34・首都『クラニアム』に到着しましたので、魔王様に面会します
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無様な醜態を晒していたベレト達を放置したまま、当座の資金を得るために赴いた換金屋で適当な大きさの魔核を一つ、取り敢えずで出してみた処、アストさんを覗いた俺達が、揃いも揃って全員ドン引きする程の金額を積まれたり、その後に行った服屋で、分かりきっていた事とは言え、女性陣の服選びで呆れる程待たされたり、こっそりと選んでいたアクセサリー等の小物を、アストさん含む女性陣全員にプレゼントしたら、予想外に喜ばれてしまい半分パニックになったりと、中々騒がしくも楽しい一幕があったカーパルスでの滞在期間は終了し、現在俺達は首都である『クラニアム』を目指してひた走る馬車に乗って移動している最中である。
……で、あるのだが、その馬車の内部の空気は、ある意味で最悪のソレに近い。
その理由はおそらく……と、言うよりも、もはやソレしか考えられないしそれ以外には心当たりが無いのだが、あの時のアレコレ以降、それまでよりも極端に距離感が精神的にも物理的にも近くなっているアストさんが、何か良い事でもあったのか、あの時から今日に至るまで、常に幸せそうな微笑みを浮かべたままで、俺の近くに居たりするし、今現在されている様に、俺の隣に座って、その豊かなお胸様で俺の片腕を拘束されていたりするからだ……と、思われる。
……『自意識過剰』?『勘違い乙』?
……そんなの、俺が一番良く分かってるよ。
でも、現在ソレしか原因と思われるモノには思い至らないし、一部の女性陣がこうして殺気に近いナニカを、俺に向けてくる様になったのも、アストさんがこうなってからなので、おそらくは間違いは無いのだろう。
……もっとも、そうなる『心当たり』は欠片も無いのが現状なのだけれど。
さすがに、他人への興味が薄い俺であっても、なんとなくではあるが、この事態が一般的に『嫉妬心』等と呼ばれるソレが原因であろう事は、一応は理解出来ている。
それに、これまでの一月と半分程、行動を共にしてきた事により、タツやレオ以外の女性陣とも、それなりに信頼関係を構築出来ていたのだと思う。
そして、原因は不明であり、何故に対象が俺なのかは更に不可解な事ではあるが、多分乾や先生、そしてリンドヴルム辺りには、俺に対して異性に向けるであろうタイプの好意を抱いているのだと思われる………………多分。
まぁ、リンドヴルムは常に俺に対して『番が~』だとか、『伴侶として~』だとかを言ってきているので、多分間違ってはいないと思われるが、乾や先生に関しては、『多分』だとか『きっと』だとかが大量にくっつく程度の推論でしかないけれど。
ただ、タツやレオよりも俺に話し掛けて来る頻度が高かったり、頼み事をしてきたりする頻度が高かったり、比較的暇になると、高めの確率で俺を眺めて暇潰しにしていたりする傾向はあったとは思う。
故に……と言う訳ではないが、それらのデータから判断するに、この三人(二人と一匹?)がこの空気を産み出している理由としては、まだ理解出来る。
……多分。
そして、この殺伐とした空気を生成するのに関与してはいない、亜利砂さんと音澄さんと桜木さんについては、おそらく好意的には思ってもらっているのだろうけど、そのレベルとしてはタツやレオと同じ位だろうし、その質も、『男女間のソレ』では無く、どちらかと言うと『師弟』だとか『友人』としての『信頼感』が強いのだと思われる。
現に、音澄さんなんかは、同じく長物武器の使い手であるからか、完全に俺の事を『師匠』呼びしている位だからね。
以上のデータから、これまで名前を出した六人(五人と一匹?)が、俺にアストさんがくっついて来た事によって発生している殺伐とした空気に関して、関わっている・いないについては、当事者である俺としても、まだ理解は出来なくはない。
……納得は、まだ出来ていないけど。
だが、ソレ以外の二人である阿谷さんと久地縄三人関しては、ぶっちゃけた話完全に予想外と言うか、想定外であると言うか、そんな感じの印象を強く受けている。
俺としては、あの二人からはどちらかと言うと、乾達の様の様なタイプの好意ではなく、亜利砂さんの様なタイプの好意だとばかり思っていたので、正直ベレトとの一件の際に吐露していた事柄には、個人的な驚きを隠せなかったし、その後の言動から、どうやらその対象が俺っぽいと言うことも、現在こうして左隣に居るアストさんが、俺に仕掛けてくるスキンシップ?(腕を胸に埋めてくる、手で首もとや胸板を撫でてくる、耳を甘噛みしてくる等の行動はスキンシップに入るのだろうか?)に対して、光の無い濁った瞳で見詰めながら、殺伐とした空気を醸し出して来る事から、まぁ、間違いは無い、の、かなぁ……と、思う訳です、はい。
……ただ、そんな彼女達も、アストさんが俺から離れている時は、今みたいな空気を発する事は無いし、俺が話し掛けても普通に受け答えしてくれる。
……まぁ、その会話も、それまでのそれよりも、前のめりと言うか、食いぎみではあるみたいだけれども。
もちろん、この雰囲気の発生源の片割れであると推測されているアストさんにも、色々と面倒を見てもらっている立場にある以上、あまり強気には出られないので、やんわりと現状を伝え、それとなく彼女達の前で挑発的な行動を取ることは控えて欲しい、とお願いしてみたのだが、その要望は柔らかな微笑みを浮かべながらも、断固とした意思の込められた瞳によって『嫌です♪』とバッサリ切り捨てられてしまった。
理由を聞いてはみたのだが、まだ話せない事なので教えられない、とは答えてくれはしたが、それと同時に
『あれだけ一緒に居たのに、なにもしなかった人達には、やっと見つけた『大切なモノ』は譲れませんもの』
とも言っていたのだが、これはどう言う意味なのだろうか?
……うん、分からん。
せめて、俺に教えられないのならば、女性陣との話し合い位はしておいて下さいね?とはお願いしておいたが、これすらも実行されたのか、される予定が有るのかどうかすら怪しい処ではあるけれど。
もちろん、雰囲気の発生源であると思われるアストさんだけでなく、元より関わりの無いタツやレオと言った男性陣や、他の面子とは違って混沌とした雰囲気の生成に関わっていない三人に、あの空気をどうにか出来ないか?と嘆願してみたりもしてみた。
こう言っては何だけど、今言った面子も同じ馬車の中で缶詰になっている以上、俺に向けられているであろう空気や殺気と言ったモノを、完全に無視してシャットアウトするのは不可能であると思われる。
そして、同じ空間に居る以上は、俺と同じ空気に晒され続ける事になる為、あの無言の空間や、物理的な『威圧感』すら感じられる様な視線から逃れられるのであれば、一切の協力を断られると言った様な悲劇は起きないだろう、との打算も、当然含めての行動ではあったのだけども。
しかし、そんな俺的には起死回生の起爆剤になるハズだった一手も、タツとレオによる、見事にシンクロされた
「「だが断る!」」
の一言と、自身もあの空気に耐えかねていた亜利砂さん達による、決死の試み第一段による特攻の結果もたらされた
「「「アレは無理」」」
との試算によって、敢えなくお釈迦となってしまい、結局の処としては狙った効果を発揮する事は無く、逆に味方となり得た勢力の撤退と言う結果だけをもたらす事となったのであった。
……ここまで言えば、既に分かっているとは思いますが、現在わたくし、四面楚歌状態です。ハイ。
現在、隣の女神様からもたらされている、男の子的に至福の感触に集中すれば、周りの空気が悪化する。
逆に、アストさんの隣を脱出し、誰かの隣に逃げ込もうモノならば、その隣になった人からは、それなりに清浄な空気がもたらされるが、その代わりにアストさんからは悲しそうな波動が、その他の面子からはやはりそれまでと同じ様な空気が送られてくる訳である。
第三勢力たるタツとレオの男子組は、この争いには不参加の意を表しており、下手に近付くと蹴り返されて、再び修羅の巷へと叩き込まれる事となる。
どちらかと言うと第三勢力と言うよりは中立の立場にある亜利砂さん達も、申し訳なさそうにしながらも、自身の安全の為か、男子組と似たような対応になってしまっている。
……つまり、『詰み』である。
よって、俺に好意を向けてくれている(……多分)女性に囲まれながらも、常に心休まる時が無い俺にとって、この馬車旅における最大の『癒し』は、馬車の御者のおっちゃん(『魔族』のおっちゃん。推定40代。いぜん耐えかねて脱出した際に仲良くなった)と話している時と、馬車を牽いている謎生物(四足でモフモフしており大人しく人懐っこい。だが断じて馬ではない)をモフモフしている時、そして……
「旦那!また出たみたいだ!本来なら、お客さんの旦那に任せるのは心苦しいんだが、話を聞いてる限りだと、色々と溜まってるんだろう?だから、今回もよろしくお願いしやすぜ!!」
……そして、こうして時折現れて、道行く旅人や馬車を狙って襲撃を仕掛けてくる、魔物や盗賊の類いを標的に、存分に八つ当たりする事である。
ヒャッハァァァァァアアアアアアアア!!!!!
汚物は殲滅だぁ!!
こんな感じで道中を過ごした俺達は、カーパルスから四日程掛けて、首都クラニアムへと到着するのであった。
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国の首都だけあって、遠目からでも分厚い城壁に守られている事が見てとれるクラニアムの内部へと、何事も無く入場……とはいかず、城門の処で馬車を止められ、衛兵さん達によって色々と調査される俺達。
……と、言うよりも、俺とリンドヴルム。
まぁ、でもそれも仕方の無い事なのだろう。
何せ、片方は入場しようとしていた馬車の屋根に乗っかっていた、眼帯(左目)を付けて左手にだけ手袋を嵌めている『人族』と思わしき不審者で、もう片方はその不審者を取り調べようとした際に、馬車の中から飛び出して来て、不審者を連行しようとしていた(軽く肩に手を置いて誘導する程度)衛兵を物理的に吹き飛ばし、如何にも例の不審者と繋がりが有りそうな行動を取る(衛兵を吹き飛ばした直後に不審者の胸元にダイブ&頭部にしがみつき)幼竜……と思わしきナニカ。
自分で言うのもアレだけど、流石にこんな色モノは、確りと止めるなり、しょっぴくなりしなければ、衛兵として門を守っている意味と価値が、根底から消滅してしまうだろうから、ある意味当然の行動ではあるのだろうからね。ぶっちゃけた話、多分俺でも止めると思う。
……まぁ、止まるかどうか、止められるかどうかは別として、って話にはなるのだけれどもね?
そんな訳で、阿呆のお陰で一触即発の雰囲気になりかけたのだが、そこでようやくアストさんが登場し、自身の権力と魔王様の名前をフル活用して、半ば無理矢理に事態を収拾し、俺を回収した上で門を潜って魔王城(正式名称)へと向かっていったのが、今から大体一時間程前のお話。
そして、その一時間後である現在、俺達は何故か、この国の国王であるハズの魔王様と、直接顔を合わせる事となっているのである。
……話がいきなり過ぎる?
うん、俺もそう思う。
まぁ、確かに?
魔王城に着いたら、魔王様にお目通り願う事となる、って話は、予めアストさんから聞いてはいた。
それに、何故かは良く分からないが、俺達の扱いとしては、魔王様直々に招待した『国賓』って事になっているらしい事も、以前聞いたことが有る。
なので、俺の予想としては、取り敢えず魔王城に到着→1日位待機&その間にアレコレの準備→玉座の間だとか謁見室だとかで面会……みたいな流れを予想していたのだが、実際の処としては……
1・取り敢えず到着したので、その知らせをお願いする。
2・どう言うルートが有るのかは不明だが、何故か速攻で魔王様の処まで情報が伝わる。
3・執事のじい様(銀髪オールバックで片眼鏡装備の角が生えた渋いじい様だった)が取り敢えず入り口で待機していた俺達の元へと派遣され、移動開始。
4・案内された先の部屋(パッと見た感じは普通の部屋)にて、じい様がノックしながら
「陛下、お客様をお連れしました」
と声を掛けた為、中に誰が居るのかが判明。←今ここ
普段からこうなのかな?とも思ったが、相変わらず俺にくっついたままのアストさんも驚いた顔をしていたので、おそらくは普通ではないのだろう。多分。
だが、そんな異常……と言う程の出来事なのかは定かではないが、そんな出来事なぞ最初から無かったとでも言いたげな程に、ここ最近はやや緩みがちだった表情を引き締め、その美貌に凛々しさを追加し、じい様と同じ様に扉をノックし入室の許可を求めるアストさん。
思わずその横顔に見惚れるが、そうしていると、また俺へと瘴気が向けられる為、急いで視線をずらすと、それと同時に中から入室を許可する声が掛けられる。
それに従って中へと入ると、入り口を正面に捉える様に配置された執務机の椅子に腰掛けた金髪の美丈夫が、俺達へと声を掛けてくる。
「……ようこそ、異世界からのお客人方。余はバアル=ゼブス・ベルゼビュート。この魔王国の国王たる魔王をしている者だ」
そう言いながら、優雅に椅子で寛ぐ男の姿は、どこから見ても普通の『人』にしか見えない為か、俺達男子組を除いた女性陣は、偉い人に遭遇した時特有の気圧されている状態にはなっているが、俺達の様に無意識的に身体が戦闘状態に移行している訳ではないのだろう。
この部屋へと入った時には、既に確信していたのだ。
……この男、かなり強い……。
目を合わせるまでもなく、ただ一目見ただけでそう確信させるだけの『オーラ』の様なモノを発しており、それに当てられてしまい、身体が勝手に飛び掛かろうとするのを、そこそこ必死に押さえ付けているのだが、視線でタツとレオとを確認してみた処、二人ともに小刻みに震えていたりも普段であれば武器の類いを納めている場所へと手を伸ばしていたりと、どうやら俺と同じ様な状態になっているみたいである。
感じられる『圧』の具合から、推定力量としては師匠たる祖父達と並ぶか、もしくはそれ以上の手練れかも知れない。
そんな俺達の反応を見たからか、それとも雰囲気やその他の要因から俺達の戦闘力を見抜いたのかは定かではないが、それでも何処か嬉しそうな獰猛な肉食獣を思わせる笑みを浮かべる魔王様。
そして、そんな両者何時仕掛けてもおかしくない様な空気を形成しつつあった俺達と魔王様との間に、アストさんが一歩踏み出して口を開く。
「陛下、アシュタルト、只今戻りました。
こうして、異世界からのお客人であるタカナシ殿達を保護する事には成功は致しましたが、それでも殆どの方は救出する事が出来ませんでした。ご命令に従う事が出来ずに、申し訳ありませんでした……」
そうして床へと膝を付くアストさんが帰還の報告をしてくれたお陰で、俺達の間に流れていた一触即発の空気が霧散し、雰囲気にもピリピリしたモノが混ざらなくなる。
そして、それまで俺達へ向けられていた獰猛な笑みを引っ込めて、柔らかな微笑みを浮かべ、目の前で膝を付くアストさんへと語りかける魔王様。
「良い、アシュタルトよ。
確かに、余はそなたに救出を命じたが、だからと言って『必ず』全員救ってこれるとは思ってはいなかったのだ。もちろん、全てのお客人達を救出出来ればそれに超したことは無かったが、それでもそんなことは最初から不可能だとすれば分かった上での命令だ。故に、そこまで己を責める必要は欠片も有るまいよ?
むしろ、そなたがかくも迅速な対応を見せてくれたお陰で、こうして10名もの方々を、無事にお連れする事が出来たのだ。それは誇るべきでは有れども、そうして頭を垂れる理由にはならぬであろう?
……良くやった、アシュタルトよ。余は、そなたの事を誇りに思うぞ」
その言葉を受けて、膝を付いたままの状態で
「……有り難き幸せにございます」
と返事をしたアストさんだったが、その声は涙で歪んでおり、その床には大粒の涙がこぼれ落ちているのが見受けられた。
「うむ、大義であった。余は、この功績に報いる為に、そなたに褒美を与えたいと思う。
……アシュタルトよ、そなたは何を望む?」
アストさんが落ち着いたタイミングでそう声を掛けた魔王様だったが、本来ならば『陛下に委ねます』と返事をするべき、ある種の暗黙の了解となりつつあった質問に対して、ピクリと反応するアストさん。
「……陛下、それは『何でも』と言う事でしょうか?」
「う、うむ?まぁ、余にできる範囲で、とはなるが、何か望みが有るのか?」
思わずビクッ!とアストさんから発せられた『オーラ』に身体を強張らせながらも、俺達が目の前にいるからか、それまでと変わらない様に返事をして見せる魔王様。
その言葉を持って言質を取ったと判断したのか、それまでの体勢からスクッと立ち上がると、俺の隣までスッと移動してくる。
……何だか、嫌な予感がするような……。
何て思っていると、おもむろに俺の腕を取り、ここ最近良くしてくる様に、その豊満なお胸様に挟み込むと、その様子を目の当たりにして若干放心気味になっていた魔王様へと、特大の爆弾を叩き込む。
「では、このタカナシ殿との『結婚』をお許し願えますか?因みに、既に『婚約』は済ませてありますので♪」
「「……………………………………はい?」」
後で聞いて判明したのだが、その時の俺と魔王の表情は、顔の作りと肌の色を除けば、どうやったらそこまで綺麗にシンクロするの?ってレベルでそっくりだったのだそうな。
次回、修羅場回(予定)
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