48・「タカナシよ、そなたも悪よのぅ!」「いえいえ、魔王様程では……」
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半分ふざけて調薬した結果として偶然作り出してしまった『命の水』は、あの後開催された話し合いの結果として、現在作り出してしまったモノ以外は追加で作り出さない事、一応念のために俺達で一本ずつ所持して持ち歩き、必要に駆られれば使用する事は許可するが、周囲に見せびらかしたり、所持している事を公言する様な事はしない事。そして、俺達が持ち歩くモノ以外は、二本を除いてレオの『空間収納』にて死蔵し、決して世の中に出回らせ無い様にする事が決定された。
ぶっちゃけた話をすれば、この『命の水』は、俺と同じ『技能』を持った人間が、俺と同じ工程を同じ材料で行えば、別に俺でなくても作り出す事は出来るだろう。
だが、素材の入手難度や判別方法、工程数の関係から、存在がバレた場合に実際に作らされるのは、もしかしなくても俺になる事は、まず間違いは無いだろう。
そう易々とどうこうされてやるつもりは欠片も無いし、何か仕掛けて来るような輩が居たのなら、そいつが産まれてきた事を後悔するような目に合わせてやるのは吝かでも無いのだが、もし万が一が有って何処ぞの権力者に囲い込まれ、延々と薬だけを作らされ、飼い殺されるハメになる何て事は、控え目に言っても真っ平ゴメンだからね。
コイツの存在は公表した方が世のため人のためになるのだろうけど、別段会ったことも無い人のために自分を磨り減らせてやるつもりは無いし、ぶっちゃけた話メンドイから、コレの存在は秘匿する方向で行かせて貰うとしますかね。
……まぁ、渡しても俺に面倒な事を言っては来ないであろう人には渡しちゃうんだけどね?
そんな訳で魔王城ゲーティアWith魔王の執務室。
「ーーーって訳で、大変厄い案件ながらも、かなり使い勝手の良い品物だから、お裾分けに来ました。
一応は戦時ギリギリの処に有る国の王様なんだから、この手のリカバリー手段は是が非でも確保しておきたいんじゃない?幸いにも、表には出せないってだけで、効果の方は一級品を軽く置き去りに出来るだけの品質は保証出来るから、取り敢えず持っておけば?まぁ、お一つどうぞ?」
そう説明しつつ、呆気に取られた顔で呆然とする魔王をスルーして、部屋に据えられた机の上に『命の水』の詰められた瓶を、無造作にも見える仕草で置いてやる。
すると、さすがの魔王もそんなぞんざいな扱いに衝撃を受けたらしく、それまでフリーズしていたのを無理やり再起動を掛けて動きだし、俺の置いた瓶を急いで回収する。
「……確かに、そなたの言う通りの効能は有りそうな色をしているけど、よくもまぁこんなモノを作り上げたものだな。関心が過ぎて呆れて来るぞ?
取り敢えず、有り難く頂いておくが、コレを流通させるとなると、大変な厄介事になるのは分かっているのだろうな?」
「そりゃ当然。むしろ、流通させるつもりが無いから、こうして持ってきたんだがね?」
作ってしまった、作れてしまった以上は、どう転んでも『その後』の事を考えなければならないだろう。
それ故に、俺の心の安寧と、身柄の安全の為にも、絶対に流通させはしないしさせられない。
だからこその、魔王への『お裾分け』である。
一応は開戦直前の国の王である魔王にとって、今一番怖いことは、敵国による『暗殺』になるだろう。
まぁ、そうそう死ぬような事にはならないだろうし、そもそも『出来ない』だろうけど、それでも戦闘が難しくなる程度の傷を、執務に支障が出る程度の欠損を与えられれば、この国に対する極大のダメージを、最大級の効率で与える事が出来る為、これまでも有ったであろうソレらが、これからは何倍にも膨れ上がって押し寄せて来る事は、まず間違いは無いと見て良いだろう。
得られるメリットの大きさと比べれば、失敗した時の事なんて考えるまでも無いだろうからね。
そんな、国を揺るがす様な万が一の事態に備えての回復手段は、多ければ多い程に良い。
特に、他の国にはほぼ存在せず、入手する手段も製造する方法も己が手の内に隠しておける上に、何処までならば回復出来てしまうのか、等の情報すら不明な手段であるならば、まず間違い無く備えとしては『最高』のモノであると断言出来るであろう。
そして、それは『最高の回復手段』を手に入れたのと同時に、それをもたらした俺を決して手離せなくなる事を意味している。
何せ、根本的な製造元である俺が、万が一の確率であったとしても、他の国の者に『命の水』をもたらしてしまったり、もしくは俺自身が他の国へと移動してしまった場合、回復手段を持っている、と言うアドバンテージが失われるだけでなく、どれだけのストックが残っているのか、何処までダメージを与えれば対処しきれなくなるのか、等の秘匿するべき情報まで丸裸になりうる可能性が出来てしまう。
それ故に、魔王としては、その情報全てを握っている俺を確りと懐に抱え込んでしまうか、もしくは今のうちに消してしまうかの二択を迫られる訳なのである。
だが、幾ら己の為国の為とは言えども、無理やり召喚された俺達に対して負い目が有る上に、俺個人ともそれなりに親しくなってしまっている以上は、俺を排除する方向へと決断出来るほどに冷酷な人間では無い事は、これまでの短い付き合いでも理解出来ている。
それに、そもそも俺を殺ろうと思ったら、魔王本人かそれに準ずる位の戦力を差し向けないと話にならないのだが、魔王本人がそれを実行する事が事実上不可能である以上は、他の戦力に任せる必要性が出てくるがそれでは完遂出来るか疑問が残る。
そして、俺を確実に排除出来ると言い切れない以上は、奇襲等の搦め手による暗殺も、同様に仕掛けて来る事は無いと見て良いだろう。
何せ、失敗した場合、俺がヘソを曲げる程度で済むわけが無いし、俺に敵対行動を取ったと判断した場合、もれなくタツとレオの二人も、俺と同時に敵に回る事になるし、おそらくは女性陣の大半も、同様に敵対する事になるだろう。
アストさんは…………う~ん、どうだろう?
まぁ、とにかく、成功する見込みが低い上に、失敗した場合は自国を内側から攻め崩せる戦力が出現する事になるのだから、流石に非常時の手段を秘匿する為だけにそこまでの危険は犯せないし、それを理解出来ていない魔王でもないだろう。
故に、魔王サイドとしては、俺達を今まで以上に手厚く保護する必要性が出てくる訳なのである。
具体的に言えば、俺が『命の水』の開発に成功した事を嗅ぎ付けて来たり、俺達が冒険者として名を上げた際に出てくるであろう、何時ぞやの阿婆擦れ(カーパルスのあいつ。名前は忘れた)みたいな、上から目線の阿呆共からの防波堤としてブロックしてもらったり、まだ訓練中の女性陣に粉掛けて来るバカタレ共を、女性陣に気付かれない様にフェードアウトさせたり、女性陣が誤ってその手を汚してしまわない様に悪質な連中は排除してもらったりと、やってもらいたい事は色々と有ったりするのである。
……あれだけ大層に語っていた割には、お願いすることが小さい?
……いやいや、俺達に近い将来付きまとって来るであろう連中を遠ざけるのに有効な手ではあるのだから、使わないともったいないし、女性陣の虫除けに関しては、定期的にやり取りしている手紙(直接顔を合わせると、『まだ』暴走しかねないとの判断により)に於いて
『最近しつこいのが居て困っている』
との報告を受けた為に、魔王にどうにかしてもらおうと頼む予定だったのを、今回のそれに合わせてしまおうと考えているだけなので、案外と切実な問題だったりする。
それに、何だかんだで世話になっている相手に対して、幾ら自分の方からアレコレと吹っ掛けられる立場に有ったとしても、一から百まで何でもかんでも押し付ける様な事はしたくは無いし、それをするほどに恥知らずでも無いつもりだからね。
故に、今回、この話(『命の水』に関してのアレコレ)を魔王の処に最初に持ってきたのは、俺達の案件を片付けたいが為であって、決して何だかんだ言って日頃からお世話になっているお礼の気持ちだとか、これから増えてくるであろう暗殺者の類いから『友人』を守りたいと思っているが為の行動、と言う訳でも無い。
ついでに言えば、これから行われるであろう、対『小鬼』戦に魔王が出陣する事を聞いて、万が一にも無いだろうとは思うが、それでも万が一が起こってしまった場合に備えて欲しい、何て事も、一切考えている訳ではない。……無いったから無いのだ。
……と言った感じに俺が考えていた事も、おそらくはこの目の前で困ったような、それでいて嬉しい様な、と言う風な表情を浮かべているこの魔王には既に分かった上で、こうして俺に対応しているのだろう。
更に言えば、俺が考えていた事を魔王が理解しているであろう事を、俺が理解している事まで把握しているのだろう事が、この魔王を『魔王』として君臨させている要素の一つなのだろう。
……まったく、おそらく味方で、ほぼ確実に友人とは言え、随分と厄介な人物に目をつけられたモノだと思うよ……。
そんなことを、俺としては一切表には出さずに考えていたつもりだったのだが、俺と相対していた等の本人には、どうやら筒抜けだったらしく、如何にも『心外だ!』とでも言いたげな表情を浮かべられる。
「……まったく、『厄介な人物と知り合ってしまった』とは、むしろ余が言いたい事なのだがな?
なぁタカナシ殿よ、一つ、余に教えてはくれないか?
異界からの来訪者で、余と同等かそれに近しい戦闘力を持ち、それでいてこんな秘宝級の薬を『適当にやったら出来た』とか宣った上に、その成果を『危険が及ぶ可能性が有るから』と言うだけで、対した対価を要求する事無く、さもどうでも良いモノの様に気軽に渡してくる友人に対して、余が取るべき対応は何なのか、是非とも教えてはくれないか?ん?」
「……えー、それに関しましては、何と言いますか……その~……」
確実に、俺を対象として指し示しているであろうその言葉に、どう返答するべきか咄嗟に思い付かずに、全力で言葉を濁しに掛かる。
……待遇を現段階よりも強化し、完全に依存させる方向で懐柔を試みる様に勧める?
……アカン。実行されて、本当に骨抜きにされる未来しか見えない……。
……付き合い方を改め、少々距離を取ってみる様に促す?
……でもそうすると、本当に距離が出来そうだし、何より俺の方が鬱陶しがっていると思われかねない。
……どうする?どう答えるべきだ?
ここで下手な返答をすれば、俺達と魔王との蜜月……と言う程の親密な付き合いをしている訳でも無いとは思うが、それでもこれまでの様な関係性は保てなくなると見た方が良いだろう。
一層の事、『知らん!自分で考えやがれ!!』とでも言った方が、下手な答えを返すよりはまだマシかも知れないが、そうすると物理的に俺の首が無くなりかねん。
もちろん、いざそうなった場合には、魔王を道連れにする位の覚悟で大暴れしてやるつもりだが、今この部屋には他にも、近衛隊の隊長でもあるらしいフルカスのじい様と、俺の『傷付けたくない人リスト』に名前が載っているアストさんが居る以上は、流石にそれも厳しいものがあるだろう。
……流石に、これは『詰んだ』かなぁ……。
そんな、最適解を探しつつも、割合と物騒な事を企んでいた俺に対して、まるで俺の内心が丸見えだったかの様なタイミングで苦笑を浮かべ、冗談だから気にするな、と宣う魔王。
「そも、そなたが色々とやらかす事は、イヌイ殿やサトウ殿からも既に聞いていた事であるし、アシュタルトからも既に何件かやらかしている、との報告を受けている以上は、最初からそなたを切るつもりも、これまでの良い感じの関係性を白紙にするつもりも有りはしないよ。
……ただ、余としては、そなたを数少ない『友』として認識し、それなりに信頼を置いていたつもりだったのだが、そなたの方からはそうは思っていなかったと言う事なのだろうな……」
そんな事を、前半は仕方のない友人に付き合っているかの様に、後半はさも悲しげに語ってくれた魔王だったが、それが心にも無い演技だと言う事は、等の昔に分かりきっている事なので、何をそんな白々しい事を、と言外に込めた視線を向けてやると、やはり騙されてはくれないか、とそれまでの表情をかなぐり捨てて、笑顔を浮かべ出す魔王。
「まぁ、アレよ。余としても、この気安い関係は保っておきたい貴重なモノだし、貰ったコレに関しても大変有用なモノである以上は、余からそなたをどうこうするつもりは無いし、そもそもして良い相手でも無いだろうしな。
流石に、コレ以上の何かしらをやらかされると、余としても注意やら小言やらで済ませる事が出来なくなるが、もう無いのだろう?」
「……ハハッ、アタリマエジャナイデスカ……」
……言えない。
完成した『命の水』を色々と弄っていたら、それを上回る効能を持った『命の神水』(『命の水』の完全上位互換。肉体を五割近く喪っていても問題なく蘇生可能(『命の水』は三割まで))が出来てしまっていたり、更に他にも弄っていたら、その『命の神水』をも軽く上回る異常な劇物である『神の雫』(『命の神水』の効果を更に強化した上に、口にした生物を次の段階へと押し上げる効果が有る……らしい)とか言う危険物まで手元に封印してあるなんて、とてもじゃあ無いけど言える訳が無いのだ……。
そんな、突然棒読みな口調になったり、微妙に挙動不審気味になった俺を、魔王が怪訝な表情で見てきたが、取り敢えずの目的であった『命の水』を渡す事と、今後の関係性が変化しそうかどうか、を確認する事が出来たので、これ以上怪しまれない様にするために、まだ封印していなかった残りの『命の水』の内の一本(もう一本は魔王に渡したソレ)を、更に半分に分けた上で強回復薬で割った『劣化命の水』とでも呼ぶべきモノ(蘇生が出来なくなっただけ)を、魔王にとっての最後の盾であるフルカスのじい様に渡してから、そそくさと魔王城を辞して宿へと戻る。
その途中で、フルカスのじい様に渡したのと同じモノをアストさんに渡したのだが、自分には勿体無い!とか言い出して受け取ろうとしなかったので、半ば無理矢理に
『アストさんに傷が付くと、俺が悲しいので持っていて下さい』
とお願いして受け取って貰ったのだが、宿に到着するまでの間、やたらた嬉しそうにしていたのは何でだろうか?
……まぁ、嬉しそうにしているのだから、別に良いか、何て考えながら定宿である『踊る一角獣亭』へと到着した俺達だったが、そこにはギルドから伝言がタツとレオに預けられており、内容としては、斥候が『小鬼』の現状をある程度把握してきた為、作戦従事者を集めて午後からギルドにて作戦会議が行われる、との事であった。
……はてさて、どうなるかねぇ……。
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