39・取り敢えずは決めてしまいます
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各自の『技能』が出揃い、それぞれの気質と持ち合わせている『技能』によって、ある程度の選択の幅が狭まった処で再度集まり、オブザーバーとして魔王を引っ張り込んだ上で全員の額を付き合わせて、それぞれ何がしたいのかを話し合い始める。
「……んで?皆はどうするつもりだ?俺としては、出所不明の『調薬』には頼りたくないから、魔王から薦められた『冒険者』になってみようかと思っているけど?」
「……一応、俺も聞いてみた結果として、『調理』を専門に扱うよりは、タカと同じく『冒険者』になってみようかと思っている」
「僕としても~、二人と同じく『冒険者』かなぁ~?僕の手持ちの『技能』を活用する方向で考えると~、『冒険者』以外だと『暗殺者』位しか選択肢が無いっぽいし~、『冒険者』のシステムとして~、何人かで組んで行動する事が推奨されているみたいだから~、二人と組んでやってみたいかなぁ~?」
案の定、他の方向に向かうにしては些か戦闘力が過剰であり、尚且つ所持している『技能』が戦闘方面に傾いている二人は、俺と同じ様に『冒険者』を希望するみたいである。
なれば、気心の知れた間柄の者同士で組んで活動するだけでも、連携等の点からすれば恩恵は大きいのだろうし、それ以前に俺達の立場としては、他の関係の無い人達と組んだ場合、身バレする危険を配慮しなくてはならなくなるので、そう言う点からしても、この二人と組んで活動出来るのであれば大変心強いしやり易くなるだろう。
そう言った意図も含んでの発言だろうと思われる二人へと、『協力に感謝』と『これからもよろしく』との意味合いも込めて拳を突き出すと、もはや目を合わせる必要性が無い程に思考を理解しあっていたからか、拳を突き出したその次の瞬間には、俺達三人の拳がぶつかり合い、それぞれがそれぞれに感謝を伝えていたのであった。
そんな俺達を微笑みながら見ていたアストさんが、魔王に対して発言の許可を申請してから話し出す。
「陛下、私は、まだこの世界の常識に不馴れなタカナシ殿達のサポートをするために、彼等に同行する事の許可を頂きたいのですが?
彼等も、自分達がまだ字すらまともに読めないのでは、どんな事をするにしても録に活動出来ないであろう事は理解しているとおもわれます。
故に、誰かしらのサポートを付けるのが一番安全かつ最適な方法ではないかと愚考します。
そして、そのサポートには、現にこうして彼等と『良好』と言っても間違いはないであろう関係性を築けている私が最適であると判断致します。
それに、私はまだ『冒険者ギルド』に籍が残ったままのハズですので、経験者としての立場からも、より密着したサポートや助言が可能であるとも、付け加え指せて頂きます」
「……う、うむ。アシュタルトよ、そなたをタカナシ殿達のサポートとして任命し、彼等に同行する事を許可しよう。タカナシ殿達も、それで良いかな?」
外見上は、普段と変わらぬ微笑みを浮かべながら話していたハズのアストさんなのだが、その視線を真っ正面から受けている(受けてしまっている)魔王からしてみると、何やらその視線に込められているのか、はたまた何かしらの圧力を感じているのかは、受けている当事者では無いので定かではないが、それでも何かしらのモノを感じているらしく、額から一筋の汗を垂らしながら、まるで助けを求めているかの様な感じで、俺達へと同行させることの許可の打診を差し向けて来る。
しかし、その打診を俺達、特に俺が断る理由が何か有る訳ではなく、むしろ頼んででも着いてきて欲しい位なので、当然の様に快諾する。
「もちろん!むしろ、こちらからお願いしたい位さね。アストさん、よろしくお願いしますね?」
「はい♪末長くお願いしますね?」
……微妙にニュアンスが違う様な気がしないでもないが、まぁ、スルーする方が良いだろう。多分。
無事に俺達がイエスと返した様子を見て、それまで垂れ流していた冷や汗を拭いながら、既に一仕事終えた様な雰囲気を醸し出している魔王を尻目に、それまでのやり取りを黙って見ていた乾達が騒ぎ出す。
「ちょっと!アスト師匠が小鳥遊君達に着いて行って良いのだったら、私達も一緒に『冒険者』になっても構わないよね?小鳥遊君達だけだと、遠距離で攻撃する後衛になれる人が……居ないでもないけど、それでも専門的に出来る人がいた方がバランスが良いよね?少なくとも、私位は一緒に居た方が良いよね!?」
「拙も、その『冒険者』とやらを希望したい所存です。未来の夫の側に控えて、色々とサポートするのが未来の妻たる拙の役目ですし、小鳥遊殿達の口振りから、その『冒険者』とは戦闘方面のモノである事が予測されます。なれば、更なる強者を求める拙としては、是が非でも参加したい処であります」
「あ、オレもオレも!まぁ、オレも二人みたいに、小鳥遊がやるって言ってるから希望している、って言う側面も有るけど、二人みたいにその気になれば他の事も出来る、みたいに器用じゃ無いからさ、多分戦う位しか出来ないと思うから、取り敢えずやってみたい!」
「アストちゃんがサポーターとして同行するのであれば、私も保護者として参加しても良いって事かな?だよね?むしろ、私の方が小鳥遊君とは付き合いも長いんだから、『気心が知れている』って点で言うので有れば、私が同行出来ない理由は無いんじゃないかな?」
四人が四人共に、何やら『圧』を掛けながらもそれぞれの理論を展開してくる。各人それぞれの言い分の中にも、それなりに筋が通っている様にも思えるが、それらを否定する声が複数上がる事となる。
「無礼を承知で申し上げますが、まだ止めておいた方が良いかと……」
「まだ、そなた達には荷が重かろう」
「止めておいた方が良いと思います」
そう声を上げたのは、それぞれ執事のフルカスさん、魔王、アストさんである。
まぁ、妥当だろうなぁ……、なんて思っている俺の内心はともかくとしておいても、どうやら自分達の考えをある種の『決め付け』を持って否定されたと感じたらしい四人は、不満そうは雰囲気を纏い始める。
そんな四人を見て、溜め息をほぼ同時に溢した三人は、互いに視線や仕草で彼女達に説明するよう促すが、互いが互いに譲り合ったりしているみたいで、中々切り出す事が出来ずにいる。
が、それでも誰かが言い出さなくては事が進まないので、俺が横から口を出し、先程の発言の順番に合わせて理由を説明してはどうか?と提案したところ、ならばそうしよう、と意見が纏まったらしく、まずはフルカスのじい様から口を開く。
「では、僭越ながら、私フルカスから説明させて頂きます。まず、一つ確認させて頂きたいのですが、お嬢様方はタカナシ様と共に行動されたいが為に、冒険者を志望されていると言う事で宜しかったでしょうか?」
「……ええ、その認識で間違いはないと思います」
いきなりの質問に、多少戸惑いの色を見せながらも、乾が代表して返答する。
そして、その答えを聞いたフルカスのじい様は、満足したように頷いてから、まるで自らの孫に言い聞かせるかの様な雰囲気を纏いながら、乾達へと呼び掛ける。
「成る程。……確かに、想い人と共に在りたいが為に、その方と夢を共にするのは、とても良い事でしょうし、行動の選択肢の内の一つとしては有り得るモノなのでしょうが、それは実力が均衡している場合だけです。
無礼を承知で申し上げますが、お嬢様方では、タカナシ様達の冒険には、『今のまま』では直ぐに着いて行けなくなるでしょう。
確かに、平均的な『人族』の方々に比べれば、お嬢様方は格別のお力をお持ちでしょうし、それは『魔族』と比較したとしても、同じ結果として現れるでしょう。
……ですが、現段階では、お嬢様方程度のお力では、そこにいらっしゃるアシュタルト様を単独では撃破する事は叶わないランクであり、お嬢様方七人掛かりでようやく撃破出来るであろうと言った程度のモノでしか在りません。
そして、そのお嬢様方七人全員も、私フルカスに掛かれば、特段手こずる事なく無力化する事が可能です。
……しかし、お嬢様方が着いて行こうとなされているタカナシ様方は、そんなアシュタルト様や私程度では、仮に敵対した場合足止めする事が叶うかどうか、更に言えば、この世界でも上から数えられた方が早い程の実力をお持ちになられております魔王陛下ですら、私から見ても、タカナシ様方に『勝てる』と断言出来ない程のお力を所持なさっているのでございます。
そんなタカナシ様方に、今のまま着いてお行きになったとして、お嬢様方は彼等の脚を引っ張らない自信が、彼等と同じ場所に立ち続ける覚悟がお在りですか?
……仮に、そうならない自信が在ったとしても、自らが無力である事への自覚が在るのだとしても、今は一度立ち止まり、どの様な『力』を付ければ、タカナシ様と同じ処に立てるのかをお考えなさっても、悪くは無いのではないでしょうか?」
そう、聞く者によっては、さぞや耳の痛いであろう事を、まるで自らの愛しい孫娘へと語りかけ、自ら問題点を気付かせようとしている祖父の様な佇まいで問い掛けるフルカスのじい様。
そして、その言葉に、各自で自らの意見との擦り合わせや、自らの意見とじい様の言葉とで、どちらを取るべきなのかを検討し始めたのか、四人共に思案顔で黙り込んでしまう。
その光景を目の前にして俺は、不覚にもそれを『羨ましい』と感じてしまっていた。
元より、俺達の祖父は『お爺ちゃん』って感じの人ではなく、あくまでも『師匠』であったので、俺個人としてこんな感じでの『優しい祖父』と孫との交流と言うモノに、密かに憧れを抱いていたのである。
まぁ、厳しく指導されはしたが、こうして異世界に飛ばされても無事で居られる以上は感謝……アレ?感謝しようとしたら、『修行』と称して行われて来た拷問の経験が、脳裏を過り出したぞぅ……?おっと、目から赤い汗が……。
そんな風に、個人的な理想とトラウマの間で戦っている間に、フルカスのじい様から魔王へと解説者が変わり、乾達へと語り掛けて来る。
「……余としては、フルカス程に諭すつもりは無いが、それでもまだタカナシ殿達以外は冒険者はまだ早いと思うがね?
確かに、そなた達はそれなりに腕が立つのであろう。それは、見ていれば理解出来る。
……しかし、そなた達はまだ未完成、いや、『中途半端』とでも言うべき状態であろう。
タカナシ殿達の様に、ある種完成された『強さ』が有る訳でもなく、かと言って未だ何も知らぬ雛鳥でもない、どっち付かずの中途半端な状態は、実力が上のモノから見れば『良いカモ』に、下のモノから見れば『手の届きそうなエモノ』に見える故に、四六時中周囲から邪魔をされる事となりかねん。
……それに便乗して、そなた達の身体を汚そうとするモノも現れよう。
だが、それらに対してそなた達は、まだ無防備なエモノに過ぎぬ。
故に、タカナシ殿達を追って冒険者の世界へと飛び込むつもりでいるのであれば、少しここに留まって、最低限の『力』を着けてからの方が良いのでは無かろうか?
幸いにして、そなた達はタカナシ殿達と違い、既に『魔法適性』は持っておるのだから、後は『魔力操作』を取得出来れば、全員共に魔法を習得する事が可能であるがね?」
そう締め括って、『今』ではなく、『次』にする方が良いのでは?と提案する魔王。
その言葉が、先程のフルカスのじい様の言葉によって、自身の事を考えさせられていた四人にどの様に響いたのかは未知数だが、それでもそれなりの効果があった様子で、表情もやや明るいモノへと変化する。
だが、次に控えるアストさんからの言葉によって、その表情は再度反転する事となる。
「……最後になりましたが、私アシュタルトが、実際に冒険者として活動していた体験から意見させて頂きますが、乾殿達は冒険者を選択するのは止めておいた方が良いかと思われます」
「どうして!?」
「……ではお聞きしますが、貴女達は、いざ自分の身体が意に沿わぬ形で蹂躙されようとしている時に、相手を殺してでも純潔を守り抜く覚悟か、又は自害してでもタカナシ殿に操をたて続けるだけの決意が有りますか?」
「「「「………………!?」」」」
「……私は、冒険者として活動する中で、暴力によって無理矢理に貞操を奪われた女性を、魔物に繁殖目的で拐われ、延々とその身体を使われ続けた被害者を、そして、盗賊に捕まったり、それらを助けに行って返り討ちに合い、散々オモチャとして陵辱の限りを尽くされた成れの果てを、幾つも見てきました。そして、そう成りやすい傾向に有るのが、貴女達の様に、実力が中途半端に着いてきて、周りにもう敵は居ない、と勘違いしている頃合いの女性達です。
その頃合いに入ってしまうと、幾ら魔物に対しての戦闘力が強かった人でも、次の日には路地裏で全裸にされて汚され尽くし、ゴミ箱に無様に突っ込まれている何て事も、少なくは有りませんでした。
幸いにも、私はその頃合いを抜けるのが早く、そして、この肌色のお陰で狙われる事も有りませんでしたが、貴女達の様に若く美しい女性達が、特に何の覚悟もないままに踏み込んでは、瞬く間に犯され、汚され、女性としての尊厳を根刮ぎにされる事となるでしょう。
……これを聞いてもまだ、タカナシ殿達と一緒に居たいから、と言うだけで、目指そうとお思いですか?」
壮絶な実体験からの忠告に、やや明るさの戻っていた顔が、再び沈んだモノとなる。
……まぁ、『冒険者』って名目は在るのだろうけど、その実どうせ何でもアリの便利屋か、それ以外の犯罪者予備軍みたいな側面が、少なからず有るのだろう。
当然の様に、時には人を殺める必要性が出てくる事は、まず間違いは有るまい。自らの身を守るため、目的のモノを得るために関わらず、だ。
そして、女性であれば、それだけで更に危険度は爆発的に上昇する事間違い無い。
それ故の『忠告』であるだけに、流石に乾達も突っぱねる事も出来ずに、こうして沈黙するしか無くなっているのであろう。
……出来ることなら、このまま諦めて、いずれは帰る事になるその手を、彼女達は汚さずに済む様な方向に考えて欲しいのだけれども……。
しかし、その俺の思惑は、思わぬ方向からの援護射撃(又の名を誤射とも言う)によって、淡くも粉砕される事となる。
「……だが、余個人としては、そなた達の心の持ち様には感心させられる処も大いに有る。よって、そなた達が望むのであれば、タカナシ殿達が冒険者になった後も、このゲーティアに暫し残り、そなた達が安全に冒険者となれる様に力を鍛え、必要な心掛けを身に付けさせる事も可能であるぞ?もちろん、イヌイ殿達が望まれるのであれば、の話であるがね?」
その言葉に、思わず
『話が違うぞ?』
と視線で訴えるが、大したことも無さそうに受け流されてしまう。
それに歯噛みしていると、いつの間にか話し合いをしていた四人と、それまで黙って話を聞いていた亜利砂さん・音澄さん・桜木さんも、同じく話し合いをしていたのを止めて、共に魔王へと真剣な目で向き直ると、それぞれ口を開き出す。
「……陛下、確かに、私達は、ただ小鳥遊君に着いて行きたいが為に冒険者を志望していました。そして、それは今も変わり有りません。
……私達はまだ、誰かを殺す覚悟も、汚される前に自刃する覚悟も出来てはいません。ですが、彼と共に在る為に必要な事であるのならば、それらを得る事に躊躇いは有りません!ですので、私達四人は、訓練を希望したいと思っております。許可願えますか?」
「私達は、まだ冒険者になろうとは考えておりません。ですが、この身にアシュタルト様の仰られた事が降りかからないとも限りません。よって、私達三人も、陛下によるご教授を賜りたく存じます」
「うむ、許可しよう。もっとも、余もそれなりに仕事が在る故に、基本的にはフルカスか、もしくはその部下が担当する事となるであろうが、精一杯指導させて頂こう!」
……こうして、俺の思惑とは些かズレが生じた結果として、俺達の当座の進路としては、冒険者三名(俺・タツ・レオ)、冒険者予備軍四名(乾・久地縄さん・阿谷さん・先生)、保留三名(亜利砂さん・音澄さん・桜木さん)となったのであった。
……どうしてこうなった……?
前回に続いての能力紹介
タツ・看破……対象としたモノの隠された情報を見出だす力。見詰めるだけで能力が発動するが、より多くの情報を引き出す為には、それなりの時間見詰め続ける必要が有るため、隠密には向かない。又、得られる情報はランダムに脳裏に浮かび上がって来るため、欲している情報が得られるとは限らない上に、『技能』等の情報は、一部を除いて得られない。
※次回はレオの能力解説……の予定です。
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