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31・どうやら港に着いたみたいです

第二章・魔王国編の開始になります


ブックマークしてくださった方々、感謝ですm(__)m



「「「「「「「「「「おぉ~!」」」」」」」」」」



かの無人島を脱出してからと早半月……と少し。


俺達を乗せた魔導船グリモワールは、長い……と言うのかはちと微妙だが、それでも、俺達にとってはこの世界での初めての船旅を終えて、こうして魔王国レメゲトンで最大の港町である『カーパルス』へと辿り着く事に成功したのである。


この日の早朝から、遠目にではあったが、既にカーパルスの姿は見えていたので、俺達は御上りさん感丸出しで甲板の手摺にしがみつき、今か今かと期待を膨らませていたのだが、遂今しがた到着したこともあって、先程の感嘆の声へと繋がる訳である。


「これは中々活気があって、大変面白そうな港町ですわね!師匠(アストさん)から聞いていた通りに、ここの方々は皆、肌の色が濃い様子ですわね!」


そう呟きながら、今だ甲板の上から亜利砂(アリサ)さんが、港を物珍しそうにしながらキョロキョロと見回している。


「……ん、多分ここに居る人達、基本的に『魔族(イヴル)』だと思う。でも、それ以外の人達も結構居る。だけど、人種何て関係なく、皆良い顔をしている」


「そ、そうですね!皆さん、な、何だかとっても楽しそうに、お仕事なさっているみたいですね!」


亜利砂(アリサ)さんに続いて音澄さんと桜木さんも、このカーパルスの感想を漏らすが、両者共に良い印象を抱いている様子であり、特に普段からあまり派手に表情が変化しない音澄さんが、僅かながらに笑みを浮かべている様子からは、おそらくこのカーパルスの喧騒を気に入ったと見て間違いは無いのだろう。


「確かに、喧騒から発せられる熱気は、中々御目に掛かれないモノですね。拙としても、ここまで人々が活気付いていると、こう、思わず身体が動いてしまいそうになってしまいます」


「おう!確かに、この雰囲気は中々楽しそうだな!オレも、こんな猥雑とした感じは結構好きだし、こう言う感じの所って、案外と色んなモノが集まるからか、色んな奴らも集まるからな!」


何時もながらに『凛』とした雰囲気ながらも、そこはかとなく興奮している様子を窺わせる久地縄さんに、まるで少年の様に目をキラキラと輝かせながら、今にも飛び出して行きそうな勢いで手摺にかじり付いている阿谷さんは、パッと見は正反対に居る様な印象を受けるのに、根っこの部分は似通っているためか、こう言う時の反応は、面白い位に似ている様な気がする。

……気のせいかね?


「こう言う如何にも『港町』って感じの処、先生も結構好きかなぁ~。雰囲気も有るし、人の活気だけじゃ無くて、何て言うか、こう、『生命力』に溢れているって言うのかな?

そんな感じがするのが良いよね。

……それに、こう言う処って、色々な品物が揃う場所でしょう?だったら、まだ見たことの無い、新しい美味しいお酒との出会いも、当然有るって事だよね!先生はそれが楽しみです!!」


「……先生の意見には、まだお酒が呑めないからどうとも言えないけど、色々な品物が集まるって点に関しては、やっぱり私も楽しみかなぁ?まだ手持ちの魔導書があの時の一冊だけだから、そろそろ新しいのが欲しかったんだよねぇ。

それに、そろそろ新しくて可愛い服とか欲しいから、やっぱり買い物はしたいかなぁ」


それぞれが欲するモノは違えども、同じく買い物意欲を向上させる佐藤先生と乾の意見に、他の女性陣も乗っかってキャイキャイと騒ぎだしたが、そんな彼女達に対して、苦笑気味なれども柔らかく、優しげな視線を向けるアストさん。


「一応、皆さんにはこのカーパルスで一泊していただいて、船旅の疲れを癒していただいてから、この魔王国の首都である『クラニアム』を目指して移動していただく事になります。まぁ、まだ日も高いですし、まずは船を降りて昼食を採ってから、このカーパルスを見て回ると言うのは如何でしょうか?」


『妾はそれで構わんがのぅ、お主らはどうなのじゃ?』


「……俺は、どちらかと言えば、ここの料理に興味が有るから、そちらの方が都合が良い」


「僕も~、お腹空いて来ちゃったから~、先にご飯の方が嬉しいかなぁ~?でも~、その後の観光も~、何が有るのかよく分かってないから~、ワクワクしてきて楽しみなんだよねぇ~!」


「そうですね、俺も、それで大丈夫です。港町の食事って事は、やっぱり魚介類がメインですよね?好物なので今から楽しみです」


おそらく、純粋に腹が減っているだけのリンドヴルムに、元々燃費が悪い関係上大量に食うのだが、その過程で自分でも作る事がある種の『趣味』と化しており、新たな味覚との遭遇に貪欲なタツ。

その見た目から、大人しいと勘違いされがちだが、その正体としては、自身にとって『未知』のモノに対する好奇心の塊であり、特に『探検』や『探索』の類いは、本人曰く「大好物」であるらしい。もちろん、食べたことの無い料理も、その範疇にバッチリ入っているレオ。

そして、無人島に居た時には言わずもがなで手に入らず。途中の船旅では、俺達が提供した兎肉が優先的に供された為にお預けを食らっていた(もちろん、美味しく頂いたし、実際に美味しかったけど)為に、海の幸に飢えている俺、と言った構成だったので、当然の様に『否』が出るわけも無く、即座に可決された。


そして、接岸の為に慌ただしく動いていた船員さん達が動きを緩め、安全に下船出来るようになってから俺達は、船長(どうやらいつぞやの形稽古を見られていたらしく、その件で仲良くなった)以下船員の方々に盛大に見送られる形で馬車に乗り込み、魔王国領である港町カーパルスへと、足を踏み入れたのであった。





******





馬車に揺られる事約十数分。

俺達は、当初の予定の通りに、昼食を採るべく移動していたのだが、その『予定通り』の行動するまでに一悶着有ったお陰で、予定ならば既に店に入って食事を始めていたであろう現在もなお、馬車で移動している状態となってしまっている。


事の発端は、馬車へと乗り込んで出発した直後の事であった。


その時に、ふとした切っ掛けでアストさんへと、これから行く店はどんな店なのか?と言った内容の質問が向けられたのだが、それによって重大な事実が告げられてしまったのである。


アストさん曰く、これから向かう先は、このカーパルスでも1、2を争う程の『名店』であり、魔王国でソコソコの地位に居る(らしい)アストさんでも、そうそう気軽には暖簾を潜れない程の人気店なのだが、『魔王国の来賓』である俺達であれば、『魔王陛下個人の知り合い』として席を用意してもらえるであろうから安心して入れると思われます。

店長も、少し『マナーに厳しい』人で、気に入らない客は『無理矢理にでも叩き出す』人らしいが、予め事情は説明してあるから、まぁ、大丈夫でしょう。


……との事だったのだが、それに対して俺達は、正確に言えば、俺と亜利砂(アリサ)さんと先生が激烈に反対をした訳である。


それには、アストさんもショックを受けて固まってしまったのだが、俺達が理由を説明し出すと、俺達の状況を理解するだけでなく、逆に自分達側の配慮が足らなかったとして謝罪して来た位である。


まぁ、理由と言っても、割合と簡単な事である。単純に、俺達は『この世界のテーブルマナー』を知らないのだ。


さすがに、元居た『地球』世界(仮称)での基礎の基礎、最低限テーブルマナー(ナイフとフォークは外側から、ナプキンは膝の上、出来るだけ音を立てない等々)程度は弁えていたが、こちらの世界でも同じ作法であるとは限らないし、むしろ同じだと高を括っていると、とんでもない恥を晒す羽目になりかねない。


そうなってしまうと、『魔王国の来賓』の立場で行っていたとしても、『魔王陛下個人の知り合い』の立場で行っていたとしても、どちらでもこの国の威信に、大きな傷を付ける事になりかねないし、おそらくはなってしまう事になる。


おまけに、そう言うお店には、大抵ドレスコードが設定されているハズである。


しかし、俺達の現在の服装としては、船に積まれていた支援物資(なのか?)の中に有った、サイズ毎に大量生産されたと思われるシャツとズボンで、俺とレオは服のサイズが少々大きめであるダボダボしており、タツは服のサイズが無かった為に、大柄だった船員さんから譲ってもらった服を着ている状態である。

これは、女性陣も似たような状況となっている。


……故に、とてもではないが、必要最低限の礼儀を弁える、とすら言えない様な現状で行くしかなくなるのだが、それまで『マナーに厳しい』お店としてやって来ていた以上は、そんな客を入れてしまえば、お店の看板に傷を付ける様な状況になりかねない事は、想像に難くは無いだろう。


そんな訳で、アストさんにお願いして、そのお店には、今日は色々と準備が出来ていないから行けないが、次に機会に恵まれれば是非とも食事をお願いしたい、との内容を、魔王陛下にもよろしくお伝え下さい、と一言添えて伝えてもらったのである。


結果としては、割合と即座に決断した為か、比較的早期に断りの連絡を入れられたからかは不明だが、直接向こうに行っていたアストさんが不思議に思う程にすんなりと承諾されたのだそうな。



なお、この後で分かった事なのだが、この件は、俺達の状況判断能力を試すべく、魔王が仕掛けたある種のテストと言うかドッキリと言うか……とにかくその手のモノであった為、どの道、魔王国の看板にも、魔王個人の名声にも、お店の看板にも傷は付かない様に配慮された、安全安心のモノだったのだとか。

……だったのだが、魔王の個人的な友人であり、自ら立候補した参加した仕掛人の一人でもあるが、今回の件では被害しか無かったハズの店長さんが、俺達の何が琴線に触れたのかは不明だが、何故か俺達を気に入ってしまったらしく、しばらく後に魔王経由で直接招待される事となり、正式にお邪魔する事になるのだが、それはまた別のお話。



そんな訳で、最初の予定から変更し、高級店ではなく大衆向けのお店を目指して馬車に揺られる事しばらく。


そろそろ皆空腹によって口数が減り始めるが、それに反比例するかのように、タツとリンドヴルムの腹の虫が騒ぐ音が大きくなり出して来た頃合いで、ようやく馬車が停止し、御者の方から、到着しましたよ!と声が掛かる。


それを合図に、御者が外から扉を開けてくれるのを待つのすらもどかしい、と言わんばかりの勢いで、足場を置かれるよりも先に外へと飛び出して行くバカ×2(タツとリンドヴルム)。


そんな野蛮人感剥き出しの阿呆共を完全に無視した上で、文化人たる俺達は、御者が足場になる台座を置いてくれるまで待ってから、まず俺とレオとが先に降りて、他の女性陣が降車するのをエスコートして行く。


もっとも、この世界にこんな作法が存在するのかは定かじゃあ無いし、別段地面がぬかるんでもいないし、女性陣の中でロングスカートを着用していたり、ヒールの高い靴を履いている人が居る訳でも無いが、一応これでも男の子ですので、これ位はマナーとしてしておかないと、ね?

……それに、ある種の役得として、近距離からのアストさんの微笑みと、『ありがとうございます』の感謝の言葉も貰えたからね、メリット込みでの行動ではあるのだけどね?


まぁ、デメリットとして、アストさんの後から降りてきた乾と先生には、殺気込み込みでの冷たい視線を頂いたけれど、何故か両者共に降りる際によろめいて、俺の方に倒れ込んでくる何てアクシデントが発生し、それを受け止めたりした際に、『何処が』とは明言しないけれど、中々に大きなサイズの柔らかなモノが接触するって言う、ある種のご褒美も頂いてしまったけどね?


……もっとも、二人が馬車から降りた後に、アストさんも含めた三人で、何やら視線で火花を散らしていたけど、何かあったのだろうか?

俺の『断罪権』を争っている、何てオチは無いよね?

……無いと、良いなぁ……。



そんな騒動(?)が有りはしたが、無事に目的の店である料理店『ハルペウス』へと入店を果たす。


さすがに、昼時だけあって中々に込み合っており、十名を越える団体が、即座に席に着けるだけの空きは無かった様子だが、少し待っているとどうやら席にも空きが出来たらしく、奥の方の大テーブルへと通される。


「こちらがメニューになります!」


と声を掛けられると同時に、一枚の板を渡される。


どうやら、木の板に文字を彫り込んでお品書きとして使用しているみたいなのだが、ここで重大な問題点が発覚する。



メニューを受け取ったは良いが、何が書いてあるのかサッパリ分からないのだ。



そう、俺達は、この世界の『文字』が読めないのだ!


言葉の方は、何がどうなっているのかは不明だが、どうやらこっちの世界に呼び出される時に、自動的に使用可能な言語として刷り込まれているらしく、特に意識すること無く話せているし、確りバッチリ聞き取る事も出来ている。


……出来ているのだが、この自動で刷り込んで呉れていた部分は、どうやら音声的なモノに限っていたらしく、この世界の『文字』についてまでは、保証の対象に含まれていなかったみたいなのである。


なので、アストさんに読み上げて貰ったのだが、さすがは異世界の食堂、料理の名前が全然違っているので、わざわざ読み上げてもらっているが、一つもまともにソレと分かる料理が無いのである。


流石に、この状況には頭を抱えたくなったが、そんな空気何て知ったことではない!とでも言わんばかりに、どうやら空腹が限界に達したらしいタツが、手を上げて給仕さんを呼び止め(他のテーブルでもやっていたから、多分こっちでも通じているハズ)ると、おもむろにメニューを手に取って、料理の名前だと思わしき文字列を指差すと、それをある程度のところまで滑らせる。


「……ここからここまでを頼む」


「承りました!一皿ずつで宜しいですか?」


「……ああ、それで良い」


「では、少々お待ち下さい!」


何しとんのかね、君は?と言った感じでタツへと視線を送るが、その本人たるタツは涼しい顔をしながらこう宣う。


「……何時までも決められないよりは、まだましだ。それに、これだけ人数が居れば、誰かしらの好みには合うだろう。それに、値段に関しても、俺達ならば心配は要らないのだろう?」


……確かに、パッと見た感じでも、そこまで多くの品数は頼んでいなかったし、決められないでグズグズしているよりかは余程良いのだろう。ぶっちゃけた話、どうせモノ顔を来るまでは、何を頼もうが旨いのか不味いのか何て、そもそも何を頼んでいるのかすら知らない俺達に、分かるわけが無いのだから。

それに、資金の面でも問題が無いのも事実ではある。


船に乗せてもらって、無人島を脱出した際に、俺達の捜索費用の足しにしてもらおうと、あの島で狩った魔物の魔石(仮称)をアストさんと船長さんへと渡してみたのだが、それぞれが極小の石を数個ずつ取っただけで、その他は速攻で返却されて来てしまったのだ。


その後で聞いた話なのだが、そもそも迷宮等の特殊な環境下にあった魔物以外は、基本的に魔核(正式名称)を持たない為、魔核はとても珍しいのだとか。


その癖して、魔導系の道具だとかには必須の材料なので、必然的に価値が高騰し、アストさん達が受け取った様な小石サイズのモノでも、かなりの値打ちが有るのだとか。

具体的に言うと、其処らの石ころサイズの魔核一つ有れば、一家族四人が慎ましく生活した場合、大体三年程は食うに困らなくなるのだとか。


そして俺達は、その石ころサイズのモノを、『試練の迷宮』にて大量に確保しており、それこそ、地面に積めば文字の通りに山が出来るであろう程に持っているので、資金の心配はしなくても大丈夫なのである。

まぁ、換金しないと駄目だけどね?


……っと、そんなことを考えていたら、どうやらタツが適当に注文した料理の数々が出来上がったらしく、注文を承けてくれた給仕さん以外にも、複数の人達がいくつもの皿を俺達の席へと次々に置いて行く。

その結果として、テーブルの上は料理の乗った皿で占領されてしまったが、旨そうな香りと共に湯気を上げているそれらを前にしてしまっては、文句なんて誰も言いはしないし、言う必要性も存在しない。


「……では、『頂きます』!」


「「「「「「「「「『頂きます!』」」」」」」」」」


「フフッ、では、頂きましょう」


あの島での行動習慣から、未だに俺がリーダー的なポジションから外れられない事もあってか、俺の号令が掛かってから、ようやく料理に手を付けだす皆と、それを微笑ましそうに眺めながら、自身も食事を始めるアストさん。


そんな、もはや『仲間』と呼んでも差し支えの無さそうな皆を眺めながら俺は、運ばれてきた時から気になっていた、海老の様なナニカが使われている料理を死守するべく、手元のフォークを伸ばすのであった。

面白いかも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等頂けると大変ありがたいですm(__)m

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新作始めてみました 『血塗れの殺し合いはもうお腹いっぱいだったので、テンプレ展開を期待して追放される為にわざと非戦闘系スキルばかり選んだら、何故か戦闘系スキルの連中を差し置いて『救世主』扱いされる様になりました』 珍しく戦闘少なめなコメディよりの作品になってます ……なってるハズです 良かったら読んでみて下さいm(_ _)m
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