66・朝から汚れたので、お風呂を借りる事になりました
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勝手知ったる他人の家、と言う訳ではないのだろうが、それでも幾度と無く訪れているらしきレオンハルト家へと、サーラさんとサーフェスさんの誘導に従い、女性陣の荷物を一旦回収してから向かって行く。
途中からは、半泣きになりながらも合流を果たしてきたシンシアさんに案内される形で道を進み、合間合間で見付けた市場に寄ってみた(約一名が暴走しかけた)り、広場にて行われていた大道芸を見物した(約一名が乱入し、即興で合わせていた)りしながらも、太陽が中天に掛かるよりも前には、このレオルティアの中心地にその居を構えているレオンハルト家へと辿り着く事に成功したのであった。
「……コレを見てどう思う?」
「「「……凄く……大きいです……」」」
いつぞやのボケ再び。
しかし、そうも言いたくなると言うモノだろう。
何せ、目の前に在る建物は、まるで何処ぞのお城ですか?とでも聞きたくなる程に立派な造りをしており、それでいてゴテゴテとした派手な装飾は施されておらず、要所要所で的確に、されども地味になり過ぎずに建物へと華を添える、と言った風な落ち着いた感じの装飾品によって飾り立てられており、その美術館を思わせる佇まいに、知らず知らずの内にその雰囲気に呑まれかけていたのだから、おふざけの一つや二つは勘弁願いたい処である。
そんな俺達の呆気に取られた様な表情を見て、『獣人族』の平均からすれば、『やや控え目』と言う表現が適応されるらしい(本人談)が、それでも俺達から見れば平均よりも豊かに実っている様に見える胸部を得意そうに反らし、思いっきり『ドヤ顔』をしながら話し掛けて来るシンシアさん。
「フフ!凄いでしょう?ココは交易都市だから、放っておいても勝手に利益が出る様に仕組みが作られているから、無駄にお金だけは持っているんだ!
ボクも冒険者としてサーラやサーフェスと一緒に色々回ったけど、身内の贔屓目を除いても、やっぱりコレが一番だと思うんだ!」
そう、得意そうに話すシンシアさんに、その主であるレオから無慈悲な突っ込みが入れられる。
「……そうやって~、家が立派なのを自慢したり誇ったりするのは良いけど~、そんな事ばかりしているから~、あの阿呆みたいなのが出てくるんじゃ無いの~?」
「はぅっ!!?」
情け容赦の無い主からの突っ込みに、マンガか何かであれば『グサッ!?』とでも擬音が飛び出して来そうなポーズで胸を抑えると同時に、悔恨の表情を浮かべながらその場で崩れ落ちるシンシアさん。
時たま飛び出すレオの毒舌によって被弾し、地面に蹲っているシンシアさんを横目に見ながら、ほぼ完全に『勝手知ったる他人の家』状態の二人により、門番さん達の会釈付きで正面門を潜り抜けた俺達が玄関からお邪魔しようとしたのだが、奇しくも時を同じくして獅子を象った様な紋章(家紋か?)があしらわれた馬車が正面門より飛び込んで来て、玄関の前に作られたロータリーに停められる。
「若様をお連れしました!ご指示の通り、まだ『生きて』はいますが、状態的にはあまりよろしく……って、うおぅ!!?」
停められた馬車より人が降りてきて、玄関の方へと声を挙げながら走りよって来たのだが、その玄関の脇にいた俺達を目の当たりにして反射的に飛び退きながら、驚きの叫びを挙げてしまう。
……はて?そんなに驚かれる程の顔見知りだっただろうか?と思った俺は、脳内で顔検索を掛けてみる事にしたのだが、コレでもか!と言わんばかりに『狼人間』感を前面へと押し出して来ているそのウェアウルフの男性の顔には、特には見覚えが無い以上、『魔王国』のギルドでのアレコレで俺達の顔を知っていた、と言うパターンか、もしくは関所の処でコボルトの人達と一緒にモフり倒した、とかのパターン位しか思い当たる節が無いのだが、前者ならば何故ここに居るのかが不明だし、後者にしても、ここまで体格が違う(コボルトは大きくても俺の胸の辺りまで。このウェアウルフは俺と同程度の身長が有る)と確実に『その時』には気が付いたハズだし、そもそも俺が分からないハズが無いからね?一応、触らせて貰ったコボルトとケットシーの人達は、全員判別がつくからね?
そんな事(一部無関係)を考えながら、飛び退いたのは良いものの、その場で腰を抜かしてしまいアウアウ言いながら他の一握り助けを求めているそのウェアウルフの人を眺めていると、心理的ダメージからようやく立ち直ったらしきシンシアさんが俺達へと合流を果たし、そこに広がっていた光景から状態を察したらしく、取り成す様に口を開く。
「……彼は、その~……闘技場の時にバカ兄貴を確保しに行った、ボクの家の精鋭でして……。多分ご主人達にボコボコにされたショックからまだ抜け出せて無いんじゃ無いかなぁ~?と……。
そんな訳なんで、出来ればあんまり苛めないであげて貰えませんか……?」
………………あっ!アレか!!
言われてみれば、確かに居たね!彼!
……まぁ、割りと最初の方に、俺だったかレオだったかに峰打ちを貰って、早々に退場した様な気もするけど。
そんな事を思い出しながら、内心で納得していると、腰を抜かしたウェアウルフの人とは別の人が馬車から何から大きな袋を引きずり出し、地面に引きずりながらお屋敷の裏手へと運んで行く。
そして、その袋はちょうど、俺よりも『身体が大きくて』もスッポリと入ってしまいそうな大きさで、おそらく内側から染み出たと思わしき『赤いシミ』が今もなおジワジワと広がっており、中に何が入っているのかは不明だが、それでもどうやら『生きている』らしく時折モゾモゾ取り成す動いている様子が伺える。
……もっとも、中身が何かは知らないが、袋の外から伺える動きから察するに、どうやら極端に手足の短い生き物か、もしくは『四肢を切断された』ナニかか、と言った類いのモノであるらしい、と言う程度の想像しか出来ないけれどもね?
一応、シンシアさんに例の袋を指摘しながら『どうするの?』と聞いてみたのだが、
「……知らない方が良いと思うよ……?」
と返されたので、追及はしない方向で行く事にした。
そして、その袋詰めのナニかが完全に裏手へと運ばれて行くのを見送ったタイミングで、これから向かおうとしていた玄関から燕尾服を来たウェアウルフの人(先程腰を抜かしていた人とは別の人である)が扉を開けて俺達を迎え出て、シンシアさんの父であり、このお屋敷の主であるレオンハルト家の当主が俺達を歓迎させてもらう、との伝言を伝えると同時に、俺達を中へと案内するのであった。
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「ご主人達!これからお風呂入らない?」
「「「……はい?」」」
唐突にそんな事を言い出したのは、現在俺達が滞在する事となったお屋敷の主の娘であり、レオを『主』として慕うシンシアさんだ。
一応、俺達がこのお屋敷に滞在する事になった経緯を説明しておくと、あの後執事さんに案内されてレオンハルト家の当主であるネメアー・レオンハルト(クソライオンを超す背丈で片目を縦に横切る傷痕が有る武人だった)の元へと移動した俺達は、その当主本人より今回の件の謝罪と阿呆を止めた事への感謝、そして『獣人国』内で活動する際には、このレオンハルト家を拠点として使用する事の許可と、レオルティア内であれば『ある程度』の便宜を図る事を約束してくれたので、現在こうして滞在させてもらっているのである。
ちなみにその後、シンシアさんの『主』であり、目下の処(そう言う意味で)狙われているレオをマジマジとネメアーさんが観察すると、シンシアさんに対して
『彼ならば大丈夫だろうから、確り捕まえるのだぞ?』
と言っていたりしたので、おそらくは気に入られたのだろう、と言う一幕や、あのクソライオンが廃嫡となった関係で、次期当主の筆頭(シンシアさんは女性なので継承権が無いのだとか)となった、シンシアさんの弟であり、まだ鬣も生え揃っていない様な可愛らしい少年であるバロン君(9歳)を、本人の許可の元にモフったり、と言った一幕が有ったりもしたのだが、この場では関係があまり無いので割愛させて貰うけれども。
と、そんな訳で、俺達がこの場に居る事自体はそう変な事ではないのだが、だからと言ってシンシアさんが唐突に言い出した事には違和感しか抱けない為に、何の意図の元の発言かを問い詰める。
「おいおい、シンシアさん?元からちょっとアホの子かなぁ、とは思っていたけど、今回の事は唐突に過ぎて意味が分からないのだけど?」
「……何を企んでいる……?」
「何か~、碌でもない事を考えているのなら~、早めに吐いておいた方が身のためだよ~?何せ君は~、一応赦されたとは言え~、既に『前科』持ち何だから~、次こそは問答無用で死刑だよ~?」
事情の説明を求める俺に、問答無用で疑って掛かるタツ、そして、然り気無く脅しながら最早尋問と表現しても間違いでは無さそうな雰囲気を出しているレオの三人に問い詰められ、若干引き気味ながらも笑顔のまま答えて行くシンシアさん。
「……や、やだなぁ、何も企んで何か無いって。ただ、ボクの家の事情から、掛けなくても良かった手間をかけさせちゃった訳だし、それで朝から色々と汚れちゃったみたいだから、良かったらウチのお風呂に入らない?って聞いたつもりだったんだけど?
前に『お風呂の方が好き』って聞いた覚えが有るし、確か取ってた宿ってシャワーしか無かった様な気がしたから薦めてみた、って訳なんだけど、どう……しますか……?」
そう、普段の活発な感じとは裏腹な、何処か大人しい様な雰囲気を纏いつつ、両手の指を突き合わせながら上目遣いに聞いてくる彼女の姿に、思わず『何かしらの企みだろうか?』と目を合わせる俺達だったが、よくよく観察してみれば、彼女の頭頂部から生えている耳はペタリと寝ているし、その尻尾も不安げにユラユラと揺られている事から、おそらく今回の件に於ける自身の行動を悔いての気配りなのだろ、との結論をアイコンタクトだけで出した俺達は、少ないながらも土埃やら返り血やら汗やらで汚れているのは間違いないのだし、ここ最近は確かに湯船に浸かれてはいなかった、と言う事もあったので、シンシアさんの薦めに従い、お風呂をご馳走になる事としたのであった。
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呼び出したメイドの案内で『男湯』まで案内されて行く『ご主人』達を見送ったボクは、計画の同志であり共犯者でもある二人に『第一段階成功!』と視線を送った後に、思わず口許に小さな笑みを浮かべていたみたい。
そう、この計画こそ、敢えてあの時・あの場で飛び込んで、ご主人達から『敵』認定されかねない危険を侵してまで行う価値の有るモノだからね!
……まぁ、元々は他の何かに託つけてやるつもりだったんだけど、偶々あのバカ兄貴(故)がバカやってた事からの流れで、偶然今みたいな状況になったから思い切って実行してみた、ってだけなんだけどね?
……さて、そろそろかな?
自慢の聴力でご主人達の足音を聞いている限りでは、そろそろ男湯に到着する頃合いだろうから、ボクらの『計画』を実行する為には、そろそろ移動しておかないと、タイミングを逃してしまうかもしれないからね。
そんな意味も込めてサーラとサーフェスに目配せして、三人で然り気無く部屋を出ようとしたんだけど、何故か気付いていたらしいイヌイやサトウに肩を掴まれ止められちゃった……。
……まさか、計画が気付かれていたなんて……。
半分位は絶望しながら、イヌイ達からの判決を待っていたんだけど、そこで予想外の提案をイヌイ達が出して来たんだ。
『その『計画』、私達も混ぜて貰っても良いよね?』
ってさ。
まさか、割りと真面目でお堅いイヌイ達が、ボク達の『計画』を知った上で止めるんじゃなくて、参加しに来たのはビックリしちゃったし、参加する人数が多くなると失敗するかも知れないから、出来れば遠慮してほしかったけど、この際贅沢は言ってられないから、諦めて一緒に行く事にしたんだ。
と言っても、参加するのはイヌイにサトウにクチナワとクマタニ、それとアシュタルトさんで、アリサとネスミとサクラギは『興味が無い』って言って不参加だし、リンドヴルムとカーラはご主人達と一緒にお風呂に行っちゃっているからもう居ないしね。
……別に、羨ましくなんて無いからね?
予定よりも増えちゃった大人数で廊下を進み、ある部屋に入ってから特定の手順で壁を叩くと、それまで何も無かったハズの壁が一部分だけスライドして、普通じゃ入れない通路の入り口が開く。
そこからはお喋りしていると『向こう』にも聞こえちゃうから、出来るだけ小声で喋り、必要が無かったら喋らない様に注意してから、出来るだけ足音も忍ばせて進んで行く。
そして、そこそこ時間が掛かっちゃったけど、それでも今回の作戦の目的地である場所に無事辿り着く事に成功したボク達は、その通路に作られていた覗き窓から息を殺してそっと覗き込むと、そこには天国が広がっていたんだ!!
そう、ご主人達が入浴中の男湯の光景が!!
そこでボク達はご主人達の肉体美について小声で語り合ったり(タカ様もご主人も見た目からは想像も出来ない程に鍛えられていたし、タツ様は見た目以上にスゴイ筋肉だった)、ご主人達の全身に刻まれた傷痕を痛ましく思ったり(三人とも、傷付いていない所が見当たら無い位に、全身が傷痕でいっぱいだった……)したんだけど、ご主人達がお風呂から上がりだしたから急いで通路から脱出して、元居たご主人達に使って貰う部屋へと慌てて戻ったんだけど、ご主人達のハダカを見れた以上に、一緒に覗きに行ったメンバーとは、以前よりも仲良くなれた様な気がしたんだ!
……何でか分からないけど、覗いていたのがバレて、ご主人達にお仕置きされちゃったけど、まぁ、良いか!
なお、本編ではまだ語れていませんが、ライオネルもウェアウルフも当作品におきましては男性は『二足歩行の獣』みたいな外見で、女性は『耳と尻尾が着いた人間』みたいな外見として書いておりますので、シンシアさんとネメアーさんはちゃんと血の繋がった親子で間違いはありません。
……え?誰も気にしていない?
……さいですか……。
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