62・獣人国に入りましたが……
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獣人国側の国境にもなっていた関所を何事も無く通り抜けた後、まだ日が高く出てはいたものの、これ以上先へと進むとまた(俺達だけが)『危険な』野宿になりかけない為、半ば無理やりに宿を取る事を決定すると、宿選びもそこそこに先程通り抜けた関所へとまた戻る。
すると、俺の匂いを覚えていたのか、それとも足音等で総合的に判断したのかは定かではないが、俺の接近に気が付いたらしき『コボルト』の衛兵さん達が、我先に、と押し合いへし合いながら、関所脇の詰所と思わしき処から飛び出して来る。
歓声を上げながら駆け寄って来る衛兵さん達の中には、一番最初に遭遇した(捕獲したとも言う)あの柴犬っぽい見た目の人と共に、上役と思わしきハスキーみたいな外見の人が混じっていただけでなく、他のにも見た覚えの無い大型犬の人や、二足歩行をしている猫の様な外見の『ケットシー』の人も混ざっており、それらが揉みくちゃになりながら接近してくる様は文字通り『毛玉』と化しており、見ているだけで精神的負担によって荒れ果て荒廃していた俺の心が癒されて行くのが感じられる。
サーラさん曰く、彼ら彼女らの種族である『コボルト』と『ケットシー』は他種族に非常に友好的であり、その上撫でられたりくっ付いたりするのが非常に好きな種族性であるらしく、そんな彼らからしてみれば、初手から抱き上げ+モフり倒しのコンボをキメた俺の行動は『熱烈な歓迎』もしくは『仲良くしよう!』のアピールに見えているのだそうで、あの様な変質者一歩手前みたいな行動を取っていた俺に対しても、こうやって温かく迎えてくれていると言う訳なのである。
そんな彼ら彼女らへと俺からも駆け寄り、遠慮の欠片も無い様な勢いと、持ちうる限りのテクニックを駆使して片端からモフって行く。
既に一回経験しており、今か今かと待ちわびていた人も、話だけは聞いていて期待感満載と言った雰囲気を醸し出していた人も、自分は並大抵のモフりではびくともしない!と自信ありげだった人も、等しく昇天するまでモフり続けた為、皆一様に床にてスライムの如く蕩け崩れている。
そんな、滅多に見せない笑顔のままに、一心不乱にタレコボルトやタレケットシーを量産している様を目撃した女性陣(普段は率先して行っていた部屋割り等の作業を丸投げして出ていった為、心配になって追い掛けてきた)は、彼(俺の事)があそこまで一心不乱に成る程に追い詰められたのは何が原因なのか?と気になり、同性であるタツとレオに相談した処、普段の所業が思春期の男子高校生にはある種の『負担』処か『拷問』になりかねない、との指摘を受けた為に、これから暫くの間それまでの様な苛烈なアピールは鳴りを潜める事となるのだが、等の本人だけはまだそれに気付いていないのであった。
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日程にはまだ余裕があった為に、それまでの旅の疲れを癒すためにも追加でもう一日宿を取って宿泊し、その後消耗した諸々の品を買い揃えて補給してから出発する。
「……嗚呼、我が天国が……。約束されし天国が遠ざかって行く……」
「……淡い……夢だった、な……」
「……これが~、人の世の儚さ、って奴なのかなぁ~……」
関所を通った当日と、追加で滞在した二日目も丸ごと癒しに費やした俺が、遠ざかるモフモフ天国を惜しみながら振り返り、思わず手を伸ばして求めてしまう。
最後の最後まで、ごねにごねまくりながらモフっていたのだが、俺の哀れなる抵抗も虚しく、こうして強制連行されている訳である。
一緒に衛兵になって、毎日撫で撫でしてよ!と誘ってくれた人も居た為、俺個人としても半ば永住を考慮しだしていたのだが、それを嗅ぎ付けた女性陣の手によって敢えなく粉微塵に粉砕され、儚い夢と成り果てたのである。
そして、そんな女性陣の魔の手は二人にも向けられており、新しく手に入った食材にて趣味の料理研究をしていたタツも、今までとは異なる新しい植生を調査して、自らの選択肢を広げようとしていたレオも等しく捕獲され、こうして三人共に未練タラタラな状態のままに、出発させられている訳である。
……男子高校生特有の、溢れ出すリビドーによる下半身事情はどうした?
そんなもの、衛兵さん達と戯れて、その毛並みを存分にモフっていたら勝手に消滅しおったわぃ。
そんな風に、それぞれがここ最近得ることが出来ていなかった『癒し』を取り上げられる形で失った俺達が黄昏ている様を見て、さすがにそうなる原因となっていた女性陣、特に俺達へと苛烈なアプローチを仕掛けていた面子が、居心地が悪そうにしながら小声で話し合いを開始する。
(……ちょっと、可哀想な事をしちゃった様な気がするけど、大丈夫かなぁ……?)
(……先生も、あんな小鳥遊君は見てられないかな……。雰囲気が悲しすぎるもの……)
(……確かに、小鳥遊殿は平素から表情豊かなタイプでは無かったですが、普段は今の様な無表情でも、案外と感情は伝わって来ますからね……)
(普段だったら無表情でも何となく機嫌良さそうだったり、楽しそうだったりだとかは解るけど、今の小鳥遊は普段と違って、何となく『泣き出しそうな子供』を見ている様な気分になってくるな……)
(……こう言う時は、抱き締めて差し上げるのが良いのでしょうけど、ああなられた切欠から鑑みると、おそらく逆効果になりそうですね……)
(そ、某にも耳も尻尾も有ると言うのに、主様はいったい某の何が不満なのだろうか……?)
(……さすがにボクでも構い過ぎた、って事は理解しているんだから、サーラもいい加減理解しなよ?)
(そうよぉ。サーラちゃんは押しすぎなのぉ。あんまり『自分の好きなこと』ばかり押し付けるのはぁ、こう言う時にはあまり佳くないわよぉ?……まぁ、かく言う私もぉ、押し付け過ぎた方みたいだけどぉ……)
そんな感じで会話を続ける女性陣へと、俺達三人へと精神的ダメージを与えていなかった面子が追い討ちを掛ける。
(さすがに、今回の旅路では、お主らはちと『やり過ぎた』のであろうのぅ。それは、妾の目から見ても明確な事であるがのぅ?)
(……ん、あれはやり過ぎ。仮に、彼らが貴女達に好意を持っていたとしても、アレでは気持ちを維持するのは難しいと思う)
(そ、そうですよ!た、確かに、好意的に接せられれば誰でも嬉しいでしょうけど、そ、それも過ぎれば『苦痛』になるんですよ?)
そこまで一方的に現実を突き付けられた為に、意気消沈し始める三人だったが、そこで唯一沈黙を保っていた亜利砂が三人へと声を掛ける。
(ここは、関係の修復へのアプローチも兼ねて、今回の騒ぎの元凶となった新入りのお三方が話題を振ってみるべきだと、私思うのですが?如何でしょうか?)
(え!?某達がですか!!?)
その亜利砂からの提案に、本人達以外が肯定の意を示したが、それでいて尚嫌そうにしていたサーラの耳元で、発案者の亜利砂が更に声を落として囁き掛ける。
(あら?よろしいのですか?折角の彼との間柄を改めるチャンスだと言いますのに)
(それは、一体どう言う……?)
(ここで敢えて話し掛け、普段行っていなかった『しおらしさ』を出して見せれば、それまでの行動とのギャップに流石の彼も意識を改めるのでは?
男性はその手のギャップに弱いモノ……と、相場は決まっていると私聞いたことがございますの。それに、小鳥遊さんに関して言うのでしたら、彼がああなってしまった原因としては貴女にも一因が有るのですから、その責任を取って元に戻して頂かないと困りますのよ?主に戦闘力的な面で)
(うっ……!それは、そうなんだけど……一体何を話せば良いのかな?ボク、あんまりご主人と共通の話題って持ってないんだけど……?)
(私もぉ、旦那様が興味を持ちそうな話題何てぇ、あんまり思いつかないわよぉ?)
(某はそもそもあまり好かれてすらいない様子なのですが……?)
そう反駁してくる『獣人族』組の三人だったが、そんなモノは端から知ったことでは無い亜利砂からすれば、極限までどうでも良い事なので正面から『バッサリ』と切り捨てる。
(……そんなもの、この国にいる他の『獣人族』の方々の特徴なり、この国特有の食材なり、珍しい草木の生えている場所なり何なりで会話を釣りだして、そこから適当に広げて行けば良いでしょう?その程度は、私に指示されるまでも無くともごく自然にやる位でないと、彼らは落とせないのではなくって?
それに、貴女達は只でさえスタートの位置からして心証最悪の処からなのですから、生半可な覚悟や努力では望み自体が薄いと言わざるを得ませんわね。それでもよろしくって?)
その言葉を受けて、三人が三人共に言葉を詰まらせる様を目撃した亜利砂は満足そうに頷くと、さもさっさと済ませて来い!とでも言いたげな仕草で馬車の片隅に固まっていた男衆へと促す。
そして、そうやって導かれるままに俺達へと話し掛け始める三人。
「……その……、主様はかの『コボルト』や『ケットシー』の様な、比較的友好的な種族がお好みの様子でしたが、それでしたら似たような感じの種族が、これから行く予定の都市にも住んでいるハズですので、そこで再度交流を図って頂きたいのですが如何でしょうか?
……それと、これ以上気落ちなさった主様を拝見しているのは、精神的に多大な被害返ってくる発生致しますので、どうか気を取り直して頂きたく……」
「そ、そうそう!これからボクらが案内する予定の処って、昔から珍しい薬草だとかの採集依頼が入っていたハズだから、色々と面白い草木も有るんじゃない、かなぁ~?と思うんだけど、行った先でもう一回集めてみたりすれば良いんじゃない?そっちの方でも、面白いモノが見付かるかもよ?」
「……それにぃ、確か特産品の中にはぁ、そこでしか採れない食材も混ざっていたと思うからぁ、旦那様でもそこそこ楽しめると思うのだけどぉ、どうかしらぁ……?
向こうでならぁ、ナーガに代々伝わっている伝統料理も作ってあげられるのだけどぉ、それでは駄目かしらぁ?」
そんな事を、自分達でも解る程に自信無さそうに話し掛けた三人だったが、そこで予想外の反応が返ってくる。
「何!?あの人達みたいなのが、もっと居るのか!?」
「え!?それ本当!!?」
「……その話、もっと詳しく!?」
その勢いに押される様に、若干後退りしながらもそれぞれで確りと答える三人。
「……え、ええ。『獣人族』の中でも、どちらかと言うと獣寄りの姿形をしており、その上で『コボルト』や『ケットシー』の様に、比較的他者との触れ合いを好む傾向に有る種族で良ければですが、それなりに心当たりがございます」
「う、うん。この『獣人国ゾディアック』でも割合と珍しい草木が多いみたいで、その手の採集依頼が良く冒険者ギルドに寄せられていたから、多分ご主人が欲しがる様なのも有るんじゃないかなぁ?ボクはそこまで詳しく無いから、詳細には解らないけど……」
「……食材に関してならぁ、今から行く先の『レオルティア』は交易都市だからぁ、『ジェマニマス』の周辺でしか栽培してない野菜だとかぁ、気候の関係でその隣の『カンタレラ』でしか採れない魚介類だとかが集まって来るからぁ、食材はとても豊富よぉ?あとぉ、ナーガの伝統料理についてならぁ、今は幾つかのスパイスが無いから無理だけどぉ、それさえ補給出来れば私が作れるわよぉ?私って見た目から勘違いされがちだけどぉ、こう見えてもぉ、結構料理得意なんだからねぇ?」
それらを情報により、俺達の半ば虚ろとなりかけていた心に活力が封入され、どうにかこうにか『やる気』が再捻出され、先ほどまでの無気力状態からの離脱に成功する。
「よし!なら、急ぐぞ!第二のモフモフ天国であるレオルティアへ!」
「……ああ、新しい出会い(食材との)が、俺を待っている……!」
「そうだね~、あまり途中でぐずぐずしていると~、本命(採集)に割ける時間が減っちゃうから~、早く行こうか~!」
そんな感じで奇跡の復活(?)を遂げた俺達を、何とも言えない様な生暖かい視線で女性陣が見詰めていたのだが、結局俺達がそれに気付く事は無かったのであった。
これまでは合間合間で魔物狩りをする等である程度『ガス抜き』をしていたのですが、ここに来て一気に爆発した感じ、と思っていただければ幸いです。一応、次回からは何時もの調子に戻る予定です。
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