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73・入り口に罠は卑怯だと思います

ブックマークにて応援してくださった方々に感謝ですm(__)m


落とし穴に引っ掛かった主人公の運命や如何に!?



ガコンッ!!



そんな音と共に、これから攻略する『迷宮』の入り口ギリギリの所に仕掛けられていたスイッチを踏み抜き、間抜けな効果音が付きそうな程に呆気なく俺の足元で罠が作動し、足場を奪われた俺の身体は重力に引かれるままに、終点の見えない奈落の底へと引きずり込まれる様に落下を開始する。



「「タカ!?」」



「「「「小鳥遊(たかなし)君(殿)!!?」」」」



「タカナシ殿!!?」



「主様!!」



そんな叫びにも似たような声を聞きながら、どうにか完全に落とし穴の縁まで落ちきるまでに反転し、同行するハズだった仲間達の方へと強引に向き直る。


そして、間に合いはしないと理解していながらも、それでも飛び込まんばかりの勢いで手を伸ばして来てくれている幼馴染み二人と、その二人に一拍遅れて走り出そうとしている女性陣に対して、俺は言葉では伝えきれないであろう事を咄嗟に判断した為に、予め示し合わせておいたハンドシグナルにて二つの事をタツとレオに伝えたが、その時にはもう辛うじて首だけが床から出ている状態で



「頼んだぞ!!」



と二人に声を掛けるのが精一杯であり、二人が罠の縁で踏みとどまった時には既に、俺の身体は手の届かない場所まで落下してしまっており、無駄と分かっていながらも伸ばされた手を掠める様に、それまで開いていた落とし穴は、何事も起きてはいなかった、とでも言いたげに、数瞬前までと同じ様に、何の変鉄も無い床として俺が呑み込まれた穴を塞いでしまうのであった。





******





悪友にして幼馴染みであり、本人は『柄じゃ無い』とか言いながらも、それでも確りと皆を率いていたタカを、自らの目の前で呑み込んだ落とし穴が閉ざされ、何の変鉄も無い床へと変わってしまった事に半ば呆然としたタツとレオ。

しかし、そんな彼らを押し退ける様にして前へと進み出て、必死の形相で床を叩き出した女性陣を目の当たりにすると、落下する直前にタカから伝えられた事を実行するべく、駆け出した直後に振り捨てた荷物を拾いに後方へと下がって行く。


「……ちょっと、待ちなさいよ!!」


その背中に対して、ある種の『憎悪』と言っても良いだろう感情を込めた声を掛けながら、まるで何事の無かった様に荷物を背負い直して奥へと進もうとしている二人へと足音も荒く詰め寄る乾。


タカに関してだけは、この『ソフィア』世界に来てからはぶっ飛んだ言動を見せる様になっていた乾だったが、それ以外に関しては比較的以前と変わらない柔らかな雰囲気を纏っていた彼女には珍しく、特定の誰かに対して怒りを顕にしている様子に思わず、と言った感じでその足を止めるタツとレオ。


「貴方達!貴方達の幼馴染みでもある、小鳥遊(たかなし)君が罠に嵌まってこうして居なくなったって言うのに、何処に行こうとしているの!?まずは、彼を助けないとでしょう!?」


そう、叫ぶように言葉を放ちながら詰め寄ろうとしている乾に対して、二人は振り返ろうとすらせずにこう言い放つ。


「……やるだけ無駄だ」


「……君達は忘れているのかも知れないけど~、僕達ってここに遊びに来ている訳じゃあ無いんだよ~?

だったら~、意味の無い事をする時間が有るなら~、本来の目的の為に動くべき何じゃ無いのかなぁ~?」


そんな、まるっきり普段と変わらない声色と仕草で対応してきた二人に対し、一瞬何かを感じたのかたじろぎを見せる乾だったが、それでも自身の想い人であるタカを救出するには二人の協力が必要不可欠である事は目に見えていたので、どうにか協力を取り付けようと話し掛けてはみるが、それでも一向に良い返事が返ってくる事が無いだけでなく、他の面子を無視するかの様に二人だけで奥へ奥へと進んで行こうとすらしている様にも見受けられた。


言葉による説得は不可能である、と判断した乾は、これで最後、と決めてその言葉を口にしたが、それが彼らの逆鱗に触れる事となる。


「……そう、分かったよ。貴方達に期待した私が馬鹿だった、って事ね。もう好きにしたら良いよ。でも、私達は諦めない!貴方達とは違って私達は彼の事が大事だから、貴方達の様に諦める何て「「……今、貴様何と言った……?」……え?」」


そう、間抜けにも聞き返した時には既に、人の命など軽く吹き消せるだけの威力を込められた必殺の拳が眼前に、それまでに数多くの命を刈り取って来た白刃が首もとへと添えられており、それに一拍遅れてそれらの持ち主から、物理的な圧力を伴っているかの様にも感じられる程の濃厚な殺気を当てられる。

そして、それらの持ち主であるタツとレオの表情には、普段見せているソレには含まれない『怒り』や『苛立ち』の他に、『焦り』やほんの少しの『恐怖』が混じっている事が見てとれた。


「……俺達が、あいつを大事だと、大切だと思っていないなど、良くも言えたモノだ……!」


「……俺達はね?お前らが想像もつかない様な『修羅場』を幾つも三人で潜ってきたんだ。その度に、互いが互いを助け合って、どうにかこうにか生き残ってきたんだよ。

……その、掛け換えの無い仲間を、さも『どうでも良いと思っている』みたいな事を言われちゃあ、幾らあいつからの指示があった所で許してやる訳にも行かないなぁ……?」


そのセリフが嘘や冗談の類いではない事は、彼女へと向けられている拳や刃が、ギリギリの所でその身体を傷付けない様に止められているにも関わらず、殺意や敵意が理性の鎖を喰い千切ってその凶器を押し進めようとしている為に、静止させられずに細かく震えている事からも判断出来る。


「…………ごめんなさい。取り乱してました……」


普段であれば、ある程度はふざけながらも、それでも成さねばならない事は真剣かつ迅速に達成する二人の乱れ様に、彼が目の前からいなくなってショックを受けているのが自分だけではなかった事に、ここでようやく思い至った乾の言葉に、それぞれの凶器を納める二人。


「……二人の気持ちを考えていなかったのは謝るけど、それでも小鳥遊(たかなし)君を助けるのが『無駄な事』だって言う理由は聞かせて貰えるよね?それと、小鳥遊(たかなし)君からの指示って何?」


そんな乾の発言により、タツとレオがばら蒔いた殺気でソレまで行っていたタカを呑み込んだ床への攻撃を止め、タツとレオの言葉に耳を傾ける女性陣。

そんな彼女らへと呆れた様な視線を軽く向けながら、タツが説明を開始する。


「……理由としては三つ有る。まず、第一に、そこの罠を再起動させる術が無い為、そこで何をしようと無駄だ」


そこで一度セリフを切って、タカが落ちて行った床へと歩み寄る。

そして、タカが踏み抜いたブロックへと無造作に足を乗せ、体重を掛けて踏んでみるが、再度罠が起動して床が開く事は無かった。


「こうして再度罠を起動出来ない以上~、『迷宮』の異常に頑丈な床材を破壊するしかないけど~、それをしているだけの余裕と時間が~、僕達に有るのかなぁ~?」


タカの説明を補足する様に会話に入ってきたレオだったが、それを説明出来ると言う事は、この場で必要な情報の全てを既に知っている、と言う事に、気付いている者は女性陣の中には居なかった。


「……第二に、俺が『看破』した限りでは、俺達が降下出来る限界を超えた深度の穴だった。故にそこの床に穴を開けられたとしても、降りる術が無い」


「一応~、用心の為にも~、100m分位はロープの類いも用意しておいたけど~、どうやらそれ以上の深さらしいから~、多分無理だろうね~」


「……そんな……」


そう溢した佐藤教諭が、手に持っていた『試練の迷宮』産の大弓を取り落とす。

その音が虚しく響く中、ある種の止めとも取れる三つ目の理由をタツが言葉にする。


「……そして、第三に、仮にそこの床を破壊する事に成功し、持ち込んでいたロープの長さが最下層まで届く程に長かったとしても、助ける(・・・・)必要の(・・・)無い相手(・・・・)を助けようとする事こそ、最大の無駄ではないのか?」


「そんな事をする位なら~、既にタカが出している指示を優先する方が~、余程効率的だよねぇ~?」


その言葉により、二人が『既に死んでいる人間を助けようとするだけ無駄だ』と言っている様に受け取った女性陣に、ある種の『絶望』とも取れる様な感情が蔓延しかける。

……しかし、そんな女性陣の様子を不思議そうな目で見ていたタツとレオの二人は、まるでそれが当然の事であるかの様に、軽い感じで衝撃の一言を吐き出す。




「……何をそこまで絶望しているのかは知らんが、タカならばおそらく無事だぞ……?」



「そうそう~。あの程度なら~、修行中に何度か経験しているハズだから~、怪我くらいならしてるかも知れないけど~、それでも死んだりなんかはしていないハズだよ~?」




「「「「「「………………え?」」」」」」




「……助けを必要としない者に対して、時間を掛けて助けようとする事は、普通は『無駄』と言うのではないか?」



「落ちる時に出してきた指示でも~、『救出不要』って出してきた位だし~、本当に必要無いんじゃないかなぁ~?

ちなみに~、その時に出されたもう一つの指示に~、『依頼優先』って言うのがあったから~、こうして余計な事に時間を割いてると~、後出来ない怒られる事になるんじゃないかなぁ~?まぁ~、僕らは止めたし~、こうしてタカからの指示を優先して行動しようとしているから~、多分大丈夫打とは思うけど~、他の皆は保証出来かねるかなぁ~?」



ビクッ!!?×5



タツとレオの発言を受けて、かつてタカからの『お仕置き』を経験していた面子を中心に、床への攻撃を中断し、それまで放り出していた荷物をそそくさと回収し始める。


そんな様子に溜め息をつきながら、気付いていない様子であった為に、敢えて言っていなかった、『タカを助ける必要が無い』最大の理由を、呆れの色を溢れんばかりに込めながら、タツが女性陣へと最後に告げた。




「……それに、敢えて言わなかったが、俺達が『やるだけ無駄』だと断言した最大の理由だが、こんな状況になれば真っ先に大騒ぎするハズの奴が、これまで騒ぎを起こしていない事を鑑みれば、自ずと解る事だろう……?」



「僕も~、『助けを必要としない者を助けようとするのは無駄以外の何物でもない』とは言ったけど~、それと同時に~、既に助けが(・・・・・)送り込まれている(・・・・・・・・)のに~、後から余計な追加を送る事も~、また無駄の一種だよねぇ~?」




そこまで言われてようやく彼女らは、本来であれば一番騒がしくなるハズの、最初は敵として相対した彼の龍が、この場に居ない事に気が付くのであった。





******





……真っ暗な縦穴の中を、フリーフォール中なぅ。


開幕落とし穴に嵌まって、こうして縦穴にポイされた訳なのだが、大分長々と落ち続けている割には何処かに辿り着く訳でもなく、通常の『迷宮』の壁材とは違い、光を発する性質を持っていないらしきこの真っ暗な縦穴の中でただただ延々と落ち続けている。


一応、途中途中で『武器創造』によって造り出した武器を壁に突き刺し(通常の壁材とは違って、光を発さない代わりにそこまで堅くは無いらしい)ブレーキを掛ける事で、本当に自由落下している程のスピードは出ていないが、それでも穴の途中で壁にしがみついているだけ、と言う状態よりは幾分かマシだろう、との思惑から、こうして未だに縦穴の中を落ち続けている訳である。


と、言っても、本当に真っ暗な中をたった一人で延々と落ち続けていたとしたら、流石の俺でも何処かに辿り着くか、もしくは地面に叩き付けられて汚ならしい地面のシミと成り果てる依りも前に、死の恐怖やら何やらによって、先に精神的におかしくなっていたとしても不思議ではないが、生憎と『一人』ではない故に、こうしてピンシャンしていられると言う訳である。


『……主殿よ?お主、前から思っておったが、この手の危機的状況でも、普段と代わりが無さすぎはせぬかのぅ?その余裕は、一体何処から来るのじゃ?』


そう、俺があの落とし穴に嵌まって落下し、床に出来ていた穴が閉じきるその直前、リンドヴルムが文字の通りに『飛び込んで』来た為に、こうして一人きりではない状態でいられている、と言う訳なのである。


もちろん、最初は俺も、どうして来た!だとか、早く戻れ!だとかを言ったりしたけれど、彼女の



『従魔が主と共に在るのは当然じゃし、戻ろうにも戻りようが無いのぅ』



との言葉によって、戻すことを諦めて、こうして共に居るのである。


……まぁ、ぶっちゃけた話をすれば、こうして話し相手になってくれているだけでなく、本来であれば本当に真っ暗な状態で、相対的な速度やら残りの深度やらの判別も出来なかったハズの所を、こうして魔法の灯りである程度は照らしてくれていたり、となかなか助けになっているので、正直来てくれて良かったと思っているけどね?


『……して、主殿よ?この縦穴は、後どの程度続くと見ておるのかのぅ?予測だけでも聞かせてくれぬかのぅ?』


「……俺が元居た世界のお決まり(テンプレ)だと、この手の罠の先には、落ちきる前に横穴があって、そこに入れればボーナスステージが開始、ってパターンと、落ちきった先でボスに遭遇、ってパターンが多いんだが、そのどちらだと思う?ちなみに、どっちのパターンだったとしても、生き残り自体は自力でやってね♪ってことが多いけんだけどね?」


『……正直、どちらだったとしても、碌な事にはならなさそうなのじゃがのぅ?』


「それを言っちゃぁお終いよ、ってね。どのみち、最後まで落ちきるしか無いんだから、このまま行くしかあるまいて。

……しかし、皆はちゃんと動いてくれていると良いんだけどなぁ。何人か、タツとレオからの指示じゃあ聞く耳持たなそうなのも居るけど、剃れでも任せるしか無いしなぁ……」


そんな呟きを空中に残しながら、定期的に掛けていたブレーキを掛けるべく、新たな槍を『技能』にて造り出すのであった。

……主人公、案外と平気そう……?


次回から、主人公側は主人公の一人称視点で、仲間達側は三人称視点風になる予定です。


面白い、かも?と思っていただけたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援していただけると大変有難いですm(__)m

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新作始めてみました 『血塗れの殺し合いはもうお腹いっぱいだったので、テンプレ展開を期待して追放される為にわざと非戦闘系スキルばかり選んだら、何故か戦闘系スキルの連中を差し置いて『救世主』扱いされる様になりました』 珍しく戦闘少なめなコメディよりの作品になってます ……なってるハズです 良かったら読んでみて下さいm(_ _)m
― 新着の感想 ―
[一言] 舐めプが嫌いなハズのタカだが言行不一致 w 勇者の武器破壊剣を受けてみたり、迷宮では斥候職(レオ)を先行させるべきなのに…万能型故の油断か傲慢か? パーティーの分断を図るなら武器別(性別)ト…
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