53・一応、顔見知りではあったので助けておきます
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アストさんとおっちゃん達に断りを入れてから、ほぼ全力に近い速度で森の中を疾走する俺達。
先程聞こえた、聞こえてしまった悲鳴は、何となくではあるがここ数日の間で聞いた覚えの有る声だった上に、『異種交配』なんて『技能』を有している『小鬼』が犇めく戦場で、『女性』が挙げたと思われるモノであった以上は、流石に放って置けはしないだろう。
ここ数日で聞き覚えが有る以上は、実際に顔見知り相手で有る可能性が高いし、現環境下で女性が悲鳴を挙げるような状態になっているのであれば、救助が必要な状況である可能性は極めて高い。
……だが、もしこの『顔見知り』か『女性』かの要素が欠けていたのであれば、俺はまず間違いなくこうして救助の為に走り出したりはしていなかっただろう。
もし、聞き覚えの在った叫び声や悲鳴が挙がったとしても、それが『男性』のモノであったのならば、それこそ魔王やタツ・レオと言った様な、極めて親しい間柄の相手でなければ、こうして息を切らして駆け出したりはしなかっただろう。
……一応、救助自体はしなくはないが。
それに、ただ単に、挙がったソレが『女性』の悲鳴であったとしても、それが聞き覚えの無いモノであったとするならば、そもそも助けにすら行っていない可能性が高いと言わざるを得ないだろう。
何せ、助けに行くメリットは大して無いにも関わらず、発生するであろうデメリットは極大のモノに成ることはまず間違いは無いのだから。
……だが、その両条件が揃ってしまっている以上は、俺に『助けない』と言う行動選択肢は存在が許されなくなるのである。
我ながら、中々に歪んだ行動理念である事は、重々承知してはいる。
現に、仮にどちらの条件も満たしていなかった場合は、まず間違いなく悲鳴自体を『聞かなかった』事にして無視するだろうし、仮にそうでなかったとしても、おそらくは何かしらのメリットを提示されたから起こす行動であろう事は、予想するのに難しくは無いだろうしね。
そんなことを考えつつ、内心で自らに行動理念に呆れ返って溜め息を漏らしていると、空中を移動してきたカーラとリンドヴルムが俺達に追い付き、合流を果たす。
「ー!ーー!!」
『流石に、この森の中ならば空を飛べる妾達の方が速いのじゃから、先行しておくのぅ!』
「頼んだ!でも無理はするなよ!」
『カッカッカッ!主殿が言って良いセリフでは無かろうに!まぁ、妾達がどうこうなるとも思えぬが、一応心には留めておくとするかのぅ!では行くぞ、カーラよ!!』
「ーーー!!!」
そう双方共に言い残して再度加速しながら上昇し、障害物の無い上空から高速で悲鳴の挙がったポイントを、正確に把握するために先行する。
……下手をすれば、先行したカーラとリンドヴルムだけで全て片が着いてしまうかも知れない可能性が有る為、もしかしたら俺達必要が無かったかも……?
現在はすっかり小さくなってしまい、初登場時の威厳や威圧感は一切感じられなくなっているリンドヴルムだが、何だかんだ言ってもその戦闘力は未だに健在であり、あの無人島に居たときも、『暇潰し』と称して俺達が『兎公級』と呼称していたサイズの連中を、欠伸混じりに何頭も狩猟し、その哀れな犠牲者(?)達を一纏めにして引き摺りながら(流石に本人のサイズ的な問題で運ぶのにはそうするしか無かったとか)、拠点まで持ってきた事が何度か有った位だからね。
カーラはカーラで、現在は完全に俺達のマスコットとして、その丸まっこい身体をモフられる毎日であるし、俺が助けに入ったあの時は只の『小鬼』の雑兵に絡まれて、危うく命を落とす所まで行きかけていたが、それは不意打ちを貰ってしまった上に、初撃で翼を折られてしまったからであり、本来の実力を出せる状況であるのならば、指揮官である上位種相手でも普通に立ち回れるだけの戦闘力を持っているみたいなのである。
実際に、先程の戦闘で上位種っぽい奴をぶち殺した上で、俺の所まで持ってきて『凄いでしょ!誉めて誉めて~!!』みたいな顔をしてきたからね。
……もっとも、最初は夜寝る時はそれぞれ止まり木や高い所で丸まって寝むりながらも、少しの気配の変化でも目を開けて眠りから目覚めたり、食事も周囲を警戒しながらだったり、本当に食べられるモノなのか等を確認しつつ、少しずつ食べて安全を確認していたりと、野生の警戒心を保ったまま生活していたのだが、最近は俺が寝ている布団に入り込んできて、そのまま腹出して仰向けに寝ていたり、食事も出されたモノを貪る様に平らげたりする始末であり、その姿からはそれまで持ち合わせていた『野生』の欠片も感じられなくなってしまってはいるのだけれどもね?まぁ、可愛らしいから良いのだけれども。
そんな下らない事を考えながらも、先行しているカーラとリンドヴルムに追い付く様に、全力に近い速度で森の中を疾走する俺達。
完全に先行させてしまっているので、既に姿は視界から消え去ってしまっているし、悲鳴が挙がったポイントも、最初に挙がった時のソレ以外には挙がっていないので、大雑把な方向しか判明はしていないが、それらの条件は別段俺達にとって不利に働くモノでは無いし、時間的猶予が無い訳でも無いのでそこまで切羽詰まっている訳でも無いからね。
前者の捜索対象の居所に関して言うのであれば、実はリンドヴルムが先行している以上は、そこまで焦る必要は無かったりする。
その理由を挙げるとするのならば、まず第一にああ見えてリンドヴルムは意外と感覚が鋭い。
故に、最初に悲鳴が挙がった時点で、大体どの辺りで挙がったのかは把握しているハズなので、飛行時の移動速度から鑑みるとそろそろ目標地点に到着している頃合いだと思われる。
そして、まだそこに捜索対象が居たのならばその場で留まるだろうし、そうでなければ残された痕跡から再度追跡を始めているハズである。
そして、そのリンドヴルムの位置を把握出来ているのか?と言った様な疑問に関して返答するのであれば、それは心配ご無用と言うモノである。
以前、リンドヴルムがあの迷宮から出てきて直ぐの辺りで、俺達の状態についての説明(魂が結び付いて云々)をしたと思うのだが、それに関して俺とリンドヴルムとで幾つか実験を行ってみた事が有る。
そして、その結果として、リンドヴルムからはそうでも無かった様なのだが、俺の方からであれば、集中すればある程度はリンドヴルムが『何処で何をしているのか』が分かるみたいななのである。
まぁ、何処に居るのか、については、一定以上の距離が離れてしまうと『ある程度の方角』程度しか分からないのだが、一定範囲内であればかなり正確に位置を特定する事が可能であり、それと同時に『何となく』では有るのだが、その時にリンドヴルムが何を考えて何をしているのか、まで知ることが出来るので、最悪リンドヴルムさえ間に合えば、そこに直接俺達が急行することが可能なのである。
……まぁ、普段は意図的にこの機能(?)を使わない様にしているし、リンドヴルム自身にも、何だかこんな事が出来るみたい何だけど?と相談的な事をしてあるので、本人も承知している事もあり、今回の様な『非常事態』には使ってもらって構わない、との言質も貰ってはいるのだが、何故かその際に微妙にリンドヴルムの機嫌が良くなっていたり、たまたま相席していて話を聞いていた乾と先生の機嫌が悪くなったり(正確に言えばリンドヴルムを羨んでいた様にも見えた)していたのだが、常時監視されるかもしれない、みたいな状況の何処にそんなに羨ましがる要素が有ったのだろうか?と今でも時たま考えさせられる事が有るのである。
そして、『時間的猶予が無い』ハズなのに『俺達が焦っていない』理由だが、それは割りと単純な事である。
純粋に、今回の件に関して言えば、捜索対象の救出が間に合おうが間に合わなかろうが、どちらでも構わないからだ。
ぶっちゃけた話、俺としては最初に挙がった悲鳴を聞いた時点で、『誰』の挙げた悲鳴なのかは大体分かっている。
そして、その人物は俺と親しい人物……と言う訳ではあまり無い。むしろ、最初に顔を合わせた経緯やら何やらから鑑みると、逆に仲が悪い相手である、とも言えるであろう。
なので、一応顔見知りでは有る以上、間に合えば助けはするし間に合うのに越したことは無いのだろうが、俺の中では別段何が何でも助けなければならない相手、と言う訳ではないのだ。むしろ間に合わなかったのであれば、最初から悲鳴は聞こえていなかった事にするだろうし、間に合ったとしても、こちらから出す『条件』を呑めなければどんなに危うい状態だったとしても、最初から『居なかった』もしくは『間に合わなかった』として『処理』させて貰う事になるだろうけどね。
……まぁ、裏を返せば、こちらの出す『条件』さえ呑んでくれるのであれば、ある程度までの負傷であれば、それがどんなに重傷だったとしても治せてしまうブツが有る以上、治療しないとも限らないけれどもね?
そんな、ある種の物騒とも言える様な事を考えていると、それまで移動していたリンドヴルムがある地点で移動を停止し、戦闘状態に突入した様に感覚が伝わり始める。
そして、そんなリンドヴルムの近くに居るのであろう悲鳴の元を確認するべく意識を集中させた俺の脳裏に、俺の予想を一切裏切らない相手の顔が写り込む。
その嫌な事実に溜め息を漏らしながらも、リンドヴルムから伝わってきた情報によれば、まだ捜索対象『達』は生存している様子だったので、取り敢えず救出するために発見した事を二人に告げると、進行方向をリンドヴルムが居る方向へと変更するのであった。
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途中で見掛けた戦闘の痕跡と、そこに広がる『小鬼』の死体の山と血の海、それと冒険者と思われる幾人かの遺体を横目に見ながら走り続けていると、それまでは微かにしか聞こえていなかった戦闘音と『小鬼』のモノと思わしき怒号、それに僅かな死臭と鉄臭い血臭が俺達の耳と鼻に届き出す。
それに釣られる様にして、『気』による強化も併用しつつ更なる加速により一気に残りの距離を詰め、現在カーラとリンドヴルムによってもたらされているであろう戦闘領域へと、三人同時に飛び込んで行く。
するとそこには、俺達の腰の辺りから胸程度の高さまで飛んだ状態で、背後に気絶しているらしい捜索対象の人物を庇いながら『小鬼』共をその小さな身体で蹴散らしているリンドヴルムと、そのリンドヴルムから少し離れた場所で『小鬼』共に対して、自らの武器である嘴と鉤爪を巧みに用いた空中からの一撃離脱戦法にて、確実に数を減らしつつ、リンドヴルムの方へとヘイトが集中し過ぎない様に撹乱しているカーラの姿が有った。
『主殿よ、幾ら移動手段に差があるとは言え、これはちと遅すぎはせぬかのぅ?手伝うのであれば、早めに手伝って欲しいのじゃがのぅ?
それと、妾では人の容態は詳しく分からぬから、取り敢えず診ておいてはくれぬかのぅ?見て分かる通りに、ちと血を流しすぎておる様にも見えるでのぅ』
そんなことを言いながら、近くにいた『小鬼』を宙返りする動きのままに弾き飛ばし、近くの木立に激突させて全身の関節を逆方向へとねじ曲げると言った離れ業を成し遂げたリンドヴルムが、その尻尾の先端で指し示した先に、今回の捜索対象であり、完全に『要救護者』と成り果てている『三人』が、各人で傷口を押さえたり、持ち込んでいたのであろう止血帯等を使って血止めを試みている姿が有った。
……そして、出会い方からして、あまり友好的なソレではなかった相手ながらも、一応は顔見知りの範疇であり、取り敢えずこの窮地から助け出す相手であるのだから、挨拶だけでもしておくか、と声を掛けるのであった。
「……はいはいどうも、お久し振り?格下と侮って俺相手に大敗を喫しておきながら、それでも尚参戦した挙げ句に組んだレイドのメンバーは全滅し、自身のパーティーメンバーは自分を含めて『女性』と言う事でこうして生け捕りにされ、その際に挙げた悲鳴のお陰で、こうして見下していた俺達に助け出される事になった『サーラ何とか』さんと、名も知らぬそのお仲間さん方?」
そんな、取る人が取らなくとも、ほぼ満場一致で相手を馬鹿にしています!とでも宣伝している様なセリフに対して、そうやって馬鹿にされていながらも、全て真実で有る以上は言い返せない悔しさと、見直す機会が与えられていながらもそれを怠り、自らの実力を過信して折角組んでくれていた冒険者達を死なせる事になった、未熟な己への羞恥心と罪悪感。
そして、後は『小鬼』共に己の身体を汚されながら、冒険者や国の軍が『小鬼』を掃討し、群れの巣から救出してくれるのをただただ待つばかりか、とも諦めかけていた時に差し伸べられた救いの手に対する、助けて貰えるのだろうか?と言う疑念と希望の色を見せている瞳でこちらを見ながらも、『小鬼』共の手によって逃走防止の為に行われたと思わしき、欠損した四肢の根元を止血の為に押さえ、そこから発せられる激痛に耐えている為に、反抗的な事を口にする余裕すら失ってしまっている、この辺りではあまり見掛ける事の無かった『獣人族』の冒険者であり、あの時俺に対して決闘を吹っ掛けて来たケンタウルスのサーラ某と、そのパーティーメンバーで片足を腿の真ん中辺りから切断されてしまっているライオネルの女性と、その下半身を構成していた延長な蛇体を半ばから切り落とされてしまい、既に意識を失ってしまっているナーガの女性であった。
……パッとみた感じでも、かなりの重傷、と言うよりも、適切な処置を早期に施さない限りは、そう遠くない未来に失血死する事はまず間違い無いであろう状態を鑑みると、ある意味では『致命傷』と言ってもまぁ間違いではあるまい。
……確かにこれでは、急がないと少しばかり不味い事になりかねない、か……。
しかし、『こう』なる前に、どうして撤退するなり緊急時の合図として設定されていた狼煙を挙げるなり何なりをしなかったのかねぇ、とこれ以上怪我人を苛めるのは良くないだろうと、心の中だけで溢しつつ、タツとレオに対しては要救護者に対しての護衛と、いざと言う時の援護をあらかじめ指示するだけしておいて、俺は相棒を片手にリンドヴルムが大暴れしている所へと、参戦するべく歩み寄るのであった。
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