08・朝練してから水場まで案内する事になりました
今回の展開は、我ながら強引かなぁ?と、思わないでもないですが、あまり突っ込まないでいただけると有難いですm(__)m
「……全く、乾の奴め、まさか襲撃してくるとは思わなかったぞ……」
「……案外と食っていたな」
「まぁ~、女性は常に血が足りないらしいし~、仕方がないんじゃないかなぁ~?」
そう、昨晩、俺達が仕留めた兎公のレバー(タツによって安全だと鑑定済み)を、どうせだから生でいっとくか!と食おうとしていた時に、乾の奴めが友人二名に佐藤先生とを引き連れて俺達の寝床を強襲し、俺達の貴重な食料を横からかっ拐って行ったのだ。
……いや、まぁ、ね?
別段、乾やら先生やらとは知らぬ仲でも無いし、その友人ってことならば、お裾分けするのも吝かでは無いのだが、それだとしても、夜陰に乗じて強襲染みた真似事をしなくても良い気がするのだがね?
……直前に個人の特定が出来たから、ギリギリの処で止められたけど、下手をしていれば、悪意を持った襲撃と勘違いして、返り討ちもしくはこちらからの逆強襲+殲滅、って流れになりかねないから、次回が有るのであれば、正面から来て貰えないモノだろうか……。
それにしても、四人掛かりとは言え、俺達が予め用意しておいた分を軽く平らげ、更に追加分まで要求してくるだけの豪胆さと健啖さを発揮されては、こちらも怒るに怒れないし、むしろ見ていて気持ち良い位に食っていた。
まぁ、あれだけ新鮮なレバーであれば、そうなったとしても、強ち仕方の無い事かも知れないが。
レオのスキルを利用した結果として、仕留めてから血抜き・解体・調理までの間に掛かった時間が、トータルで見たとしても一時間無い程度。
下手をすれば十数分程度しか掛かっていない為か、レバー特有のあの鉄臭さや匂いは極限まで抑えられ、そのプリプリとした食感とも相まって、凄まじいまでの旨さを誇っていたのだ。
そのお陰と言うべきか、臭み消しの目的で用意していた薬味の類いは、第一陣が消え去る頃には既に味に変化を付けることにその役割を変え、俺達の舌を楽しませていた。
そんな新鮮なブツだったからか、その独特の臭みから嫌遠する女性も多いと聞いていたし、事実突撃をかましてきたメンバーの内で、レバーが好きだと言って居たのは先生だけだったが、結果的には全員が貪る様に食っていたからね。
約一名、食べながら「……お酒呑みたい……」とか呟いていたが、そこは我慢してもらうより他に無い。
……流石にそれは無理です、先生。
……まぁ、旨そうに食ってもらって何よりなのだが、正直、そんなに食ったら太るぞ?と突っ込みを入れたくもなったのだが、その瞬間に背筋に悪寒が走ったので、取り敢えず黙っておいた。
触らぬ神に祟り無し、ってね。
そんなこんなで夜が明けて、現在異世界生活二日目。
まだ夜も明けきらぬ早朝に起き出した俺達は、各自で毎朝の習慣になっている『朝のお勤め』を行っている。
……まぁ、大層に『朝のお勤め』なんて言ってはいるが、別段変わった事をしている訳ではなく、ただ単に毎朝の習慣となっている『朝練』をしているだけなのだけどね。
やる内容としては、それぞれが別流派かつ使う得物もバラバラ故に各人で異なるが、基本的にはそれぞれの得物の素振りと型稽古となっている……ハズである。
少なくとも、俺はそうなっている。
そんな訳で、槍術の基本中の基本である突き・薙ぎ・打の動作を繰り返して行く。
それをある程度繰り返し行ってから、今度は『飛鷹流』で良く使われる、大身槍に分類される槍特有の長い刃渡りを活かしての斬撃や、穂先とは逆側に付いている石突きの部分による打突。そして、槍としてのリーチの長さを利用しての、相手の武器等を巻き込んで抑え込む『巻き』と呼ばれる技法や、槍を突き出す際に手元で捻りを加えたり、突く際に手の中で柄を滑らせたりして、敵に与えるダメージを増加させる技法の一つである『抜き』の練習も加えて、何時もの通りに一通り行っておく。
こうして、型稽古を習慣として行っている事には、実はそれなりに理由が有る。
ぶっちゃけた話、技やら型やらを教えている道場等で強い人間が実際に戦っても強いのか、と言われても、正直な処としては結構微妙である。
何せ、その手の人間は、実戦を経験した事も無い上に、大概同じ道場の中で『試合』しかしたことが無いのに、得てして自らの事を『強い』と認識していたりする。
なので、その無駄な自尊心を軽く挫くなり、本人的に一番良いと思っているペースを、ちょちょいと崩してやれば、割りと簡単に殺れてしまったりする。
が、だからと言って、道場等で教えているような技や型等が不要なモノであるのか、と言われれば、それは断じて否!と否定出来る事であるし、そもそも道場で弱い者が実戦では強い、何て事は有り得ないのだから、やはりそこには『それなり』であれ意味と理が存在するのだろう。
それに、俺の好きな格言の中にも
『道場で強い者が戦場でも強いとは限らないが、道場で弱い者が戦場で強い事は無い』
とあるからね。
そんなことを考えながら、日課と化している朝練を終えてみると、どうやら同じ様なタイミングでタツとレオも一通り終えたらしい。
辺りを見回してみれば、すっかり日も登って朝になっており、気配からして他の連中も起き出して来た様子だし、ちょいと見に行ってみますかね。
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「おはようございます、先生。こっちはどんな感じですか?」
そんな訳で、サクッと移動して合流し、朝の挨拶もそこそこに、他の連中の状態を確認しておく。
昨日のうちに、俺達がある程度フォローしておいた女子達はともかくとしても、無計画に森に入ったりしていた野郎共に関しては、全くと言っても良い程に関わっていないので、状態が良く分かっていないのだ。
……ぶっちゃけ、野郎共なんぞ放っておいても構わないのだが、流石にそれで死人が出られても寝覚めが悪いので、ヤバそうなのが居たら、わかる範囲でフォローしておくとしますかね。
「……はい、おはよう。朝から元気だね?小鳥遊君。
……それで、こっちの状況だったよね?正直な話、あんまりよろしくは無いかな?昨日の男子達もあんまり食料の確保は出来なかったみたいだし、何より持ち込んでいた飲み物が尽き出したみたいなの……」
フム、成る程ねぇ……。
まぁ、それも当然かね?
修学旅行直前にこっちに飛ばされた(推定)ので、幸いにしてそれぞれがお菓子なり飲み物なりを所持していたハズなので放っておいたのだが、流石に二日も三日も持つほどでも無かったか。
一応、俺達が持ち込んでいる水には、まだ余裕が有るし、水筒に確保してある分以外のモノを提供すれば、クラスの連中全員で分けたとしても、一日は確定で、節約すれば二日は持つだろう。
……だが、仮にそうしたとしても、一日か二日しか『持たない』のだ。
ならば、確保するしか有るまいて。
「なら、一層の事、昨日俺達が見付けておいた水場に移動しますか?流石にそのまま飲む訳には行かないと思いますけど、一度沸かすなりなんなりすれば、十分に飲めるようになると思います。場所ならば教えますが、どうしますか?」
「そう言えば、見付けていたんだっけ……。
でも、いきなり全員で移動何て出来ないし……。
……うん。取り敢えず、安全確認も兼ねて、先に何人か案内してもらえると助かるのだけど、お願い出来るかな?それと、あくまで私が言い出した事だし、私も同行させてもらえると有難いのだけど、頼めるかな?」
「まぁ、それは構わないと言えば構わないですが、そんなに大勢は連れて行けませんし、俺達が連れていかなければならない理由は無いですよ?
下手をすれば、昨日の兎公よりも厄介な相手が飛び出してこないとも限らないですし、それでも構わない、って口では言っていた奴らだけ連れていったとしても、犠牲者が出れば必ず俺達のせいにしてくるやる奴らが出るハズなので、そんな連中の相手をする位ならば、この場に連中全員黙らせた方が後々こっちは楽になるって事は解ってますよね?」
そう言い放ちながら、若干やり過ぎかな?とは思わないでも無いレベルでの殺気を放ち、先生を威圧し牽制する。
……ぶっちゃけた話、別段俺達は、ここにいる連中を全員見捨てても構わない、と、むしろ、見捨てた方が 楽だとすら思っている。
それは非人道的だ!とか、クラスメイトなのだから、助けるべきだ!とかの綺麗事はこの際止めてもらおう。
と、言うよりも、俺達は端からその手の『理想論』を聞く気が無い。
聞いてやる意味がない。
何せ、その手の綺麗事を一々実行していたら、これまで何度死んでいたか分からないし、一々実行してやる程にお人好しでも無い。
こちらの善意に期待しているのであれば、こちらの言うことには絶対服従、位の覚悟を見せてもらわねば、こちらが助ける『価値』が無い。
何せ、『助ける』ってことは、その後の面倒を全て見てやる、って事に他ならないのだから。
そんな想いも込めて、先生へと威圧を掛ける俺。
もちろん、良く有る『気当たりによる気絶』何て現象を引き起こすつもりは欠片も無いし、槍を持っている訳でも無い今の俺では、そこまでの強い威圧はしたくても出来ない。
……まぁ、それでも、気を強く持たないと気絶する、って程度の強さでは掛けているので、口だけでも無いし、返答次第ではこちらが実行するつもりである、って事は伝わっているハズだ。
……だが、しかし、そんな圧を受けながら、それでも、それまでと同じ様に
「……それでも、全員で生き残る為には、それが必要なのだから、なんとかお願い出来ないかな?」
と、口にする佐藤先生。
そんな彼女の姿に
「……お前の負けだな」
「流石に~、意地悪が過ぎたんじゃ無いかな~?」
と、俺の肩を叩きながら、声をかけて来る二人。
……そんな、共に地獄を潜り抜けて来た二人の言葉と、俺が何を言っているのかを正確に理解した上で、まだ言い募る先生の言葉を受けて、俺は
「……分かった、俺の降参だ。取り敢えず、つれては行くさね」
と、両手を挙げるのであった。
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