87・……さて、少し本気を出すとしましょうか……
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……ちょっと、これは不味いかも知れない……。
そう、思い人である小鳥遊 博正を前にしながら、乾 紗知は己の心のなかでそう溢す。
今回の手合わせは、少し前まではほぼ彼女の読み通りと言うか、想定の通りに進んでいた。
最初手の奇襲を回避される事も、陣形を組んでからの攻撃も回避される事も、音澄 京香と亜利砂 レイブンクローの『技能』による攻性結界と自身の大技を回避された事も、それから繋がる『術式変換』による奇襲を回避された事すらも、一応は想定の内側の出来事ではあった。
……まぁ、正確に言えば、二人の『技能』の合作であった攻性結界を、あそこまで強引な手段によって突破される事も、その後で自身の放った魔法を意図も容易く無効化して見せた事も予想外ではあったが、そこは仕方の無い事だと言っても良いだろう。
そして、そんな『想定内』の出来事を経て、手合わせの相手である小鳥遊に手傷を負わせ、自身の味方で囲んでいるのが現状だが、それでもやはり『不味い』と言わざるを得ない状態である、と言うのが乾の認識であった。
何故ならば、こうして彼を取り囲む面子は、本来であれば今いる『八人』ではなく『九人』いるハズの予定であり、その脱落させられた一人こそ、彼女の陣営の中で最も高い単体戦闘力を持つハズの人物であり、こうして取り囲んだ際に主力として運用する予定の人物であったのだから、その損傷は計り知れない。
そんな人物が予定外の退場を強いられ、予定の通りではあれども大した負傷を与えられていない状況で、目の前の彼がその身に纏っていた雰囲気を一変させたのだ。
……そう、それまでの、比較的ダメージが少ないからと言う理由で、無理矢理に攻撃の中を突っ切って来た事により全身から少なくない量の出血を起こしているが、普段とあまり変わらない様な雰囲気で佇んでいた彼が、急にその空気を『冷たさ』すら感じ取れる様なモノへと一変させ、それまで自分達へと向けられた事の無い性質のモノであると容易に想像出来るだけの、異質な雰囲気へと変貌させたのである。
恐らくは、『コレ』が彼の言う処の『本気を出した』状態なのだろう、と彼女は悟る。
本来の彼女らの目的の一つとして、どうにか彼から本気の状態を引き出す、と言うモノが設定されていた為、本気になられた事ソレ自体は別段想定外と言う程のモノではないし、むしろ予定通りと言えるだろう。
……だが、それは『今』では無いハズだったのだ。
本当であればもっと後、具体的に言えば、こうして囲んで皆で集中攻撃を敢行し、どうにか一本取った後に『お願い』と言う形で『自分達対本気を出した彼』の手合わせをお願いする予定であったのだ。
そしてそれも、今の時点での自分達と彼との戦力差を再確認する為のものであり、こうして闘争の最中で『本気』を出される、と言う事自体が想定外以外の何物でもない、と言うわけなのである。
そんな、望んでもいなかった事態に、最高戦力の一つが失われた状態で挑む事となった彼女は、拭い去る事の出来ない『嫌な予感』と共に、彼へと挑む事となるのであった。
******
アストさんを『披致命傷』判定により退場させる事に成功した俺は、いい加減に手抜きをする事を止め、そろそろ真面目に『本気』を出す事を決める。
……と、言うよりも、本音をぶっちゃけてしまえば、彼女らを相手にして『全力』で当たる訳にはいかない以上、俺が出せる範囲だと『本気』で当たる他に無いし、そろそろ『本気』で掛からないと冗談抜きで一本取られかねないから、と言うのが正直な処ではあったりするけれど。
まぁ、言い方を変えれば『ワンチャン負けそうになってきたから、そろそろ大人気なく本気出す』とも言えるだろう。別段、間違ってはいないのだから否定はしないけど。
そんな感じで、取り敢えず『本気』を出す、と決めた俺は、軽く周囲を見回して俺を包囲している女性陣が、何処に誰が居るのかを確認して行く。
……ふむ、正面かつ一番遠くに布陣しているのが乾と桜木さんで、比較的近距離で左右に展開しているのが先生、音澄さん、久地縄さん、亜利砂さん。
そして、一番近い位置取りで、尚且つ俺の背後に着いているのが阿谷さんとサーラさん、かな?気配からして、多分右後ろが阿谷さんで、左後ろ側がサーラさんだと思う。
さて、だとすると、どうするべきかな?
ここは、やはり一番厄介そうな乾と桜木さんのペアを速攻で潰しに行くか、それともさっきの大技の時みたいな連携をされると面倒な亜利砂さんと音澄さんを殺りに行くか、もしくは以外と面倒臭い『技能』の持ち主である先生と久地縄さんを先に片付けるか……。
…………よし、決めた!
アストさんが脱落してから僅か数十秒、俺自身が『本気』を出す事に決定し、思考を紡ぎだしてからほんの数秒にて最初のターゲットを決定すると、それまで取っていた自然体に近い構えを変更し、明らかに『前へと飛び出しますよ!』と大声で叫んでいる様な体勢へと移行する。
その視線の先には、先程急ぎで放ってきた魔法によって再度魔力が尽きたのか、それとも別の理由からかは不明だが、未だに桜木さんと手を繋いだままで淡く光る靄の様なモノを吸収し続けている乾の姿がある。
そんな俺の予備動作に気が付いたからか、もしくは予め乾から狙われるとの予想を聞かされていたのかは不明だが、ほぼ一斉に両サイドに展開していた四人が乾達の方へと若干の初動を見せる。
そして、そんな事はお構い無しに、司令官たる乾を落とすべく、前傾させた姿勢によって蓄えた勢いを解き放ち、前方へと弾かれる様に飛び…………出さずにその場で反転し、やや右寄りにしんろを取りながら走り出す。そして、俺の背後から追い討ちを掛けようとしていた二人へと襲い掛かった。
当然の様に俺が前へと飛び出すと思っていただけに、急に反転して自分達へと襲い掛かってくるとは露程も考えていなかった二人だが、それでも咄嗟の反応として俺を迎撃するべく、その手に持っている得物を振りかざす。
そんな、女性陣の陣形のが中では壁役を勤めていた二人の内、最初から狙っていたサーラさんへと急接近を仕掛ける。
さすがに、自身の装備が、鎧はともかくとしても、武装と言う点に於いては足を止めた状態で、自らの懐に入られると不味い、と言う事は知っていた様子で、どうにか近接され過ぎるよりも先に打ち払おうと、やや後退しながらも右手の突撃槍を俺目掛けて突きだして来る。
が、あくまでも咄嗟に突き出された攻撃である以上、その一撃には本来持ち合わせていたのであろう鋭さも、速さも重さも込められてはおらず、大分『温い』一撃となってしまっていた。
なので俺は、敢えて飛び上がり、わざと突撃槍の鋒を爪先で受け止めると、突き込まれる勢いのままに片足を後方へと送り、もう片足で突撃槍の上へと着地すると、中途半端とは言え全身の力にて支えられている内に、そっと手に持った槍の鋒をサーラさんの首筋へと添え、視線にて『どうする?』と問うておく。
「…………某の負けです。完敗、と言うモノですね……」
そう、悔しさを滲ませながらも、何処か晴れやかに告げるサーラさんの声を聞きながら、次の瞬間には突撃槍の上から蜻蛉を切って飛び上がり、その場で回避を選択する。
すると、寸前まで俺が居た突撃槍の上の空間を凪ぎ払いながら、サーラさんの身体には紙一重で触れない程の精密さで『鉄塊』が通り過ぎる。
その一撃自体は、ギリギリ俺には当たりはしていないものの、それでも万が一に巻き込まれた場合、痛いでは済まされない事になるのは目に見えているので、上手い具合に回避出来た事に、内心でソッと胸を撫で下ろす。
そして、そんな攻撃を仕掛けてくれた阿谷さんへと鉄槌を下すべく、空中で体勢と位置を調整しながら身体を捩り、まだ得物を振り抜いたままで体勢が固まり、その上で視界から消えてしまった俺を探している阿谷さんの背後へと着地すると、稼働部を確保するために空けられていた両脇の下へと人差し指をプニッと突き込む。
「きゃっ!?」
すると、意外にも可愛らしく女の子らしい悲鳴?を挙げた阿谷さんが、手にしていた得物を放り出し、咄嗟に両手で脇の下を隠しながら背後へと振り返り、そこにいた俺へと睨む様な視線を向ける。
だが、俺がその気になっていたら自分がどうされていたのかは正確に把握出来ているらしく、その場で両手を掲げて降参の意を表明してから、放り出していた得物を拾ってサーラさんと共に戦場と化していた処から離脱する。
ここまでで、俺がフェイントを掛けてから1分足らずしか経っていないが、俺の予想よりも早く事態を把握して動きを再開させたらしい他の女性陣が、二人の仇!とでも言いたげな視線と共に近接してくる。
そして、俺もそれに相対するかのように得物を構え、同じく距離を詰める為に一歩前に踏み出した処で大きく跳躍し、前方から迫りつつあった三人の頭を飛び越えて、本丸である乾へと迫って行く。
「さすがにそれは予想外かな!?だけど、幾ら小鳥遊君とは言っても、流石に空中では回避出来ないんじゃないかな!?」
が、そうは問屋が卸さない、とばかりに、空中に居る俺へと目掛けて矢を射掛けようとして来る先生。
しかし、俺の方でもそれを予期していなかった訳では無いので、コッソリと手の中に造り出していた『あるもの』を、一見関係の無さそうな方向へと手首のスナップを聞かせて放り投げる。
それに怪訝そうな表情をする先生だったが、取り敢えず射ってしまえ!とばかりに引き手を離そうとする。
すると、次の瞬間。
正面に俺を捉えていた先生へと、全く警戒していなかった横手からの飛来物が襲来し、今まさに矢を解き放たんとして限界まで力を蓄えていた弓へと、その刃を深々と食い込ませる。
そして、その衝撃により、定めていた狙いを剃らされ明後日の方向へと矢を放ってしまう先生と、矢を解き放つ瞬間に余計な切り口を付けられた事により、本格的に修理しないことには、次に弦を引いた際に『弾けない』保証の出来なくなった弓だけが残される形となった。
……うん。ネタのつもりで習ってみたけど、案外と使えるんじゃあるまいか?手裏剣術って?
そんな思いと共に無事着地を果たした俺は、自身へと殺到する大小様々な魔法による弾幕を、時に回避し、時にその『起点』を破壊する事で無効化しながら前進し、乾と桜木さんの背後へと半ば無理やり回り込むと、それぞれの後頭部へと得物を添えて投降を促し、二人共に『戦闘不能』判定を出させる事となった。
こうして、遠距離火力と司令塔を失った事により、残った面子を各個撃破され、女性陣は敢えなく敗北する事となってのであった。
******
「ねぇねぇ、小鳥遊君?結局『あれ』って何だったのか教えてもらえるの助かるのだけど、教えては貰えないかな?それとも、教えられない様な類いのモノだったりする?」
手合わせを終え、リンドヴルム達が待っていた一角へと移動した俺が、手合わせの開始時点で軽く俺に叱られ、少々落ち込み気味であったリルの機嫌を取るために、胡座をかいた膝の上に顎を乗せさせてやりながら頭部をブラッシングしてやっていると、俺の不思議技にて自身の魔法を無効化された乾が、好奇心と向上心が半分ずつ混ざった様な雰囲気で訪ねて来た。
それに対して、一瞬リルが反射で威嚇しそうになったが、俺が右手でブラッシングしてやるのに加えて左手で眉間の部分をカリカリしてやると、逆立ちかけた毛が落ち着き、それと同時にリルの表情にも『穏やかさ』が混ざってくる。
そんなリルを見て羨ましくなったのか、カーラも自分用のブラシを部屋から咥えて持ってきており、次は自分の番ですよね?と言いそうな目で俺を見詰めている。
……やべぇ、家の子達超可愛い……!
そんなリル達を眺めて相貌を崩している乾だったが、それでも俺の行動について聞き出すことを諦めてはいないらしく、この場を離れようとはしていない。
まぁ、教えても大して問題は無いだろうから、教えても良いか。
「俺が『何をした』って質問だったけど、大した事はしてないぞ?ただ単に、この目で見えていた魔法の『起点』を攻撃して潰した、ってだけだからな?」
そう言いながら、俺は左手を一旦止めて、親指で眼帯を押し上げてやり、普段から隠している左目を見せてやる。
「あの『迷宮』を登っていた時に気付いたんだけど、どうやらこの目には魔法の類いの『構成』が見えるらしくてな?途中までは面白かったからただ見ていただけだったんだけど、途中からどんな種類の魔法でも、共通して存在する『とある部分』があった事に気がついてね。そこを試しに突っついてみたら魔法ごと消滅した、って訳さね。俺はそれを『起点』と呼んでいるけど、正式に何かしらの名称があるのかは知らない」
一応、この左目は眼帯越しでも周囲を確認する事くらいは楽勝で出来るから、こうして付けっぱなしでも不自由なく対応出来るのだけれどもね?
それを聞いた乾は、じゃあ私には無力化かぁ……、と軽く落ち込んでいたが、次の瞬間には
「じゃあ、どう言う風に見えてるの?見え始めはどの段階から?見えるのってどの程度の範囲までなの?」
と質問攻めにしてきた。
それに一々答えてやり、それとも平行してリルとカーラにブラッシングしてやりながら、今度はタツとレオがやり始めた手合わせを見物し、其のついでに忘れていた怪我の手当てをするのであった。
……道理で、リルが矢鱈と匂いを嗅いできたり、舐め回そうとしてきたりする訳だよ。
遅れてしまって済まぬ……済まぬ……
次回はもうちょっと早く投稿出来る様に頑張るでゴザル……
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