83・残りの魔物を掃除します
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『モッシャモッシャモッシャモッシャ!……ゴクン!お代わりなのじゃ!』
『ガッフガッフガッフガッフガッフ!……ウォン!』
「……分かっている、少し待て……」
「食事は必要無いとか言っておきながら~、君達どれだけ食べれば満腹になるのかなぁ~?既に~、この『迷宮』に潜ってから僕達が消費したのと同じくらいは食べてるみたいだけど~?」
「……どうでも良いが、お前達は元気だのぅ……。俺は、か弱い人間だから、絶食した後はこうして消化に良いモノから馴らさないといけないって言うのに……」
料理の匂いに誘われる様に、気絶した状態から意識を取り戻した俺がそう溢しつつ、タツから渡されたパン粥(出汁の効いたスープでパンをクタクタになるまで煮込んだモノ。消化に優しい)の器を抱え込んで香りを堪能している横には、以前俺に宣言していた通りにタツの料理を貪る様に食っているリンドヴルムと、俺から分け与えられた干し肉の段階で感激していたのに、それを遥かに上回るタツの手料理(肉料理)の魅力に取り憑かれ、リンドヴルムに負けじと言わんばかりの凄まじい勢いで、その体格に見合っただけの量を次から次へと喰らっているリルの姿が有った。
『いやぁ、主殿に合わせて食事を取る習慣を付けてしまったが故に、定期的に食わねば腹が減る様になってしまってのぅ。まぁ、食わねども死にはしないのじゃから、不要と言えば不要じゃが、楽しみの一つではあるからのぅ』
そう言いながらも食べる手を休めないリンドヴルムは、その小さな身体の何処にそんなに入るのか?と問い掛けたくなる程の量を完食し、その上で更なる料理をレオへと要求している。
『ワッフ!!』
リルはリルで、こんな処の奥底で縛り付けられていたのに、あれだけ元気だった事を考えれば食事は無くても大丈夫なのだろうが、それでも途中で俺が与えた干し肉(俺特製)にて味を占めたのか、それとも『料理を食べる』と言う行為に楽しみを見出だしたのかは不明だが、既にガッツリと嵌まり込んでしまっているらしく、既にタツを見る目には険しさの欠片も無い上に、すっかり警戒心を解いてタツが料理している処を近くで尻尾を振りながら覗き込んでいたりする程である。
……俺としては、自分に一番なついていてくれただけに、少々寂しい様な気もしてくるが、リルが他の面子にも馴染んでくれるのであれば、それはそれで別に良いかなぁ、とも思っていたりする。
そんな、複雑と言う程には複雑では無い様な気もする気持ちを抱えたままで、リルやリンドヴルムとは逆隣に止まって『食べないの?』と心配する様な瞳で見詰めてくるカーラに促される様に、タツから恭されたパン粥に手を付ける事にする。
スプーンで一匙掬って持ち上げ、軽く吐息で冷ましてから、先ずはスープだけを一口啜り込む。
……うん、旨い。
肉系の素材由来の旨味はもちろん真っ先に感じるのだが、それは単一のモノによる旨味ではなく、複数の種類のモノを溶け込むまで煮込んだ事による調和の取れた旨味。
その証拠に、真っ先に感じた肉系の旨味の後には、大量の野菜を煮溶けさせないと産み出す事の出来ないであろう優しい甘味と微かな薫り、そして、最後に感じるのは恐らく一瞬だけスープに潜らせる程度に抑えたのであろう、乾物による魚介の濃縮された出汁の味。
……本来であれば、それらは互いに喧嘩したり、僅かな処理の手違いで臭みが出たりするモノなのだろうが、それを一切させずにここまで素晴らしい調和を産み出しているのだから、やはりタツの料理の腕は侮る事は出来ないだろう。
最初の一口をゆっくりと味わってから少しずつ飲み込み、慎重に胃の反応を探ってみる。
幸いな事に、ここ数日(多分)は絶食状態が続いていた為に、一時的に弱っているだけらしく、数週間単位での絶食状態程に受け付けなくなっている訳ではない様子なので、スープ皿に浮かんでいるメインの方へと匙を伸ばす。
そして、クタクタになるまで旨味の凝縮されたスープで煮込まれたパンの欠片を、スプーンで掬ってスルリと一口。
……うん、やっぱりこっちも旨い。
先程と同じく、様々な具材によってもたらされた旨味の籠ったスープが、本来であれば固めに焼き上げられており、軽く酸味すら感じられたハズのパンを半ば形が崩れる程に煮込んでおり、パン自体を柔らかくするのと同時にスープの滋味を吸い上げて濃縮しており、スープから感じられる『旨味』をより強く感じられる様になっている。
そして、その旨味を感じるのと同時に、パン本来の小麦の香りや表面部分に僅かに残った固さがアクセントとなっており、より一層スープの完成度を高めている様に思える。
口に含んだパンを確りと咀嚼し、固体が残らず完全に液体状になるまで噛み砕いてからゆっくりと飲み込む。
……うん。多少の違和感は流石に有るけど、戻したり胃痙攣を起こしたりする程の抵抗でも無いみたいだから、多分大丈夫だろう。
そんな思いと共に、ゆっくりと、しかし、確りと味わいながら、パン粥を少しずつ頂いて行く。
「……旨いな……」
その過程で、ポツリと口から溢れる様に出たその言葉に、未だにリンドヴルムとリルにせっつかれながら料理を増産し続けていたタツは、その無表情な口元に微かに笑みを浮かべ、俺の元へと突撃しようと試みながらも、何かしようとする度にリルから『ジロリ』と睨まれてしまい、結局動く事が出来ずに悔しそうな表情をしていた乾や先生、久地縄さん、阿谷さん、アストさんやサーラさんと言った女性陣も、その顔に安堵の表情を浮かべている。
それらを見て彼ら彼女らの『気配り』を実感した事で、漸く『帰って来れた』のだなぁ、と改めて認識する。
ぶっちゃけた話、俺が今食べているこのパン粥のベースとなっているスープには、考えるだけでアホらしくなる程の時間と手間が掛けられているハズだろう。
しかし、それを俺がボロボロの状態で帰還した途端にスッ!と出して来る事が可能だったと言う事は、俺がこうなるか、もしくはそれに近い状況を予め予測していたと言う事になるだろう。
……何せ、普通ならばもっと具材の類いをゴロゴロと投入して、食事のメインとして提供するのが妥当であろう程のスープを、わざわざ具材無しの状態に仕上げているのだ。
タツが故意的にそう作らない限りは、そうなることは無いだろう。
レオはレオで、こうして俺達が安心して食事ができる様にと、率先して周囲の警戒に努めてくれている。
女性陣が俺に突撃を仕掛けようとしていたのだって、俺が疲労やら空腹やらのあまりに気絶したのがそもそもの原因である以上、それはやはり俺への心配心から来ていた行動だと考えても良いだろう。
……若干数名程は、何やら呼吸を荒げていた様子が見て取れた為、些か目的があやふやではあったけれども。
その他の面子も、俺達の無事を喜んでくれている様子であり、そうやってタツとレオ以外にも、俺の事を気にかけてくれる人達が居た事に、胸の奥が温かくなると言う奇妙で今までに感じた事の無い、それでいて何処か嬉しくなる様な感覚に身を委ねながら、ゆっくりと少しずつパン粥を干して行くのであった。
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「……成る程。やはり、お前が原因だったか……」
「仕方のなかった事なのだろうけど~、危うく殺されかけた身としては~、ちょ~っと文句の一つや二つは言いたくもなるってモノなのだけれども~?
まぁ~、その命の危機も~、タカのお陰で回避出来たみたいではあるし~、あまり突っつかない方がお互いの為かなぁ~?」
「そうしてもらえると、俺としては助かるかな。
んで?どうするんだ?一応、俺達でこの『迷宮』の『核』は壊して来たから、もう魔物が湧く事は無いみたいだけど、別段根刮ぎにしながら登ってこれる程余裕が有った訳じゃあないから、まだまだ残りが居るハズだけど?」
タツ特製の食事を腹に納め、一旦落ち着きを取り戻してから互いに別れてからいまに至るまでのアレコレを報告して行く。
そして、俺の側の情報提供が終わった段階で、今後の方針を決める必要が出てきたのだが、それに少々手間取っていたりする。
……そう、実は、冒険者ギルドの方で受けた依頼である『『迷宮』を殺してしまう事』と、『『迷宮』内部での魔物の間引き』は、既にほとんど完遂してしまっている、と言っても良い状況にあるのだ。
一応、俺が最下層で『迷宮』の『核』を砕いて、この『迷宮』は殺してしまっている為に、元々の懸念であった魔物の『氾濫』は発生しえなくなっている。
『核』を砕いてしまっている以上は、新しく魔物が湧く事は無いからね。
そして、それと平行してお願いされていた、『迷宮』内部の魔物の間引きについても、俺達が下まで降りきる際や、タツ達が降って来る際に散々蹴散らした為に、こちらもほぼ終わっていると見ても良いだろう。
それ故に、現時点で既にギルドから俺達へと発行された依頼は、ほぼ終わっていると考えても間違いは無いし、目標は達成したとしてさっさとこの『迷宮』を脱出してしまっても、何の問題も無いだろう。
特に、使えるかどうかが危うい怪我人(俺)がいる以上は、さっさと脱出してしまう事が、おそらくは『正解』と言える事なのだろう。常識的に考えれば。
「……やはり、掃討するしかない、か……」
「まぁ~、それしか無いよねぇ~?ここまで来て一旦引き返すのなんて効率が悪すぎるし~、そもそも僕達以外に出来そうなのがいないみたいなんだから~、どのみち殺らざるを得ないんだからさ~、さっさと殺っちゃう方が良いよねぇ~?」
……だが、それが出来ない事情、と言うモノが有る。
以前にも説明した思うが、『迷宮』で出てくる魔物は基本的に下層になればなる程に強くなって行く。
それこそ、上層と下層で比べると、文字の通りに桁が変わる程の強さを持つことも珍しくは無い。らしい。
そして、その下層の魔物が残っていると言う事は、他の連中では上層の魔物しか相手に出来無い以上はどのみち俺達で駆除する必要が有るのだ。
更に言えば、既に俺が『核』を砕いてしまっている関係上、下層の連中も上へと上がってくる可能性が有る(『核』が無事な『迷宮』では、基本的には魔物は同じ階層から上下に移動したりはしない)為に、やはり俺達で駆除する必要性が出てしまっているからだ。
……まぁ、それだけ、と言う訳でも無いけれど。
「行くのか戻るのかは置いておくとしても、基本的に下の方に出てきた強めな魔物連中は、比較的余裕の在った時になるべく倒す様にしておいたから、そこまで苦労はしないんじゃないかな?
この面子で行くならば、どう転んでも最悪の事態は起きないとは思うけど?」
「……ならば、ますますやっておくべきだろう、な……」
「そうだねぇ~。それに~、まだまだ取ってない宝箱も有るらしいから~、それらの回収も兼ねて~、このまま一回下まで行く、ってことで良いかなぁ~?」
「もう、それで良いよ。
さて、そうと決まったら、さっさと殺ってしまおうか。俺は、早く終わらせて早く戻って、さっさと風呂入って寝たい。そろそろ完徹し続けるのがきつくなってきた……」
「……同感だ……」
「まぁ~、タカは何だかんだ言っても一人だったからねぇ~。それで~?アレ相手に何徹状態で殺り合ったの~?」
「……そろそろ時間の感覚が無くなって来た頃合いだから……多分四日目の真ん中位じゃなかったかな……?多分、お前らが襲われたのとほぼ同じタイミングだったハズだけど?」
もしくは、お前さん達の方が少々早い程度の差じゃないのか?と、沸き上がって来た欠伸を噛み殺しながら、食事をした事によって得られた活力を元に足に力を入れ、それまで然り気無く背もたれになってくれていたリルに手を付きながら立ち上がる。
すると、それまで背もたれになりながら、何やら妖しげな雰囲気を醸し出していた女性陣への牽制をしてくれていたリルも立ち上がり、それと同時に、そのモフモフの羽毛にて俺の弱っていたお腹を温めながら、俺の精神的なケアも行ってくれていたカーラも同様に起き上がり、リルと共に俺を見詰めてくる。
……なお、リンドヴルムは食うだけ食った後、まるで自分の出番は終わった、とでも言いたげに、腹を出して鼾をかきながら眠っている。リルの背中で。
そして、俺が立ち上がった事で、俺に対して何やら妖しげな雰囲気を向けてきていた、乾を筆頭とした女性陣四人とアストさんが真面目な表情で戦闘準備を初め、サーフェスさんとシンシアさん、及びにサーラさんがリルへと向けていた畏敬の視線をずらし、残りの桜木さん、音澄さん、亜利砂さんの三人も、それまでどうにかしてリルのモフモフの毛皮を触れないだろうか?と色々と試していたが、そのリルが立ち上がって纏っていた雰囲気をガラリと変えた為に、今回は諦めて素直に準備を整え出した。
そんな全員の様子を確認した俺は、リルの背中によじ登り、未だに爆睡し続けているリンドヴルムを膝の間に抱えると、皆へと号令を下すのであった。
「皆、準備は出来てるな?なら、さっさと降ってさっさと殺って、早い処上へと帰るぞ!」
その、俺からの号令に、皆がそれぞれに返事を返してから、それまで休憩所として使っていた場所から移動するのであった。
一応、今回で迷宮回の大まかな部分は終了。次回の回想(?)にて細かい処をちょこちょこやって完全終了の予定です。
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