77・扉の向こうに居たのは……
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リンドヴルムと話し合った結果、どのみち奇跡でも起きない限りは『餓死』するか『戦死』するかの二択にしかなるまい、との結論が出ていた為、だったら一層の事目の前のボス部屋に特攻でも仕掛けて見るべぇか、と半ばヤケクソながらも、それでも生存の確率が一番高そうな行動を選択し、実行する為に立ち上がって扉へと手を掛ける。
「じゃあ、これから俺が開けるから、リンドヴルムは開幕の先制攻撃に注意しておいてくれよ?」
『あい分かった。任せると良いのぅ!』
そう、元気な返事を貰った俺は、扉へと押し当てていた手に力を込め、全身の力も利用しながら扉も抉じ開けて行く。
一応、人が一人程度ならば普通に通れる位まで開いた段階で、それまで俺への奇襲を警戒していたリンドヴルムが先行して侵入し、内部の状況確認並びに、ボスが俺単独で攻略可能な存在であるか、を確認する。
すると、
『主殿!罠や奇襲の心配は無さそうじゃが、少々内部が『面白い』事になっておるみたいじゃぞ!早よう入って来られい!』
と言った感じで、何故かテンション高めに興奮した様子を隠そうともしないで、俺をボス部屋の中へと誘導しようとしてくるリンドヴルム。
……おいおい、そんなにアッサリと入室を促す何て、一体何があったって言うんだ?
そんな思いと共に、俺自身が開いていた扉の隙間から身体を滑り込ませる様に中へと侵入する。
一応、罠の類いが無いか、と言った心配から、リンドヴルムによって無い事が判明していたけれども、ほぼま反射的な行動として背中にマウントしていた相棒を構えて内部を見回す。
そして、そのボス部屋の中央部に居た『ソレ』を目にした事により、俺は周囲の環境や諸々の全てが頭から消し飛んでしまった。
背後で、俺が押し開けていた扉が、轟音を上げながら勝手に閉ざされ、咄嗟に脱出する事が出来なくなるが、その事を考える様な余白は既に脳裏に無く、ただ大きな音がした、程度の感想を抱きながら、まず一歩。
『……しかし、比較的新しい『迷宮』との話じゃったと思うのじゃが、よくもこんな輩がおったモノじゃのぅ。
『こやつ』がこの『迷宮』の主であるならば、ここまで深く、強大な『迷宮』となるのも納得と言うモノじゃのぅ。
……じゃが、『こやつら』は確かに強大な種じゃったが、その反面個体数が少なくて、妾が彼の『試練の迷宮』に囚われてる少し前位には、既に絶えたかその手前程度しか居らぬ、と言われておったと思うのじゃが、何故にそんな存在が『こんな状態』でこんな処に居るのかのぅ……?
主殿はどう思もわれるかのぅ?
……主殿?』
何やら説明してくれていたらしいリンドヴルムの声も、右から左へと耳を通り抜け、俺の脳内には『大変珍しい種族』である、程度の情報しか残らない。
しかし、そんな事は今の俺には割と『どうでも良い』事柄故に大して気になる事も無く、そのまま二歩目が踏み出される。
『……主殿?主殿!?如何なされた、主殿!!?』
そんな、リンドヴルムが俺を心配する声すらも耳を素通りし、視線の先へと固定された『ソレ』へと大きく三歩目を踏み出す。
『グルルルルルルル!!』
それまで静かにこちらを観察している様子だった『ソレ』も、流石に自身へと武器を携えたまま、無造作と形容しても良い程に無警戒に近付いて来る、そこそこ実力の有りそうな相手(つまり俺の事)に警戒心を顕にし、その鎖によって無理やりに閉ざされている口の隙間から牙を剥き出しにして唸り声を発し、俺を近付け無い様に、と威嚇してくる。
……だが、もはや脳内には『ソレ』の事しか存在していない俺の足を止めるのには少々『圧』が足りなかったらしく、既に『歩行』から『疾走』へと移行しつつあった俺は、手にしていた相棒たる『朱烏』を放り捨てると同時に、『ソレ』に向けての四歩目と五歩目を踏み出す。
六歩目で『ソレ』が拘束されている部屋の中央部までの距離を半分にし、七歩目を踏み出す頃にはそれまで『迷宮』内では常に着けっぱなしにしていた鎧を半ば強引に脱ぎ去り、『ソレ』からなるべく遠くに行く様に放り投げる。
『主殿!?一体何をしておる!?正気か!!?』
俺の行動を心配したリンドヴルムによる声掛けと、
『グゥルアアアアアアアアァァァァァァァア!!!』
『ソレ』により、本格的に俺を近付けまいとして、物理的な『圧』を含んだ咆哮が俺へと放たれるが、そのどちらも大して気に掛ける事も無く、八歩目にて最初にあった『ソレ』との距離を1/4までに縮め、九歩目を踏み出す事で鎖によって拘束されている『ソレ』であっても、比較的自由に行動出来る範囲へと侵入する事に成功する。
『グアゥ!!』
しかし、それは『ソレ』が自由にこちらへと攻撃出来る範囲に在る、と言う事と同義であり、その様な状況にあれば、当然の様に俺へと威嚇の咆哮を放ってきていた『ソレ』が俺へと攻撃してこないハズもなく、凄まじいまでの速度で俺を目掛けて前足を降り下ろして来る。
……が、正直な話、やはり鎖で拘束されているからか、絶対致命の一撃、と言う程のプレッシャーは感じないし言う程の速度も乗っていない。
おまけに、『ソレ』からも戦意の様なモノは感知出来るが、敵意や悪意、殺気と言った様なモノは感じ取る事が出来ない。
……余程上手く隠しているのか、それとも俺と同じなのか……。
そこまで考えながらも、何か確証があった訳でもない上に、既に放たれた攻撃は眼前に迫っていた事もあり、取り敢えずどうにかする為に攻撃を回避し、目の前の『ソレ』の胸元へと転がり込む。
『ソレ』の体高は俺の背丈の1.5~2倍程であり、それに伴って『ソレ』の胸元には俺が立って居たとしても普通に歩き回れる程の空間が広がっており、そこへと飛び込んだのであれば、後は追撃が来る前にさっさと離脱するか、それとも攻撃してから離脱するかが当然の選択肢であると言えるだろう。
……だが、俺は敢えて『普通は取る行動選択肢』からは掛け離れた行動を、己が内側に秘めた衝動と共に行うのであった。
そう、俺が取った行動とは、眼前に広がる『ソレ』の蒼白色で美しく、そして、大変にフワフワと空気を含んで柔らかそうに見える、胸元から腹部に掛けてのモフモフの毛皮へと飛び付き、全身を使ってその毛の感触を楽しむと共に、全力で『ソレ』をモフモフしたのだった。
「よ~し、よしよしよしよしよし!よ~しよし!!」
モフモフモフモフモフモフモフモフモフ(某ゴロウ風味)
『ワフン!?』
まさか、敵意の類いは感じられなかったとは言え、一応は『敵』であったハズの相手が突然飛び付き、自身をなで回して来るとは欠片も思っていなかったのであろう『ソレ』が驚きの声を挙げるが、そんなモノは知った事ではない!と言わんばかりの勢いで、『ソレ』のフワッフワでモッフモフの胸元の毛を全身を使ってモフモフと愛でる。
……あぁ~良いわぁ~。
こんなに指通りが滑らかなのに、それでいて動物特有のフサフサ感が確りと感じられ、それでいて柔らかさの中にも確かな手応えを返してくれる様な絶妙な感触!
たまらんわぁ~。
……ただ、難点を挙げるとすれば、やはりこの鎖が邪魔だな。思う存分にモフれん。
そんなことを脳裏で口走りつつ、その極上のさわり心地を文字の通りに『全身』で味わいながら蕩けていると、突然横方向への力が加えられて、強制的に『ソレ』から振りほどかれてしまう。
咄嗟の事態につき、割合と簡単に振りほどかれてしまったが、それでも脳ミソが溶け出す程に蕩けていた訳ではないので、空中に身体が在る内に体勢を整えておき、何事モノは無かったかの様に足から着地する事で落下によるダメージを発生させない。
『主殿!?お主、一体何をしておる!?』
『グルルルルルルル……』
そんな俺へと飛び付く様に近付いて来たリンドヴルムと、それまでよりも警戒の色を濃くしながらも、それでいて何処か『期待している』様な様子すら感じさせる『ソレ』を同時に視界に納めておく。
『一体、何を考えておるのか、お主は!?得物を持たぬだけならばまだ理解出来ぬでもないが、その上防具まで捨て、更に闘わぬ処か抱き付きにまで行く始末!お主が『もふもふ』とやらを好んでおるのは知っておるし、あやつがお主の好みの外見をしておるのも見れば分かるが、何故にそんなに危険な行為に走るのか!?お主が死ねば、お主を助けようと行動しておるであろう他の者が浮かばれぬであろうが!!』
俺の事を心配しているが故の説教だ、とは理解しているのだが、敢えて聞き流して脳の容量を空けておき、眼前の『ソレ』の観察に費やして行く。
……そして、ある程度の観察を終え、その上で収集出来た情報を分析した結果としてある仮説に行き着いた俺は、未だに説教を続けていたリンドヴルムを手で遮ってから言葉を掛ける。
「……途中で悪いんだが、一つ良いか?」
『……一体何かのぅ?妾の説教を遮ってまで聞くのじゃから、余程の事なのであろうな?』
「……まぁ、割と重大事項……かな?」
『……なら、聞くだけは聞いてやらぬでも無い故に、言うだけは言ってみると良いのぅ』
「そうか、じゃあ聞くけど
あいつ、本当に『ボス』だと思うか?」
『……何じゃと?』
そう、思わず、と言った感じで、呟く様に溢したリンドヴルムだったが、少々考え込む様な動きを見せると俺へと向き直り、真剣な雰囲気で問い質して来る。
『……何故にそう思ったのか、聞いても良いかのぅ?』
「……そうだな。そう考えた理由は幾つか有るが、まず一つ挙げるとすれば、あいつはああして鎖で『拘束』されている、ってことがそう考えた切欠だったな」
そこで一旦言葉を切った俺は、『ソレ』へと絡み付いている鎖を指差しながら続けた。
「ああして『拘束』されている、ってことは、少なくとも『拘束した』誰かにとっては、こうしておかないと不味い関係に在る、と言う証拠になるけど、それを返せばこいつは『拘束しなければ制御出来ない存在』って事になる。
『迷宮』のボスって確か、『迷宮』が自身の核を守るために産み出す存在、なのだろう?だったら、こんな『拘束』しておかねば制御出来ない様な奴をボスに据えておくかね?」
『……ふむ、一理在る、かのぅ?』
「んでもって、次に挙げるとすれば、奴の行動範囲、かね?」
そこでまた言葉を切った俺は、ボス部屋に中央部にて拘束されている『ソレ』の向こう側、入り口の正反対側の壁に埋め込まれる様に存在している、魔核にも似た色合いの結晶の様な『何か』を指差す。
「多分だけど、アレが『迷宮』の『核』だろう?それなのに、あいつの鎖によって制限された行動範囲は、アレの手前までしかない。
普通、アレを護らせようと思ったら、アレの設置場所をあいつの足元にしておくか、もしくはあいつの行動範囲の内側に入れるべき何じゃないのかね?
そこら辺から察するに、多分だけどあいつに近寄られ過ぎると困る、って事何じゃないのかな?」
『……成る程、そう言われて見れば、確かにそうじゃのぅ……。じゃが、それらだけじゃとちと理由としては薄くないかのぅ?』
「まぁ、それもそうか。あと挙げられるとすれば、あいつに『自意識』の類いが有りそうだ、って点かねぇ?」
『……何じゃと?』
「証拠としては、ほら、今俺達が立っているのって、ギリギリだけどあいつの行動範囲の内側だけど、別段襲い掛かってなんて来てないだろう?おまけに、何となくだけど俺達に対して『敵意』の類いも感じられないしね」
『……フム、確かに、言われてみればその様な感じが在るのぅ……。『迷宮』に存在するボスは、ただただ目の前に現れた敵を攻撃せんと襲い掛かってくるだけの木偶の坊じゃと聞いた事が有るが、こやつはあまりそう言う雰囲気では無いみたいじゃのぅ……。
初手の主殿の行動も、それらの要素を見越しての行動じゃった、と言う事で良いのかのぅ?』
「いや?全然?俺はただ、目の前に居た極上のモフモフを愛でる為に突っ込んだだけだけど?」
その俺からの返答に、それまでの尊敬した様な視線を瞬時に霧散させ、呆れた様な表情を浮かべるリンドヴルム。
『……主殿よ、妾が知る限り、お主位のモノぞ?ただ『触りたかったから』との理由で、武具も防具も打ち捨てて『フェンリル種』へと突撃するなぞ、自殺願望を通り越してもはや奇人・変人の類いの行動と変わらぬのじゃがのぅ?』
……へぇ、アレって『フェンリル』って言うんだ。
そんなことを考えながら、放り捨てていた相棒を広い上げると、今回も無造作とも見える様な雰囲気でそいつへと近付いて行く。
そして、そいつの至近まで近付いてから本気の動きお見せ、相棒を振るう。
すると、甲高い金属音が『一度』だけ周囲に響き、それに遅れて複数箇所で断ち斬られた鎖が、床へと落ちる事で騒がしい音楽を奏でる。
そして、突然に自身を拘束していた鎖から解放された事に戸惑っているそいつの鼻先を、相棒から離した左手で撫でながら声を掛ける。
「……お前さん、俺に着いてくるなら、この『迷宮』から出してやるけど、どうする?」
その問い掛けに対してそいつは、拘束から解き放たれた事により自由になった口を開け、その舌で俺の首もとをベロリと一舐めすると、
『ウォン!』
と一吠えしながら、そのフサフサの尻尾を機嫌良さそうに振るうのであった。
……え?『ボス戦はどうした』?
…………ほら、一応は戦っていたでしょう?
って痛い!止めて!石投げないで!?
大丈夫!次はちゃんと戦うから!……多分。
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