29・どうやら助けに来てくれたみたいです
ブックマークしてくださった方々に感謝ですm(__)m
妙に畏まった態度と言うか、変に恭しい態度と言うか、とにかく矢鱈と腰が低い態度でこちらに接してくるその女性に、女性陣は、その美貌と称しても良い様な造形に見とれたり、その絶妙なバランスによって保たれ、ギリギリのラインで『醜悪』な側に落ちず、『美しい』と評価出来る範囲内で最大限にボリュームを付けた胸部や臀部、そして、それらとは正反対に極限まで肉が削られ、その凄まじいまでの括れを惜しみ無く晒している腹部へと、嫉妬や羨望の視線を向けていたり、誰が、とは言わないが、その女性と自身の身体とを見比べて
「……負けた……」
と呟きながら、地面に崩れ落ちた某クラス委員の様に、様々な反応を見せている。
だが、そんな姿が、俺には何となく不自然なモノの様な気がしてしまっている為、最初に膝を突かせた姿勢ままで両手を上げさせ、反応し辛い状態にしてから問い掛ける。
「……で?何でまた覗き見なんてしていたんだ?堂々と出てきて接触すれば、今みたいな事にはならなかったんじゃ無いのか?何が目的でこんなところまで来たのか?全部話してもらうぞ?」
「それは至極当然のお話なのですが、現状、私の部下達との連絡が途絶していることを鑑みると、ここへと強力な魔物が迫って来ている可能性が高いです。ですので、今は移動する事が先決かと具申させて頂きますが、如何なさいますか?」
……おぅ、やっぱりアレらって『魔物』で合ってたのね……。
しかし、このお姉さん、何だか自分の心配事よりも部下の方の心配をしている感じかな?
更に言うならば、その部下達よりも、俺達の方が優先度が高く設定されている感じか?
……まぁ、もっとも、『強力な魔物』は居ないし、心配している『音信不通の部下達』も、皆無事なんだけれどもね?
「……と、言うことらしいから、その人達は下ろしても構わないみたいだぞ?」
「…………え?」
一人しゃがんでいた形のお姉さんの頭越しに、たった今森から出てきたタツとレオへと声を掛けると、俺の声かけと二人が下ろした荷物が地面に落ちる際の音で後方へと振り向いたお姉さんが、思わず、と言った体で呟きを漏らして、即座に固まる。
……まぁ、それも無理は無い……のか?
……多分無理は無いのだろう。
何せ、おそらくではあるが、お姉さんの口振りからして、部下の中でもかなり戦闘力の高い人員だったと思われる人達が、こうもアッサリと戦闘音すらさせずに無力化されて、荷物の様な扱いをされているたのだから、驚愕の余りに固まってしまったとしても、仕方の無い事なのだろう。
おまけに、その無力化された部下の人達が、誰一人として死んでいたり、死にそうな怪我を負わされる事の無いままに拘束され、ほとんど無傷に近い状態で連れてこられているのだから、少なくともそれを実行したタツとレオの戦闘力は、理解して貰えたと思って良いだろう。
そうして、後方へと振り返ったまま固まってしまっていたお姉さんに、改めて声を掛ける。
「……では、改めて聞こうか?貴女方がこんなところまでわざわざ来た理由とか色々と、ね?」
その声に反応してビクッ!!と、肩を跳ね上げたお姉さんは、まるで錆び付いた間接部を無理やり動かしているみたいな動き(効果音で『ギギギ』とか付きそうな)で振り返ると、半泣きになりながら呟く様に
「……は、はひ……」
と、答えて来た。
……正直、ちと虐め過ぎたかな?と思わんでもなかったですが、セクシーな年上のお姉さんが、半泣きになりながらこちらを見詰めていると言う状態には、かなりの破壊力が有ることを今初めて知りました。
……正直、グッと来ましたね、はい。
******
そして、お姉さんから色々と聞き出した俺は、結果としてお姉さん相手に……
「……この度は大変申し訳無く……」
土下座していた。
何処から見たとしても、完璧なる『土下座』と言うモノを体現していると言っても間違いでは無いだろう程に、綺麗に決まっている土下座を、タツとレオと共にお姉さん一行の方々へとキメていたのであった。
そして、そんな俺達の突然の行動に困惑し、目を白黒させながらオロオロとしているお姉さんと、そんなお姉さんと俺達を眺めながら苦笑いを浮かべている、負傷から復活したお姉さんの部下の方々。
更に言えば、そんな俺達とお姉さん方を、苦い顔をしながら眺めている女性陣達と、俺の隣で
『これこれ、龍の伴侶たる主殿が、そうそう簡単に頭なぞ下げるで無いわぃ』
とか言いながら、下げている頭をペシペシとその小さなお手手で叩いてくるリンドヴルム。
……何故に、こんなカオスな状態になっているのか、と言うと、実は、お姉さん達から話を聞いてみた処、彼女達は俺達を救助しに来てくれたのだそうだ。
まぁ、まだ色々と聞いていない事も有るし、正直に言えばまだ信用はしちゃい無いが、それでもこんな所までわざわざ俺達を救出するために来てくれている人達に、勘違いからとは言えども攻撃するような真似をしてしまっているのだから、これ位はせねばならないだろう。
特に、首謀者の俺と、実行犯のタツとレオは、このまま置いて行かれる位の事はあり得そうだ。
……その際は、どうにかして女性陣だけでも連れていってもらえる様に説得せねば……。
そんなことを考えながら、戦々恐々としていると、それまではただオロオロとしていただけのお姉さんが、何やら覚悟を決めた様なキリッ!とした表情を顔に浮かべて、俺達の方へと近付いて来る。
……ヤベェなぁ……このまま死刑かなぁ……。
どうにか、主犯の俺の首だけで納まってくれないかなぁ……。
いや、いっそのこと、この場で暴れて一矢報いるか?
このお姉さん達が、俺達をこの世界に呼び出した勢力に所属しているのかすら不明だが、もし万が一そうだったとしたのなら、この場でぶち殺す事に何ら躊躇いを持つ必要性が無くなるんだけどなぁ……。
なんて思っていると、俺のすぐ前で気配と足音が止まり、俺の肩へとそっと手が添えられると同時に、慈悲と慈愛に満ち溢れた様にも感じられる程に、優しい声色で話し掛けられる。
「……今回、私達にしてしまったことは気になさらないで下さい。
そもそも、不躾にも貴殿方を覗いていたのは私達でしたし、部下達にしても、配置から見れば貴殿方を包囲していた様にも感じられるのは当方のミスなのですから、それを攻撃してしまったとしても、どうして責められましょうか。
むしろ、こんな無人島で、極限状態にまで追い詰められていた貴殿方に、それらの『敵対的』とも取れる行動を取ってしまった私達の方こそ、この場でお詫びしなければならないのが必定でしょう。
どうか、頭を上げては下さいませんか?そして、どうか私達の謝罪を受け取っては頂けませんか?」
そう言われてしまった俺達が頭を上げると、そこには、輝かんばかりの美貌に柔らかな微笑みと、慈しみの色を目に浮かべたお姉さんの相貌が有った。
「……美しい……」
思わず呟いてから、自分が言葉を発していた事に気付くが、それも仕方の無い事だろう。
ぶっちゃけ、このお姉さんが、実は私は女神様でした!とか言い出しても、今なら無条件で完全肯定出来そうな気がする。
思わず口から溢れ出た一言についても、やや頬を赤らめながら微笑みを深くするだけだったし、本物の女神様の可能性が高くなってきている、かも?
何せ、おそらく本物の女性であるハズの女性陣は、俺の溢れ出た一言については、どうやら死刑が妥当だと判断したらしく、時たま拠点の近くを通りすがったりする魔物さんではなく、俺達(より正確に言えば、どうやら俺?)の方へとその矢の照準と魔法の弾道を設定しているみたいである。
……なんだろう、この感覚。
万が一、このお姉さんが、実は俺達をこの世界に召喚した勢力(国?)に所属していて、そこから送られて来た懐柔要員だったとしても、このまま引っ掛かっちゃっても、誰も文句は言えない様な気がするのだけど、気のせいかな?
……まぁ、でも仕方無いよね?
相手がこんな女神様みたいな女だったら。身内の女性陣は、あんまり優しく無いし、そっちに靡いちゃっても仕方無いよね?
その後、お姉さんの言葉に従って土下座状態を解除して立ち上がった俺達は、互いに自己紹介をしあった上で、情報交換を進めて行く。
その結果として俺達は、今居るこの世界が、元々俺達が居た世界とは別の世界である異世界『ソフィア』である事、俺達をこの『ソフィア』へと召喚したのは、この世界で一般的に『人族』と呼ばれている種族(外見は俺達と同じらしい)の国であり、国標として『人族至上主義』なるモノを掲げて各国に喧嘩を売りまくっている『ヴァイツァーシュバイン王国』であり、おそらくではあるが、召喚した目的としては、良くて使い捨て利用可能な特攻兵器として利用する事であろう事も、教えてもらった。……下手をすれば、何かしらの兵器に改造されて、結果的に使い潰される可能性すら考えられるのだとか。
そして、アストさん(お姉さんの名前。本名は『アシュタルト』と言うらしい)が言うには、彼女達が所属している勢力……と言うか『国』?としては、その『ヴァイツァーシュバイン王国』から、多大な迷惑を掛けられまくっている国であり、近々戦争状態になる可能性が高くなってきているらしいのだ。
その為、これまでの経緯からして、おそらく何かしら開戦前にやらかす可能性が高そうだと判断され、それに備えてどんな状況でも対応出来る様に、様々な処を監視していたらしいのだが、その一環として俺達が召喚された事と、その召喚によってこんなところ(無人島)に俺達が召喚されてしまった事が判明し、急いで救出のためのチームが組まれ、リーダーとしてアストさんが派遣されて来たのだそうな。
「……こうして、他の世界の方々を、自らの戦争のために、ただただ戦力のために呼び出すなど、恥知らずにも程がある行為です。
万が一にも、予めこんなことが行われると分かっていたならば、どれだけの犠牲を払ったとしても、絶対に止めたのですが、こうして貴殿方がこの世界へと召喚されてしまった事は揺るぎ無い事実です。よって、この場に居ない私達の王に変わって、この世界の住民として謝罪致します。
……私達の争い事に、貴殿方を捲き込んでしまい、申し訳ございませんでした……」
そう言いながら、深々と頭を下げるアストさんと、その部下の方々。
……確かに、防げたかも知れなかった事を防げず、こうして俺達がこの『ソフィア』に召喚された事には、アストさん達にも幾らかの責任が有るのかも知れない。
だが、実際に俺達をここに召喚したのは、彼女達では無い。……多分。
そして、実際にこうして俺達を助けに来てくれたのは、アストさん達である。
ならば……
「……頭を上げて下さい、アストさん」
……ならば、頭を下げるべきは、彼女達では無いだろう。
下げさせるべきは、俺達をこんな魔物蔓延る地獄に放り込み、挙げ句の果てにはクラスメイト同士で殺し合いまでさせてくれた、例のナントカシュバインとか言う国の連中だろう。
少なくとも、俺達が召喚されてしまったと判明した直後に、俺達の救出を指示してくれたアストさん達の王様や、こうして実際に助けに来てくれたアストさん達では無い事だけは、間違い無いであろう。
******
あの後、アストさんに頭を上げてもらった俺達は、更なる情報の交換を試みようとしたのだが、それはアストさん達が乗ってきた船まで移動してからでも構わないだろう、との意見が出てきたので、取り敢えずではあるが、その船の止まっているらしい海岸へ向かって、現在森の中を移動中である。
「ガァアアアアアア!!!」
「……ムン!」
ドン!!!
「ギャピィ!!?」(グチャッ!!)
当然の様に、そんな大人数で移動していれば、周囲からは、呼んでもいないのに山の様に魔物がよって来る。
「ジャァァァァアアアアアア!!!」
「それ~!」
シュパン! ……プシッ!?
「ピィ!!?」(グラリ……ドサッ!)
俺達が拠点にしていた湖畔に来るまでは、アストさんの部下の方々が主に戦闘を担っていたらしいのだが、その人達はタツとレオが一回ボコってしまっており、その時の負傷やダメージが抜けきっていない様に見てとれた為、現在は俺達が主にその役割を果たしている。
「フッ!……っと、これで、この辺の奴等は最後かな?」
相棒の一撃で絶命した兎公級の獲物が、地面に崩れ落ちた際の地響きにも似た轟音を聞きながら、それまで背後に居たはずのアストさん達の方へと向き直る。
すると、呆然とした様子でこちらへと視線を向けていたアストさん達は、俺からの視線で再起動を果たしたらしく、俺達にも促されるままに、船を停めてある海岸へと足を向ける。
……後々聞いてみて判明した事なのだが、この時俺達が相手にしていた兎共は、外の世界ではそれなりに危険度の高い魔物として、そこそこ有名なタイプの魔物だったらしい。
そして、俺達が『準兎公級』と呼称していたサイズの奴等は、外では『殺戮兎』と呼ばれており、一頭出ただけで村一つ軽く滅びる位の脅威度があり、俺達が『兎公級』と呼称していたサイズの奴等に至っては、名称を『首薙ぎ兎』と言って、何処かで出現が観測されたなら、街一つが無くなるのが先か、もしくは派遣された軍隊が半壊しながら討伐するのが先か、ってレベルのヤバい奴等だったのだそうな。
そうとは知らずに、かなりヤバい連中を薙ぎ払いながら進んでいると、何時ぞや見た覚えのある砂浜に到着する。
そして、その砂浜から少し離れた海上に停泊している、凄いサイズの船から、何艘もの小舟が降ろされて、島から物資を運び込んでいるのが見える。
そんな光景を、思わず眺めていると、沖に停泊していた船の上から、こちらを指差す人影が見えたと思ったら、あっという間に船縁が人影で埋め尽くされ、黒山の人だかりが、皆一斉に此方へと手を振って来ている。
最初は、森に入って行ったアストさん達が、無事に出てきた事を喜んでいるのかな?と思い、わざとスルーしていたのだが、アストさんに後ろから
「彼らは、貴殿方が無事に出てきた事を祝っているのです。もしよろしければ、手を振り返してやってはいただけませんか?」
と囁かれ、試しに軽く手を振って見たところ、沖の本船からも、他の小舟の上からも、まるで爆発したみたいな歓声が上がり、アストさんが言っていた事が本当なのだと証明してくれた。
突然の状況に目を白黒させていると、そんな俺の様子を微笑みながら見ていたアストさんが、俺の後ろから前に出てきて、俺の手を船の方へと曳きながら声を掛けてくる。
「フフッ、この位で驚いていては、この先持ちませんよ?
では、早速ですが、行きましょう!
我等が『魔王国レメゲトン』の誇る『魔導船グリモワール』へようこそ!歓迎致しますよ、異世界からの皆様方!!」
こうして、俺達は、生きてあの無人島を脱出する事が出来たのであった。
そして、小鳥遊達が島を脱出してから、数日程が経った頃、小鳥遊達が脱出したのとは反対側の海岸線に、また別の船が付けられていた。
「宮廷魔導師殿!やはり、生存者は居ない様子です!」
「そうですかぁ……やはり、思った通りに先を越されましたかねぇ……」
そう呟きながらも、その人物の声色には、あまり悔しそうな色合いが感じられなかった。
「回収出来たのは、あれらだけでしたかぁ……?」
「ハッ!残念ながら、まともな形を保っていたのはあれらだけでしたし、その他のモノは、おそらくは既に火葬されていたモノと思われます。現に、そうと思わしき痕跡が残されていました!」
「成る程ねぇ……。と、なると、魔王国の輩共が確保した分としては、大体10人位になるのかねぇ……?う~ん、出来るなら、もう少し欲しかった処だけど、幸いにして、上手く組めば一人分位にはなりそうな量は有るからねぇ……。まぁ、仕方がない、これだけで諦めるとしようか。贅沢は言えないし、ね」
そう言いながらも、少しも悲壮感や徒労感を滲ませず、逆に喜悦に満ちた表情で、部下の連中が拾い集めた元人間のパーツを眺めながら、小鳥遊達を召喚した張本人であるヴァイツァーシュバイン王国の宮廷魔導師長であるケンドリックは邪悪な笑みを浮かべるのであった。
一応、次話に説明回を挟んで第二章に移行する予定です。
ここがよく分からなかった、みたいな点が有れば、感想等で指摘していただければ、そこで説明する……かも?
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