64・お仕置きの時間です
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何やら勘違いしていた様子の従者その一を両断し、物言わぬ骸へと変貌させた『刃の付いていない』ハズの剣を片手にぶら下げながら、端から見ればほぼ無造作に歩いている様にしか見えないであろう足取りで距離を詰めて行く。
そんな俺の様子や、本来であれば有り得なかったハズの現象を目の当たりにしたクソライオンとその愉快な仲間達(笑)が、まるで気圧されたかの様に後退って行く。
そして、その際に立てた音により、自分達が無意識的に後退していた事に驚愕している様な表情を浮かべるが、そちらにばかり意識が向いてしまっていたために、そのまま歩み続けていた俺が既に接近してきていた事に反応する事はもちろんとして、接近そのものすらも察知する事が出来ずにいた。
その為、本来であればその大楯で最前衛に陣取り、相手の攻撃を全て受け止める事を役割としていたのであろう盾持ちが、そのポジショニングと全身の装備の重量から一人取り残される形で突出してしまっており、既に接近していた俺からすれば『哀れなる獲物』でしか無かったそいつへと、こちらも『無造作』と言うか『大雑把』と言うかは人によりけりなのだろうが、とにかくその手の形容詞を付けられるであろう程度の迫力でそのまま剣を振りかぶり、そのまま真っ直ぐに振り下ろす。
さすがに、至近まで接近された上に、あからさまに攻撃の意志を示した存在に気が付かない程鈍かった訳では無いらしく、咄嗟に普段から使っていたのであろうと思われる表面が傷だらけな大楯を、俺の剣の軌道上へと差し入れて攻撃を防ごうと試みる。
『普通』であれば、使用されているのが何かしらの『名剣』の類いであったり、もしくはその道の『達人』による一振りであったりしたのであれば、その攻撃を魔法金属(ミスリル等の不思議金属)で出来ている訳でも無い普通の大楯で防ごうとは思わなかったのだろうが、使われているのが予め刃を潰されている、そこまで『逸品』とは言い難い剣であり、振るっているのも剣の達人とは言い難いのであろう俺である事を鑑みれば、何時もの通りに楯で受け止めようとしてしまったのも仕方の無い事なのだろうし、そう判断してしまったのも、ある意味当然なのだろう。
そして、『普通』であれば、このまま俺の振るう剣はこの楯に受け止められ、そのまま盾持ちの反撃を貰う事になるのだろうが、クソライオン側に取っては残念な事に、その『普通の出来事』は発生せずにあらゆる意味で『普通では無い』出来事が発生してしまう。
そう、俺の振り下ろした剣が楯によって弾かれる訳でも、勢いに負けてへし折れる訳でもなく、まるでゼリーにでもスプーンを差し込んだ時の様にあまりにも軽い手応えと共に、楯とそれを保持していた腕を斜めに両断し、下方から刃が抜けると同時に『まだ固定されていた腕の残っている楯の大部分』と、『切断された腕に僅かに残された楯』とに分断したのであった。
「……え?……は?……へ??」
そんな、間の抜けた様な声を出しながら、両断された楯と腕とが徐々に『ズレて』来る様を眺めていた盾持ちだったが、僅かな時間で完全に分断され、下部がスパイク状になっていた上に、かなりの大きさを誇っていた楯であった為に、轟音と共に地面に突き刺さる様と、それに連動するかの様に起こり出した出血と激痛により、その場でみっともない程に泣き叫びながら転がり回りだす。
「……やれやれ、『その程度』の負傷で、そんなに大袈裟に騒がなくても良いだろうに」
そう、思わず呟きながら、その無様な盾持ちにトドメを刺してやった後、その骸から剣を引き抜いて状態を確認する。
……ふむ。二人斬ってこの程度の損耗ならば、後十人程斬ったとしても、多分持つだろう。
まぁ、一応、もう一回『立てて』おくとするかね?
状態を確認し終えた剣を振って血糊を飛ばすと、丁度良い具合に地面に突き立っていた楯の大部分の縁の部分へと剣の鍔本を持って行くと、最初の一人目の時と同じ様に刃に当たる部分の根元から鋒までを擦り付け、直接的に刃に残った血脂を削ぎ落とす目的も『兼ねて』火花が飛び散る程の速度と摩擦を与えつつ、適度に角度を変えながら数度擦り付けておく。
そんな俺の行動に訝しげな視線を向けてくるクソライオンだったが、既に二人も斬られている現状に流石に危機感を募らせたのか、自分は後ろで動かぬままに従者共へと攻撃の命令を下している様に見受けられる。
そんな、覚悟も無く、判断も遅く、敵の攻撃の正体を探るだけの知能も無い阿呆共に付き合わされる事に些かウンザリしながらも、まだこの程度で止めてやるつもりは更々無い俺は、次なる獲物を求めて歩みを早めるのであった。
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「……何なのだ……、一体何なのだ、貴様は!?」
そんな叫びが聞こえて来たのは、俺が追加で四人を斬り伏せ、五人目へと掛かった際に『わざと』敵の戦斧による攻撃を受け、最初の一人目の時と同じ様に根元から鋒へと滑らせる様に受け流している時であった。
「何故だ!?何故、そんな刃の付いていない剣で、我の配下の中でも精鋭であるこ奴らが『斬られる』のだ!?貴様は槍一辺倒では無かったのか!?そもそも、何故刃の付いていない剣で、鎧を着込んだ人間が斬れるのだ!!?」
そんな風に、半ば狂乱した様にも見える素振りで、俺へと『恐怖』が多大に混じった視線を送ってくるクソライオンだったが、その質問に素直に答えてやらねばならない理由も義務も無い俺は、ちらりとそちらに視線を向けるだけに納めると、相対していた斧使いの首元へと刃を滑り込ませて真っ赤な噴水を拵えてやり、更に骸を一つ増やしてから、次なる獲物として定めていた相手との距離を詰めるべく足を進める。
そして、更に追加でもう一人斬り捨てて、残っている敵勢力がクソライオンの護衛として傍に残されていた二人とクソライオン本人だけとなった時、それまでただ呆然と俺の殺戮を眺めていただけだった審判がようやく再起動を果たしたらしく、果敢にも俺とクソライオン共との間に躍り出て、俺に対して両手を広げて立ち塞がり、クソライオンに対しての壁になりながらその口を開く。
「ま、待て!貴様のその武器は何だ!?あの備え付けの武器庫には、刃の付いていた武器は無かったハズだ!あそこ以外から武器を持ち込んでいたと言うのならば、この場で反則負けを宣言させる貰うぞ!!」
……ぶっちゃけ、そのセリフだけで、思いっきり俺にだけ不利な条件を審判ぐるみで押し付けていた事実を公表し、更に大声で『不正してます!』って宣言している様なモノだけど、そこには突っ込んではいけないのだろうかね?
……まぁ、そろそろ教えてやっても良いかな?
「……別段、あんたの言う処の『反則行為』なんて、俺は欠片もしてないけどね?」
「では、この状態をどう説明するつもりだ!」
「そ、そうだ!貴様が反則をして真剣を持ち込んでいない限り、このような事にはなり得ぬだろうが!
審判!さっさと其奴の反則負けを宣言せよ!でないと我があそこで待っている妻達と閨に行けぬでは「……いい加減黙ってろ、発情猫」……ヒィッ!?」
審判との会話に口を突っ込んで来た為に、少々強めに殺気と威圧とを乗せた視線を送り、強制的に黙らせておく。
そのまま審判の目の前に剣を翳してやり、俺が今の今まで使っていたソレが、武器庫に置かれていたソレである事を確認させる。
「見てわかる通り、これはあの武器庫にあったモノだし、当然俺が外から持ち込んだモノでもない。それは、俺がここに入場した時の格好で分かっているハズだろう?これ以外を持ち込んでいたのならば、嫌でも目に写っていたハズだ」
まぁ、俺の場合は『技能』で創ろうと思えば創り出せるのだが、それをわざわざ教えてやる必要は無いけどね?
「……確かに、我々の方で用意した剣に間違いは無い。
……だが、それは元より刃の付けられていなかったハズの剣だ。それなのに、今は刃が付けられている様に見受けられるが、それは一体何故なのかね!?」
「そんなモノ、決まっているだろう?」
そう言ってから一旦言葉を切った俺は、何事もなく常識を語る様に事実を告げてやる。
「刃が付いていなかったから、闘いながら『付けた』んだよ。敵の攻撃やら防具やらを利用してね」
些か唐突だが、俺の修める『飛鷹流』は実戦の中で編み出された武術であり、その根幹の一部には『如何にして闘い続けるか』と言う思想も含まれている。
戦場では、常に予想外の事態が発生する可能性に満ち溢れている。
そして、その『予想外の出来事』すら『想定の範囲内』に修め、それらが『起こりうる出来事』であると認識し、流派の内部の技術へと取り入れてしまっているのだ。
それ故に、手元から予め用意していた槍や小太刀の類いが失われたとしても、対峙している敵から奪う為の『奪刀術』や、それらを十全に扱う為の『剣術・刀術』を。
敵を斬り裂いた刃が、その血脂で切れ味を鈍らせてしまったとしても、敵の攻撃を受け流す際の得物同士の擦れ合いによる摩擦や、敵の防具等を利用しての刃の『研ぎ直し』による継戦能力の向上を。
それぞれ、戦場では極ありふれた現象では在れども、それらを克服するために流派の技術として取り込んだ等と言うのは、おそらくは『飛鷹流』を除いてはそうそうお目にかかれる程に、普遍的な思考では無いだろうと思われる。
と、『飛鷹流』における戦闘理念を語ってはみたものの、実はそこら辺は既に『飛鷹流』の中でも割りと廃れている考えではあるのだけどもね?
ぶっちゃけた話をすれば、前者の『奪刀術』やら何やらは、そもそも使わねばならない状況にならない様な立ち回りを、後者にしても、そうなってしまう様な使い方をしない方向へと『飛鷹流』の内部でも考え方が変化していった為に、現在では『こんな技術も有るよ』程度の認識&継承しか行われていない技術なのである。
言い方を変えてしまえば、『ネタ枠』的な技術である、とも言えるだろう。
現に、『飛鷹流』の当代継承である俺の『技能』欄の中に、『奪刀術』も『剣術』も『刀術』も無いって事を思い出してもらえれば、それらがどんな扱いの技術で俺本人の練度もどの程度だったのか、は『お察し』して頂けるかと思われる。
まぁ、後者の技術に関しては、割りと山の中だとかで手持ちの刃物の切れ味が鈍った時とかに重宝したりするので、案外とバカに出来ないモノだったりするのだけどね?
もっとも、そんな事情を敵であるクソライオンに対してわざわざ説明してやる程に、俺は優しい訳では無いので、先程のセリフだけとなった訳なのだが、どうやらそれを今一理解出来ていない上に、どうやらバカにされたとでも思った様で、残り少なくなっていた従者と共に激昂しながら突っ込んで来るクソライオン。
……もっとも、そんな状態でも従者達を前に押し出して、自分は一番後ろに居るって事を鑑みると、やはり下半身主体で勇気も戦意もクソも無い、って言う生き物なのだろうね、アレ。
そんな風に内心呆れながらも、兜から垣間見える素顔を必死の形相へと歪めながら戦槌を振るって来た一人目の攻撃を、さすがに鈍器相手では防御出来ないし、したとしてもそれまでの様に研ぎ直しに使える訳でもない為に回避する。
そして、攻撃が空振った為に体勢が崩れた処を狙って剣を振るい、腰の稼働性を確保するための繋ぎ目に刃を沿わせてから蹴り飛ばしてやる。
すると、状況が状況故に、傷の痛みを堪えて即座に立ち上がろうと試みるが、それの動きだけで全身鎧の重量が腰の傷口へと負担としてかかり、ソレによって発生した出血と激痛によって悲鳴を挙げながら地面に崩れ落ちる。
そんな、既に無力化した方の従者を視界の端に納めながら、最後の一人として残っている方の従者へと向き直る。
どうやらこいつだけは、他の従者共とは違う様で、無様に叫び声を挙げながら突っ込んで来たり、無駄に力を入れすぎた全力スイングをしたりして隙を晒したり、と言った状況は望めなさそうだが、それでもまぁ、やり様は幾らでも有るだろうけど。
なんて考えていると、俺の倍近く有りそうな巨体が一歩前に踏み出して来たかと思うと、次の瞬間には常人にはポールアックスとしてしか使えないであろう巨大な両手斧を、これまた常人では絶対に不可能であろう速度にて俺の頭上へと振り下ろしを仕掛けて来る。
先程の戦槌と同じ様に、さすがに質量武器は防御出来ないので一歩右にずれながら回避し、空振った斧の一撃によって砕け散った礫の散弾を煩わしく思いながら懐に潜り込むと、振り下ろされた得物によって地面へと固定されている両腕の、必然的に装甲を薄くせざるを得ない肘関節の部分へと刃を叩き込む。
が、その一撃は、予想外の装甲の厚さと、まるでゴムの様な筋肉の手応えによって目的の半ばで弾き返され、中途半端な傷を付ける程度で終わらせられてしまう。
……案外と硬いな……。
そんな感想を、胸の内側だけで溢した俺だったのだが、敵がそんな感想を抱く事を良く知っているらしきデカブツは、さも『お前の攻撃なんぞ俺には効かないぞ?』とでも言いたげな視線を、兜のバイザー越しに向けて来る。
その視線に、思わず『イラッ!』と来てしまった俺は、そのデカブツ従者が動き出す前に後ろへと回り込むと、今度は膝関節の真後ろから、斬り付けるのではなくその切っ先を装甲の隙間から突き込み、内部でグルリと半回転させる。
さすがに、最も筋肉の薄い部分の一つでもある膝裏には筋肉による防御も叶わなかったらしく、引き抜く際に『ついでに』と左右にグリグリと内部を掻き回してから引き抜いた為に、完全に使い物にならなくなったであろう膝を抱え、そこから発せられる激痛によって転がり回るデカブツ従者。
おそらく、もう戦闘の意思も戦闘能力自体も無いとは思われるが、それでも万が一を排除するために再度近寄り、全身の力を込めて首筋を切っ先で抉る様に斬り裂き、延髄を露出させた上で叩き斬って完全に無力化する事に成功する。
まぁ、その代償に、返り血によって真っ赤にされたけどね。
そんな状態のままに、先程のデカブツ従者との戦闘を目の当たりにした為か、少し離れた処で腰を抜かしてへたり込み、その豪奢な鎧の下半身を濡らしているクソライオンへと近寄って行く。
「ヒィッ!ま、待て!待ってくれ!!?」
無言のままに近寄って来る俺に対して、腰の抜けたままに這いずりながら距離を取ろうとしていたクソライオンが、俺の方へと手を突き出しながら、懇願する様に話し出す。
「こ、今回は我の負けだ!我は降参する!そして、貴様を我がレオンハルト家で雇ってやろう!そうだ、それが良い!!そうすれば、貴様は……いや、『そなた』はこの都市で思うがままの生活が送れるし、我も名誉を守る事が出来る!!
どうだ!?悪い話では無いだろう!!?」
そんな事を宣うクソライオンだったが、俺としてはこいつみたいな阿呆の下に居ても未来が有るとは思えないし、そもそもこいつの下に着く位なら、大人しく冒険者辞めて魔王国に帰るからね?そうすれば、多分だけど魔王が職の一つや二つ位は斡旋してくれるだろうし。
と、言う訳で、情けを掛けてやる理由も、こいつに対する慈悲も持ち合わせていない俺としては、これ以上この茶番劇に付き合ってやるつもりが無いので、取り敢えずの意趣返しに為に、鎧の関節部分に沿う形で四肢を切り落としてやる。
それに対してクソライオンが、激痛によってか、もしくは他の理由からかは不明だが、本当に糞を漏らしたらしく周囲に悪臭をぶち撒きながら『何で!?』だとか『既に降参しただろう!?』だとかを喚いているが、俺はそれを受け入れた覚えは無いし、決着が着く条件の一つに『相手の死亡』ってのが有った位なのだから、当然死ぬ覚悟位は出来ているのだろう?
そんな思いと共に、息の根を断つべく剣を振り上げ、その首を跳ねようとした時であった。
「そこまでです!!」
そんな、割りと聞き覚えの有る凛とした声が、それまでざわめきに支配されていた闘技場へと響き渡る。
その声の制止を受け入れた訳でないが、その声の主と思わしき人物って、そんなキャラクターだったっけ?と言う内心の違和感に従い、クソライオンの首の皮へと一筋の切り込みを入れた処で刃を止める。
そして、その一撃によって失神した上に、残っていたモノまで残らず追加で漏らしたらしきクソライオンを放っておいて、声の聞こえて来た方向へと顔を向けた俺の視線の先に居たのはーーーー
皆さんの予想は当たりましたか?
……え?元より興味無い?
……さいですか……。
一応、最後のアレは既存の登場人物なので、そちらも予想してみると良い……かも?
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