82・ようやく合流しました
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今回、ようやく合流します
グルルルルと、まるで大型の肉食獣が立てる唸り声であるかの様な音が、俺が騎乗するリルの呼吸音とリンドヴルムの羽ばたきが響く以外は静寂に支配されていた『迷宮』の回廊に響き渡る。
取り敢えず、リンドヴルムとリルに戦闘を丸投げし、リルの背中にてひたすら休息する事に費やしていた為に、一応は普段の通りに動ける様にはなった右手で、先程激しく自己主張してきた自らの腹部を撫でておく。
『……主殿。やはり、あの時に妾達に食料を分けぬ方が良かったのでは無いかのぅ……?』
『クゥーン……』
そんな俺の行動を見かねたのか、それとも雰囲気から男子高校生特有の空腹時の哀愁を感じ取ったのかは不明だが、リンドヴルムとリルが何やら申し訳無さそうに声を掛けてくる。
「何、あんまり気にしなさんな。どのみち、残ってたのがアレだけだったんだから、お前さん達に回さなくても大して変わりはしなかったって。それに、物欲しそうな視線が集中している中を、俺だけが携帯食料をかじっていれば良かった、と?」
『……そう言われてしまえば、確かにその通りじゃし、妾にも心当たりは有るのじゃが……』
『ワフン……』
俺が茶化すつもりで放った多少意地の悪い返答により、申し訳無さそうな声を上げるリンドヴルムと、こちらも申し訳無さそうに耳を倒し、尻尾をダランと下げてしまうリル。
……あらやだ可愛らしい……じゃなくて、そこまで落ち込まんでも……。
そんな事を考えつつ、腹を擦って空腹を誤魔化しながら、この空気をどうにかするためにリンドヴルムへと話題を振る。
「あーっと……。そ、そう言えば、今俺達ってどの位登って来ていたっけ?それなりに登ってた思うんだけど?」
半ば強引な話題転換に、その手の空気を読むことを得意としているリンドヴルムは俺の意図を理解した様子だが、敢えてそれに乗るつもりらしく、別段遮る訳でもなく俺の振った話題に食い付いて来る。
『……割りと大雑把にしか数えて居らぬから正確では無いかも知れぬが、大体三十階層は登ってきているハズじゃのう』
「もうそんなにか?幾ら基本移動がリルに乗っかってで、宝箱や魔物も半分放置して突き進んでいるとは言え、流石にちと速すぎはしないかね?」
『……とは言ってものぅ。リルの鼻で最短距離を割り出し、その道をリルの足で主殿の安全を確保した上で出せる最速にて踏破しておるだけでなく、途中で行き逢った魔物しか討伐せぬのに加えて、本来確保に動くべき宝箱の類いも放置しておるのだから、それは早くもなろうと言うモノじゃろうのぅ。
まぁ、途中から魔物との遭遇率がガクンと落ちた事も、こうして速度が出せておる理由の一つじゃろうがのぅ』
「……そうは言っても、わざわざ止まって魔物の相手をしていたのって最初の十層位のモノで、それ以降は『面倒臭い』とか言い出して、リルに撥ね飛ばさせていなかったっけ?『戦う』処か『止まる』事すらせずに?
……まぁ、それが無茶ぶりにならずに実行出来るリルが凄いのだろうとは思うけど、ね?」
『ほれ、そこは主殿を飢えさせてはならぬと言う、妾達の気遣いじゃよ。まぁ、それでも実際に働いておったのは基本リルなのじゃから、妾がどうこう言うのもちとアレかも知れぬがのぅ。
……確かに、妾もちょ~っと適当に言い過ぎたかなぁ?と思わなくも無かったのじゃが、まさか本当に実行するとは思って無かったのじゃよ……。まぁ、それはそれとして、その無茶ぶりを実行出来たリルが凄いのじゃろうけどのぅ?』
『ワフン……?』
会話の内容を理解しての行動では無かったのだろうが、それでも自分の名前が俺達の会話に於いて登場した為に
『呼んだ?』
とでも言いたげな視線を、移動を続けたままで俺達へと向けて来るリル。
そんなリルに対して、『何でも無いよ』と言うのと、『リルは凄いって事だよ』と言う意味を込めて、リルの耳裏と首筋を軽くモフモフしておく。
すると、俺との触れ合いでテンションが上がったのか、それとも俺が怒っていたりはしていない、と言う事が伝わったのかは不明だが、最初のやり取りにてペタリと伏せられてしまっていた耳がピン!と立ち、項垂れる様に元気を無くしてしまっていた尻尾も、幾分か力を取り戻して上向きになり、左右に緩く振られるまでになっていた。
……うむ。反省中のワンコも、それはそれで可愛らしいモノだが、やはりワンコは楽しげで、テンション高めの状態が一番愛らしい。異論は認める。
そんな感じでやや高めのテンションに落ち着いたリルに対し、走行しながら魔物を撥ね飛ばして見せる度に『偉いぞ~!』だとか『凄いなぁ~!』等の言葉にて誉めながら、上半身を使ってリルの頭頂部の付近をワシャワシャ~!!っとなで回していた処、どうやら完全にリルの脳内では
『魔物を撥ね飛ばす』=『主(俺)に誉めて貰える』
と認識したらしく、文字の通りに進路の途上に居た魔物だけでなく、進路から外れない程度の位置に居た魔物達に対しても、自ら率先して進路に集める様にして魔法等にて追い詰め、その後で撥ね飛ばして見せてから顔を後ろに向けて来て、まるで
『頑張ったので誉めて下さい!』
とでも言いたげな視線を向けて来るのである。
……そして、そんな視線を向けられら度に、俺も俺で
「よ~しよし!リルは凄いなぁ、偉いぞ~!」
と誉めながら、リルに跨がったままでも撫で回せる耳裏や首筋を、やや大袈裟な動きで撫で回したモノだから、余計にその認識が高まったらしく、今ではリンドヴルムが魔物を見付けて警告も兼ねて報告してくるよりも先に、リルが速度を上げて撥ね飛ばす方が早くなっていたりする程である。
……そのお陰か、今度はリンドヴルムが仕事を盗られた、と少々拗ねてしまうことになったが、そちらも急所(喉元)をしばらく擽ってやると、身体をピクピクとさせながら蕩け出したのでそこまで長引かないだろう。……多分。
そうして、ほとんど出てこなくなった魔物をリルに撥ね飛ばして貰いながら、階層を昇る事更に数階層分。
流石に、空腹感のキツさと、それに伴う気だるさによって、リルの背中に寝そべる形でしがみつくだけで精一杯となってしまっており、まだ餓死するには早いだろうが、そろそろ本格的に動けなくなって来たなぁ、と何処か他人事の様な視点で物事を考えてしまう。
そんな俺の状態を察しているらしきリンドヴルムとリルにも、早く合流しないと俺がヤバい!との認識を持たれているらしく、自然とリルの速度も上がって来ているし、リンドヴルムはリンドヴルムで、何やら物騒な雰囲気を醸し出し掛けている。
『……このまま死なれる位であれば、一層の事妾の片腕位は食わせて見るべきかのぅ?流石に、この状態であれば、口の中に入ってきたモノを即座に吐き出す、などと言う事はせぬであろうが、その反面今の妾の片腕程度では大した足しにはならぬと言う事かのぅ……』
『……ガゥン……!』
『……リルよ、それは最後の最後にとっておく方が良いじゃろうのぅ。お主はこうして主殿を運んでおるのじゃから、お主がそうしてしまっては、誰が主殿を運ぶと言うのかのぅ?それに、主殿は確実に『ソレ』を望まぬじゃろうから、下手をすれば口にしては貰えずに、却って衰弱させる事になりかねないじゃろうのぅ……』
『……ワオン!』
『分かっておる!分かっておるが、それしかもはや手が無いのじゃよ!回復薬の類いでは傷はどうにかなっても、そもそも腹の足しにはならぬし、水もほぼほぼ底を着いておる!なれば、従魔たる妾達がその身を捧げるか、もしくは主殿の仲間と合流を果たすしか有るまいて!』
『…………ワフン……』
『……それも分かっておる。じゃから、いざと言う時は妾がやろう。その後に、主殿を送り届けるのがお主の仕事よ。分かってくれるな?』
そんな、色々と伏せられてはいるものの、何となくはそれらを察する事の出来てしまう内容に顔をしかめたくなると同時に、お前さん達を食ってまで生き残りたくなんか無いんだけど?と説教を垂れてやりたくなる会話を聞き流していると、突然リルが
『…………ワフン……?』
と、これまでで初めての反応を察知した事を伝えて来る。
それを訝しく思いながらも、何かあった場合に即座に動ける様に、と気力を振り絞って上体を上げ、リンドヴルムに無理がない範囲での先行偵察をお願いする。
そして、リンドヴルムを向かわせ、リルが最も強い反応を示したポイントの曲がり角を曲がった先に在ったのは、随分と久し振りに顔を合わせる様にも思える腐れ縁の二人と、俺が分離されてから随分と心配を掛けたらしき女性陣達の姿であった。
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「……随分と派手にやられた様だな……?」
「タカがこんなにボロボロにやられるなんて久方ぶりに見たけど~、一体何と殺り合ったらそんなになるんだろうね~?以前修行中に~、野生の羆と遭遇した時も似たような事になっていたけど~、今回は何と遭遇したのかなぁ~?」
着替えの類いを持っていなかった為に、あの熊モドキと殺り合った時の服装のままであり、同時に俺の血にまみれた上にボロボロの襤褸切れ状態になってしまっている服を着たままだった俺へと、タツとレオの二人が半ばからかう様に声を掛けて来る。
「……うる、せえ、よ……」
そんな二人に対して俺は、文字の通りに息も絶え絶えな状態につき、返す悪態にも力が込もってくれてはいない。
そんな俺の声から、俺の状態を察したらしきタツとレオが、さっさと俺を回収しようとリルに乗ったままの俺へと近寄ってくるが、そんな二人に対してリルが
『グルルルルルルルルルルルル!!』
と唸り声を挙げて威嚇する。
それに対して反射で距離を取り、即座に戦闘体勢へと移行する二人の姿によって、一瞬にして場の緊張感が高まって行く。
「……タカ、こいつは一体何なんだ……?」
「拾ってくるのは勝手だし~、世話さえキチンと見てくれれば僕は特には言うつもりは無いけど~、ちゃんと躾はしてくれないと困るんだけど~?」
『ウォン!?ガウガウ!!』
そうやって、三者三様に誰何の声を俺へと掛けて来る。
最後のリルのソレだけは、正確な処は判断出来かねるが、それでも恐らくは全員共に
『こいつは敵なのかそうでないのか?』
と問うているのであろう事は、想像に難くは無いだろう。
……まぁ、そうやって、一応の確認を俺へと仕向けて来ているのに、一切視線を反らさずにその挙動を凝視し続け、隙在らば即座に襲い掛かろうと足に込めた力を抜いていない処を見ると、早めに説明等をしないと不味そうだ、と、睡眠も食事も足りていない頭でボンヤリと考える。
そして、リルの上で寝そべったままの体勢から、左腕を上へと伸ばし、ある程度の姿に高さまで上げてから手刀の形で軽く勢いを付けて振り下ろす。
『キャイン!?』
「……リル、待て……。こいつらは、良いから……」
まさか、自身が守ろうとしていた俺から攻撃されるとは思っていなかったリルが、思わずと言った体で挙げた悲鳴に申し訳無さを感じながらも、『あの二人は大丈夫だから』との思いを込めて説明しておく。
すると、『貴方(俺)が言うのなら……』と言った感じで渋々ながらも戦意を解き、二人に向けていた威嚇もそこで取り止める。
その段階で、タツとレオの二人も、取り敢えずは、と言った感じで構えを解くが、それでもまだ両サイド共に警戒しているみたいだったので、直接話を付ける為に一回降りておこうとリルの肩を軽く二回叩いて『降ろしてくれ』と合図を送る。
すると、俺が降りやすい様に、と『伏せ』の体勢にリルが移行してくれた事により、大分高さが軽減されて降りやすくなったので、動きにくい身体に鞭を打って残りの高さには目をつぶって飛び降りる。
……だが、流石にここまで戦闘の疲労と栄養失調が重なってしまうと、もはや血肉レベルと化している『飛鷹流』の体術の類いもお仕事を放棄するらしく、不様にもベシャリと着地に失敗してしまう。
そんな、普段の俺からは想像も出来なかったであろう醜態に、似たような状態を目撃したことの有る二人は無言で、そうでない女性陣は俺に対して好意を抱いている(らしい)組と、そうでない組を含めた全員が悲鳴を挙げながらこちらへと走りよって来るし、最も近かったリルは、大慌てで俺の首筋やら腕やらを、まるでそうすれば俺が復活すると確信しているかの様に必死で舐め回して来る。
そして、全員が一定残りの処まで近寄って来た時、まるで地獄の底から何かが這い出して来る際の地鳴りの様な音が辺りに響き渡り、思わず、と言った感じで全員の動きが止まり、その音の出所である俺へと視線が集中する。
リルですら、俺を舐め回している動作の途中で動きを止めた為、舌を出しっぱなしで固まっている中、再度同じ様な音を辺りに響かせた俺は、最後に
「…………腹が……減った……。とにかく、何か……食い物を……くれ…………」
と呟く様に漏らした後、僅かに掲げていた腕をパタリと地面に落としつつ、女性陣の悲鳴を子守唄に聞きながら、今度こそ意識を喪うのであった……。
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「……結局、あの『勇者』は使い物にならなかった、と?」
「まぁ、そう言って間違いは無いでしょうねぇ……。
最低限の目的であった、『開戦の火種を作る』と言う一点は達成してくれたみたいでしたが、最大限の目標であった『獣王との相討ち』には遥かに及びませんし、『可能であれば十二獣将の誰かを討ち取る』と言う目標も達成出来なかった以上は、使い物にはなっていないと言っても良いでしょうねぇ……」
「……あのゴミにくれてやった装備はどうなった?」
「ソレに関しては、私よりも陛下の方がお詳しいのではないでしょうかねぇ?」
「……我とは別のルートでの情報を集めておる事は既に知っておる。さっさと吐き出せ」
「……やれやれ、せっかちなお方ですねぇ。確かに、私の方でも情報は集めておりますが、陛下の方に行っているのと対して変わりはしませんよ?
『勇者は冒険者に喧嘩を吹っ掛けて敢えなく返り討ち。装備はその冒険者が剥ぎ取って行った』
只のそれだけですねぇ……」
「……だが、その冒険者は『人族』であったとの報告も有る。なれば、我らに協力せぬ道理も有るまい」
「……探し出して『協力』を取り付けろ、と?全く無茶を言いますねぇ……」
取り敢えず合流しましたが、主人公の運命や如何に!?
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