04・獲物(兎公)の解体をしようとしたら、謎能力が覚醒?しました
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どうにかあの兎公を下した俺達は、流石に死が見える様な戦闘の直後であったので、その場で少々休息を取ることにした。
「はぁ……、結構ヤバかったな、今回は」
「……そうだな」
「毎回出てくるのがアレ並みだったら~、僕はともかくとしても~、二人は結構不味いんじゃないかなぁ~?」
確かに、と言う思いと共に、俺の槍とタツの籠手に視線を向ける。
タツの籠手は、アレの目が潰れた際の振り回しがカスっていたのか、片方は腕の内側を被っている鎖帷子の部分が大きく切り裂かれており、もう片方も、兎公の胸に貫手を突き入れた際に胸骨に擦れたのか、拳から前腕までの部分を被っていた装甲の一部が砕けてしまっている。
俺の槍も、最後の突きの時に嫌な音がした為確認してみた所、先端のナイフ部分はともかくとしても、柄として使っていた棒には罅が入ってしまっており、作ってから一時間足らずで早々に使い物にならなくなってしまったのだ。
タツの元々の得物ならば、『百人殺っても大丈夫♪』を地で行く程の業物なので、例えあの兎公ともう一回戦うことになったとしても、多分壊れる様な事は無いのだろうけど、今使っていたのはあくまでも予備の品なので、あんな『化物』と戦う事を前提として作られていた訳では無いし、こんな状況を想定して作られた訳では無いのだから、壊れてしまったとしても仕方がないだろう。
同様に、俺も本来の相棒である愛槍や、数打ちだったとしてもまともな槍を使っていたのであれば、今回みたいに使い潰す事様な事にはならなかったハズなのだが、今更そんなことを言った所で、なんの意味も無いのだろうけど。
そして、兎公から棒杭を回収しつつ、取り敢えずは血抜きでもしてしまおうか?と問うて来るレオへと、ソレもそうだな、と返事をしつつ、何処へともなく適当に視線をさ迷わせながら、心の底から切実に願う。
俺も、まともな槍が欲しい。
と言うよりも、無いと不味い。
実際の処、今回みたいな戦闘は、そうそう有るものでは無いとは思うが、それでも俺達の中で、俺だけ戦闘手段が無くなっているのはあまりよろしく無い。
しかし、またお手製の槍を使うのは、強度の問題から不安が残るし、そもそもまともな槍でないと、強度や粘り、撓りの具合の関係上、使えない技術や技が多くなるので、現状としては是が非でも欲しい処である。
……普段であれば、こんな我が儘なんざ言いやしない。
ぶっちゃけた話、余程の事が無い限りは槍が無くてもサバイバル位は割りと簡単に出来はする。
……出来はするのだが、今回の様に戦闘力が必要とされるケースの場合、無いと不味いのだ。
俺が仕込まれている古流武術である『飛鷹流』は、槍術なので槍を使う。
武術のコンセプトとしては『全てを突き穿てば敵は無し』だそうで、基本的に槍在りきでの戦闘方法だとか、戦闘組立となっている。
なので、槍さえ有れば、大抵の事はどうにかなる。
……逆に言ってしまうと、槍無しでは、俺の戦闘能力はがた落ちする事になる。
……まぁ、頭おかしいレベルで、槍だけで全距離にいる敵へと対応する事を想定されている『飛鷹流』だけど、一応はゼロ距離まで接近された場合の事も考えているらしく、メインの槍術と平行して、小太刀術だとか体術の類いも修得させられてはいるので、ナイフ等もある以上、全く闘えない訳では無い。
……無いのだが、それでも槍が使える状態と比べてしまうと、一枚も二枚も劣る事になるのである。
そんな訳で、現状としては切実かつ速急に槍が欲しい。
最早『必要』だと言い切っても良いレベルで。
今ならば、槍が手に入るのであれば、悪魔に魂を売り払っても良いとさえ思える程に槍が欲しい。
あ~、槍……槍、槍、槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍ヤリヤリヤリヤリヤリヤリやりやりやりやり……。
俺の愛槍、『濡烏』じゃ無くては駄目だなんて、そんな贅沢はこの際言わない。
俺の流派である『飛鷹流』で良く使われるソレに比較的形が近い大身槍がベストだが、別段方形槍でも構わないし、多少使いにくいが鉤槍でも良い。
管槍や片鎌槍、鎌槍や十文字槍でも、この際文句は言わないで、喜んで使わせて貰うだろう。
一層の事、大きさ的に、俺の流派的には使い辛い素槍でも構わない!
……ネタで杖アニキや書文先生が槍を求めて四苦八苦しているのが良く使われているが、今の俺も彼らと良く似た精神状況だと思う。
あぁ!最早、『誰』だろうと『何』だろうと俺は気にしない!
だから!
誰か!
俺に!
槍を!
寄越せーーーーーーー!!!!!
……そんな事を心の中で叫んでいたからだろうか。
俺が槍を求めて脳内で発狂している隙に棒杭を回収し終え、どう解体しようか?と兎公を眺めながら頭を悩ませている風なレオを見ていると、いつの間にか右肩にズシリとした感触が伝わってきた。
それは、頼もしい重さだ、と思えると同時に、それまで幾千・幾万と振り回し、俺の手に渡ってきてからの数年は、毎日必ず感じていた重量と完全に一致する。
思わず反射で手を伸ばし、俺の記憶にあるソレであったのならば、そこに間違いなく有るハズの柄の部分を撫で回す。
……そうそう、こんな感じの重さで、こんな感じの手触りなんだよなぁ……。
大きさから仕込むのはもちろんとしても、持ってこれなかったのは仕方がなかったのだし、こんなことになるなんて予想出来た訳が無いとは言え、こいつを置いてきたのは痛かったよなぁ……。
どうにかして手に入らないかなぁ……。
なんて現実逃避しながらソレを撫で回していると、まるで鳩がレールガンを喰らった上に唐沢をしこたま撃ち込まれたけど、爆炎の中から無傷で出てきて逆にコジマキャノンで反撃してきたのを目撃した様な面をしながら、こちらを指差しているタツとレオが、指を震わせながら俺へと問い掛けてくる。
「……タカ……お前、ソレは、何だ……?」
「一体~、何処から取り出したのかなぁ~……?」
「……?
お前ら一体、何を……言って…………」
なんの事かと思って返事をしながら、彼らが指差していた処へと視線を向けると、それは俺が半ば無意識的に撫で回していたブツであり、そしてそれは
刃渡り30㎝強、柄の全長が約2mで全長が約2m半。鉄芯を中心に据えて良く撓る赤樫で覆い、その上から塗料で黒色に仕立てた柄と、特殊な製法で作られた黒色の穂先を備えた、『飛鷹流』で使用する事を前提とした造りをした総黒色拵えの槍であると同時に、ここに有るハズの無い俺の愛槍である『濡烏』であった。
……成る程、これは『夢』だな!
白昼夢って奴か!
なら、俺が求め、焦がれていた相棒がここに有ったとしても、不思議では無いよな!
そう結論付けた俺は、右肩に掛かっていた『濡烏』をひっ掴むと、感触を確かめる為にその場で2~3度素振りをして、本物だと確信を得ると、相棒を握ったまま右腕を天へと突き上げた。
「ヒャッハーーーーーー!!!槍だ!相棒だ!!これで何が来ても怖くは無い!!!」
そう叫びながら、その場で踊り出してしまったが、まぁ仕方ないよね?
尚、この奇行は、俺よりも先に正気に戻ったタツとレオによって、俺が鎮圧されるまで続いたらしい。
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「……で?どうやったんだ?ソレ」
「分からん。心の底から『槍が欲しい!』と望んだら、勝手に出てきた。……多分」
「じゃあ~、他の物とか~、同じ物をもっといっぱいだとか出せそうか~、とかは分かる~?」
「……それも分からん。そもそもどうやって出したのか、とか、本当に俺が出したのか、すら良く分からんのだから、確たる事は何も言えんと思う」
望んでいた槍を手にして、少々暴走していた俺を二人掛かりで正気に戻した(物理的に)後、近くの木にぶら下げて血抜きしていた兎公を下ろしながら、先程のとんでも現象についての話し合いを行う。
「……やっぱりこれって~、アレかな~?この手の転移モノで良く有る~、『転移したことで手に入るご都合スキル』ってヤツかなぁ~?」
「……それしか有るまい」
「……いやいや、それこそ小説の読み過ぎだろうに。それに、仮にそうだったとしたら、何でこうもピンポイント何だ?ぶっちゃけた話をすれば、俺は相棒じゃあ無くても、槍ならば何でも良いとすら思っていたんだが?それに、そう言うことなら、お前さん達も何かしらの能力が生えているハズだろうに?」
「……そこは~、僕達がまだ~、タカ程の渇望を抱いていなかった~、とかじゃあ無いかなぁ~?」
そんな事を言いながら、俺達が戦闘で付けた損傷(片目・胸脇・後頭部)以外に、首筋と後ろ足の先端部に切り込みを入れられて、体内にの血液を外へと絞り出された兎公が、今度は両の手足をロープで縛られ、纏められて行く。
そして、それを行ったレオが、笑顔で俺に手を差し出しながら、こう言い放つ。
「じゃあタツ~。その槍~、天秤棒の代わりに使うから貸してね~?」
「戯け!んな事の為にこいつを貸せるか!つか、それ以前に、こいつじゃあ長さが足らないだろうが。刃の部分でも持つつもりか?」
まぁ、こうは言っても、実際にやろうとすると、刃の部分に鞘を嵌めたとしても、頭(ウサミミ除外)から尻までの体長が、槍の全長を軽く超しているのだ。
手足を纏めた所に通して運ぼうと思ったら、身体に対して真っ直ぐに棒を通すのではなく、身体に対して交差させる形で通す必要が出てくる。
……正直、この森の中を、そんな荷物をぶら下げて歩くのはやりたくないし、そもそも俺達三人では、肩の高さが合わないのだから、そうやって運搬するのは無理だろう。
「う~ん、やっぱり無理だった~?……でも~、ここで解体するのは~、あまりやりたくないし~、どうしようか~?……こう言うときに『無限収納』とか~、『空間収納』だとか~、『自在庫』だとかの能力が有れば便利だし~、僕のスタイル的にも~、有ってくれれば楽なんだけどね~?」
確かに、獲物を解体すると、どうしても色々と汚れるから、出来れば水場に移動してからが望ましいが、運べないならここでやるしか無い、か。
そして、そんな事を言いながら、脇に転がしてあった兎公をポンポン叩いていたレオだったが、言い終わった辺りで
「アレ?」
っと、レオにしては、変な声を挙げたので、どうかしたのか?とそちらを見てみたのだが、そこには兎公の姿は無く、ただただ己の手を見詰めるレオの姿だけがそこに有った。
すると、半ば顔をひきつらせながら、それでも平時と同じく笑顔を浮かべようとして失敗した様な、そんな微妙な顔をしながら、俺へと声を掛けて来る。
「……僕も~、空間収納系のスキル?を~、手に入れたっぽい、ね~」
……マジですか?
そして、俺とレオとの会話に入って来なかったタツだったが、後で聞いてみたら、どうやら『鑑定』系のスキルが生えたらしく、(簡単な名前と毒の有無が、見れば頭に浮かぶらしい)それで無害だと出ていた果実を、一人でかじっていたとのこと。
……まぁ、使えそうだから、別に良いか。
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