09・水場まで案内するつもりだったのですが……
先生とのやり取りの結果、結局取り敢えず直接水場まで案内する事にした俺達だったのだが……
「先生!僕達は反対です!」
「そうだぜ!第一、こいつらが本当の事を言っているって保証が、何処に有るってんだ?お?」
「……それに、私達全員が、数時間掛けて捜索したにも関わらず、終ぞ水場を発見する事の出来なかったのに、彼らはたったの三人で、しかも所要時間も一時間足らずで発見し、その上確保まで済ませて有る何て事は、到底信じられませんね。
むしろ、全て虚言であった、と言う方が納得出来ると言うモノですよ?」
「「「「そうだ、そうだ!!」」」」
……はい、予想していた通り、絶賛大バッシング中なぅ。
そして、何でこんなことになっているのか、については、別段説明が必要でも無いとは思うが一応しておくと、多分皆さんが想像している通りであると思われる。
現在残っている水や食料等の物資が、決して多くない現状では、行動しなければどのみち先は無い!と、俺達との『お話』の後に、生徒達を集めて説明(最早演説)をしていた先生。
その話に対しては、現状の危険性に自覚が有ったからなのか、全員が神妙な雰囲気で聞き入っていた。
が、その纏まっていた様にも思えた空気が乱れ出したのは次の瞬間。
「なので、既に幾つかの食べられる事が分かっている果実の生っている場所や、水源として利用が可能そうな湖まで発見している小鳥遊君達に案内をお願いして、何人かで調査しに行くことにしました!もちろん、私も同行するから、誰か同行を希望する人は居たりするかな?居るなら、今言ってくれると有難いかな?」
その先生の言葉は、あの時森へと探索に入っていた男子達には、受け入れ難い内容だったのだろう。
何せ、自分達は十数人掛かりで森へと踏み入り、数時間もの苦行とも呼べる慣れない捜索作業を、見たことも無い様な植物相手に行った結果、食用にはなるものの、端的に言えば『不味い』の一言に尽きる様なモノしか発見出来なかったのに対して、クラス内では『はぐれ者』であり、何かスポーツ等をしていたとも聞かない上に、体育等の授業でもパッとしない程度の動きしか見せていなかった俺達が、たったの三人だけで自分達が苦労して挙げた成果を遥かに上回るだけの結果を出していた何て事は、流石に『面白くない』を通り越して、『信じられない』になったって事なのだろう。
……まぁ、ここにいる連中の中で、俺達がスポーツ(笑)もとい古流の武術を修得していると知っているのは、先生(出席者等の関係で。祖父達とも面識有り)と乾(話の流れで少々。詳しくは話していない)位のモノだから、知り様が無かったのだろうし、授業だってわざと手を抜いて受けていた(可もなく不可もない平均狙い。意外と難しい)のは事実だから、有る意味当然と言えば当然なのだろうか?
まぁ、だからと言って、自分達の無能を棚に上げ、俺達の善意(先生との『お話』?……はて?何の事やら?)から協力をしても良いと言っているのに、こちらが言っている事は嘘である!と決め付けて一方的に罵倒してくるのを看過し、何事も無かった様に振る舞ってやる程、『広い心』って奴と『忍耐』ってモノを持ち合わせて居る訳では無いし、ぶっちゃけた話をすれば、ただただ足手まといでしか無いこいつらを連れてまで案内してやらなければならない理由は無いし、そうしてやるつもりも無いのだけどなぁ……。
そんなことを考えながら、先生の決定に抗議している大神と、その友人(?)であり、先生に対して突っ掛かっている言葉使いが少々乱暴な『猪戸蓮司』と、冷静な感じを装ってはいるが、その陰険な感じを隠せていない『巳道寺 靖久』の二人を合わせた三人が、先生と口論しているのを何となく横目に眺めながら、俺達は昨日配給してやった事で産出されたヤシの実の殻を、焚き火で炙る事でココナッツオイルの抽出が出来ないかを試みていたりする。
……何でその状況で、そんなことをしているのか、って?
……いや、ね?
先生が演説ぶち上げ始めてから、別段聞く必要が無かった俺達は、割合と暇になっちゃってましてね?
「……暇だな」
「……暇だ」
「ね~」
と、最初は三人で何するとも無く駄弁って居たのだが、ふと視線を上げると、何人かの女子達が、日に焼けたのか赤く成りだしている肌を擦りながら、痛痒そうに表情を歪めているのが目に飛び込んで来たのである。
気になったので聞いてみた処、どうやら昨日の日中の陽光で焼けてしまったらしく、ヒリヒリとした痛みを伴っているとの話であった。
一応、皆木陰に入ったり、俺達が作って配給しておいた帽子(ヤシの葉100%)を被ったりしてはいたらしいのだが、それでも肌が弱かったりする人は焼けてしまったらしいのだ。
……正直、痛そうにしている女性を見ているのは、あまり好きでは無いので、どうにかしてやりたくは有るのだが、どうしたモノか……。
そんな事を考えていた時、別行動をしていたタツが、あるモノを持って来たのだ。
「……タカ、見てみろ。こんな所でも生えていたぞ」
そう言いながら掲げたのは、肉厚で縁がギザギザになっている緑色をした長い葉であり、採取した際の断面からは粘性の高そうな透明な液体が垂れている。
「……アロエか?」
「……恐らく」
……フム、アロエか……。
そう言えば、と思い出して視線をさ迷わせると、案の定昨日配給したヤシの実の殻が転がっているのを発見し、どうせ暇なのだから『お薬』でも作っておくかね、と決断したのである。
まぁ、『お薬』と言っても、今こうしてヤシの実の殻から抽出したココナッツオイルをベースにして、気温によって自然乾燥した果肉?(殻の内側に付いている白いアレ)を削って粉状にしたモノと混ぜ、そこにアロエの果肉と汁を加えて混ぜ混ぜした、って程度のなんちゃってだが、オイルベースなので伸びはまぁまぁ有るだろうし、果肉粉とアロエ汁のお陰かそこそこクリームっぽい感じに仕上がっており、アロエ本体をぶちこんで有るため、抗炎症効果もそこそこ期待出来る……かなぁ?程度の信頼は有る……ハズ。
……多分。
……きっと。
……まぁ、出来たてのソレを殻の器に入れて、多分薬効が有るハズだから、使ってみる?と言いながら渡してみた処、結構喜んで使いだしていたっぽいから、それで良しとしておくかね?
そうやって時間を潰していると、苦い顔をした先生と、笑顔を浮かべた大神達がこちらへと近付いて来るのが見えたので、話し合いは終わったのだろうと判断する。
……まぁ、大神達三人が浮かべている笑みが、種類で言えば確実に『嘲笑』の類いであろうソレになっていたり、俺達に気付かれない様になのか、下手くそに気配を隠して俺達の後ろ側に回り込もうとしている野郎共が居たりするって状況から、あまり俺達にとって愉快な答えが出た訳では無いのだろう事は、明らか過ぎる程に明らかだろう。
それでも、極小の可能性を期待して、取り敢えず聞くだけ聞いておく。
「……それで?結局の処、どうするんだ?」
「……それが……」
そう、言葉を濁そうとしていた先生を押し退けて、大神が前へと出てきて、俺達へと宣言する。
「君達の情報は、信憑性が薄いと判断させてもらった!よって!君達の装備と所持品、それと食料や水等も僕達で強制的に押収させてもらう!ついでに、嘘だとは思うが、君達が発見したと言っていた諸々についての情報も詳しく吐いてもらうから、正直に全て話すように!良いね?」
「なぁに、抵抗しても構わねぇぜ?その時は、お前達が痛い目に逢うだけだけどよぉ?」
「……もちろん、本当だったと確認されれば、最低限の食料と水は配給して差し上げますよ。それで文句は無いでしょう?何せ、今すぐこのグループから丸裸で追放する、とは言っていないのですから、ね?」
……フム、そう来ますか。
まぁ、予想外でも何でもないから、欠伸が出てきそうだけど、取り敢えず我慢して会話してみますかね。
「……俺達が素直に従ってやらなけりゃいけない理由が何か有るのか?」
「当然だろう?僕がこのグループのリーダーなのだから。グループに所属している以上は、僕の命令は絶対なのは明白だろう?」
そんな、訳のわからない事をドヤ顔で宣う大神。
そして、そのドヤ顔のまま、視線をチラチラと俺から乾の方へと頻繁に向けている。
……こいつ、もしかしてアレか?
あいつへのアプローチの為に、俺よりも立場が強いってアピールしたいだけか……?
もしかして、と思って女子達の方に視線を向けると、乾と友人二人は大神達に対して嫌悪感すら感じられる視線を向けていたので、俺が視線を向けた事には気付いていなかったのだが、他の女子達は一部を除いて俺の視線を感じると、まるで疚しい事が有るかのように視線を逸らしていた。
……そっちまで手配済み、ってか……。
……アホらし。
そんな事を考えていた俺に、相変わらずのドヤ顔で
「さぁ決断は出来たよね?もっとも、答えは一つしか無いだろうけど?」
と大神が抜かして来たので、俺達は目配せしあってから、三人同時にこう答える。
「「「なら、俺達このグループ抜けるから、後はお前さん達で頑張ってね?」」」
助けてやろうかと思っていたけど、止~めた。