75・取り敢えず、階段は見付けたのですが……
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どうにか床の汚ならしいシミと化す事の無いままに終点まで到達し、リンドヴルムと共に落ちた先での探索を開始した俺。
一応、依頼の内容が内容だった為に、適当に脳内でマッピングしながら探索しつつ、遭遇した魔物には確実に昇天して貰いながら右に左に、と通路を進んで行っていたのだが、その結果として階段を発見する事に成功する。
……そう、下の階へと下って行く階段を。
「……さて、こんなもの見付けちゃったけど、どうしようか?リンドヴルムさん?」
『……妾に『どうしようか?』等と聞かれても、何と答えれば良いのかのぅ?結論を出したい、と言うのであれば、どのみち答えは『一つ』しか無いじゃろうのぅ?』
「……まぁ、確かに?俺が一応脳内で作ってあるマップでも、コレ以外には階段は発見出来てないし、有りそうなスペースももう無いし?可能性で考えるなら、この俺達が居る空間自体が独立したここだけな空間である確率は低くは無いよね?何せ、入り方がアレに引っ掛かる、って事だとすると、そう言う造りになっていたとしても、不思議は無いと思わない?」
『……まぁ、有り得ぬ話では無いとは思うがの?だからと言ってやることには変わり無かろう?それに、階段で繋がっている以上、必ず最奥の『核』が在る場所には行ける様になっておるハズじゃから、どのみち進むしかあるまいよ?』
「その推測は、それなりに確証有りきで言っている、と見て良いのかね?」
『それはもちろん。『迷宮』は、その構造や階層や罠も千差万別じゃが、数少ない共通点の一つとして、必ず入り口から最奥まで繋がっておる、と言うモノが有る故の、おそらくは繋がっておるハズじゃよ?』
「……このルートが、一階からの分岐ルートの一つ、って認識だった場合、俺達『詰む』可能性がワンチャン処じゃない位に有りませんかね?」
『……その可能性としてはなきにしもあらずじゃが、その時はその時、じゃのぅ。最悪、あの落とし穴を主殿お得意の『意地と根性』で登りきって、蓋をしておる部分を力ずくで破壊する、位せねばならぬじゃろうが、別段不可能な事柄でも有るまい?なれば、取り敢えず進んでみるのも有りでは無かろうかのぅ?』
「……そんなモノかねぇ……?」
『そんなモノじゃろうのぅ』
「……なら、まぁ、行きますか、ね……」
そう、誰に対しても無く呟くと、俺達は階段へと足を踏み出したのであった。
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「おぉぉぉぉおおりゃあぁぁぁぁぁあ!!!」
全身に重装甲を纏い、もはや『鉄塊』と表現するしか無い程のサイズと重量を誇る大剣が、轟音と共に魔物諸とも『迷宮』の床を砕く。
「……邪魔です、死になさい!」
それとほぼ同時に、この『ソフィア』世界では珍しい意匠の鎧に身を包んだ剣士が、反りの有る片刃の剣を抜刀するが、その剣身が届く間合いよりも遥かに遠くに居たハズの魔物が両断され絶命し、その混乱に乗じて群れへと飛び込み血華を散らしている。
「さっさと死んで、小鳥遊君の所に行かせてくれないかな!?」
巨大な弓を構えた女性が、矢筒から一矢を取り出してつがえると、そのまま流麗な仕草で引き絞り、即座に狙いを定めて射ち放つ。しかし、その放たれた矢は一つのハズだったのに、何故か空中で無数に分裂すると、凄まじいまでの勢いのままに魔物の群れへと襲い掛かり、幾つもの針山を作り上げる。
「まとめて吹き飛んで!『ファイア』[術式改変]!『フレイムトーレント』!!」
鈍器としても使用出来そうな程に頑丈そうな杖を構えた女性が放った初級魔法は、その術者が追加で何かを呟くと、突然にその規模を膨らませ、小さな火球から焔の奔流へとその姿を変貌すると、『迷宮』の床がガラス化する程の高温にて魔物達の群れと襲い掛かり、灰一つすらも残さない程に焼き尽くしたのであった。
……『迷宮』へと潜り始めて早数時間。
タカを罠によって分断されてしまった一行は、一刻も早くタカと合流する為にも、又、分断される間際にタカより出された指示を遂行する為にも、周囲に溜まった魔物をそれまでも殲滅していたのだが、タカへと好意を抱いていた四人が暴走に近い状況となり、率先して大暴れしている様である。
そんな四人が一通り暴れ終わり、ある程度落ち着きを取り戻した上で、周囲の魔物が殲滅されている事を確認してから彼女らに話し掛けるタツとレオ。
「……荒れてるな……」
「幾らタカが居なくて~、寂しいからって~、あんまり派手に暴れすぎないでよね~?戦力を分散出来るのは~、こう言う状況だと効率的に行動出来るから有難いけど~、それでもタカから引率を任されている以上は~、あまり勝手をするのは止めて欲しいかなぁ~?」
その言葉に反応し、一瞬だけ『苛立ち』や『焦り』と言った感情を発露させそうになる四人だったが、自分達以上にこの二人の方が焦れているハズだと思い返し、ギリギリの処で感情的に言い返す事をせずに踏み止まる。
「……それは、ごめん。少しでも早く殺らないと、って焦っちゃって……」
「……大人の先生が一番落ち着かなくちゃいけない、って事は分かってるんだけど、小鳥遊君が危ないかもしれない今は、流石にちょっと無理、かな……」
「……ここまで焦燥に心が支配される等と、拙もまだまだ未熟、と言う事でしょうか……」
「……ワリィ。分かっちゃいるんだが、どうしても、な……。こんなに焦れるんなら、飛び込んででも一緒に行くんだったかな……」
そう、自分で自分達の焦りを認識してはいるものの、どうしても仲間が一人(正確には違うが)で分断され、自分達が相手にしているよりも遥かに強い魔物を相手にしている(『迷宮』では深層に至るほどに魔物が強くなる。同時に、産出される魔核や魔道具も品質が高くなる)のだ、心配するな、と言う方がどうかしているだろう。
もちろん、その心配している相手が自分達よりも強いのは承知の上だが、それでも自分達とは違って物資的なタイムリミットが明確に有る上に、好いた相手が孤軍奮闘している、と言う状況なのだから、掛かる心配も一際大きなモノになったとしても、仕方の無い事であろう。
そんな四人の様子を見たタツとレオは、その過半が呆れからなる溜め息を一つ漏らし、サクッと四人に『渇』を入れてしまおうか、との思いから口を開こうとしたのだが、その役割は意外な処から奪われる事となる。
「……やれやれ、貴女方はもう少し骨の有る方だと思っていたのですが、どうやら勘違いだったみたいですね?」
そう、言葉に『呆れ』と少量の『嘲笑』を込めて発したのは、魔王国から彼らのサポートの為に付けられた人材であり、彼女らと同じ人間に好意を寄せる者の一人であるアシュタルトであった。
「……貴女方がそうして焦っている『だけ』で、タカナシ殿の状況が好転すると本気で思っているのであれば、好きなだけそうしていると良いでしょう。
……私は、欠片もそんなことは思えないので、一瞬でも早く彼に再会するために前へと進ませて頂きます。
……タツ殿、レオ殿。この辺りの階層まででしたら、彼女らだけでも『死にはしない』ハズですので、私と三人で急行するのはどうでしょうか?
私一人であれば、最低限の魔物の相手だけで良ければ足は引っ張りませんし、残る魔物もタカナシ殿と合流してから片を付けるか、もしくはここで無意味に立ち止まろうとしている方々に始末しておいて頂くのがよろしいかと思いますが、如何ですか?」
その発言に、自分達の事を揶揄された、と認識した四人が抗議しようとするが、それを言い出したアシュタルトが己の掌に爪が突き刺さり、少なくない量の流血が発生する程に手を強く握り締めていた事に気が付き、反論の意思が萎えてしまう。
「……出来れば、私もこんなことは言いたくは無いですが、焦って行動する者が居る以上、何処かで致命的なミスが必ず発生します。そうなってしまうと、下手をすれば私達が全滅……はしないでしょうが、それでも『撤退』を行動の視野に入れなければならない事になる可能性が高い、と言わざるを得ません。
……そうなってしまえば、私達はタカナシ殿の救出を諦める必要性が出てくる事になってしまう公算が高くつきます。
であれば、現状で『焦り』や『苛立ち』等の感情を極力廃せている者だけで先行・突破を図る事が、最も効率的かと思われますが、如何でしょうか?」
そう提案しながらも、その爪の食い込んだ手から流血が止まる事は無く、よく見なければ分からない程度の細やかな手の震えは、やはりアシュタルト本人の『不安』から来るモノであろう事は、普段から彼女に接している者であれば、容易に察する事が出来るであろう。
そんな、一つ判断が異なれば、自らも置いて行かれる様な提案をしてまでも、ただ焦っているよりは断然マシである、と決断までしたアシュタルトを目の当たりにした乾達四人は、互いに視線を合わせた後に、ほぼ同じタイミングで自ら頬を打つと、それまでとはまるで別人の様に落ち着きを取り戻した表情を浮かべ、タツとレオへと言葉を掛ける。
「……私も、その案は採用するべきだと思う。
だけど、それはもっと下に潜ってから。まだ私達は戦えるし、まだまだ私達の心も『焦り』に支配はされてない。
……それに、いざその案を実行する、って言う段階になったら、もしかしたら私が同行する事になるかも知れないんだから、早く先に進みましょう?小鳥遊君が、私を待ってくれているのだから」
そう言って不敵に笑う乾に対し、それまでとは含めた意味合いの違う視線を向ける二人と、まるでようやく立ち上がってきた『敵』を見るような目で見ていたアシュタルトが視線を合わせて頷くと、レオが取り出した片隅に『20』と書かれた簡易マップにチェックを入れて、次なる階層に挑む為に下りの階段へと全員で向かうのであった。
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