70・早速依頼が入ったみたいですが……
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早めに書けたので早めに投稿してみます
「『指名』依頼……ですか?俺達『全員』に?俺達『だけ』でなく?」
「ええ、そうなっております」
俺達(俺、タツ、レオ)が無事に昇級を果たし、三人共に『銀級』へと到達する事に成功してから数日が経過し、それぞれでやりたかった事を、タツならば料理研究、レオならば植生調査、俺は地元民との触れ合い、と言った感じで各自で行い、主な目的であったランクの昇級もも果たした為に、この『獣人国』へと来ていた当初の目的を全て果たしてしまっていた。
故に、次の行動指針を全員(『獣人族』組も含む)にて話し合ってみた結果として、流石に一月近くも離れていれば、あのウザったい騒動(『60・これは予想外でした……』参照)もいい加減収まっている事だろうだし、こっち(獣人国)でやりたい事は大体片付いたから、そろそろ『魔王国』にでも帰ろうか?と言う結論に至った訳なのである。
それ故に、近々この国を離れますよ、と報告を入れるために冒険者ギルドへと足を運んだのだが、受付で移動手続きをしていると、何故かリブレントにいたハズのあの受付嬢(狐系の『獣人族』のお姉さん)が登場し、俺達をギルドの別室へと案内した上で、俺達を指名して依頼が入っている、と言い出したのである。
しかも、その依頼を発行されている対象が、俺達のパーティーである『名無し』だけでなく、乾達女性陣のパーティーである『戦乙女』と、サーラさん達のパーティーである『三獣士』を含めたレイドパーティー全てが対象となっていたのである。
ちなみに、このパーティーの名前は登録時に必要になるのだが、俺達は半ばふざけてパーティー名の欄を空白のまま提出してみた処、ギルドの方で勝手に付けられた、もしくは勘違いされて付けられた名前であるのだが、今までは特に実害があった訳でもないので放置したまま現在に至っている。
なお、俺達以外のパーティーの名前に関しては、女性陣の方は『私達って『戦う』『乙女』でしょう?』と返り血を頬に飛び散らせたままの笑顔で言っていた(誰とは言わない)し、サーラさん達の方に関しては、多分『獣人族』で『三人組』だから何じゃなかろうか?程度の予測しか立てられないが、恐らくはそこまで大きく外れている訳でもないだろう。
そして、そんな俺達のパーティーは、いつぞやの対『小鬼』戦線の時と同じ様に、一応登録しておけば便利だから、と言う理由からレイドパーティー登録もしておいたのだが、その『レイドパーティー全体』を指名して依頼が入った、との話だったのだが、本来であればそれは『起き得ない』事態なのである。
そもそも、『レイドパーティー』として登録しておくメリットとしては、ギルドの方ではどこのパーティーが提携しているのか、と言った情報の管理の簡易化や、大きな戦力が必要になった際の即時投入が可能になること、自発的に冒険者同士で新人を鍛えたり、先達が集めた情報を共用したりすることで未熟な内の損耗率を下げる事が出来る事、が全てでは無いにしろ大きな割合を占めている。
冒険者側のメリットとしては、大人数で依頼を達成した際の報酬の円滑な分配や、同じレイドパーティーを組んでいるパーティーの現状をギルド経由で知ることが出来る事。そして、単一のパーティーでは対処が難しい、又は不可能な相手でも、レイドパーティーとして複数のパーティーで組んでおけば対処出来る可能性が高まる事、が大体の処であろう。
……故に、基本的には依頼はあくまでも『パーティー単位』で受けるモノであり、かの『小鬼』の時の様に大規模戦闘にでもなるならばともかくとして、個人からの依頼として『レイドパーティー宛て』で依頼を出す事は、基本的には有り得ない。
何せ、言い換えればレイドパーティーとは『冒険者のパーティー同士が勝手にくっついて助け合っている』だけであるため、下手なレイドパーティーよりも只のパーティーだけの方が戦闘力や依頼の達成率が高い、と言う場合も有るし、無駄に人数が居る分報酬も高く付いてしまうのだ。
しかも、俺達のレイドパーティーは、この『レイドパーティー』として活動した記録が有るわけでも無い為、何かしらの実績もまだ無いので『知る人ぞ知る』状態にすらまだ無い。
それと同時に、このレイドパーティーには確かに人外の領域に手を掛けている『アダマンタイト級』のアストさんが在籍しているが、実力的な意味ではなく、世間的なランクとして、俺を初めとした他の面子は基本的に『銀級』程度である上に、乾達の『戦乙女』に至っては、『魔王国』で登録してから頑張って一段階上げて『銅級』、そして、この『獣人国』に来てからもう一段階上げて『鉄級』まで到達してはいる(割りと驚異的なスピードらしい)が、それでもまだ『鉄級』でしか無いのだから、外から見たのでは大した実力は無い様に見えるハズなのである。
以上の理由から、アストさん個人か、もしくは『名無し』や『三獣士』に対して指名依頼が入るならばまだ理解出来るのだが、わざわざ『鉄級』の『戦乙女』を指名範囲に入れ、『失敗する確率』と『無駄な出費』を増やす様な真似をするのが不可解なのである。
……まぁ、可能性の一つとしては、俺達三人以外の女性陣が目当てで指名した、って事も有り得なくは無い……のかな?確かに、皆美人さんだし?
だが、それならば俺達『名無し』が外される事になるハズなので、本格的に意味が分からず、冒頭の様に聞き返す事となっているのである。
一応、聞かなければ話が先に進まない為に、バッサリと断ってしまいたい処をグッと堪えて、依頼の内容やら何処からの依頼なのかを確認しておく。
「……では、依頼の内容を教えて貰えますよね?いくらレイドパーティーを組んでいるとは言え、足枷になりかねない条件を付けられた上で、危な気無く達成出来ける様な依頼なんですよね?
それと、報酬と依頼人も『当然』教えて貰えるんですよね?」
あまりやりたくは無いし、ランク的な建前とは言え女性陣を貶す様な事は言いたく無いが、こう言う交渉事は俺の担当と以前から自然と決まっていたので、敢えて俺だけで会話を進めて行く。
なお、タツはこの手の交渉が拗れた際の荒事担当で、レオは交渉相手が『ごねた』時の物理的な説得(意味深)担当となっている。
しかし、俺達の観点からしてみれば、問い質している内容自体は依頼を受けるに当たって必要最低限な情報である為に、こちらへと提供されて然るべきモノであったのだが、受付嬢は済まなそうにその目尻を下げながら
「それらの質問には、依頼を受諾して頂いてからでないとお答え出来かねます」
と返答してきたのだった。
「…………は?」
思わず半ば反射で、そんな腑抜けた様な声が出てしまうが、それに構うつもりは無い、とばかりに受付嬢は言葉を繋げる。
「もちろん、依頼を受諾する、と返答を頂けたのでしたら、具体的な依頼内容と対象、それと、依頼人の方にお引き合わせする事も可能ですが、如何なさいますか?」
一応は、こちらへと判断を委ねる様な口振りではあるが、その実としてはこちらが受けて当然、と思っているであろう事は、彼女の目を見れば手に取る様に理解出来るし、雰囲気的にもそんな空気がそこはかと無く感じられる。
……仮にも、パーティーメンバー全員が『二つ名』持ちのパーティーに対して、ここまで強く出ても『それが当然』と思っていられる、と言う事は、依頼人が余程の大物でこの受付嬢の直接的な後ろ楯であるのか、もしくは冒険者ギルドそのものから降りてきた依頼であるか、と言った感じだろうか?
まぁ、どちらにしてもキナ臭いのには変わりが無いのだし、この受付嬢の『当然受けますよね?』とでも言わんばかりの表情にも、若干『イラッ!』と来ている事も有る以上、返答は決まっている様なモノだろうけどね?
「分かりました。では……」
「受けて頂けるのですね?では説明に入らせて頂いてもよろし「え?当然違いますよ?」……え?今、何と……?」
「だから、『断る』と、そう言っているんですけど?」
俺が返答するべく口を開くと、その言葉を聞かぬ内に受付嬢が『受諾する』事を前提に話を進めようとし出した為に、こちらも半ば被せる形で言葉を放つ。
でも、まぁ、当然よね?
依頼の内容も、対象も、依頼人すら教えない、なんて言ってくる様な状況じゃあ、確実に『これから罠に嵌めますね!!』と言ってきている様なモノなのだから、受けてやらなければならない理由被せる存在しない。
……むしろ、この条件で受けて貰えると思っていた、って事にビックリなのだけれど……。
しかし、そんな俺達の考えとは裏腹に、俺達が確実に引き受けるモノと考えていたらしい受付嬢は、唖然とした表情のままに固まってしまっている。
そんな彼女がどれくらいで再起動するのかな?と暫く観察していたのだが、少なくとも五分程度ではこちら側に戻っては来てくれなかったみたいなので、これ以上用事がないのであれば、と付き添いとして同行していたアストさんを含めた全員で席を立とうとする。
すると、流石に呆然としている事が出来なくなったのか、そのままギルドの建物から退出しようとする俺達へと
「……ほ、本当に受けないつもりなのですか!?」
と問い掛けて来る。
そんな彼女に対して
「……いや、そんな不透明な依頼、受けなきゃいけない理由が無いんだけど?」
「……当然だ」
「一体~、何をやらされるのかすら分からないのに~、依頼人も不明なんて~、確実に犯罪行為をさせようとしている風にしか見えないけど~?何でそんな依頼受けなきゃいけないのかなぁ~?」
「それに、元よりタカナシ殿はこの地を離れる予定でしたからね。道中でどうにかなる依頼ならばともかく、『何処』で『何を』『どのくらい』『どうすれは』達成した事になるのか、すら不明な依頼なんて受ける必要性が在りませんからね」
「まぁ、そう言う事なんで、依頼人が何処ぞのお偉いさんであろうと、何かしらの理由で俺達に受けさせたかったのだろうと、それを汲んでやらなけりゃいけない理由が微塵も無い以上は関係無い事なんですけど、それを分かった上で言ってましたか?
もう他に無いのであれば、俺達はこれで失礼します。ついでに、移動手続きもお願いしますね?それでは~」
と、もはや『口舌の刃』とも言えない程に、『魔王国』では当たり前であった事(『獣人国』でも当たり前かは不明だけど)を言うだけ言い捨てて、俺達は席を立ちながら退室しようとする。
「……あ!ちょ!ちょっと待って下さい!?」
すると、俺達の指摘によって半ば意識を飛ばしていた受付嬢は、俺達の動きを見るや否や、流石は『獣人族』と言いたくなる程に鮮やかな跳躍にて、俺達と彼女とを隔てていた机を一足の元に飛び越えると、一応パーティーリーダーとして登録してあり、その上でレイドパーティーでもリーダー的な動きをする事の多い俺の足元へと飛び込んで来ようとする。
その突然の行動に、半ば反射で戦闘体勢へと移行しかけたが、その後の受付嬢の行動にて逆に脱力させられる。
何と彼女は、『獣人族』特有の超人的身体能力を駆使し、空中にて無理やりに身体を捻って体勢を整えると、爪先、膝、両手、額の順番にて床へと着地をキメると、そのまま額を床へと擦り付けつつ、声だけでも半泣きになっていると分かる声色にて俺達へと懇願してきのであった。
「お願いします!話だけでも聞いてくだざい!高圧的に出たのも謝りまずから、どうかお願いじばず!!あの暴走を止められた皆さんしか頼れる方が居ないんでず~!?」
そんな、フライング土下座(with三回転半捻り)をキメて床へと涙と鼻水によって水溜まりを拵えている受付嬢を頭を眺めながら、カーラやリンドヴルムと言った魔物組を含めて俺達は、ただただ互いに顔を見合わせるだけなのであった……。
……ないごて……?
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「……上手く行くと思うか……?」
「……通常であれば『厳しい』と言わざるを得ませぬが、可能か不可能かで言うのでしたら、おそらくは彼らならば『可能』かと……」
「……そうか……。しかし、素直に引き受けると思うか?」
「……この半月程ではありますが、直接的に『我が家』にて顔を合わせた感触としては、そこまで理不尽な要求を突き付けて来る程の愚物でも無いかと……」
「……しかし、『必ず』引き受ける、とも言えぬ、と……」
「これまでの人物評とこの国に於いての行動理念、それに加えてバアル陛下からもたらされた情報に依りますれば、こちら側が『理不尽』を突き付けなければ大丈夫かと……」
「……して、その『理不尽』の範疇とは……?」
「そうですね……。『一方的な要求の突き付け』や、『事情を説明せずに依頼を受諾させよう』としたり、『依頼内容を説明しない』なんて事も範疇に含まれるのではないでしょうか……?」
「……フム。確かに、私が接していた感触からも、その辺を避ければ大事は無いかと思われますが……。
……?如何なされましたか?『獣王』陛下?」
「……その……何だ……。儂、対応を間違えたかも知れぬ……。ギルドの方には、依頼を受諾する、と確定するまでは情報を明かすな、と通達しておったから、もしかすると……その『理不尽』の範疇に触れておる……かも……」
「……『宰相』殿、私はもう帰って自領の防衛に専念しても?」
「……それも仕方の無い事かも知れませんね、『レオンハルト』殿……」
「……まだ駄目になったとは限らぬのだから、早々に諦めるでないわ!」
「……では、指示を出した者として、万が一引き受けていただいていた場合には、確りと謝罪をしていただきますからね!」
「何故にそうなる!?こら、レオンハルトも宰相も何処へ行く!?おーい!!?」
……さて、一国の王とその重鎮達が話し合う事とは一体?
そして、受付嬢の運命は!?
面白い、かも?と思っていただけたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(__)m