03・未知との遭遇?
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山に登った事により、周囲の地形が確認出来たのだが、それによって現在居るここが大海の中に浮かぶ島であり、森に対しての人の手が入っていない様子と、見回した限りでは生活の場が見受けられなかった事から、おそらく無人島なんじゃないかなぁ?と見当を付け、取り敢えず、上から見回した時に光が反射したことから、水場かそれに準ずる何かだろう、と当たりを付けたポイントを目指して斜面を駆け降りていたのだが、その途中に『ソレ』は居た。
『ソレ』を見た時、俺は、殆ど反射で二人に聞いていた。
「……アレを見て、どう思う?」
って。
すると、二人の方も、半ば反射で
「「……凄く……大きいです……」」
と、答えていた。
そして、そんなアホなやり取りをしていた俺達の視線の先には、灰色気味な体毛に被われた丸っこいフォルムの尻と、それにくっ付くまん丸な尻尾。
身体を支えるために鍛えられた厳つい太股と、全体的に力強さを感じさせる足。
そして、何かを食い漁っているのか、尻と尻尾の陰に隠れている頭と、その頭が有るのだろうと予測されている所から飛び出し、頭部の動きに合わせてユラユラと動く長い耳。
そう、俺達が発見し、物陰から覗いているのは、可愛い可愛い『うさちゃん』だ。
ただし、その俺達に向けられている尻に付いている尻尾は、軽く見積もっても地面から1m程の高さに有り、尻本体は、後ろから奇襲を掛けて蹴り飛ばしたとしても、おそらくびくともせず、逆に蹴り飛ばそうとした足を破壊するんじゃ有るまいか?と想像させる程度には筋肉質である事が見てとれ、サイズ的にも、難産とは無縁であろう事は、男の俺にも理解出来る程の大きさである。
そこに続く脚も、まるで大木か何かかな?と突っ込みを入れたくなる程に太く厳めしく、その脚に刻まれた筋肉の筋は、上に毛皮を纏っているにも関わらず、その存在感を全力でアピールしており、その威圧感は並のボディビルダーを遥かに上回っている。
そして、俺達が知っている『うさちゃん』との最大の相違点としては、現在進行形で食い漁っている食料が、『うさちゃん』の巨体で大半が隠れているため確認し辛いが、どうやら大型の動物らしい事(頭と尻尾がはみ出して見えている)と、その食事の動きに合わせてユラユラと揺れている大きなお耳が、中心部分から外側へと行く毎に、灰色をしている毛皮が黒味を濃くして行き、そして縁に到達すると、鈍い金属光沢を帯びた刃物の様な見た目に変化しているのだ。
……俺達が仕込まれた武術は、実際に『人を殺める技術』である以上、『常時』と言っても間違いは無い位に刃物を手に取る機会が有ったし、今現在手元に持ってもいるので、ある程度の目利きや、どう使われてきたのか、と言った事もなんとなくであれば分かるのだが、アレはヤバい。
敢えて例えるとすると、『名匠の打った業物』で、『そこそこ腕の立つ剣士』が『数十人切り捨てる』とあんな感じになるんじゃ無いかな?と思う。
以前、戦場で十数人もの血を啜り、その結果『妖刀』と呼ばれる様になった刀を見る機会が有ったのだけど、そいつは『妖刀』と呼ばれるのに相応しいだけの『圧』と言うか『存在感』と言うか、とにかく見ているだけで圧倒される様な『何か』が有った。
そして、過去のそれと同じ種類で、それを大きく上回るだけの『圧』を、あのウサミミから感じるのだ。
そんな、マジでヤバそうな『うさちゃん』から視線を外し、気配を消したまま物陰に避難すると、この後の対応に付いての話し合いを開始する。
「……で、アレ、どうする?むしろ、どうしたら良いと思う?」
「……出来れば、回避したいが……そうもいかんだろう」
「アレが~、この辺だけをウロウロしてくれるのなら無視しても良いんだろうけど~、そうでなかったら面倒だよ~?」
「……まぁ、俺達だけなら、放っておいても大丈夫なんだが、それだとなぁ……」
「俺達以外は入れなくなる。それは避けたい」
「……やっぱり~、ここで片付けておくしか無いかなぁ~?」
今こうして俺達が会話出来ている事からも解るとは思うが、俺達だけならば、アレに遭遇したとしても、気付かれずに回避する事は出来るし、最悪でも、振り切って逃げおおせる事は出来るだろう。……俺達だけならば。
しかし、今この島には、俺達以外にも人が居り、そいつらがこの森に入って来ないとも限らない。むしろ、静止したとしても、勝手に入って行くだろう。
それで勝手に死ぬだけならば、別段俺達は気にしないし、むしろその手の『馬鹿』は必ず出てくる以上、さっさと『消えて』くれた方が、この手の環境下でのサバイバルでは、逆に有難い。
……有難い、のだが、この状況を鑑みると、そうも言っては居られなくなる。
俺達が目下、最大の脅威であると認識しているアレは、先程も見た通り、『肉食』だ。
そして、俺達の静止を振り切って森へと入られ、アレと遭遇しあっさりと殺され、アレに喰われてしまうと、あいつが人の味を覚えてしまう可能性が有る。
そうなると、 簡単に狩れる『獲物』を求めて、俺達やその他の連中を、自主的に追い求める事になりかねない。
それはあまり頂けない。
それ故に、どうにかしておきたい。
しかし、そうなってしまうと、この場で取れる行動選択肢は、一つに絞られてしまう。
「……そうなると、殺るしか無い、か……」
アレが突然変異の単一種でない限り、他の個体もいると見るべきなのだろうが、流石にアレ程ヤバいのは、そうそういないだろうから、この場で狩ってしまえば後顧の憂いを絶つことが出来るだろう。
……まぁ、アレが『生物』かどうかも少々怪しいけど。
……しかし、こうまでも、地球上には存在し得ないモノを見てしまえば、俺とて意見を変えざるを得ないと言うモノだろう。
「……と、なると……やはりここは、異世界……か?」
「え~?タカ今さら~?アレまで見た上で~、まだここが地球だと思っていたの~?」
「俺達の知識にも無い動植物も、山程見ただろうに……」
うるへぇ!と返しながら、手製の槍を抱えて黙り込む。
目の前の『うさちゃん』や、道中で見掛けた未知の動植物等と言った、動かぬ証拠が有るとは言え、そうそう簡単に信じられるモノでも無いだろうが。
それと、ついでに言っておくと、今抱えている槍は、さっき見つけた程よい長さと太さの、比較的真っ直ぐな木を使用し、先端部をナイフの柄の形に合わせて削ってから、ワイヤーでガッチリ固定して作ってある。完全なお手製だ。
……正直、粗製も良い所だし、無いよりかはマシと言った感じではあるのだけれど、俺が修得させられた技術が『槍術』である以上は、ぶっちゃけた話、武器として使用出来る槍が有るのと無いのとでは、出来ることに天と地程も差が出来てしまうので、多少嫌でも使うより他に無い。
今なら、海岸で二人が文句垂れていた理由が良く分かるわぃ……。
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そんな訳で、アレの討伐……もとい狩猟を決めた俺達は、早速行動を起こし、さっさと殺ってしまう事に決めた。
それ故に、木陰にレオを残したままで、俺とタツとで気配や足音、その他諸々も一緒に消したまま、ある程度まで距離を詰めてしまう。
現在の位置関係としては、
兎(?)←タツ←俺←木←レオ
って感じになっている。
一応説明しておくと、ゼロ距離戦専門のタツが最前衛、中距離でも対応出来る俺が前衛兼遊撃、そして、俺達の中で唯一遠距離攻撃の手段を持っているレオが後衛となっている。
まぁ、これが一番無難な組み合わせだろう。
そんな事を考えていた間に、最前列のタツが、それ以上近付けば気付かれる、って距離まで接近する事に成功しており、こちらを振り向く事も無いままに、後ろ手で送ってきたハンドシグナルで『これから仕掛ける』と合図しつつ、そのまま指を三本立てて、攻撃までのカウントを伝えてくる。
そして、立てていた指を全て折ると同時に、残っていた距離を一気に詰めるタツ。
全力で動いた為、気配や足音を消したままと言うわけには行かないので、流石にこちらの存在に気付かれ、食事を中断して振り返ろうとしていたが、その前にタツがゼロ距離へと入り込み、駆け寄った勢いのままに拳を腰の辺りに叩き込む。
ズドン!!
「ギャン!!!」
全体重+全力加速に加えて、おそらく『勁』も乗せてあるその一撃に、思わず悲鳴を上げながら、軽くその巨体を浮かばせる兎。
しかし、大したダメージは入っていなかったのか、タツに続いて俺が突っ込んだ時には、既にこちらへと向き直っており、その真っ赤な目には怒りを浮かべ、最大の武器と思わしき左右のウサミミを交差させて、ギャリッ!ギャリン!!と威嚇音とも取れる音を、周囲に響かせていた。
そして、一撃ぶち当てて一旦離脱していたタツではなく、今正に突っ込んで来ていた俺を標的に定めたらしく、その刃となっている耳を交差させたままで体勢を低くして、後ろ足の力で大地を蹴り、砲弾の様な勢いで俺目掛けて飛び掛かって来る。
おそらくは、あのウサミミで胴か首をチョンパする事が本命。
次点で避けられた時に、左右どちらかの近い方の耳での斬撃、又は、わざと通り過ぎてからの、後ろ足での蹴り、って所かね?
そして、そんな俺の予想が正しければ、この後は左右どちらかに回避する手が使えないのは勿論としても、常套手段でもある『下を潜る』手も使えない事になる。
もちろん、槍のリーチを生かして先制攻撃、と行きたい所だが、生憎と俺の槍(2mちょっと)より、あのウサミミ(3mオーバー)の方が長いので、それも難しいだろう。
ならば、取る手段は一つしか有るまい。
そう覚悟を決めた俺は、そのままの勢いで、突っ込んで来る兎公との距離を詰めて行く。
そして、 真っ直ぐ突っ込んだ俺の首に、ウサミミが届くその直前。
俺は、左右に回避するのでも、腹の下を潜るのでもない、第三の選択肢として、『上に逃げる』のを選んでいた。
やり方は簡単。
わざわざ武器であるウサミミを交差させて突っ込んで来ていたので、その交差させていた部分に、槍の石突き部分を突いて、棒高跳びの応用で上へとジャンプしたのだ。
本来であれば、石突きで突いた武器を破壊しつつ回避する技術だったのだが、生憎と使用している槍が使えない粗製につき、そこまでは出来なかった様だ。残念。
しかし、そんな俺の大胆な回避も、この兎公には大した動揺を与える事が出来なかったらしく、直ぐ様対空迎撃の体勢に入ろうとする。
が、その時、それまで気配を断って隠れていたレオが、援護の為に棒杭を投擲して来る。
完全に俺へと注意を傾けていた兎公は、その一撃に気が付かず、急所である眼球へと無防備に棒杭を突き立てられる。
「ギィアアア!!!」
思わず、と言った具合に頭を振り回し、周辺をそのウサミミで切り刻む兎公。
しかし、そんな今までの戦闘経験から来る判断も、敵対者を葬る為の熱意や殺意も何も無い様な刃なぞ屁でもない、とばかりに、端から見れば無造作とも取れる動きで兎公へと接近し、前肢の付け根、胸骨の隙間を縫うように貫手を突き込み、何かを掴んで引き摺り出しすタツ。
吐血すると同時に、前肢を折って身体を倒れ込ませるが、それでもまだ戦闘する意志が尽きないのか、後ろ足による踏ん張りから、タツの巨体を吹き飛ばそうとした兎公の上に影が落ちる。
それは、滞空時間が尽きて落下してきた俺が、兎公の上へと落ちてきたのだ。
そして俺は、そのまま兎公の首の後ろ、『延髄』と呼ばれる急所に対して、落下速度と全体重を乗せた一撃を全力で突き込み、お手製の槍が『ミシッ!』っと音を立てる中、兎公が断末魔の叫びを上げて、その身体から力が抜けるまで槍を捻り込み続けたのであった。
……ようやっとくたばりおったか……。
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