う準備が整ったのだが、それとは別に明日陛下に謁見してもらいたいのだ。構わないだろうか?」
その言葉に首を傾げ、訝しげな表情を取るアストさんを除いた一行。
今日これから会うっての話なのに、わざわざ二回も顔合わせする理由が解らん、と言う表情をしていた俺達とは違い、一人合点がいっていたらしきこの面子の中で、唯一実務経験の有るアストさんがライガーさんへと言葉を返す。
「……一応、彼らは我が魔王国が保護した『貴賓』ですので、彼らの意志を蔑ろにしての召し抱えは遠慮願いたいのですが?」
「陛下もそこまではお考えではない様子でありましたので、それは大丈夫かと思われますぞ?アシュタルト殿。もし万が一陛下がそのおつもりなのだとすれば、既に陛下が自ら勧誘に来られておるハズですから、恐らくは」
……成る程、そう言う事ね。
アストさんは、俺達が獣人国に取り込まれるのを危惧している、と言う訳か。
自分で言うのもなんだけど、割りと『強大な戦力』ってモノに成りつつある俺達を、フリーの状態にはあまりしていたく無いって事も、フリーであるのなら己が懐に入れてしまおうと考える事も理解は出来る。
とは言えども、一応恩人にして友人でもある魔王に誘われるのならばいざ知らず、あまり縁の有る訳でもない獣王からそんな事を言われても即座に『yes』とは答えないだろうから、アストさんの考えすぎだと思うけどね?
……そんな事を考えていると、唐突に『ソレ』は起こった。
「まぁ、興味は有る故にこうしてここまで出向いておるのだがな?」
「そうそう、本当に引き入れるおつもりの時は、こう言う風に直接…………ん?」
「……そうですか。私の杞憂であれば良いのですが…………って、え?」
『ソレ』は、俺達ですら碌に気が付かないで居た程に密やかに、それでいて会話に割り込まれた歴戦の二人の反応が遅れる程に自然にそこにおり、それでいて一度こちらが察知出来たのであれば間違う事の有り得ないであろう程の『存在感』を周囲に振り撒きながらも、その決定的な瞬間を俺達の誰一人として察知させないだけでなく、リンドヴルム達にすらも覚らせずに文字の通りに『何時の間にか』そこに存在していた。
その緊急とも呼んで差し支えの無いであろう状況に、半ば反射として染み込まされた武術的感覚から、俺とタツとレオとの三人は戦闘体勢へと移行し、リンドヴルム達三頭も、時を同じくして『ソレ』を敵性体である、との判断を下し、一切の油断を排除した臨戦体勢へと移行する。
それを見た乾達も、それぞれで戦闘体勢へと移行したり、離脱する為に距離を取ろうとしたりと、ワタワタとしながらも漸く動き出すが、サーラさん達『三獣士』はそのどちらを選択するでもなく、半ば呆然としながら『ソレ』を眺めていた。
そんな様子の俺達を、何をするでもないままに眺めていただけの『ソレ』だったが、俺達が戦闘体勢を取りつつあったにも関わらず、アストさんとネメアーさんが『ソレ』に対して跪いている事に気付いた俺達が判断に困って固まると、二人に対して手を振ってから楽にする様に指示を出してから俺達へと向き直り、その外見からは予想も付かない程に威厳を伴った低音にて声を発した。
「……ほれ、どうした?お主らが『会わせろ』と言っていたと聞いたのだが、間違いであったのか?儂こそが、お主らにあの依頼を出した、この獣人国を統べる王である獣王『カニス・ルプス・ファミリアリス』であるぞ?まぁ、この者達程に畏まれ、と言うつもりは無いが、それでも暇で暇で仕方がない、と言う訳でもない故な、何かあるのであれば手短に頼むぞ?」
そう告げてきたのは、圧倒的な威圧感を振り撒きながら『獣王』を名乗り、豪奢な刺繍の施された上質な貫頭衣を身に纏った、特徴的な黄土色と白のコントラストな毛並みと横長な楕円形に見える顔立ちをし、円らな瞳と三角形の小さな耳、そして、フサフサとした尻尾を持つ、秋田犬の様な外的特徴を持ったコボルト族であった。
******
「……して?お主らは、何故に儂との対面を望んでおったのか?」
取り敢えず戦闘の意思がないらしい、と判断した俺達は、一旦戦闘体勢を解き、カニス獣王へと跪いていた二人を促し、会話するのであれば、と全員で連れ立ってレオンハルト家の居間へと移動する。
そして、そこで席についてからの開口一番に俺達へと向けられた言葉であり、先程自己紹介をされた際にも言われた事でもあったのだが、正直俺達は揃って首を傾げていた。
何故ならば、俺達は別段、『獣王に会わせろ』と言った覚えが無いからだ。
確かに、あの『迷宮』に潜る事となった依頼を受ける際に、こちらからの条件として『依頼主の情報の開示』を要求しはしたと記憶しているが、それはあくまでもそれらの情報が全て隠匿されていたからであり、何故あの依頼を発注したのか、何故俺達を指名したのか、等の疑問が解決した為に、今となっては別段必要な情報であると言う訳では無くなっていたりする。
なので、依頼を受けると決めた際に、敢えて依頼人と会わせる云々の話は詰めなかったし、元よりただの異国人である俺達がもうすぐ出国しようか、とも話していた国の国家元首に会った処で一体何の得が有るのかすらも、よく分からないしね。
故に、俺達からしてみれば
「「「……いや?一言も言った覚えが無いんですけど?」」」
と言うしかなかったのだが、その発言を受けて固まってしまうこの国の国家元首と重鎮、並びに隣国の幹部である三人。
「そもそも、依頼人云々を言い出したのはあの依頼が不透明なモノだったからであって、詳細を聞き出せた今となっては特に何の用が有る訳でも……」
「……それに、『依頼人に会わせる』と言い出したのは、あくまでも俺達ではなく『冒険者ギルド』の方だ。俺達ではない」
「それと~、これを言っちゃうと少しアレかも知れないけど~、獣王陛下と会う事で僕達に何か得が有るのかなぁ~?ぶっちゃけて言っちゃえば~、あの依頼が無ければとうの昔にこの国を出ている予定だったのだから~、顔繋ぎにしてもあんまり意味が有ったとは思えないのだけど~?」
「あと、ついでに言ってしまえば、今回陛下と謁見云々と言うのは、依頼を完遂した事に対する評価と実績に報いる為~だとか、既にお渡しした『迷宮』の『核』や入手した魔道具の買い取り報酬だとかを渡す為~だとかが目的だと思っていたので、正直こうして対面している事自体に戸惑っているのですけど?」
その俺達の言葉に、ウンウンと頷いて肯定する乾達七人とそれはそうだったけど……、と困惑を隠せない『獣人族』の三人。
そして、言われてみれば確かに!と合点のいった表情を浮かべるアストさん。
それに対して納得のいった顔をしながらも、何処か困った様な顔をするネメアーさん。
「……確かに、その言い分では我らの手違いであったのだろうが、だからと言って少々ストレート過ぎはしないかね?一応処では無い位の功績は有るし、私個人としても知らぬ仲では無い故に気にはせぬが、コレでも栄えある『十二獣将』の末席を預かる者であるのだし、こうして陛下も居られるのだからもう少し言葉使いの方を、な……?」
そう言いながら向けられていた視線を辿ると、その先には何やら不機嫌そうな雰囲気を漂わせている獣王陛下の姿が在った。
……やべぇ。ネメアーさんと似たようなノリで、この人にも割りと気安い感じで話していたけど、そう言えばこの人って一国の国家元首なんだから、もっと畏まった口調で接しないと不味かったかな……?
……でも、割りと『獣人族』の人達ってフランクな人が多かったから、案外とどうにかなる……か?
「……すみません、少々気安すぎましたね」
取り敢えず、軽く謝罪してから様子を見ようとした俺に対して獣王陛下は
「……いや、そのままで構わぬ」
と、意外と言うか予想通りと言うか、とにかくアッサリと許してくれはした。
「儂とて、この場に『獣王カニス・ルプス・ファミリアス』として居るのではなく、ただの『カニス』としてお主らを見るつもりで来ておるのだから、別にそれが不快と言う訳ではない。
……それに、儂に会いたい、と言っておったと言う事も、確かに今思い返してみれば、お主らの言う通り、ギルドの者達が騒いで居ったのが一番大きかった様にも思えるし、ネメアーからも『自分達で言い出したにして反応が薄い』とも聞いておったのだから、そこに対して思う処が有る、と言う訳でもない」
……くれはしたのだが、だとすると今こうやって不機嫌でいる事に対する説明が付けられない。
では何故?と訝しげに思っていると、それを察したのか、それとも我慢が限界を迎えたのかは不明だが、その肉球のついた拳にて机を叩き、俺へと強く視線を向けてくる獣王陛下。
「……差し詰、儂の機嫌が悪いのを気にして居るのだろうが、それもこれも全てお主が原因であるのだぞ?解っておるのか!?」
「……何かしましたっけ?」
「何もせぬから言っておるのであろうが!!?」
……はい?
「お主は、コボルトであると見れば、出会い頭に即座に抱き上げ、そのテクニックの限りを尽くして蹂躙すると言う話ではなかったのか!?儂としては、何時それが飛び出して来るか、今襲い掛かってくるのか、と楽しみにしておったと言うのに、一切そう言う素振りを見せぬではないか!!
アレか?儂が中年だから触れたくない、とでも言うつもりか?だが、お主が撫で回して虜にした者の中には、既に老年に差し掛かっておった者もおったとの報告も有ったのだぞ!それなのに、何故に儂には触れに来ぬのだ!理由が有るのなら申してみよ!おおぅ!!?」
…………案外と、下らない理由で機嫌が悪かったみたいです……。
******
……と、そんな事を、『今日は』確りと獣王陛下を目の前でやっているルプスさん(本人から名前で呼べと言われた)を思い返していると、何時の間にやら謁見の内容が進行し、ほぼ最後と言っても良い行程である『報酬の授与』が行われる段取りとなる。
予めの打ち合わせ(ルプスさんを落ち着けてから行った)では、直接の依頼主では無いにしても、それでも俺達の働きによって一番大きな利益(被害の回避?)を得られたネメアーさんが、ほとんど例外的に俺達へと渡してくれる、と言う事になっていたハズなのだが、いざその段階になると何故かルプスさんが近従を伴って俺達の方へと歩み寄り、直接アレコレと渡してくれたのだった。
「ーーーの以上にて、此度の働きの酬いとする。大義であった。
……それと、冒険者タカよ」
「……ハッ!何でしょうか?」
打ち合わせに無かった事態と、更に打ち合わせには欠片も無かったハズの声掛けに一瞬反応が遅れるが、それでもなんとか間に合わせて返事をする。
「そちの働きは目を見張るモノであった。その働きは、そこにおる『十二獣将』達と比べても遜色の無いモノである、と言っても良いだろう」
「……有り難きお言葉です」
「……なればこそ、そなたに追加で報酬を授けようと思う」
「……有り難く頂戴致します」
こう言う時は、断る方が失礼だ、と教わっていた為に、半ば反射で『貰う』と返事をしてしまったが、一体何をするつもりなのだろうか?仕官させてやる事が報酬だ!とかは止めてくれよ?
「うむ、ではそなたには
儂を存分に撫で回す事を許可する!
ほれ、昨日の分まで念入りに撫でてみよ!ほれ、ほれ、ほれほれほれ!」
……突然何を言い出すのかと戦々恐々としていたけど、心配して損した、かな……?
まぁ、良い。本人が良いと言っているのだし、俺が他のモフモフを撫で回すと不機嫌になる奴等も居ないのだから、思う存分にモフってしまうとするか!
ヒャッハー!モフモフはモフモフだぁ!!
……結局この後、ルプスさんが蕩けるまでモフり続けた俺は、同じく謁見の間に居た『十二獣将』の方々から呆れや畏怖、尊敬やある種の恐怖、と言った感情の込められた視線を貰う事になったが、それはまた別のお話。
******
「……気はお済みになられましたか?陛下」
「……うむ、中々に凄まじいテクニックであった。これは、本格的に獲得へと動くべき逸材かも知れぬな……」
「……それほど、ですか……?」
「うむ。アレほどのテクニックを持つ者はそうそう居らぬであろうし、それがアレだけの戦闘力を持つのであれば、他には居らぬであろうよ」
「……それほどまででしょうか?」
「そうよな……。仮に、あの場で仕掛けておったのならば、まぁ仕留める事は可能であっただろうが、『十二獣将』は半数が死んでおっただろうし、儂とて無事に済んだとは思えぬ」
「……なっ!?」
「更に、そこから他の者達や、彼の者の従魔も加われば、儂ら総出でも殺りきれるか心許ない、と言った処であろう。なぁ、レオンハルトよ?」
「……少なくとも、私単体では相手にしたくは有りませんね」
「何と……!では、余計に首輪を付けるか、もしくは『消して』しまわねば危険では?あの国も、此度の功績を聞き付ければ、何かしらの動きを見せる可能性が高いと思われますぞ!?」
「まぁ、それは心配せぬでも大丈夫であろう。彼の者達は魔王殿と懇意の仲とも聞いておるし、彼の国ともあまり相性が良いとも思えぬしの。それに……」
「……それに、敵として立ちはだかる事が万一あれば、儂が直々に叩き伏せてやる故に、心配せぬでもであろう。何せ、あやつは『人族』であったのに儂らに触れたのだ、そうそう儂らへと敵対もするまいよ」
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